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38話 情報屋クロネコ

 酒場での手伝いをした翌日。

 ユーリたちはフィーナの知り合いらしき情報屋、「クロネコ」を尋ねることにした。

 だが、そこはユーリたちが想像していた場所とは違い。

「本当に……こんな所にクロネコっていう人がいるんですの?」


 翌日、僕たちはクロネコという人に会うため、家に向かっているのだけど……


「そうだよー……でも皆、離れたら駄目だよ?」


 そこはスラム街って言ったら、良いのだろうか?

 ボロボロの建物に服、うなだれた人々、だけど、そんな中に周りとは明らかに違う、こちらを値踏みするかのような目を向けてくる人たちが居るところだった。


「な、なんか……怖い所だね?」


 離れたら駄目と言われなくても……絶対に離れちゃ危ないって雰囲気が漂ってるし、離れたくないよ。


「うん、ここの人たちは情報屋だったり、喧嘩屋だったりするからね? 冒険者でも余程自信がなければ近づかないらしいよ?」


 そ、そんな所に居るクロネコさんはどんだけ強いの? 会うのが怖くなってきたんだけど……


「それで、そのクロネコはどこですかねぇ?」

「うん、もうちょっと先だけど……最初は私が話すから、もし交渉に行き詰ったらユーリがお願いね?」


 僕、か……そういえばフィーナさん、昨日苦手って言ってたね……


「わかった、頑張ってみるよ」

「ありがと~、着いたよ」


 そこはなんも変哲も無い……いや、ボロボロの平屋だ。

 他の所に比べれば……若干綺麗といった感じの家、フィーナさんはその家のドアをノックした。

 すると中から音が響き渡り、フィーナさん困った顔をしながら、急いで僕たちの方へ戻ってきた。


「ど、どうしたの?」

「その、ノックしたら……怒られるの忘れてた?」


 怒られるって……ノックだけで……? そう思った直後、ドアは勢い良く開け放たれ、大きな音と共にその言葉の意味をなくした。


「どこの誰だ! ノックした奴はぁ! ほら見ろ!? 壊れたじゃないか!!」


 いや、今、貴方が乱暴に開けるから、壊れたんじゃないですか……

 目の前に出てきたのは名前の通り、真っ黒な髪と耳に尻尾……ネコの森族(フォーレ)の男性だ。

 彼はネコの様な瞳を僕たちに向けると……


「大所帯でゾロゾロと……お前か馬鹿犬、馬鹿力で扉壊すなよ? あぁ?」


 り、理不尽……自分で壊したのに、フィーナさんの所為なの!?


「え、ええっと……私はノックしただけだよ?」

「ノックすると家に響く、イライラすんだよ、お陰で壊しちまった……お前の所為だ」


 自分で壊したのは分かってるんだ……


「チッ修理代は貰うからな? で、そっちの女ども連れて、なんの用だ馬鹿犬」

「その、君に用って言ったら……一つしかない気がするけど?」


 心なしか、フィーナさんの受け答えにも……トゲが出てきたような……


「ああ? あのな物事、特に頼み事がある時には……ちゃんとお願いしないといけないんじゃねえの?」


 クロネコさんはそこの所どうなんだよっと付け加え、フィーナさんに聞き返した。


「……情報が欲しいんだけど、今すぐ売ってくれないかな?」

「おいおい、それが人に頼む態度かって、聞いてるんだろ? 土下座でもしろよ……なんなら、頭の上に手でも乗せてやってもいいんだぜ?」


 手を乗せるって……足じゃないだけマシなんだろうけど、それはどうかと思うよ。

 それにしても、前に会ったアルさんとは全く違う、情報屋ってことは普通は、色々な情報を仕入れるために愛想良くするものじゃないんだろうか?

 それだと言うのに、目の前に居る男性はこちらに敵意を丸出しにし、不機嫌そうに尻尾を叩きつけるように振っている。

 そう言えば……犬は機嫌が良いと尻尾を振るけど、ネコは機嫌が悪いと振るんだよね……いや森族(フォーレ)にそれが当てはまるのかは推測でしかないけど……


「なんで、土下座しなきゃいけないの? こっちはちゃんと払う物は払うよ?」

「お前が扉を壊すのが悪い、それに、ちゃんと頼めよ」

「扉を壊したのは貴方でしょ? 私はノックをしただけど?」


 ……フィ、フィーナさんが明らかに不機嫌だよ。

 前も思ったけど、怒ると怖いんだよね……それに、交渉は大丈夫そうじゃないよね。

 睨み合ってるし、苦手というか犬猿の仲って感じなのかも……


「ノックするなって、言ってたよな?」

「ノックをするのは礼儀だと思うけど?」


 ああ、もう話が平行線だ……シンティアさんは苦笑してるし、テミスさんさえぽかんとしてしまっている。


「……ユーリ」

「うん、分かってるよシュカ……」


 僕はシュカに促され前に出ると……


「なんだよ? テメェは」


 うわぁ……なんだろう、バルドがはるかマシに見える感じだ。


「ええと、朝早くすみません。ですが、僕たちどうしても情報が欲しいんです……お願いできませんか?」

「ああ? へぇ、こりゃぁ馬鹿犬の連れにしては、まだ礼儀があるじゃねぇか」


 これで礼儀が足りないの!? なにをどうしたら良いんだろう。


「お前に免じて、馬鹿犬の無礼を少し許してやろう、情報が欲しいなら……手っ取り早く売ってやる方法がある」


 ほ、本当? 良かった、このまま売ってくれないんじゃないかと……


「また、殴られたいのかな? クロネコ?」

「…………チッ!」

「な、なにを……させようとしたんですか?」


 あ、でも……なんか聞きたくない気もする。


「ああ、俺の部下と寝てもらうって、いう簡単な仕事だったんだけどな……断られちゃ仕方ねえ、帰りな」


 ……うん、この人クズだ。

 それで、フィーナさんがあんなに刺々しい……と言うか攻撃的なんだ。


「他に情報を売ってもらう条件って……無いんですか? それ以外いや、それ関係以外でしたら、お手伝い出来るならしますけど」


 なんでもする、とかは絶対言わない、言ったら……なにされるか……


「あーないない……いや、待てよ……お前ら馬鹿犬と一緒に居るってことは、それなりに強いのか?」

「シンティアさんとシュカは分からないけど……ユーリの実力は確かだし、テミスさんは凄腕の錬金術師だと思うよ? 少なくとも、貴方を簡単に倒せるぐらいかな」


 テミスさんはともかく、僕の得意分野は戦闘では無いんだけど……

 ま、まぁ……あれから練習は欠かさずしてるし、ちょっとは成長してるはずだと思う。


「なら、一つだけある」

「本当ですか?」

「ああ、リラーグを抜けて、ちょっと進んだ所に洞窟がある……まぁ、洞窟と言うには狭すぎる穴だ。そこに、ここらじゃ珍しい薬草があるって噂があってな……それをこの目確かめたいんだ。だが、俺一人じゃ魔物と戦うのは避けたい、連れて行け」


 薬草? まぁ……それぐらいなら、大丈夫かな?


「まぁ、どんな薬草ですの?」

「ああ、なんでも一種の疫病に聞くらしい、自然に群生してるなら便利だろ? なぁ……薬屋」


 目を細めそう言ったクロネコに思わず、シンティアさんはビクリとした。


「なんで……姉のことを知ってるんですかねぇ?」

「俺は情報屋だ……とはいえ、お前が戦えるとは知らなかったがな……そっちの女二人は馬鹿犬と一緒に来たんだろう?」


 女二人って僕とシュカのこと?

 う、うん……どうみてもそうだよね……


「この街で俺が知らない情報は少ない……安心しろ、こっちの条件を呑んでくれりゃぁ、薬草があっても、無くても情報は売る、約束は約束だ」


 う~ん、でも、大丈夫なのかな? 依頼面ではなくて……彼の安全面での話だけど……

 はっきり言って最初のあれもはビックリしたものの、良く見てみると、彼は強そうにはとても見えない、魔物にでも襲われたら危ないんじゃないか?

 それとシュカだ。

 シンティアさんはその薬草を見てもらうために、ついて来てもらった方がいいだろう……そうすると、テミスさんも一緒に来ることになる。

 だからと言って、シュカを一人にするのも気が引ける……

 でも、いくらフィーナさんとテミスさん、それに僕のサポートがあると言っても……流石に三人は守りきれないんじゃないか?

 でも、他に方法が無い以上、その洞窟に行って薬草があるか調べにいくのは必須だ。

 ここはやっぱり……安全を考慮して、シュカには龍狩りの槍で留守番してもらっておいた方が良いかな。


「シュカ……シュカは酒場で待っててくれる?」


 僕がシュカにそうお願いしても、彼女は一向に首を立てに振らず。

 やっと首を動かし返事をしてくれたと思ったら、彼女は左右に振りはじめる。


「イヤって……危ないんだよ? 魔物もいるし、なにがあるか分からないんだ……」


 フィーナさんと話したけど……あれはあくまでこの街を去るときの話だし、なによりまだ彼女は戦えない。


「戻ってくるから……ちょっとだけ、ね?」


 だけど、シュカはもう一度同じように首を振るだけだった。


「フィーナさん……」


 どうしようと困り果てた僕は、フィーナさんの名を呼んだ。


「う~ん、取りあえず、身を守る物を買おう? 損にはならないし……でも、私とユーリから離れたら駄目だよ?」


 大丈夫かな……僕の不安を余所にフィーナさんはあっさりと了承してしまい、それを聞いたシュカはちょっと嬉しそうな顔をしているけど、危ないんだよ……本当に。


「……ユーリ、武器欲し、い」

「え? 武器?」


 シュカは武器が使えるってこと? いや、使おうと思えば使えるのかもしれない。

 なにしろ普通の魔法使いでさえ、なにかしらの武器を持ってるんだし……寧ろ僕の方が珍しいはずだ。

 もし、シュカが武器を使えて……最低限、自分の身だけでも守れるなら安心だ。


「分かった……身を守る物と一緒に買おう」

「うん、それが良いねー武器があれば、なんとかなる時もあるからね?」


 それは楽観視しすぎだと思うけど……


「で、どうすんだ? 連れってくれるんだろうな? それが無理で情報が欲しいって言うなら――」

「洞窟ですよね? ちゃんと連れて行きますよ」


 僕がそう言うと、クロネコさんは一回大きく舌打ちをし――


「じゃ、準備が終ったら正門の方へ来い、そこで待っててやる、ああ、そうだ……女は買い物が長いからな、短めにしろよ?」


 そう言うと、僕たちの横を通り抜け去って行った。


「えっと……シュカの装備一式買いに行こうか? シンティアさんたちは大丈夫ですか?」

「ええ、テミス? 一度家に戻って取って来ましょう?」

「ああ、そうだねぇ……ウチらも準備ができたら、正門で待ってるよ」

「スラムの外までは一緒に行ったほうが良いね? 行こうかー」


 僕たちはクロネコの家から遠ざかりスラム街を抜けるために歩き出す。

 取りあえず、だけど情報は手に入りそうだ……なんか上手く行ってる気がするけど……それが逆に怖いな。

 このまま無事、依頼が終れば良いんだけど……

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