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31話 医療と錬金術の街

 リシェスと言う街で、黒服仮面の情報を流してもらう契約をしたユーリたちは、馬車に乗り目的の地リラーグへと向かう。

 休憩所や街を挟み、馬車は進みんで行く中。

 ユーリは外の景色を見る。

 そこには……

 揺れる馬車の中、僕は遠めに見えてきた大きな街を見ていた。

 約一ヶ月に渡る長旅の目的地、リラーグという街はあれだろう……

 やはり、大きな門と高い壁に囲まれている。


「そういえばフィーナさん、リシェスもそうだったけど……なんで壁に囲まれてるの?」

「あれは魔物避けでもあるし、高い壁なら登れないからねー」


 登る? ああ、侵入して悪さをする人が前にいたのかな?


「前に入って悪さをした人が多かったみたいでね、それで侵入出来ないようにしたんだよ?」


 やっぱり、そうだったんだ。

 それにしても、大きな街だなぁ……


「お客さんたち、着いたよ!」


 業者に言われ門の前に降ろされると、門番たちが一人一人に街に来た理由を聞いている。

 前のリシェスの街で見た光景だし……体験もしたのもあるけど、なんかこれって、空港みたいな感じのような気がする。


「ん? 君は確か、タリムの人でしたよね?」

「うん、酒場の派遣で来たんだけど、少しの間、滞在させてもらうよ?」

「……ああ、それで……そっちの方は?」


 この門番さんはフィーナさんのことを知ってるみたいだ……何回か滞在してるみたいだし、顔馴染みなんだろう。


「私の仕事を手伝ってくれる、ユーリだよ」

「そうですか、ゼファーさんから話は来ているみたいだし、君たちは通って良いよ」


 門番たちは、僕たちを手で街の位置口へと誘ってくれたけど……あれ?


「冒険者は呼ばれた所なら入れるんだよー、その代わり、身元が割れてるから悪いことは出来ないけどね?」


 ああ、なるほど……確かに呼ばれて来ているわけだから、あらかじめ分かってる人だし、もし、なにかをしても足をつかめるってことか……よく出来てるシステムだなぁ。

 そんなことを考えながら、フィーナさんに続いて門を潜り抜けると、そこには大都会が広がっていた。

 やはり、入り口付近は露店街なのは変わらないが、今までの物よりも作りはしっかりとしていて商品も数も多く、ここを見ているだけで軽く一日は潰せるんじゃないだろうか?


「ん?」


 そんな楽しそうな雰囲気を眺めいた僕の目になにか見えた気がした。

 路地から女性が出てきたと思ったら、直ぐに引っ込んだように見えたけど……気のせいかな?


「どうしたの?」

「いや、そこの路地から、誰か出てきたと思ったんだけど……」


 目を凝らしそこを凝視するけど、誰か出てくる気配はしない……やっぱり気のせいだったのかな?

 でも、なんか……このまま去るのも……


「フィーナさん、やっぱり気になるから、ちょっとだけ覗いていっても大丈夫?」


 そう彼女に確認すると、笑顔で頷きながら返事をしてくれた。


「気になるなら、見て行こうか?」


 このまま気のせいだと良いのだけど……そう願いながら僕たちは路地の方へと向かい。

 そーっと覗き込んでみた……

 そこには、黒い蝙蝠のような羽をつけた女性が男たちに囲まれている。

 彼女は囲まれながらも助けを求め……必死に視線を動かし、僕たちに気がついたみたいで声をあげる。


「た、助けてください!」


 あれって、悪魔?

 いや、違う、確か天族(パラモネ)とかナタリアが言ってたっけ?

 ……透き通るような水のような色で綺麗な髪だな~って、そんな悠長に考えてる場合じゃない!


「フィーナさん!」

「任せて!」


 僕がフィーナさんに声をかけると、彼女は姿勢を低く保ち、凄い速さで駆け抜けると男たちに迫って行き……拳を振りぬいた。

 わざと外すつもりだったんだろう、その拳は男に当ることはなく地面へと叩きつけられた。

 その衝撃に地面は大きな音を立て、まるで、張られた水を上から殴ったように瓦礫が飛ぶ……って、いとも簡単にやってるけど凄すぎるよ!? フィーナさん。


「な、なんだ!? この森族(フォーレ)は!! 普通じゃねぇぞ!」


 男たちがフィーナさんに唖然としている中、僕はわざと聞えるような大声で詠唱を唱える。


「焔よ我が敵を焼き払え!!」

「え? フ、フレイムボール!? おい、に、逃げるぞ!! コイツ連れが居やがる! 魔法使いだ!!」


 そう口早に言うと、男たちは路地の奥のほうへと去っていく……

 どうやら、なんとかやったみたいだ。

 悪魔……じゃなかった。天族(パラモネ)の女性の元へと僕も駆けつけると、そこには先ほど思ったように綺麗な水色の髪をした女性が座り込んでいる。

 ……僕も実際、ああなったことがあるから怖いのは当然だと分かるよ、間に合って良かった。


「大丈夫ですか?」


 そう、声をかけると女性は顔を僕の方へと向けてくれた。

 優しそうな顔で、なんと言ったらいいだろう、顔つきだけで言えば悪魔ではなく天使に見えてしまう、そもそもこの世界では同じ種族らしいけど……


「ええ、おかげさまで無事でした。ありがとうございますわ」

「ユーリが気がついてくれてよかったねー、それよりも、さっきの人たちは?」


 うん、一応確認しに来て良かった。


「あの人たちは奴隷売りですわ……こちらでは天族(パラモネ)は珍しいですから、目をつけられたみたいでして……」


 珍しい? 確かに、タリムとかでは見かけなかったけど……だからと言って目をつけるなんて……


「とにかく、危ないところを助かりましたわ……そこで、お二人は冒険者さんですか?」

「え? あ、はい、そうですけど?」

「でしたら依頼をしたいのですわ、(わたくし)を龍狩りの槍という酒場に連れてって欲しいのですが……」


 ……酒場か、それぐらいならお安い御用っと言いたいところだけど、僕はこの街に来たのは初めてだ。

 フィーナさんなら分かるかも知れない、僕が彼女の方へと向くと……


「それなら、依頼じゃなくてもついてくれば良いと思うよ? 丁度そこに行く所だから」

「それは、奇遇ですわね。申し送れました私はシンティア・ミアヴィラーチと言いますわ……どうぞ、よろしくお願いいたしますわ」


 天族の女性はそう名乗ると、スカートの両端をつまみお辞儀をする……それは口調もあってお嬢様って感じだ。


「シンティアだねー、私はフィーナ・サーシャ、それでこの子が――」


 っと、ぼーってしてるところじゃなかった。


「ユーリ・リュミレイユです」

「フィーナ様にユーリ様ですわね、では……酒場までお願いいたしますわ」


 シンティアさんはそう言うと、近くに落ちていた鞄を拾い手で汚れを払っている。

 僕が思うのもなんだけど、やけに大きな鞄だなぁ。

 中身が気になるけど、今は酒場に行くのを優先した方が良いよね。

 さっきの人がまた来ないとは限らないし、そう思い彼女を連れ路地を出た。

 それからはいつも通り、フィーナさんの案内の元酒場へと向かう。

 因みに手だけど……


「お二人は、仲がよろしいんですね」


 繋いでもらっている……自分で悲しくなってくるけど、迷うし! 絶対迷子になる自信がある。


「こうしないと、ユーリが――」

「えっと、はい! 仲が良いんですっ!!」


 慌てて僕がそう言うと、フィーナさんは少しぽかんとした後、なにやら上機嫌に足を進め始めた。

 そんな様子を一部始終、見ていたシンティアさんは……


「羨ましいですわ、見ていてこちらも楽しくなってきますわね」


 っと言い、なぜか彼女までも機嫌が良いみたいだ。



 僕たちが歩き始めて、数十分は経っただろうか?

 目の前には龍狩りの槍と書かれた看板と騎士? が槍で龍を刺している絵が描かれている店がある。

 先ほど言っていた酒場で間違いは無いだろう、それにしてもなんか凄い怖い人が出てきそうな酒場だ。

 入った瞬間に……


『ウチで働きたいなら、ケジメ見せてみろよ……』


 とか言われそうだ。


「おじさんの弟さん、来たよー?」


 僕がそんなことを考えてるのを当然知らない、フィーナさんは堂々と店の中へと入っていく……って大丈夫なのかな?

 いや、フィーナさんは常連みたいだし、大丈夫なのかもしれないけどっ!


「ゼファー様、遅くなりましたわ」


 シンティアさんまで!? し、仕方が無い、僕も入るしかないよね?


「し、失礼します……」

「いらっしゃい、君がユーリちゃんかな? 私はゼファー、よろしくね。

 兄さんからは話を聞いているよ、なんでも凄い魔法を使えるそうじゃないか」

「………………」


 この兄弟は今すぐ店取り替えた方が良い、絶対良いと思う。

 目の前に居るのは爽やかな中年男性、はっきり言おう嫌味な感じは全くしない、なぜなら。


「お、なんだ? 新入りさんも美人だな?」

「私も今日初めてみたよ、ここ数日は滞在してもらうから、店に立ってもらおうかな?」

「おいおい、商売うまいな! 俺たちの財布が空になっちまうよ!」


 お客さんたちは大笑いをしながらお酒を煽る、その様子を見て店主さんは笑顔で答えた。


「それは困る! 貴方たちが来てくれないと生活ができなくなってしまうよ……これは割引も考えないと、考えないといけないね」


 などと供述(きょうじゅつ)しており、じゃなくて……うん、この人は男性にも好かれるイケメンって感じだ。


「……ほら、そんな所に立ってないで入っておいで、ここに来るまで疲れただろう? 先ほどお客さんから果実をもらってね、取れたてで美味しいんだ。今、三人に出そう」


 僕は店の中に入ると、周りの席は人がいっぱい座っている。

 初対面の予想通り、と言うかなんと言うか、男女問わず人気の店みたいで、昼間だと言うのに凄い込み具合だ。

 開いてる席がないんじゃないかな? っと考えてながら店内を見渡すと一つだけ開いてる席があった。


「あそこは君たち専用の席だよ、どうぞ座って待っててくれるかな?」


 予約席って、いつ着くかも分からないのに取っておいたのかな? だとしたら色々と問題があるような……


「いつも、ありがとー」


 いつもってことは、やっぱりそうなんだ。


「フィーナさん、あの……失礼ですけど、この店、名前変えたほうが……」


 席に着いた後、僕はフィーナさんに小声でそう言ってみると。


「うん、元々タリムの店は弟さんがやる予定でね? 皆で月夜の花って決めたんだけど、おじさんがタリムは冒険者が多いから危ないって、強引にね?」


 ああ、なるほどってことは……


「こっちは元々ゼルさんのお店だったの?」

「そういうことだよー」


 やっぱりか……うん、納得した。


「お二人で内緒話ですか? 私も混ぜてくださいませんか?」

「え? ああ、ごめんなさい。タリムにある、この店のお兄さんの店の名前と真逆ですねってお話です」

「そうなんですか? どう言った名前のお店なんです?」

「兄さんの店は月夜の花という名前だよ……そちらにいるフィーナさんと別のお友だちが考えてくれた名前でね、私も気に入っているんだ」


 そう言いながらゼファーさんは、僕たちの前にフルーツの盛り合わせを出してくれた。


「ゼファー様のお兄さんでしたら、その方も素敵な方なんでしょうね」


 ええっと……良い人ではある。

 料理は上手いし、怒ったところも見たことは無い……でも、恐らくシンティアさんの言う素敵な方って言うのは……


「や、優しいよ? 料理も……美味しいよ?」


 そして、フィーナさんも同じことを思ったんだと思う、若干顔が引きつっているし、こんなフィーナさんは初めて見たよ。


「やっぱりそうなんですね! 一度お会いしてみたいですわ」


 う、うん……ゼルさんのことは絶対黙っておこう。


「フィーナさんが言ったとおり、兄さんは優しくて、料理が上手いんだ。だけど、実際に会ったら……ちょっとビックリしてしまうかもしれないね」

「それは会うのが楽しみですわね、あっ忘れるところでしたわ」


 シンティアさんは鞄の中から、なにかの包みを取り出すとそれをゼファーさんに手渡した。


「いつも、ありがとう助かるよ、お代はいつも通りで良いのかな?」

「ええ、テミスに渡していただければ良いですわ……私はなぜかもらうなって言われますので……」

「では、三人ともゆっくりしていってくれよ」


 ゼファーさんはそう言うとカウンターの方へと去っていったけど、そんなことより僕は先ほどの包みが気になった。

 なにかを渡してたけど……あれは、なんだったんだろう? 手のひらサイズたけど……

 気になって見ていたのに気がついたんだろう、シンティアさんはふふふっと笑った後、説明をしてくれた。


「今、お渡したのは私が作ったお薬ですわ、痛み止めや解毒薬ですわね。冒険者の方には必須でしょう?」


 ああ、なるほどそれは重要だ……ってシンティアさんは薬師だったのか……じゃぁあの鞄の中には――


「お店に行けば、他にもお薬がありますから、言ってくださいね? 助けていただいたお礼に割引させていただきますわ」


 今は持ってないのかな? でも、薬師の知り合いができるのは嬉しいな!

 傷薬みたいな物があれば、ぜひ買っておきたい。

 他で買うよりシンティアさんの方が安心だろう、なにせ今まさに堂々と取引してたし、ここはゼルさんの弟の店だ。

 これ以上に安心要素は無いと思う。


「あ、でも、僕たち今この街に着いたばっかりで、シンティアさんのお店を知らないんです……」

「それでしたら……後で家へご案内いたしますわ、ちょうど朝に疲れに効くハーブティーを調合いたしましたの、効果を試してくださいません?」

「ハーブティー?」

「香草で作ったお茶ですわ、組み合わせ次第で色々な効果があるんですの」

「へ~、それは気なるね?」


 僕もハーブティーは一度飲んでみたい。

 でも、突然お邪魔してしまって良いのだろうか?


「でも、突然……良いんですか?」


 そう聞くと、シンティアさんは笑顔のまま――


「ええ、そのついでと言ってはなんですが……家まで送っていただきたいのですわ」


 家までの護衛もかねて……ということか、確かに襲われたばっかりだし、一応護衛としてついて行ったほうが安心できる。


「そういうことなら、ちゃんと家まで送るよー? ね、ユーリ?」

「うん、そうだね」


 フィーナさんの言葉に僕は頷き答えた。

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