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188話 異世界での再会

 タリムの城へと辿り着いたユーリ達だが、そこには強力な魔物群れており簡単には侵入が出来なかった。

 しかし、ドゥルガやバルド、ケルムの説得によりユーリとナタリアは空を飛び城へと侵入した。

 辿り着いた先でユーリ達を待ち受けるのは……?

 トンっと靴底から音を放ち僕たちは城の床へと辿り着く……

 目の前は暗く、ここから続いているのは部屋なのか道なのかも分からない。

 僕はルクスを目の前まで持ってこようとして躊躇した。

 すると、僕の後ろから光があふれ、暗闇の道が照らされる。

 ナタリアのルクス? いや、声は聞こえなかった……一体誰が?


「ほう、バルドの奴面白い物を持ってきたな」

「え?」

封光石(ふうこうせき)と言うマジックアイテムだ。ルクスを閉じ込めただけの物ではあるが、魔力を籠めれば弾けた場所で光を放ち続ける性質を持っている」


 そんな物があるんだ。

 でも、なんでルクスを閉じ込めたんだろうか?

 攻撃性も無ければ明かりを灯すぐらいしか使い道は無い、それに今の説明だと使い方によっては一瞬しか光らないように聞こえるけど……


「なんだ、その顔は忘れたのか? ルクスは目くらましにも使えると言ったろうに……」

「……あ、そっか」


 危険性も低く身を守ることも出来る魔法、そう言う意味で彼女は最初にルクスを教えてくれたんだった。

 すっかり忘れていたそのことを思い出し、なんだか懐かしく感じつつも僕は顔を引き締めると自身の魔法を引き寄せ奥を照らす……

 どうやらここは部屋ではなくやたら広い道の様で横には上下の階へと続く階段が目に入った。


「行こう……」


 僕の声に頷き、答えてくれるナタリアは剣を引き抜き前へと立つ……

 頼りになる背中ではあるんだけど……そう言えばナタリアも迷子癖があるんだっけ?


「あの……ナタリア?」

「大丈夫だ、適当に進めばいずれ着く……はず」

「…………」


 い、いざとなったら城を壊してでも辿り着けば良いのかな?


「ユーリそう不安がるな、それに相手がどこに居るかも分からんのだろう?」

「そうだね、確かにどこに居るか分からない」


 彼女にそう答えつつ僕はふと昔の事を思い出し通路へと目を向ける。

 大きい道はルクスに照らされた奥にも続いている様だ。

 長い回廊……もしかして……


「けど……この長い通路の奥に扉があってその奥に居るんじゃないかな?」

「……何故そうだと思う?」


 ……長い通路のある場所って大抵罠だったり、なにかに追いかけられたりする。

 それともう一つ……罠も何もない代わりに奥にはラスボスが居る事もある。

 アイツはこれまでこの世界に居ない魔物を作ってきた。それは恐らくゲームや物語の知識を借りてだ。

 だとしたらこの城にも同じようなことが言えるのではないか?

 それに、アイツは多分誰も信用していない、恐らく自分の作った魔物でさえ……罠って可能性はあるけど……


「多分だけど、アイツはこの世界をゲームかなにかと一緒にしてる反面誰も信用していない、だからすぐに外を見渡せるここに近い部屋に居ると思うんだ」

「そうか……下手に階段を下ったり昇ったりして迷うのはごめんだ、ユーリの言う通りこの先から調べるとしようか」

「うん、でも罠があるかもしれない気を付けて行こう」


 僕たちは前へと進む……ナタリアの後を追いつつも僕は辺りへと目を凝らす。

 城であれば、甲冑とか絵とか飾って在りそうな物だけど、なにもない……絨毯すらない道はまるで生活感が感じられず暗さもあり不気味にしか思えない。

 そんな中を進むうちにやっと何かが見えてきた。


「ツボ?」

「ああ、ツボ……だな?」


 あれは一体なんだろうか? そんな僕の疑問はすぐに答えが分かるものだった。

 奥にもう一つ同じようなツボがあり、それは倒れ一部が割れていた……

 そこから除くのは……


「悪趣味だな……埋めずに焼いたのか?」


 この世界では火葬は主じゃないんだろうか? いや、それにしたって異常な光景だ。

 ツボの大きさは僕ぐらいならすっぽり入ってしまうだろう大きさで、その中に入っていたのは砕かれた人の骨。

 なんでそれが分かったのか? それは簡単だ。

 だって……そのツボから除いていたのは半分になった人の頭蓋だったんだから……


「――っ」


 吐き気がする……

 あれの中に入っているのは一人だけじゃない、骨の量が多すぎる。

 まさか、逃げようとした人たちの末路だと言うのだろうか?

 僕はそれから無理やり視線を動かす……其処には大きな扉が見え……


「こちらも悪趣味だな……」

「うん、やたらとね」


 装飾が激しいその扉をナタリアはゆっくりと開く……


「……うぐ!?」

「……っ!?」


 開かれたその瞬間、それには気が付かないはずが無かった。

 まずは酷い臭いだ……腐臭と言うのだろうか? とにかく酷いもので頭が痛くなる。

 そして、虫の羽音が何重にも聞こえ、まるで翼を持つ魔物でもいるのだろうか? と言うほどの音に聞こえる。

 最後に目の前の薄暗い部屋の中に嫌に響く、咀嚼音とぴちゃり、ぴちゃりと言う音は一体なんだろうか?

 臭いを我慢しつつ、僕は光を部屋の中へと向ける。

 すると目に映るのは黒いローブの男が鳥を貪っていて……それからは赤い物が床へと落ちているのが分かる。

 そう、ぴちゃりと言う音は血が滴るものだった。

 それだけじゃない、光に照らされた青い顔をした痩せ細った女性は僕たちの方へと目を向けると、慌ててその体を引きずってこちらへと向かってくる。


『おい、どこに行くんだよ』


 それに気が付いたのか、鳥に夢中だったローブは女性の方へと顔を向け、その拍子に顔が照らされた……

 僕とナタリアは同時に息を飲む……そこに居たのは人間だった者のはずで……僕も人を相手にすると思っていた。

 だけど、その肉は腐り今にも落ちそうで、見れば所々白い物が見えている。

 肉を喰らっていることからもあれが何なのか僕はすぐに分かってしまった。

 死肉喰らいの鬼……食屍鬼(ししょくき)とも言われる魔物で……良くゾンビの上位として現れる魔物で……名はグール。


「――っ!? ひっ!?」


 女性はグールが自分に目を向けたことに気が付き、慌てて立ち上がろうとする。

 だが、その足は弱ってしまっているのか、立つことは叶わず……


「我が意に従い意思を持て」


 グールの手が女性へと迫る中、一つの魔法が唱えられると女性の身体は不意に浮き此方へと飛んで来るのを見て僕は慌てて抱きとめた。

 仕方ないとはいえ、かなり無茶なやり方だよ!?


「大丈夫ですか?」


 女性へと声をかけると彼女はゆっくりと顔を上げる。

 見た所怪我はない……ただ気になるのはその痩せ細った体と口の周りにこびりついている物だ。

 恐らく、生の肉を食べさせられていたのではないだろうか?


「悪いが、安全な所へ隠れて居ろすぐに終わる」


 ナタリアはそう彼女に声をかける。

 すると女性は何度か頷き体を引きずって動き始めた……

 どうやら部屋の外に行ってくれるみたいだ。これなら大丈夫のはずだよね?

 僕は改めてグールの方へと目を向ける。


『誰かいるのかよ?』


 彼はもう眼は見えないのだろう……声は辛うじて人の言葉だと解るけど元の顔は分からない。

 あれが僕の知るキョウヤなのかも……


『いや、生きのいい女の匂いがするな……そこか……おい、ネクノ聞こえてるんだろ? どんな容姿だ』


 ネクノ、か……確か医学者の記憶で見たことがある、黒の本を作った人で双子の恋人の一人だった人だ。


『なんだと……』


 恐らくはネクノに聞いたのだろう、彼は驚いた声を上げる。

 そして、その口元を歪ませると高笑いを上げ手に持っていた鳥の死骸を無造作に投げた。


「ユーリ!!」


 ナタリアは僕の名を叫び……僕はすぐに詠唱へと入る。


「太陽よ慈悲を、邪なる者に裁きを!! ルクス・ミーテ!!」


 相手はグールなら陽光なら効果はあるはずだ! ルクスを消し、新たに生み出された小さな太陽で部屋の中を照らすと男は顔を覆う。

 効果が薄い? そんなはずは……でもそれなら――


「ナタリア!!」

「陽光よ裁きとなりて降り注げ……アルリーランス」


 僕の声とほぼ同時に繰り出された魔法は見事にグールを捉え、貫く――


『うざってぇな……』


 かに見えた。

 仮面、いや……グールは棒立ちのままで光槍(アルリーランス)はそれを捉えたにもかかわらず先端から溶ける様に消えていく……

 だが、その時に風が起きたのだろうその所為でフードは飛ばされその顔があらわになる。


「これなら!」


 今しかないそう思い、僕はミーテの光を強めるも……


『もう何もしてこないのか? それよりもおい、今ゆうりって言ったか……』

「……え?」


 その声にビクリとし、光を弱める……


「嘘……」


 そこに居たのは焼けるどころか傷一つない姿で先ほどの様に棒立ちになっているグール……いや、名前を知っているってことは間違いなくキョウヤなんだろう。

 彼の姿で……僕はそれに呆然とするほかなかった……


「ま、魔法が効いていないのか? そんなはずは――」


 ナタリアも同じなんだろう、珍しく声が震えている。


『答えろよ、今悠莉って言ったのかよ、おい!?』


 声を上げる彼の目は僕を捉えているはずだ。

 だけど、そこには僕は映っていないんだろう……


『アイツもこの世界に来てたのか? ここには女達以外にあいつがいるのか? おい、悠莉……聞こえるかよ、俺はお前と同じになったんだぞ?』


 彼は嬉しそうな声を上げ語り始める。


『ムカついてたんだよ、あの親共に……金、金、金、借金まみれで首が回らない家に、お前が来た! それで奴らは息子である俺を邪魔者扱いしてお前を!!』


 え? そんなことは無い……

 寧ろ僕の方が邪魔者扱いだった……親の金が無ければお前なんて捨ててるなんて言葉は何度も聞いたんだ。

 それに引き換えキョウヤは服、玩具、他にも色々与えられてたじゃないか!!


『お前がいなくなった後急に態度を変えたあの気持ち悪い奴らを殺したんだ! なぁ、最高の気分だったよ……お前もそうだったんだろ?』


 その言葉は何を考えて言ったものなのか分からなかった。

 ただ……僕の背中にゾクリとしたものが走り……目の前に居るソレがただの化け物にしか見えない。


「…………こいつ狂っているのか?」

『ぁあ!! 狂ってるよ!! 最高にな!! 楽しいぜこの世界、殺しても豚小屋にぶち込まれねぇ……強けりゃ誰でも言うことを聞く!!』


 目の前にしている化け物は確かにキョウヤであり、もうすでに人ではないなにかだ……でも僕から出た言葉は――


「そ、そんなの……間違ってる、皆困っているんだよ!?」

『知らねぇよ、おい! 悠莉居るのか? 居るんだろ!! 今回はお前を仲間にしてやるよ!! なぁ、親殺しの親戚同士仲良くやろうじゃねぇか……ククク』


 例え親戚だとしても誰がこいつに……いや、そうじゃない。

 そうじゃ無いんだ……僕は、僕にはもう守りたい人たちが居る……帰ると決めた場所もある! だからここに立っているのは悠莉じゃなくて――


「残念だけど、君の知っている悠莉って言うのは居ないよ、ここに居るユーリは僕だ……」

『ぁあ?』


 虚空を見つめる瞳は声に反応したのだろう、僕の方へと向き直り……


「僕の名はユーリ・リュミレイユ……君の持つ黒の本を壊しに来た」


 僕はただそれだけを口にし、ナイフへと手をかけた。


『倒す? 倒すだって? おいおいおいおい、今魔法は効かなかったってのにか!?』


 グールは顔を押さえクククと笑い、それはやがて部屋に響き渡る……


「さて、ユーリどうするんだ?」

「……時間を稼いで、今考える」


 啖呵を切ったものの魔法は効果が無かった……どうする?

 どうやって……倒せばいい? 時間はあまり無いんだ……意地でも考えないと!!

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