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35話 シュカと情報

 奴隷市場で少女、シュカと出合ったユーリは人を買うことに抵抗を感じるが、自分を言い聞かせ彼女を買う。

 その際に焼印を入れるという男を制すると、ユーリたちは市場を後にして、町を歩く。

「ええっと……どうしよう」


 僕たちはシュカを連れて外に出たわけだけど……どこで、話を聞こう。


「まずは服を着替えさせたらどうでしょうか? 背中に穴は開いていますが、私たちのおさがりでよろしかったら家にありますわ」

「それに、さっきの様子じゃ、話を聞くなら酒場より、ウチらの家の方が良いだろうしねぇ、今日は店閉めてきたし」


 そうかも、酒場に帰って話すとしても借りた部屋じゃ狭いし、お客の前で堂々と話すのはマズイ気がする。


「二人が良いならそうしようか?」

「うん、シュカ……はぐれたら駄目だよ?」

「…………」


 やっぱり、警戒されてるよね?

 はぁ……でも、話をすれば情報をもらえるかもしれないんだ。

 これは仕方が無いと、割り切っておくしかないよね? とにかく、シンティアさんの家に急ごう。


 シンティアさんの家に向かう途中、分かったことがあった。

 すれ違う街の人はシュカのことを見て、あからさまに顔をしかめ、コソコソとなにかを話していた。


「まぁ、汚い……冒険者の奴隷?」

「あの冒険者の人たちは身なりが整ってるし、そうだろうよ……まぁ奴隷だし、丁度良いかもな」


 わざとシュカに聞こえるように、言っている所がまた嫌な感じだ。


「ああ、それにしても、こっちまで臭いが漂ってくるよ! 鼻が曲がる」


 自分たちも生まれが違ったら、一つ間違いを犯していたら……

 この世界では、こうなるかもしれないっていうのに……その言い方は酷いよ。


「あの……」

「ん?」

「僕たちの仲間を……悪く言うのは止めてくれませんか?」


 奴隷の印が焼印ってのはさっき知ったけど、今、シュカは他にそうだと分かるものは無い。

 職員に返したから、シュカに首輪はついていないし……

 なにより……ここはもう、シンティアさんの家の近くで市場から離れてる。

 僕達がそこから出てきたのを……この人たちは知らないはずだ。


「はぁ? 奴隷が仲間?」

「おかしなことを言う子ね……」

「彼女は今さっきまで、こんなになるまで仕事をしてたんですよ、それに奴隷だって言う証拠はあるんですか? 焼印なんて無いですけど」


 僕がそう言うと、先ほどまで悪口を言っていた人たちは押し黙った。


 「行こう、皆」


 そう言うだけ言って、僕は歩き始めると……


「お、おい! ユーリ、そっちは違う道だって……どこに行く気なんですかねぇ……」

「…………」


 急いで戻って顔を伏せ気味に進む。


「あの~こっちですよ? ユーリ様」

「ユーリほら、手を繋いでおこう? また迷子になるよ」


 うぅぅ……ここはかっこよく去るはず、なのに……なんで、僕はいつもこう、道と言うものに弱いんだ。

 差し出されたフィーナさんの手を取ると、もう片方の手も誰かから握られた感触がし、誰だろうと見てみると……


「シュカ?」

「……ユーリ、迷子」


 ……迷子って会って数十分で認定される僕って一体……

 いや、その前に僕、名前言ってなかったような?

 ……もしかして、今フィーナさんたちが言ったのを覚えたのかな?


「はぁ、取りあえず、行くとしますかねぇ?」

「お二人で手を繋いでもらえば、迷わずにすみそうですわね?」


 折角……この街に来てから、一度も迷っていなかったのに……


「行こう? ユーリ」

「う、うん」


 僕は二人に手を取られ、迷子にならないよう厳重に薬屋へと連れて行かれた。



 家に着くなり、シンティアさんは――


「では、私はお洋服を探してきますわね」


 っと一言残し、自室へと向かって行ったみたいだ。

 服はシンティアさんに任せて大丈夫だとして、後は……


「テミスさん、お風呂ってあるかな?」

「お風呂? ああ、お湯を張ったやつか、悪いけど薪をくべる場所どころか、人が入れるほど大きな桶も無いんだよねぇ。ま、身体は洗えるよ? 服、着る前に身体洗わせようかねぇ」


 テミスさんは面倒くさそうにしながらも、シュカの手を引き別の部屋へと向けて歩き始めた。

 途中、シュカがなんか……不安そうな目で僕を見てきたけど……

 大丈夫、だと……思うよ?


「……ふぅ」


 三人が去った後、僕はその場で溜息をつく。

 思ったより、奴隷に対する人当たりって言うのが悪い……他の街でもこうなのかな?

 いや、そもそも、制度や市場をなくした程度で、差別はなくなるんだろうか?

 それよりも、僕はあれだけ嫌だとか言ってたのに結局……


「疲れたの?」

「いや、疲れては無いけど、ちょっと……ね?」


 心配そうな目で僕の顔を覗くフィーナさんに突然、頭を撫でられた。


「うわ!? な、なに?」


「買ったこと、後悔してるんだよね? ユーリは奴隷制度を嫌がってたから……」


 後悔は……してる。

 買うつもりなんて無かったし……そもそも、奴隷扱いするのなんて嫌だ……


「……うん」


 それに、何度思い出しても……檻に人が入れられている、あの場所は吐き気がする。

 ……外は比較的、自由にしてた人が多いのに……

 中はまるで、牢獄で家畜同然……いや、家畜以下の扱いだ。

 食事を与えてもらって、身体を洗われ身なりを整えられる分、家畜の方がマシじゃないかな……


「情報を得るために買ったとは言っても、あの子は良かったと思うよ? 主人がユーリで」

「でも、流石に危険な旅には……連れて行けないんじゃ?」


 帰る時が特にそうだ。

 途中までは、馬車があるとしてもその後は歩きだ。

 魔物も当然いるし、守りながらだとタリムにつけるかどうか……


「んー、でも……ユーリは奴隷扱いしないんだよね?」


 当然だ……フィーナさんの問いに僕は頷く。


「じゃ、ついて来たいって、言ったらどうするの? 置いていく?」

「それは……」


 本人の自由だと思うけど、危ないし……


「ユーリは私の旅について来たかったの?」

「それは、フィーナさんが僕を指名してくれたから……でも、旅はしたかったよ? それに、連れてってくれるのも、フィーナさんだと思ってた」


 ナタリアは頼りになるけど、外にあまり出られないし……バルドなら理不尽な請求を提示して、断ってきそうだ。

 ……一人で行くって言ったら、それこそナタリアに怒られる。


「じゃ……もし、私がなにも言わなくても、旅に出ることを知って、ユーリがついて来たいって言って、駄目だって言われたら……どう?」


 フィーナさんだったら、そんなこと言わないだろうけど……

 いや……この旅に連れて来てもらえたのは、前回の熊との戦いがあったからだ。

 それに、明らかに力不足だと思われれば、十分ありえる……

 僕にとって、魔法の師匠はナタリアだけど、冒険者としての師匠はフィーナさんだ。

 仲間だって思っている一方、そう思ってる彼女にそんなことを言われてしまえば――


「仕方が無い……とは思っても、落ち込むと思う」

「だよね? じゃぁ、あの子はどうするの? 嫌ってれば手を繋いでくれないと思うよ?」


 それは、分かってる……嫌ってる人の手は握らないだろうし……ましてや、その人が迷子になろうが関係ないって、思うはずだよね……


「依頼が終わった後のことは……本人に任せるよ、……シュカについて来たいって言われたら、連れて行くよ」


 僕の答えにフィーナさんは、満足そうに微笑み。


「うん、それが一番だねー、一応、護身術ぐらいは私が教えるよ?」

「その時は、お願いするよ」


 フィーナさんに教えてもらえれば、最低でも取りあえず武器を使えるレベルにまでは持っていけるだろう。

 なんせ、戦いが苦手の僕だって一応は振り回せるんだ。


「話は変わるけど……ユーリって甘い物が好きだよね?」

「え? 別に嫌いじゃないけど?」


 急だね、フィーナさん……

 でも、僕スイーツが好きなんて言った覚えが無いけど……


「あれ? 前にガレット食べたがってたから、てっきり……甘い物好きだと思ってたんだけど……」


 そんな、悲しそうな顔をしなくても……


「で、でも、今日は食べたい気分だよ」

「本当? じゃぁ、後でタルトを食べに行こうか?」

「タルト? タルトってあのタルト? フルーツを盛ってある?」


 僕の想像するタルトはあくまで元の世界の物だけど、この世界の食べ物は名称が違うことがある……クレープをガレットって呼ぶのがそれだ。だけど……


「そう、そのタルトだよ? 食べに行こう?」


 小首をかしげながら、フィーナさんは僕の顔を覗きこんできた。

 ああ、僕が男だったら今、絶対良い雰囲気だよね?

 女の子の方から一緒に食べに行こうなんて……以前(日本にいた時)だったら絶対に無い。


「ユーリ?」

「え? あ、ああ……うん、行こう!」

「うん! じゃ、後でお店に連れてくね?」


 ありがとう、フィーナさん……いつもだけど、気にかけてくれてるんだね。


「お待たせいたしましたわ」


 フィーナさんと話しているうちに、シュカは身体を洗い、綺麗な服に身を包んでいた。

 瞳も黒く、馴染みのある顔……と言ったら良いのだろうか? 懐かしい感じがした。


「本当に奴隷が欲しかっただけ、でしょうか? そうは見えませんでしたが……」

「買ったってことは市場じゃ、聞きにくいことだろうしねぇ、早速話を聞いてみようじゃないか」

「うん、ちょっとね……ユーリ聞いてみて?」


 僕はシュカの目を見て、聞き取りやすいようにゆっくりと話を始める。


「シュカは……どうして、あそこに居たの?」

「さら……われたから……」


 うん、職員の話からしても、そうだとは思ってたけど……一応、確認は出来た。


「あの人は、この街の人じゃないって言ってたけど……本当?」


 頷く、これも本当みたいだ。

 でも、拉致されて別の街から来たと、言っても関係ない人たちの所為かも知れない。


「この街に来た時、すぐにあの市場に?」


 シュカは声には出さなかったけど、首を小さく横に振った。


「どこか別の場所に入れられたみたいだね? でも、人を集めてバレない場所ってあったかな?」

「高い、塔、目隠されてた。けど……階段上った」


 高い塔? この街にそんな建物あったかな? いや、僕は来たばっかりだし、知らないだけか……


「フィーナさん」

「んー……無いよ? 高い塔なんて……この街で一番高いっていったら、時計塔だけど……あそこは」

「観光地になってますね、錬金術で作った塔ですから、珍しいらしいですの」


 なるほど、でも……


「人が来るならバレ易くはなるとは思うけど、逆に考えると、人の中なら隠しやすいんじゃ?」

「おいおい、こいつ凄い汚れてたんですけどねぇ? それに奴隷をつめておく場所が無い」


 んー、でも他に高い建物がないんじゃ、そこしかないと思うんだけどなぁ……


「階段上って、すぐ一つの鉄の扉、閉まった……部屋に閉じ込められて、部屋人、いっぱい居た。けど、皆泣いてた……部屋に入る前、人の声、男の人しか、なかった」

「……うん、時計塔じゃないね」


 フィーナさんが言った後、シンティアさんたちは頷いた。


「なんで?」

「この街に初めて来た時に上ったの、でもね? 階段の先には扉なんて無かったんだよ? あったのは隅っこに管理用の階段ぐらいかな?」

「じゃ、その先にあるんじゃ?」

「馬鹿か、観光客に気づかれるよねぇ? それに、その上は時計の歯車がある部屋だけだからねぇ……」


 じゃぁ……本当に時計塔じゃない? それ以外に高い建物がある。

 ……なら、真っ先にフィーナさんたちが教えてくれるだろうし。


「そうすると外? いや、でも……いちいち行ったり、来たりしてれば門番に……」


 自分で言っている通り外は無いだろう。

 魔物を倒しながら進まなきゃいけないし、塔の中も安全とは限らない、下手したら魔物の住処にされる可能性だってあるんだ。

 これじゃ何処にあるのか、分からないよ……仕方ない、次の質問をしよう。


「取りあえず、場所の特定は後にして……シュカ、その部屋に閉じ込められてる人で、身なりの綺麗なままの人って居た?」

「居た」


 シュカの答えに僕は……フィーナさんの方を見ると、彼女もこちらに振り向いていた。

 これは、もしかすると……


「その人はどこで捕まったか、知ってる?」


 最後の質問をシュカへと尋ねる。

 すると、彼女は思い出しているのだろう、少し考えるような素振りを見せると……


「ここ、リラーグ、言ってた」

「フィーナさん!」

「うん! ユーリの言う通りだったね」


 良かった……僕はほっとしながら、首を一度、縦に振った。


「どういうことですか?」

「いや、お姉ちゃん話の流れつかめてないのかねぇ、って言うか話しを聞くって、ユーリが市場で言ってたんですがねぇ……」


 それでも、シンティアさんには分からないみたいで……首をかしげたまま、彼女は自身の妹へ問いかけた。


「はぁ……? つまり、どういうことなのか、テミスには分かっているのですか?」

「つまり、奴隷に聞けば、どこに拉致されたか分かるってことだよねぇ? でも、場所が分からないんじゃ……これから、どうするんですかねぇ……」

「まぁ、そういうことでしたの?」


 もう一度首を縦に振ると、僕は考える。

 テミスさんの言う通り、この後が問題だ……

 一番肝心な情報である場所が分からない、塔に閉じ込められたって言ってるのに肝心の塔が無いなんて……


「う~ん……、塔か……見た目では、時計塔しかないんだよね?」

「うん、さっきも言ったけど、他には無いよ?」


 リラーグ周辺も視野に入れて、塔みたいなものを探すしかないか……

 情報は得られたわけだし、場所さえ分かれば、後はどうやって潜り込むかだけなんだけど。


「ユーリ」

「なに? フィーナさん」

「あんまり考えすぎても、まとまらないと思うから、休憩含めて、タルト食べに行こうか?」


 ああ、さっき言ってたお店のことかな? てっきり二人で行くと思っていたんだけど……フィーナさんは、皆で行こうって意味だったのかな?


「うん、そうだね、ちょっと休憩しようか」

「よし、じゃー、お店に行こうかー?」


 フィーナさんは嬉しそうに尻尾を振りながら立ち上がった。

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