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189話 不死の鬼

 ついに対峙したユーリとキョウヤ。

 だが、キョウヤはユーリが知る姿とはかけ離れており……

 その血肉は腐り、生血を肉を貪る不死の鬼……グールと化していた。

 ユーリは自身の名を名乗り、タリムの王グールを討つ事を宣言した。

 ナタリアは剣を引き抜くとキョウヤ……いやグールへと向かって走る。

 なにか手はあるはずだ……それに今迄からしてもあいつは予想外の行動の対処は遅れるはずだ。

 グラースがかかったフィーの攻撃もドゥルガさんの突進もあいつには効果があったんだから。

 そう思いつつ僕達は慎重に足を動かす……すると僅かになった足音に気が付いたのか……


『其処だな?』


 グールは此方を向いた……やっぱり耳は辛うじて聞こえるみたいだ。


「良く分かったな……だが、遅い」


 彼女はそう言うと手に持っている長剣を振るう。

 誰が見たってそれは届くはずのない距離だ。

 ナタリアの事だ無意味なことはしない、それは分かっていたけど……僕はナタリアがしたことに驚いた。

 だってこの時初めてあの剣の効果を見たんだ。

 水だ、銀線と同じ形の水の刃が作られ、その刃は風に乗りグールへと向かって行く……

 だけど……


『無駄だ……』


 やはり魔法は解ける様に消えていく……魔法の属性……神聖か水、はたまた道具とかは関係ない? でも、直接的な攻撃はまだしていない! なら……


「これなら?」


 僕はナイフを一旦しまうと弓を構え矢を放つ。

 真っ直ぐに飛んでくそれはグールへとあたる直前に勢いを無くす……駄目なのだろうか?

 そう思った時、ゆっくりとではあるがグールは矢から離れるように動き矢は床へと刺さる。

 勢いを殺したかに見えたけど、まるで其処だけの時間を止めたと言った方が良いのだろうか?

 僕はもう一度矢を放つとやはり同じ動きをしている。

 ということは……


「魔法は消せるけど、物理的な物は消せない?」


 でも、なにか引っかかる。

 あの動きは……なにかが……その証拠にナタリアも今の動きを観ていたにもかかわらず、警戒するように剣を構えているだけだ。


『どうしたんだよ?』


 もし、本当に時間を止めれるなら剣技でも無理だ。

 動きが止まってしまえば、反撃に遭う……それにそう言う風に見せているって言うのも考えられる。

 なんて言ったってアイツは無詠唱魔法を操るんだ。

 魔法は効かない……他にも何かしらの力を持っている。


「…………」


 本当に時を止めれる? 分からない……でも、これしか無い。確かめるには僕が動くしかないんだ。

 僕はグールに気が付かれないように小声で光衣マジックプロテクションを唱え、発動させると別の魔法の詠唱へと入る。


「我らに天かける翼を! エアリアルムーブ!」

「ユーリッ!?」


 魔法で宙を舞い、ナイフを引き抜きグールへと迫る――

 これなら走るよりも速く、僕の得意な方法だ。それに、やっぱりゾンビだからだろうか? グールの動きはずっと遅く、以前フィーと戦っていた時の面影はない。


『……ククク』


 っと思った矢先だ。


「え?」


 目の前に居たはずのグールの声は後ろから聞こえ、僕は地面へと叩きつけられる。


「――っ!?」


 手加減でもしているらしく、魔力はあまり消費しなかったのは幸いだ……けど、速すぎる……


『無様だな? 具現せし、畏怖をかき消せ……ディ・スペル』

「っ!! ユーリ!!」


 魔法と共に僕の身体を包んでいた光は消えていく――――マズイ!! そう思って逃げようとするも、魔法を封じるためだろう……床へと僕の頭を押し付ける様に踏まれ、身動きが取れず……


『じゃぁな……』


 その言葉が早いのか遅いのか、背中に衝撃を受け……それはどうやら易々と僕の身体を貫いたようだ。


「な…………」


 痛い……そして焼かれるような熱さもある。

 これが、氷狼の味わった……痛み……


『あーあーよりによってこっちの女かよ、胸デカかったのによ』

「……ユーリ?」

『なんだよ、仲間が殺されて戦意喪失か? おい……良いぜお前はお前で気に入った……だが、また腹が減ってきやがったな……クソッ!! いつもこれだ……』


 どうにもおかしい、目は見えないはず……だけど、ナタリアの事は見えているのだろうか?

 いやさっきネクノに容姿を聞いていたはずだ……だとすると、僕と同じで同調している?

 それにしても、これからはフィーの言うことは素直に聞いておこう。


『ぁあ、そうだ生きてる方が旨いんだよ……ああ、喉も乾いて来た』

「そんな……まさか、おい……ユーリ!」


 グールとしての本能だろう、僕の頭から足はどかされゆっくりとナタリアへ迫ろうとしている様だ。

 僕のナイフはまだ手の内にある。

 ディ・スペルを受けてしまったから魔法は切れてしまったけど、魔法をかき消されるなら関係ない! それに僕だってそれなりに成長はしているんだ!!


「うわぁぁぁぁああ!!」


 ゆっくりと僕から離れつつある腐肉へ向け僕はナイフを振り抜く――


『……ぁ?』


 すると、確かな感触と共にそれは切り裂くことが出来た。

 でも、思ったより浅い!? 確かに感触はあったはずなのに……


「ユーリ! 良くやった……だが生きているなら早く言え!!」


 そ、そんな怒らなくても……お守りがあったことを忘れているのだろうか?

 そういえばフロスティの時に僕は大怪我をしたんだった……ナタリアはそれでお守りがもう無いと思っていたのかもしれない、悪いことをしちゃったな。


『切られた? 俺が?』


 今のはかなり危なかった、でも予想通り、動きは止まった――


「――――かはっ!?」


 かに見えた……

 アイツが見えない目で自分の傷を見ていた……はずだった。

 だけど、腹部には鈍器で思いっきり殴られたような衝撃があり、僕は宙を舞い地へと叩きつけられる。


「げ――ほっ――っ!?」


 なん……で?

 動いてない……のに……


「な、何をした!?」


 ナタリアの声が部屋の中に響く……彼女にも見えなかったの?

 それじゃ、僕が分かるはずが……


『良くやったネクノ……だが、殺すな……そいつは俺に傷を負わせた。だから、これからそいつにお前らの世界がどうなるか見せてやるよ……』


 怖いほどに暗く、底の見えない言葉――

 だけど、まだ……戦える。

 僕はグールを睨み立ち上がろうと体に力を入れた……と同時に先ほどと同じような激痛に襲われふと足を見る。

 そこには小さな針の様な剣が無数に僕の足へ刺さっているのが見え……

 スカートの生地はあっという間に赤へと染められていく……


「――――っ!!」

『おーおー……声を上げないとは随分と根性があるな』


 声を上げないんじゃない、上げれなかった。

 声に出そうとすると息が詰まり、でも痛みは治まってくれない。

 だけど、何を勘違いしたのだろうか、グールは高笑いしつつ針を次々に僕の足へ突き刺した。


「!? ――――っ!!」


 拷問……その言葉が頭に浮かび、痛みと熱さで消える。

 声を出そうにも出せず、仮に出たとしても喘ぐだけだ。

 とてもじゃないけど詠唱は紡げない……


『ほら、どうした? 許してください奴隷になるとでも言えば考えてやるよ』


 グールは気を良くしたんだろう、そんな事を言い。

 腐った顔を更に醜く変え、笑う――


『どうした? ほら、どうしたんだ――』


 だが、その胸から一本の鋼が生える様に飛び出て……


「人の娘になにをしている?」


 それは知っているはずの声なのに聞いたことがない声に聞こえた。


『…………っ!?』

「ほう、どうやら弱点は変わらないようだ……だが、悪く思うなよ? 子供を傷つけられ頭に来ない親は居ないんだ」


 その言葉と共に鋼は横へと薙ぎ払われ、グールはその場に倒れる。

 そこに居たのは当然、ナタリアだ……彼女は僕の傷を見て顔を青ざめさせると剣を鞘へと納めようとする。

 だが、僕の瞳には違うモノも映っていて……


「駄目だ!! ナタリア!!」


 それを見て僕は慌てて彼女の名を呼んだ――でも、僕の言っていることが分かるはずもない彼女は呆けた顔をしていて……

 彼女の腹からは先ほどのグールと同じように黒い剣が生えていた……


「――ッ!! なる、ほど……な……油断して……いた」

「あぁぁ? ぁぁああぁぁあ……」


 彼女は苦痛に耐えるような顔を浮かべ、その口からは赤い血があふれ出ている。

 そして、黒い剣が引かれると同時に彼女の身体は力なく僕の方へと倒れこんできた……

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