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24話 村へ来るもの

 少年の母、セラの病をキュアウォーターという(ソティル)の魔法で治したユーリ。

 一仕事終えた彼女たちは宿屋に向かうも、ユーリとフィーナは同じ部屋だった!?

 困惑するユーリだったが、話の流れで同じ部屋に寝ることになり……?

 眠れない……

 真横にあるベッドでは、フィーナさんが寝息を立てている。

 おかしいな? なにか、心臓がバクバクと脈を打っているのだけど……

 僕は女の子に、なにも感じないはずだよね?

 ナタリアが以前、なんでもするって言った時も、なんの反応も無かったし……

 あ、でも……シアさんが微笑んだ時は、ドキッとしたんだよな。

 いや、でも、それは女性同士でも、あんな美人に微笑まれたら、ドキッとはするだろうし……

 いや、そうじゃない、早く寝ないと明日に差し支えるんだ。


「んー……ユーリ……ィ?」

「は、はぃっ!?」

「……そっち、行っちゃ駄目、だよ……また……迷子に」


 僕は眠れないと言うのに……

 それにしても、フィーナさん……どんな夢見てるんですか、僕は夢の中でも迷子なの?


「……はぁ、水飲んで、落ち着こう」


 水袋を取り出し、中身を飲み干した僕は再びベッドへと入った。

 そう言えば、あの大蛇はどうなったんだろう? あんなに大きな蛇が居たら、この村も大変だとは思うんだけど……

 もし、必要なら再び山へ行き、あの蛇を倒した方が良いのだろうか?

 でも、早く目的の街に着かないと、いけないだろうし――


「……ふぁぁ」


 明日、一応聞いてみよう……

 別のことに思考を回し始めた途端、眠気に襲われた僕はそのまま眠りに付いた。


 なんとか眠りに付いたその翌日、僕たちが村を出るために支度をしている時だ。

 僕は昨日の夜に気になった件を、フィーナさんに聞いて見ることにした。


「ねぇ、フィーナさん……あの山に居た大蛇って、大丈夫なの?」

「んー、大丈夫だとは、思うけど……あの山にそんなの居たんだねー」


 居たんだねーって、フィーナさんも知らなかったのか……大丈夫なら、良いんだけど、アレだけ大きいのに餌には困らないのだろうか?

 それに、僕が見たのは一匹だ。

 卵はあったけど、なにか引っかかるんだよな……


「フィーナさん! ユーリさん! 魔物だ! 見たこともない魔物が……早く、避難をしてください!」


 ドアがいきなり開いたかと思ったら、店主さんが声を荒げながら入ってきた。

 ちょっと!? 僕はまだ良いが、フィーナさんが着替え中だったら、どうするつもりだったんだろう?

 いや、その場合は僕がなにかしら理由をつけて外に居るだろうから、ドアを開ける前に分かるか……って魔物?


「魔物って、どこから来たの?」


 大剣を手に取ったフィーナさんは、僕へと目配せをしてくる。

 退治しよう、という意味だろう。


「た、戦う気ですか!? 無謀です、相手は見たこともない……馬鹿でかい蛇ですよ!?」


 見たこともない蛇?


「あの、一つ聞きたいんですけど、蛇って亀裂の底に卵を産むんじゃ?」

「あの場所に卵を産むのは、マタルラガルトです! 蛇ではありません」


 マタ……? えっと、どういう魔物だろう?


「肉食のトカゲだよ、確かに、あの魔物は暗い場所に、卵を産み付ける習性があるね? しかも、無数に卵を生むけど、子供同士共食いをするから、生き残るのは本の僅か……村が襲われない理由もそれだろうね」

「え? でも、僕が見たのは……」


 蛇だ……じゃぁ、アレが親を食った、と言うわけだろうか?

 いや、それなら、そのマタなんとかが、居なかった疑問が解決する。

 アレは先に親を食べていた? でも、なんで子供は無事だったんだろう……

 いや、生まれそうな卵があったと言うことは、生まれたものもあったんだろう、蛇はそれから先に食べて、移動してたんじゃないか?

 そして、昨日……生まれた卵が無くて、子供を食べようと戻ってきた?


「ユーリ! 昨日の蛇って、どんな大きさだったの?」

「人なんか、一口で丸呑み出来るぐらい大きかった……しかも、大きいのに意外と早いよ」


 おまけにスナイプ・アロウじゃ、かすり傷程度だろう……


「流石に近づいたら、食べられちゃうかな? 中から斬れれば良いけど、んー……大きな木杭とかってある?」


 木杭? なにに使うつもりなんだろう?


「え? ええ、あります……外壁に使おうとして、加工した物がいくつか」

「木杭を魔法で飛ばすのって、どうかな?」


 ……そうか、魔法でって、え?


「ぼ、僕がやるの!?」

「うん!」


 無茶だ! さっき言ったけど、蛇はでかいくせに以外と速い、僕の魔法じゃ……


「大きい蛇でしょ? なら大丈夫だよ、絶対当るから!」


 表情からなにかを感じ取ったんだろう。

 フィーナさんが、僕に向かって微笑みかけ、そう言ってくれる。

 その笑顔のお陰で、少し勇気は湧いてくるけど、当る自信はやっぱり無い……


「で、でも……」

「だから大丈夫だよ! 私に任せて!」


 ん? フィーナさんに任せる? 一体何をするって言うんだろう?


「とにかく、その木杭を三本、運んでもらえる?」


 宿屋の主人は頷くと、部屋の外へと飛び出して行く、魔法を使えるのは僕しか居ないだろうし、どうやるつもりなんだろうか?


「じゃ、外に行こうか?」


 やるしかないのかな……とにかく、今はフィーナさんを信じよう。

 


 外に出た僕たちが、山の方へと視線を向けると、遠目からでも解る大蛇がこの村へと迫ってきている。


「あれは、大きいねー」


 そんな、悠長なことを言っている場合なんだろうか?

 それにしても、さっき任せてって言ってたけど、どうやってアレに魔法を当てるつもりなんだろう?


「フィーナさん、木杭を持ってきましたが、どうするんですか?」

「ありがとう、ちょっと準備しようかー」


 そう口にしたフィーナさんは、大きな木杭を軽々と持ち上げると、斜めに地面へと刺し、さらにそれに交差するように、もう一本を刺すと……残った物をそれに立てかける。

 簡素な発射台みたいだけど、これって――


「もしかして、一本だけで倒すの!?」

「そう言うことだよ?」


 いや、いくらなんでも無理だ! 三本なら、まだ可能性はあるかもしれない!

 でも、たったの一本で倒すなんて、僕には到底無理だ。

 それにもう、大蛇は村のすぐそこまで迫っている。時間も無い……


「後は……油を引っ掛けて……」


 僕の不安を余所に、彼女はおもむろに取り出した、油壺の中身を木杭の先へ掛け始める。


「フィーナさん?」

「あの蛇はね熱と動きで獲物を観てるんだよ? だから、これに火をつけて魔法で飛ばせば……」

「……もしかして、蛇は獲物だと思って、これに向かってくる?」


 彼女は頷き、僕の答えを肯定してくれた。

 なるほど、蛇が杭に向かってくるのであれば、ただ撃ち出すより、遥かに命中率が高い……


「でも、匂い……とかは?」

「匂いでは反応しないみたいだよー? あれが本来いる場所では匂いで釣る魔物もいるから、その所為かな?」


 つまり……フィーナさんは何回かあれに遭遇したってことだよね? それにしても匂いで釣る魔物もいるんだなぁ……

 鼻が利かないのはその魔物に毒でもあるのだろうか?

 でも……フィーナさんの話を聞く限り、これなら僕の魔法でも倒せるかもしれない!


「火をつけるよー、ユーリ魔法を!」


 油の染みこんだ杭は、火付け石で点火され、勢い良く燃え始めた。


「我が意に従い意志を持て!」


 迫り来る大蛇をしっかりと狙い、僕は魔法の詠唱を唱え――


「マテリアルショット!!」


 燃える杭を撃ち出した。

 火杭は大蛇へと向かうが、やはり思ったより遅く……若干狙いもずれている。

 だが、フィーナさんの言った通り、大蛇はそれを獲物と判断したんだろう。

 自分から杭へと向かい、食らい付こうとした。

 習性を利用した攻撃は見事、蛇を貫き……大蛇はその身を大地へと降ろし、動かなくなる。


「……やったの?」


 ピクリとも動かない……ということは、大丈夫なんだろうか?


「一応、安全策は取っておこうか?」


 大剣を抜き、大蛇へと近づいたフィーナさんは、その剣で蛇の首を切り落とし、こっちへと戻ってくる。

 どうやら、終ったみたいだ。

 それにしても、習性を利用した攻撃を瞬時に思いつくなんて、フィーナさんは凄いなぁ……


「ね? 一発で十分だったでしょ?」


 コクコクと頷くと、フィーナさんは嬉しそうに尻尾を降り始めた。

 この様子だけを見ると、あの戦闘中の姿が想像出来ないというのに、頼りになる人だ。


「お二人とも」

「うわぁっ!?」


 だ、だだだだだだだだだ誰!?


「ユーリ!? 大丈夫?」


 な、なんだ、村人のおじいちゃんか……いや、村人以外、居ないのは知ってるけど……


「だ、大丈夫、びっくりしただけだよ、あの、は、背後から、いきなり話しかけないでください……」

「これは、大変失礼をしました……おっと、申し送れました。ワシはトーナの長、トーマスと申します」


 このタイミングで村長が出てくるってことは、なにかお礼をします、的な流れだろうか?


「この度は村人を救って頂いただけではなく、村の危機を救って頂き、ありがとうございます。……ところで、フィーナ殿が()られると言うことは、また北の方へ?」


 話の流れからして……やっぱりそうか、でも、助けられそうな人を無視は出来ない。

 報酬が必要と言われたから、宿代は無料(タダ)にしてもらったし、蛇は僕を追ってきた可能性がある。

 感謝されるほどではない、と思うんだけど……


「うん、またリラーグへ向かうところだよ」

「でしたら、馬車があります、乗って行ってくだされ」

「いや、そんな悪いですよ……当然のことをしただけですし」


 宿を無料にしてもらった上、馬車まで借りるなんて流石に、ねぇ?


「当然のことですか……宿の者が言っていた通りですな。いや、気にしないで下され、丁度商品を届けるところでしてね……お願いできませんか?」


 お願いって、そんなつもりは無かったのに、やっぱり悪い気がするな。


「んー、馬車に乗る代わりに、その馬車の護衛をするで良いのかな?」

「ええ、そう言うことです、もう一度言いますが、お願いできないでしょうか?」


 村長さんは僕を見て、もう一度、念押すように「お願い」と言う言葉を、強調してきた。

 ん? 護衛? ああ、なるほど……それなら持ちつ、持たれつだ。


「そう言うことでしたら、フィーナさん、良いのかな?」

「うん、そうだね、馬車なら予定より次の村にもつけるし、良いと思うよ」

「おお、ありがたい……では、準備をいたしますので、もう少し村でお休みください、終りましたら使いを出しましょう」


 村長はそう言葉を残すと、去っていった。


「上手く乗せられちゃったね?」

「え? 乗せられた?」


 なんのことだろう。


「トーマスさん、ユーリのこと聞いてたみたいだよ? だから、断るのを前提に考えて、依頼として馬車に乗って行ってもらうようにしたんじゃないかな?」

「じゃ、じゃあ……護衛ってのは?」

「多分、今、急いで商品になりそうな物をつめると思うよ? あの蛇も皮とか工芸品に使えそうだしねー」


 な、なるほど……今更、やっぱり依頼はー、なんて言えないし……

 フィーナさんの言うことが本当なら……いや、本当だろう。

 まんまと、村長さんの口車に乗ってしまった、と言うことになる。

 ま、まぁ一応、依頼として受けてるんだし、移動手段は対価として貰っておこう。

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