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25話 トーナ村からの出発

 村まで追って来た大蛇を、撃退したユーリたちは、村長の計らいで馬車を得た。

 馬車の準備が済むまで、彼女たちは少しの間休息をしていた。

「フィーナさん、ユーリさん、馬車の準備が終ったみたいですよ」


 大蛇を退治した後、宿へと戻り休憩を取っていた僕たちの元へ、宿の主人がそう報告に来てくれた。


「分かりました」

「宿代、ありがとう」

「いえ、そんな……二人を助けて貰ったばかりか、村まで救っていただいて、宿賃無料なら破格も良いところですよ」


 そうでもないんだよね、なにせ僕はその宿賃すら、持ってないんだから……

 うーん……いくら、フィーナさんに付いて来ているだけ、とは言っても自分の宿代ぐらいは稼ぎたいなぁ。

 次の村で少し仕事でもして、お小遣いを手に入れようかな? っと馬車を待たせてることだし、早く行こう……

 僕たちは荷物を手に取ると、世話になった宿を後にしようとした――


「お姉ちゃん!」


 僕たちが、外に出ると、誰かに呼び止められた。

 声の正体は探るまでも無い、昨日助けた少年、ノルドだ。

 昨日の服は流石に洗ったんだろう、今は小奇麗な格好をし、手にはなにかを持っていた。

 彼の母親であるセラさんも横に立っていて、容態は大丈夫なのか少し不安になったが、すぐにその不安は晴れた……彼女の顔色は良く、病気の方も治ったみたいだ。

 


「どうしたの?」


 少年は僕がそう問いかけると、少々迷う素振りを見せたが、手に持つなにかを手渡してきた。


「それ、あげる!」


 見た所、木彫りのブローチの様だ。

 おそろいのが二つ、これを作った職人は相当の腕なんだろう、と素人の僕から見ても精巧な作りの物だけど……高いんじゃ?


「それは、夫が残した物で、ノルドのお気に入りだったんですけど……どうしても、お姉ちゃんにあげるんだって」

「へ? わ、悪いですよ!」


 残したってことは、この子のお父さんはもう……つまりノルド君が渡してきた物は……遺品だ。


「でも、お姉ちゃんたちに持ってって欲しいんだ! お守りだから」


 ……気持ちは嬉しいけど、でもなぁ。


「どうか貰ってもらえませんでしょうか? 幸い、遺品はそれだけではありません、旅に危険が無いように気休め程度ですが」


 ここで断っても、この子をガックリさせるだけかも……

 それに、いずれ戻ってくるのだし、その時返してあげれば良いか。


「分かった、ありがとう」


 受け取ると、ノルドは笑顔を僕へと向けてくれた。

 ……「ノ」と「バ」たった一文字だけ、違うのに、こうまで人は違うものなのか、ノルドの方は凄い可愛げがある。

 二人は見送りもしてくれるようで、馬車の所まで付いて来てくれるらしい。

 それどころか、馬車の近くには村人たちが集まっている……まさか村、総出ってことじゃないよね?


「では、お二人とも依頼の件、よろしくお願いいたします」


 依頼か、うーん、なんか罪悪感が……

 悪いことはしてないんだけど、大したこともしてないんだけどなぁ。


「うん、任せておいてよ」


 フィーナさんはそう言うと、自分の荷物と、僕の荷物を馬車へと入れ、彼女もまた馬車へ乗り込んだ。


「おっと、ユーリ殿でしたかな? もし、よろしければ、戻ってきた時に二人でもよいので、ワシの家に来てくだされ……なに、色々聞きたいことが、ありますのでの」

「え? は、はい、分かりました」


 聞きたいこと? 一体なんだろう……まぁ、話ぐらいなら良いか……

 そう思いながら、馬車の中へと乗り込んだ僕は、思わず声を上げそうになった。

 悲鳴ではない……そこにあるのは瑞々しい野菜、どれも美味しそうな物だ。

 あまり時間は経っていなかった筈だけど、これをわざわざ集めたのだろうか? それにしては、量が多い気がするけど……


「座ってないと、危ないよ?」

「あ、うん」


 適当な場所へと座り込んだ僕は、村人へと向き直った。


「馬車、ありがとうございます、行って来ますね」

「お姉ちゃんたち、行ってらっしゃい!」


 少年は笑顔で手を振り、その母親もまた同じように見送ってくれる。

 うん、やっぱり、ついて来て良かった!


「フィーナさん、これ」


 村が小さくなっていくのを確認し、僕はブローチを一つ、フィーナさんに手渡すと、彼女はそれを大事そうにしまい込んだ。

 それを見て、僕も同じようにしまって置いた。

 無くしたら返してあげれないし、大事に持っておこう。


「次の村までは馬車だから、早く着くね?」

「そうだね……そうだ、フィーナさん村に付いたら、ちょっと仕事をしたいんだけど……」

「仕事? 街に着いてからでも、良いんじゃ」


 うん、それはそうなんだろうけど……なにより。


「僕、一文無し、と言っても良いぐらいお金ないから、少しぐらい持っておいた方が良いかな? って」


 これじゃ、いくら仕事を手伝う、とはいえ完全にフィーナさんのヒモ状態だ。

 流石に、それは嫌だ……


「あはは、じゃ……次の村で、なにか正式に依頼を受けようか?」

「うん!」


 良かった……これで、どうにかヒモは脱せそうだ。


「そう言えば、馬車だと次の村って、どのぐらいなの?」

「んー……馬車なら、日が傾く前には、着けると思うよ」


 結構遠かったんだ……でも、これだけ転々と村があるなら、野宿はしなくても良さそうな気が――

 いや、そういえば、地図を見た時、次の村からが長かったような……


「次の村の後って、どのぐらいで街に着くんだっけ?」

「なにも無ければ、一週間ぐらいかな?」


 野宿はしなければ、いけないみたいだ……


 馬車に揺られながら、僕たちは次の村へと進む。

 途中、何度か魔物に襲われたが、あの熊や大蛇に比べればまだ弱かったし、なんの問題も無く、進んでいくことができた。

 そんな順調な旅路の中、些細な異変に僕は気づく――


「あれ? ……なんか肌寒い?」


 そう、村から離れて、結構経ったのだけど、急に寒くなってきた。

 鞄から一枚、羽織のようなローブを取り出し、着込んでおく、買って置いて良かった、見た目よりずっと温かいよ。


「おかしいなー? ここら辺は温暖なのに……」


 じゃぁ、急に冷えたのか、雨でも降るのかな?


「なんか、ここら辺、この頃気温が、安定しないみたいでね。それで野菜も育たないと、嘆いていたよ……村長がトーナに来いと言っても、慣れた土地が良いと頑なに拒んでね」


 そんな話をしていると、僕たちの会話に気がついた御者は、寒い理由を教えてくれた。

 気温が安定しないか、まぁ、そういう時もあるよね。

 でも、この世界に来て、もう結構たったけど……

 少なくとも、タリムとトーナでの気温は感覚でだけど、大体同じぐらい、温かい方だ。

 それに、涼しい日もあったけど、別に困るほど寒かったり、暑かったりすることは無かったんだけどな。

 ん? そうすると、この野菜って……


「あの、この野菜はその村へ、元々持って行く物だったんですか?」

「……ああ、村長が向こうの村に、せめてこのぐらいはしても良いだろうってな。それに、冒険者が滞在できる施設もある、俺たちにとって、依頼を出せる唯一の場所だ」


 なるほど、じゃぁ、僕たちにお礼ってだけではなかったのか、

 それなら、なにも気にする事は無いよね?

 でも、唯一、冒険者が滞在できるって、タリムの方が近いと思うんだけど……

 あ、そうか、森を抜けるには、あのドラゴン……じゃなかった。

 ドレイクバードを、なんとかしないといけない。

 冒険者なら対処出来ても、村人たちには十分脅威だろうし、森を抜けるのは得策ではないのか。


「でも、気温が安定しないってことは、精霊が増えたり、減ったりしてるってことだけど……そんなこと、ありえるのかな?」

「そうなの?」


 別に、気温が変化するのは普通のような気がするけど、こっちでは違うのかな? それにしても、精霊って気温に関係あるんだ。

 そう言えば、ナタリアの家には精霊についての本が無かったから、あまり知らないんだよね……


「うん、空気中には風の精霊は勿論、僅かに火、水、樹の精霊が居るの。実体化は風の精霊しか出来ないぐらい、少ないけどね」


 ふむ、なるほど……わからない。


「それで、火の精霊と水の精霊で気温の調整、樹の精霊が作る空気、それを運ぶ風の精霊のお陰で、私たちは生きていられるだけど、それが崩れると熱くなったり、寒くなったりするんだよね?」


 いや、僕に聞かれましても……

 辛うじて解るのが、樹の精霊=植物が光合成で、酸素を作って。

 そして、それを風が運ぶってことぐらいだ。後は――


「それで、火と水の精霊の多さの違いで、暑い地方と寒い地方があるってこと?」

「そう、なんだけど……精霊はめったなことでは、生息数を崩さないから……急にそういう風になるってことは無いと思うんだけど……」

「季節が変わったとか?」

「んーこの地方は、あまり変わりがないよ? さっきも言ったけど、温暖な地方だし……」


 異常現象か……こっちに来てからは、あまり聞かなかったけど、こっちでは珍しいことなんだろうか?

 でも、フィーナさんの様子から取ると、やっぱり珍しそうではある。

 ……単純に作物が育たないだけなら、ソティルの魔法なら直せそうかもしれない、確かやせ細った土地を修復するって、魔法があったはずだ。

 それを使えば、あるいは……

 とにかく、状況を見てから決めても遅くはないはずだ。


「ユーリ、大丈夫?」

「ん? なにが?」

「トーナで魔法、二回使ったでしょ? 疲れてない?」


 魔法? ああ、(ソティル)のことか。


「大丈夫、二回ならまだ平気だよ」


 それに馬車のお陰で休めているし、この分なら村に到着するぐらいには、また五回ぐらいは使えるだろう。


「そう? なら良いけど、疲れたら言ってね?」

「うん! ありがとう」


 僕はそうお礼の言葉を言うと、馬車の外を見る。

 そこにはやはり多くの緑があり、この先にある村では、作物が育たないなんて全く想像がつかないほど……綺麗な景色が広がっていた。

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