40話 階段のある建物
クロネコの依頼で薬草があるという洞窟に向かったユーリたち。
だが、そこにあったのは薬草「カノンド」に良く似ている毒草「イラニウム」だった。
シンティアの指示に従い、毒草をからしたユーリたちはリラーグへと戻る。
薬草洞窟から戻った僕たちは……今、クロネコさんの家……アジトと呼ばれた場所に居る。
皆が床へと座り、休憩している中……クロネコさんが口を開いた。
「で、欲しい情報ってのは……なんだ?」
クロネコさんがそう言うと、フィーナさんは情報について聞き始める。
「うん、時計塔ってあるよね? それと同じ高さの位置にある建物で……下の建物と繋がってる場所って、無いかな? できれば……階段は長い方が良いんだけど」
「……変なことを聞くんだな……まっ大方ゼファーの依頼だろう? 良いぜ、教えてやるよ……まずは武器屋と防具屋だ。とは言ってもそんなに長い階段じゃねぇ」
クロネコさんはそう教えてくれた後にもう一度口を開く。
「次は民家……コレット家だな、大きい家だから目立つと思うぜ。それに教会、錬金術師連合、ギルド……下から繋がってる階段がある上、同じ高さにある建物って言ったら、これぐらいだ」
思ったより少ない……もっとあると思ったんだけど、民家以外ちゃんとした施設みたいだけど……
「他には無いんですか?」
「ああ、無い。俺はさっきみたいに仕入れた情報を自分で確かめに行く……この目で見てるからこそ、確信を持って言える。間違いない」
自信があるのは分かった。
けど、そんな怖い顔で、睨まなくても良いと思うんだ……
でも、自分の足で情報の信憑性を確かめてる、っていうのは間違いないみたいだし……捕まってる人たちは……今貰った情報のどこかに居るってことか……
「取りあえず、だ……ノラネコから情報は貰ったわけだし……これから、どうするか一度酒場の部屋か、ウチらの家で話そうかねぇ?」
「……ノラネコじゃねぇ! ク ロ ネ コ だ っ !!」
テミスさんは、フィーナさん以上にクロネコさんと合わないですね……
「そ、そうだねー? ここで話してても依頼は解決できないから、取りあえず戻ってどうするか、話そうか?」
「ああ、そうしてくれ! お前らが居るとゆっくりと休めもしねぇ、特にそこの鳥女が居るとな」
クロネコさんは完全に怒ってしまったみたいで早くしろ! と僕たちをせかす。
情報は手に入れた訳だし……仕方が無い、二人の言っている通り、一旦戻ろう……
今後どう動くか決めるために……僕たちは一旦、シンティアさんの家へと向かう。
その途中、なにやら冒険者らしき人たちが、こちらに向かっているのが見え……
当然……ただすれ違っただけなのに、僕はその中に居た黒いフードを深く被った人が気になった。
アルムで聞いた黒い服の冒険者は……確か仮面をつけてるって話だったけど……
「なに見てるんだ?」
突然声を掛けられ、ハッとする……
どうやら、僕は立ち止まって……黒ローブの人をずっと見てたみたいだ。
「なにか用か? 依頼だったら時計塔の近くにある、小さい酒場を通してくれ」
そう、言いながら……顔を見せたローブの人の顔には仮面などはなく、冴えない顔がそこにあっただけだった。
「え? あ、す、すみません、ちょっと人違いだったみたいです」
「ユーリー? また迷子になるよ~?」
うわぁぁぁぁぁ!? フィーナさん大声で言わないで!?
「そういうことなら良いが、あんま人をジロジロ見るなよ? 人によっては、いきなり襲い掛かってくる奴もいるからな。呼んでるみたいだし、さっさと行ったほうが良いんじゃないか?」
「すみません、失礼します」
僕は慌てて頭を下げ、そう言うとフィーナさんたちの方へ向かって走る。
「どうしたの?」
「黒ローブとなんか話してたみたいだけど……もしかして、ああいうのが好みなのかねぇ?」
なんで、そうなるの!?
「ち、違います! ほら、フィーナさん……アルムで聞いた人……」
「ん? んー黒い服の魔法使いだったけ? でも、あの人は……」
こっちに向かっていたはずなのに、その姿を消したんだよね……
精霊たちも知らないって言うし、文字通り消えた。
一応、情報屋のアルさんに見た目の情報を流してもらっているけど。
僕たちは探してるとは言ってないから、彼から情報が入ってくることは無い。
それにリラーグで……誰かが騒いでる様子も、変なことが起きてる様子も無い。
いや、そもそも今の人がそうだとして、人の心配をする人が村に危害を与えるのかな?
「でも、こっちに来てる様子は無いみたいだし、人がここに居るわけないよ?」
「うん……そうだね」
恐らく魔物に襲われたんだろうし、居るわけがない……今は拉致された人たちを助けないと。
「さ、早く戻りましょう? 美味しいお茶を淹れますわ」
「お菓子、ある?」
「ええ、ありますわよ、お話をしながら食べましょう」
……お茶会じゃないんだけど、まぁ甘いものがあったほうが頭が回るよねって、言ってもどこから行くかって話になるんだろうけど……
僕たちは再び歩き出し、今度こそシンティアさんの家へと向かった。
「で、どうするのかねぇ……」
シンティアさんの家に着き、お茶とお菓子を目の前にテミスさんは口を開く。
さっきまで……クロネコさんのことを色々と言っていたのが、嘘のような感じだっと言うよりも……
僕やフィーナさんに対する態度が柔らかくなった、と言った方が良いのだろうか?
「思ったより、少ないですけど……一つ一つ回るのは大変そうですよね」
「そうですわね、そうすると……やはり、手分けした方が良いでしょうか?」
やっぱり、それが得策だとは思うんだけど……
「うーん……でも、相手にも強い人は居るって話だよ? どのぐらい強いのか分からないし、バラバラになるのは危険かな?」
ゼファーさんの話じゃ、生還者は居ないみたいだし……その人に鉢合わせになったら怖いでは済まない。
強いとは言っても、フィーナさんも絶対安全って訳でもないし……
「そうすると、やっぱり皆で動いた方が良いかな?」
「……皆で動く、目立つ」
うーん、そうするとやっぱり……
「だねー、シンティアたちは酒場で待っててもらえる?」
フィーナさんがそう口にしたけど、その方が良いかもしれないか……
「ですが、ここまで一緒に来たわけですし……私たちだけ酒場で待つと言うのは……」
気持ちはありがたいけど、テミスさんはともかく、シンティアさんやシュカは心配だよ……
「でもね、私とユーリは冒険者だけど、三人は違うんだよ? それにシュカの言う通り、人数が多ければ多いほど……目立つ危険だってあるよ?」
「フィーナさんの言う通りです。僕たちなら大丈夫ですから、いざって時は空を飛びますし」
シンティアさんはまだ納得いかないようで『ですが……』と呟いたけど、その後の言葉は飲み込まれた。
「そ、空を飛ぶのは……ちょっと勘弁して欲しいよ?」
フィーナさん運ばれただけ……のはずなのに凄いトラウマになってるね……
「そんなに空はいやなの?」
気になって聞いてみると……
「こ、この前のはまだ良いよ! でも、前にあれで魔物の群れに…………」
そこまで言って、ぶるりっと身体を震わせるフィーナさん……
もしかして……人間大砲ってやつ?
た、確かにフィーナさんは強いし、魔物の群れにいれて、気を引いてもらってるうちにナタリアが……
「も、もしかして……ナタリア、その後……」
僕の言葉に頷くでもなく、笑いながら違うよっと言うでもなく、引きつった笑みを浮かべた……魔法使ったんだ……
「そ、その後、また魔法で回収されてね? と、とにかく空は、ね?」
それは、トラウマになって当然だよ……っていうかナタリアは心配するのか、しないのかどっちなの……
「ええと、空を飛ばなくても、人数が少なければ……人にまぎれて逃げ切れるかもしれないですから、待っててもらえますか?」
ただ見てくるだけなら、なにも無いと思うんだけど……一応、警戒だけしておいた方が良いはずだよね。
「……分かったよ、でも先に言っておく……錬金術師連合は調べなくて良い。あの建物の扉は入り口以外には、全部鍵がかかってない……調べるだけ無駄だからねぇ」
とすると……残ってるのは民家と教会、それにギルドか……
う~ん、教会は無いと思うし……ギルドは荒くれ者が居るとはいえ、一応は冒険者の施設だから無いとは思うから……
「フィーナさん、まずは民家に当ってみる? ただの民家だと偽ってるのかもしれないし」
「うん、それはあるかもね? ユーリの言う通り、あえて民家に見せてるのかもしれないし……」
「じゃぁ、ウチたちは酒場で待ってればいいんだな?」
「お願いします、シュカもテミスさんたちについて行ってね」
僕の言葉にシュカは静かに首を振り……
「シュカも、行く……皆、助ける……」
「……仕方ないね? ユーリ、幸い武器の扱いには長けてるようだから、ついて来てもらおうか?」
うーん、本音を言えば危ないし……一回捕まってる訳だし、折角自由になれたんだから、安全な場所に居てもらいたい。
でも、シュカはジッとこっちを見据えその場から動こうとしない……
その瞳は例え、駄目と言われてもついてくるって言っているようで……
「分かった……でも、無理は駄目だよ?」
「……うん」
「じゃぁ、シンティアさんたちを酒場に送ってから、その民家に行こうかー?」
「うん、そうだね……一回、龍狩りの槍に戻ろう」
方針も決まったし、その後でコレット家に行ってみよう。




