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191話 左腕の魔紋

 瀕死のナタリアに駆け寄ったユーリ。

 彼女はソティルを失う事になり、ナタリアを助ける術を失った……

 だが、そんな中成功しなかった魔法はついに成功した。

 しかし、それでは治すことが出来ず……母の死を感じたユーリの元へと現れたのはフィーナだった……

 ナタリア、ゼルの仇を討つと言うフィーナを護る為、ユーリは今一度立ち上がる。

 その時、左腕に痛みとともに現れた物は――?

 腕に現れた物は以前にも見た模様……

 それは石像やお墓で見た物で……それが意味するのは……恐らくそう言うことなんだろう。

 そう……彼女は何故かいつも左に居た。

 だから左腕なんだろうか? もしかしたら、呪いかもしれないという状況で僕はその模様が意味することをそうだと思い込んだ。

 そして――


『――様、申し訳ございません……ですが、どうやら間に合ったようですね』


 そして……それは、確信へと変わった。


「ソティル……」

ご主人(ユーリ)様、感傷に浸っている暇はありません』


 そうだ、ナタリアを助けないと! ソティルがいる今なら……


『現状ナタリア様は血を流し過ぎました。ヒールでは助からないでしょう』

「――そんなっ!!」

『ですが、すでにご主人(ユーリ)様の記憶から適切な対処を学んでおり、以前よりは早く治せますでしょう……詠唱は――』


 本はもう無い。

 だけどソティルの言葉は聞こえ、なにを言おうとしているのかも分かった。

 当然これから紡がれる詠唱さえも……


「『我願う、この地に集いし我が同胞を守り抜く術を……クーシェ!!』」


 その魔法の名は彼女の本来の名で……左腕からまばゆい光が放たれる。

 これがナタリアを治す魔法?

 疑問に思いつつも彼女の方へと目を向けると、そこには……


「嘘……血が戻ってる?」


 フィーはその現象を見て呟き……


『近親者による輸血は危険だとユーリ様の記憶から情報は得ています』


 僕の後ろからは聞きなれた女性の声がする。


「危険って……血が戻るなんて聞いたことないよ? 大丈夫なの?」


 ソティルの声に驚きを隠せない様子でフィーは訪ねている。

 それもそうだ、一回抜け出た血には色々ついて変な病気にかかるかもしれない……そう思ったけど……


「大丈――」

『ご安心くださいフィーナ様、ナタリア様の血液に付いた不純物は取り除いて戻しております』


 以前ソティルが助けてくれた時の事を思い出し、僕は大丈夫とフィーに伝えようとしたんだけど、ソティルが代わりに告げてくてた。

 それにしても、これ凄い魔法というか、軽く蘇生に近いんじゃ……確かにそれならナタリアを助けることは……って……


「え? ソティル……がフィーナ様って言った?」

「ユ、ユーリ? そ、その後ろに……」


 僕が首を動かすと其処には見慣れた姿の彼女が居た。

 その姿は若干透けていて……さらには浮いている。


「ソ、ソティル……?」


 もし彼女の姿では無かったら僕は腰を抜かしていたに違いない。

 それに……そうかこの魔法は……フロスティとの戦いの後に見た魔法……あの時、僕は血を大量に流していたにもかかわらず、すぐに動くことが出来た。

 そっか、あの時もソティルが同じように助けてくれたんだ……


『ネクノォォォォォォ!!』


 光の中グールの声が響き渡り、とっさに振り返ると僕たちに向けて黒い塊が迫るのが見えた。

 大きさから言って頭位の大きさの物だ。

 だが……それは僕たちに辿り着く前に光の中へと消えていく……


『おい! なんで戻って来てやがる! ぁあ!? 何とかしろよ!! テメェは運命を変えるんだろうがぁぁぁ!!』


 少し時間を置き聞こえてくるのは怒鳴り声だ。

 どうやらこの光の中ではあのネクノって言う黒い本は活動が出来ないのかな? それにあの黒い塊……

 もしかして先ほど受けた衝撃の正体はあれなんだろうか?


ご主人(ユーリ)様、治癒は終わりました……ナタリア様は時期に目を覚ますでしょう』

「ありがとうソティル」


 彼女の言葉を聞き僕はナタリアへと目を移す。

 傷はすっかりなく、心なしか肌の色には赤みがさしている……良……かった……


「ユーリ!?」

「あ、あれ?」


 安心したからなのか身体がぐらつきフィーに支えられてしまった。

 ……いや、違うこれ魔力が急に減った?


『私を使役していることで永続的に魔力の消費、更には蘇生に近い治癒魔法による魔力消費が重なったのでしょう、私の魔法を酷使した状態で活動できるのは五分いえ……それよりも短いかもしれません』

「ま、魔法って便利ってだけじゃないんだねー?」


 そうだねーって言いたい所だけど、ソティルの魔法にはそう言うのが多いからなぁ……

 ヒールも傷を癒すことは出来ても血液や体力は無理だし、ミーテは自分でも火傷しそうだし、スナイプは真っ直ぐに一本だけだからそう何度も使えない……グラースに至っては反動が大きい。

 だけど……


「それで……十分だよ」


 この魔法のお蔭でナタリアは助かったんだ! それだけで十分すぎる。


『では、ご主人(ユーリ)様そろそろ――』


 彼女がそう言うとゆっくりと光は収まっていく……そっか時間ってことかな。

 後はどうやって倒すかだけど、その手が思いつかない……

 そう思う僕の後ろでソティルは囁く……


『いいえ、そろそろ黒の本を滅しましょう、ご主人(ユーリ)様』

「え?」


 光は消えた……

 だけどソティルは傍に居るし、光も消えたと言うよりは左腕に入っていったっと言った方が良いのかもしれない。


『貴女様の傷も癒しました……』


 僕はそれを聞きはっとする。

 先ほどまで痛みがあり、火傷を負い、血が流れていたはずの僕の身体はいつの間にか痛みどころか傷も残っていない。

 唯一残ったのはソティルの魔紋……

 だけど、そこからも血は流れておらず先ほど入っていった光は魔紋から溢れている……

 それは暖かい色で……まるで模様通り……太陽に見える。


 でも……


「僕は魔法が……」


 いや、正しく言えば普通の魔法が苦手だ。

 なのにソティルは静かに首を振る。


『ご安心をご主人(ユーリ)様、私は貴女の魔法です。貴女は今まで私の期待を裏切りませんでした……ならば、その意志に答えましょう』

「……ソティル?」


 僕の魔法……?


『なんだよオイ!! なんで俺の好きにやらせねぇネクノ!!』


 怒鳴り声が聞こえ、僕は慌ててそちらへと向く……そこには自身の胸に手を当て叫ぶグールの姿があり……


「……ぁ」


 その瞬間先ほどの事を思い出し背筋が凍る感覚がし、脚は情けないことに震えだし……歯がカチカチとなる。

 怖い……でも……僕しかいない、今後ろに居るフィーも倒れているナタリアもバルドもドゥルガもケルムも……遠くに居るメルたちさえ……殺されるかもしれない。


ご主人(ユーリ)様! 時間はありません!』


 そうだ時間は無い、ソティルの言いたいことは分かった。なら……

 僕は正面を見据え、魔法を唱えんと構える。

 恐らく対処できると考えている今しかチャンスは無い! そう思って口を動かそうとした時だ――


『な!? オンナァァァァ何をしたぁぁぁぁ!! ふざけてるんじゃぁねぇぇぇぇえええ!!』


 部屋の中に徐々に注ぎ込まれる光はミーテのものでは無い。

 僕が気が付かない内に魔法は消えていたみたいだ……だけど、そこには確かに光が射していた。

 はっとし天井を見るとゆっくりと開いて行く穴がある……やがて穴はぽっかりと口を開けそこからは白い羽を持つ女性が舞い降りてきた。


「ったく面倒な役目を押し付けてくれたねぇ……」


 そう言う彼女の指には光を放つ指輪がはめられていて……その光は真っ直ぐにフィーの方へと向いている。


「うん、ごめんね? でも……」


 フィーはその女性に微笑みつつそう言うと、瞳をグールへと向ける。


「あれだけ騒ぐって事は必要なことだよ? これで形勢逆転だねー?」


 空から降りてきたのはリラーグの錬金術師テミスさん……そうか、天井を別の物に変えて移動してきたんだ。

 穴をあける位置は何らかの魔道具(マジックアイテム)であるあの指輪を使って……でも、なんで太陽が?

 いや、それは簡単か……僕たちは転移して来たんだ。それに追いつく方法なんて一つしかない。

 その証拠に太陽は僕たちを照らし、部屋を照らす……するとグールが身に着けていたローブは霧となって消えていく……


『チッ!! まぁ……良い、何人増えようが……太陽があろうが運命さえ変えれば良いだけだ……』


 さっきの慌てよう……もしかしたら、魔法を消していたのはあれだったのかもしれない。

 でもなんでナイフやナタリアの剣では斬れたんだろう? そうだ、魔法……僕達は魔法を使って斬った訳じゃない……

 ナタリアのはマジックアイテムのはずだけど、その力を使ってはいなかったんだ! ただ、ナタリアの時の事を考えるとあいつ自身が普通の攻撃に耐性があるみたいだけど……

 そして、問題のあのローブは魔法じゃない本物の太陽なら効果が無くなると……だから分厚い雲で太陽が見えない様、光が届かない様にしていたという訳か……


『クソガァァァァァ!!』


 グールは手が手をかざすと其処に現れたのはやはり真っ黒い剣だ。

 その数は多く戦いに慣れているフィーでさえ後ずさりをしていた。

 流石にこの数はマズイ……でも光衣は使えない消耗が激しすぎる……なら――


「『強固なる盾、我頼みを守れ! アースシールド』」


 剣が宙から僕たち目掛け落ちてくる……だが――


「へ?」


 僕は予想しなかった事に思わず呆けた声を出す……魔法を唱えたら魔力が急に減った感覚がしたと同時に僕たちの頭上へと現れた盾。

 こ、こんなに大きな物を作れたっけ? そう思う中、その巨盾は黒い剣を軽々と防いでいく……


『どうやら、現状の状態では魔法が強化されるようですね……恐らくは私の魔法のみかと思われます』


 その代わりこれ魔力消耗が激しい気がするよ?

 いや、だからこそ限りある時間しか酷使出来ないのか、そう理解したその時――


『馬鹿か? 自分から影を作るなんてよ?』

「――っ!?」


 目の前に現れたグールは黒い炎が灯る手で僕の喉を掴む――


「――――――ッ!!」

「ユーリ!!」


 黒い炎は喉を焼き、僕の声を奪われた……


『ククク……クハハハ……これでお前らは死ぬ運命だ』


 これで魔法が唱えられないとグールは考えたんだろう。

 僕を見て高笑いを上げる……

 確かに僕の声は出ない……だけど――あくまで僕の声が出ないだけだ。

 大丈夫、もしこれで駄目なら僕は助かっていないはずなんだから……


『太陽よ慈悲を――』

『な――ッ!?』


 僕は信じて口を動かすと詠唱は紡がれた。

 グールは腐った顔で器用に表情を変え再び喉元を焼く……熱い痛い程度の表現じゃ表せないほどなのに、その言葉だけが浮かんでくる。

 だけど……それは僕への攻撃で、()()()()()使っ()()()()()使()()()()()()()()()()()()()!!


『邪なる者に裁きを!! ルクス・ミーテ』

 

 岩盾(アースシールド)によって作られた影の下。

 そこに生み出された魔法で作られた小さな太陽はどうやら僕の意思通り動いてくれたようでグールに当たりその体を影の外へと飛ばす。

 ぐらりと頭が揺れ、それが魔法を三つ維持している所為だと気づいた僕は即座に岩盾(アースシールド)を解除し、ミーテの光を強める。

 だが――


『グゥゥゥ!! クソガァァ!! 熱ぃぃぃぃ焼けるぅぅぅぅ!! ネクノォォォォォ!!』


 流石は王と名乗るだけはある……ミーテでは倒しきれてない。

 彼は叫ぶだけではなく、胸に手を当て本の精霊の名を呼ぶ――もしかしたら本があそこにあるのかもしれない……


『恐らく、黒の本の同調が進んで魔法による護りを得ているのでしょう、それも呪いを解ければ……』


 分かったすぐに唱えよう――!!


ご主人(ユーリ)様、お気を付けください。あの魔法は触らなければ意味がありません』


 なるほど……今まで通り触れれば良いんだね……

 なら、痛みで転げまわっている今がチャンスだ! ソティル!!


『もうすでに治癒は終わっておりますよご主人(ユーリ)様』

「我らに天かける翼を……エアリアルムーブ」


 たった今ソティルに治してもらった喉を使い僕は魔法を唱えると右腕の魔紋は淡く光を放ち、魔法は発動する。


『ネクノォォォォ!! 早く変えろぉぉぉぉぉお!!』


 グールは残った腕を胸へと手を当て本の名を呼び、するとやはり黒い塊が現れ僕へと向かってきた、が……

 太陽の所為で先ほどまでの力は無いのだろうか? ミーテを近づけると僕にたどり着く前に消えてしまった。

 とは言え、やっぱり三つ目は頭がぐらりとする……おまけに頭痛までしてきた……

 恐らく次の魔法は発動すらしないかもしれない……


「『忌まわしき、恨み縛りの力よ、我が言霊にて消えよ』」


 そう思った僕は詠唱の終わりと共に浮遊(エアリアルムーブ)を解き、床を思いっきり蹴る。

 そして、左手をグールに向け――


「『ディ・カース!!』」


 本があるであろう胸へ触れ――魔法の名を唱えた。


『ネクノォォォ!! この女を殺せぇぇぇ――!!』


 グールは咄嗟に胸に手の平を向け叫ぶ、だが先ほどまで彼に答え現れた黒い影の姿は見えず……

 彼の身に着けていた服の中からはブスブスと何かが焼ける音がする。


『ほ、本に触ってるんじゃねぇぇぇぇ!!』

「うわぁぁぁぁぁ!!」


 僕はグールに突き飛ばされ、後ろへと倒れこむ。

 マズイ! そう思って慌てて起き上がると……


『――ッ!? ――――――!!』


 ミーテの光と太陽の光に焼かれ、灰になっていくグールと彼から落ちた焼け焦げた本の姿が目に映った。

 だが……グールは灰になりきる前に死に物狂いで僕の方へと向かって来る……掴まれたら終わりだ……なのに足が……


「ユゥゥゥゥゥリィィィィィ!!」


 後方から叫び声が聞こえる。

 フィーでもなく勿論ソティルやテミスさんとは違うその声に僕は咄嗟に右手を後ろに向け一つの魔法を唱えた。


「陽光よ! 我が友の矛に鋭き刃を与えたまえ……チャージ!!」


 すると僕の真横を巨大な光の槍が通り過ぎて行くと僕の魔力を吸って更に大きく、鋭く形を変える。

 そして僕に迫りかけたグールを捉えるとそのまま壁を壊し外へと飛んでいく……

 だが……グールはその身体の一部を光槍(アルリーランス)に持っていかれてもなお僕へと手を伸ばす。

 だけど……僕には魔法を使うには魔力がもう――

 でも、フィーやナタリアたちは助かった。僕……頑張ったよね? そっと目を伏せる――怖いけど、歯を食いしばって声を上げるのは我慢しよう。


「ユーリ!!」

「ユーリィィィィ!!」


 ナタリアとテミスさんの叫び声が聞こえ――

 恐らく二人が立てた音なのだろう、大きな物音が耳に響き――


ご主人(ユーリ)様っ!!』

「ユーリ!!」


 そのすぐ後にフィーとソティルの呼びかけが聞こえた。その声には悲痛な物は無く、ただ強く僕の名を呼ぶ――


「今! 行くからね!!」

『ここで諦めてしまうのですか?』


 その二つ声は優しく、強く、はっとさせられた……

 そうだ、ここで死ぬわけにはいかないんだ! まだ、倒れてない……気絶はしていないということは!!


「太陽よ慈悲を、邪なる者に裁きを――ルクス……ミィィィィテェェェェ!!」


 まだ魔力が残ってる! その事に賭け陽光(ルクス・ミーテ)を唱えると……

 やけに頼りないがそれは僕の目の前に現れ、その光をグールに向け飛ばす!


『な、まだ――!! ガァァァァアアアアア!!』


 僕の意思に従った魔法は迫りくるグールの手に火が広がり、灰へと変え……それはだんだんと広がっていき……

 タリムの王の部屋には静寂が訪れた……


「…………はっ……はっぁ、ふぅ――」


 ミーテを消すとナタリアの魔法で新たに出来た風穴から太陽の光に照らされた世界が見えた。

 ようやく……終わったんだ。

 気分は複雑だ……だけど、彼はもう本無しでは生きてはいられなかったろう、なによりこの黒い本はあっちゃいけない物だ。

 僕は焼け焦げてしまった本へと視線を移す……

 すると黒の本は呪いが解けたからだろうか、グールの様に突然火がつき灰となり風にさらわれて行った……

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