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19話 冒険者ユーリ誕生

 タリムの酒場、月夜の花でフィーナたちと再会したユーリ。

 だったのだが、フィーナはユーリを見るなり、いきなり「ユーリが良い」と言い出した。

 なんのことか戸惑うユーリにバルドが告げたのは、フィーナが遠征すること、そして、その遠征にユーリがお供として選ばれたことだった。

 突然のことにユーリは、ナタリアが許すはずがないと思うが、フィーナはナタリアに話を付けに行くと言い出して?

「ユーリを私にください!!」


 ナタリアを前にしたフィーナさんは、なぜか突然そんな言葉を口走った。

 はて、僕は嫁に行くことになったのだろうか? いや、待て違う、そうじゃない!

 あまりにも突然すぎる告白に、僕はシアさんにどういうことか説明をしてもらおうとしたが、彼女も普段見ないような表情で、口を開けポカンとしている。


「……ユーリ、いつから、こんなことになった?」

「いや、あの、途中からソワソワして……屋敷に入る前に、あわあわ言い始めたかな?」


 と言うか、僕にもなんで、こんなことになっているのか分からない。

 普通に冒険について来て欲しいから、とかでは駄目なのだろうか?


「そうか……フィー」

「は、はぃ!?」

「気は確かか? ユーリは女だぞ?」


 そう、僕は現在、女の子だ。

 元々は男だったけど、この世界に来たら、どういうわけか女性になっていた。

 その事実を知っているのは、目の前にいるナタリアと僕、可能性があるとしたら、シアさんを含めた屋敷の使用人だけだ。

 つまり、フィーナさんは知らないはず……

 いや、だからそうじゃない、告白とか色々すっとばして――それも違う、駄目だ、僕まで混乱してきたぞ?

 ま、まぁ……これ以上、誤解を招くような台詞をフィーナさんが言わなければ良いだけだし、さすがに気がつくだろう――


「知ってるよ? それも、あってユーリが良いんだけど……」

「………………」


 うわぁ……これは誤解を招くような台詞だよね? 恐る恐る、ナタリアのほうへ顔を向けると、ナタリアは笑顔だ。

 その笑顔が怖いのは言うまでも無い……


「ユーリ? フィーに何をした?」

「ち、違うって! 誤解だよ!?」


 と言うか、言い出したのはフィーナさんだ。


「ほう、フィーから言い出したのか?」


 また、心を読んだな、ナタリア……


「ん? 私から言ったよ? ユーリが良いって……」

「ほーう……」


 ナタリアには怒られると思ってたけど、こんな風になるとは思ってはいなかった、予想外すぎるよ……


「そうかそうか、ユーリは怒られることを覚悟してたんだな?」

「ナタリー……それで、良いかな? ユーリに仕事ついて来て貰っても?」


 フィーナさん……やっと、まともな発言を言ってくれた。


「そういう意味なら、最初からそれを言えフィー、ユーリを叱るところだったぞ」


 叱るって……僕はてっきり魔法が飛んできそうな気がしたんだけど、いや、それよりも……


「ナタリア」

「どうした?」

「ナタリアが、フィーナさんの心読んだほうが早かったんじゃない?」

「心を覗くのは止めろと、言ったのはどこの誰だ?」


 僕です。

 いや、でも、今も頻繁に僕の心を覗くじゃないか……


「それで、フィー、それはどの位、掛かるんだ?」

「うん、リラーグの方に行くから、行き来と仕事含めたら……最低、三ヶ月かな?」


 タリムから一ヶ月ほどの所と言っていたし、やっぱりその位は掛かるのか……それにしても三ヶ月は結構、長いな。


「リラーグと言うことはゼルの弟の店か、あの店、いい加減冒険者を募集したらどうなんだ」


 ん? ゼルさんはお弟さんがいたのか……筋肉とかやっぱり、凄いんだろうなぁ、怖くなければ良いんだけど


「あっちは冒険者みたいな危険な仕事より、薬学研究や錬金術をやった方が儲かるから募集しても来ないんだって……」


 へ~、薬学か……それに錬金術って、この世界にもそういう言葉があるんだな。


「ふむ、しかし、リラーグか……ユーリ、確か(ソティル)は治したりする魔法が多いと言ったな?」

「うん、一応、攻撃も出来るけどスナイプとミーテ位しかないし、傷を治したり、解毒したりする魔法が多いよ」


 でも、それがどうしたんだろう? それ位はナタリアにも言っておいたことだし、今更、聞くようなことじゃないような気がするんだけど……


「丁度良いかもしれないな、ユーリ行って来い、お前の為になるかもしれん」

「良いの!? 修行とかは?」


 てっきり、修行の方が優先だとか言われると思っていたのに……


「なにも屋敷に籠もってやるのが修行じゃない、これも修行のうちだ。フィー、ユーリを任せた。ユーリも分かっているな?」

「うん、分かった」


 つまり、フィーナさんの手助けをしてあげろ、ってことだろう、以前よりは魔力も増えているし、魔法も増えた。

 以前のようにならないよう、手は尽くそう。


「良かったー、ナタリーありがとう!」

「しかし、フィーさっきの言い方では……まるで、ユーリを嫁に貰うようだったぞ?」

「…………え?」


 ……なんで、今それを言う?


「え? あの、えっと、そうじゃなくて……あの、ナタリーに怒られたらどうしようとか、ね?」


 そして、なぜフィーナさんは僕に同意を求めるの?


「しかし、女でも良いとはフィーも言うな、良かったなユーリ?」


 だから、なんで僕に同意を……


「ナ、ナタリー! だから……もう良いよ、ユーリ! 準備しに行こう?」

「う、うん、えっと荷物、取って来るね」



 僕は自室へと戻り、(ソティル)と以前、買った装備一式を手に取った。

 こんなこともあるかもしれないと、密かに期待して、準備だけはしておいたのが役に立った。

 駆け足で戻ると、フィーナさんはずっと待っていたのだろうか? そんなに時間が掛かってはいないものの、玄関で立って待っていてくれた。


「ユーリ、冗談は置いておいて、気をつけていけよ? 定期的に鳥を飛ばせ、分かったな?」

「心配性だなぁ、分かってるよ」

「フィーも無茶だけはするな、ユーリの魔法は万能じゃない、取り返しのつかないことにならんようにな」

「大丈夫、ちゃんと気をつけるよー」


 しかし、ナタリアのこういう所を見ていると、まるで母親だ。


「じゃぁ、二人とも行って来い」

「「行って来ます」」


 僕たちはナタリアに見送られ、タリムへと戻る。


「タリムに戻ったら、準備して数日後ぐらいに出発かな?」

 御者として前に座っているフィーナさんに僕はそう語りかけた。


「そうだねー遠出になるし、保存の利くものを買わないと、後……」

「後?」

「ユーリには手続きをしてもらわないとね?」


 手続き? 一体、なんの手続きだろう……


 タリムへと戻ってきた僕たちは、なぜか月夜の花亭まで戻ってきた。

 手続きってここでするのかな? って言うことはもしかして……


「フィーナさん手続きって、冒険者の?」

「うん、その通り」


 なるほど、つまり僕はこの酒場の冒険者と言うことになるのか。


「ユーリ! 戻ってきたってことは、ナタリアには許可を貰ったんだな!」


 いつも通りのデカイ声で出てきたゼルさんは、なにやら幾つかの小箱を持っている……あれは、なんだろう?


「さて、ユーリはどれが良い? 好きなをの決めな」

「好きなのって――」


 一体、なんのこと? と聞こうとした矢先ゼルさんは、箱を一つ一つ開けてくれる。

 そこには、ピアスやペンダント、指輪とか様々なアクセサリーが並んでいた。

 そういえば、酒場の冒険者はなにかしらのアクセサリーを身につけてるって言ってたな、確か、バルドはピアスだ。


「あれ? フィーナさんは、なにを持ってるんですか?」

「私はペンダントだね、一番邪魔にならないし、見せびらかす必要もないから、普段は服の中にしまってあるよ」


 だから、見えなかったのか……

 しかし、こういっぱいあると目移りがしそうだ。

 どれが良いのかな。


「悩むんなら、ピアスとかはどうだ? 邪魔になりにくいからな」


 確かに邪魔にはなりにくそうだ。

 でも、バルドとおそろいって言うのはちょっと……

 なにより、着ける意味は無くなったのだけど、ナタリアから貰ったピアスが気に入っているし、別のにしよう。

 とは言っても、なにが良いかな……指輪は失くしそうだ。

 ブレスレットも戦闘中に取れてしまうかもしれないし、うん、やっぱりペンダントにしよう。


「僕もペンダントにします」


 フィーナさんと同じ様に普段はしまっておけばいいし、首から掛けておけば無くすことも無さそうだ。


「そうか! 失くさないようにな!」


 ゼルさんは小箱ごと手渡してきて、残りをしまってくると言い、店の奥へと去っていった。

 渡されたペンダントを良く見てみると、夜空のような宝石の中に花が咲いている。

 ……宝石なんて見たこともあまりないし、これがどれだけ価値があるのかは分からない。

 でも、誰から見ても神秘的な物だろう。

 それを早速身につけ、フィーナさんに問いかけた。


「それで、手続きって、まだなにかするの?」

「うん、後は書類に書くだけかな?」


 冒険者としての登録のはずなのに、それだけで良いのかな?

 実力とかそういうの見たほうが、後々、便利だと思うんだけど……


「試験とか、そう言うのは無いの?」

「普通はあるよ、でも、ユーリに関してはする必要が無いからね」


 なるほど、そういうことか……そうだよね、いくらなんでも『はい、どうぞ』っと証をほいほい渡してたら、実力が無かったり、人としてあれだったりする人たちが集まるかもしれないからね。


「ユーリ! これに名前と、お前の得意分野を書いてくれ!」

「分かった」


 僕は戻ってきたゼルさんから手渡された書類へと書き込んだ。

 名前はユーリとだけ、朝日野と素直に書いても良かったんだけど……少し思う所があり、書かなかった。


「ん? 何だお前、ユーリとしか書いてないじゃないか」

「駄目かな?」


 やっぱり書類だし、駄目だったかな……

 でも、この世界には無い名前だし、そんなことは無いとは思うけど、亡くなった両親の墓を訪ねる、とか言われたら説明に困ってしまうし、書かない方が良いと思ったんだけどな。


「事情で書けないなら、偽名でも作っちゃおう?」


 それで良いの!? いや、それ以外にも一応、手はあると思うんだけど……


「アクアリムとかは駄目かな?」

「勝手に名乗ったら、ナタリーどんな顔するか分からないよ?」


 確かに、そうだ。

 偽名……いや、この世界で名乗る名前か、どうしようかな。

 そういえば、ミーテって光と熱を生み出すけど、あれって要するに太陽を作る魔法ってことだよね? せっかくだし、光と太陽から名前を取ってしまおう。


「……リュミレイユ、とかどうかな?」

「良いと思う、ユーリにピッタリだね!」


 即席とはいえ、そう言ってもらえると嬉しいな、よし! この名前にしよう。


「決まったなら、書き込んでくれ……それで、手続きは終わりだ!」


 僕は頷き、ユーリの後に今、決まった名前『リュミレイユ』と書き込んだ。


「じゃ! これから宜しくな、期待の新人!」

「期待に答えられるかは分からないけど、改めて宜しく、フィーナさん、ゼルさん」

「うん、期待してるよ!」


 そう期待してるって言われると、緊張という物があるのだけど、僕は僕の出来ることをしよう。

 今回の旅では、フィーナさんのサポートをする、それだけでも、大分違うはずだ。

 なにはともあれ、今日から僕は月夜の花の冒険者となった。

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