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183話 前編 タリムへの出発

 仲間との食事……家族達と過ごした夜……

 それはあっという間に過ぎて行きユーリ達はタリムへ向け出発する朝を迎える……

 しかし、ナタリアの転移陣は無く、彼女達は徒歩で向かうつもりのようだが?

 翌日……僕たちは皆に見送られ地上へと降りた。


『ぐるるる……』

「言ってくるよ、デゼルト」


 名残惜しそうに喉を鳴らすデゼルトにそう告げて僕たちは歩き出す……

 とはいえ、馬車を使って一月掛かる場所だ。


「ってなんで地上に降りるんだ?」


 ケルムは転移魔法で行くと思っていたのだろう疑問を浮かべナタリアに聞く。


「屋敷は焼いたんだ。転移陣はもう無い……勿論リラーグにあった方の陣も壊してある」


 そう言えば、僕達がシルトさんと話していた時にマリーさんが壊してくれてたんだっけ?


「ってことは歩くのか!? ここからどれぐらいなんだ?」

「馬車を使って大体一か月って所だよ」


 ケルムの疑問に僕は素直に答えると彼の顔はみるみると変わっていく……


「いや、その馬車って乗れる場所」

「ねぇだろうな……」


 うん、僕もそう思うよ……


「運が良ければ野生の馬を捕まえられる」


 ドゥルガさんはともかく、僕たちに流石にそれは出来ないかと思いますよ?


「ちょ、ちょっと待ってくれ! あのさ、なにか方法とか無いの?」

「無い、先ほども言ったが転移陣は壊したんだ」


 ケルムの言うことも分かるけど、無い物はどうしようもない訳だし、歩くしかない。

 でも……なんだろう、何か忘れているような?

 何を忘れているんだろう? そう思いつつ僕たちは歩き始めた。

 リラーグから遠ざかるにつれあの雲は分厚さを増していき、そろそろ何を忘れていたか考えるのをやめた方が良いと思い始めた頃……


「た、助けてくれ!!」


 ――茂みの中から誰かが飛び出して来た。

 何処かで見たような男性だ。

 その人は右腕から血を流し……いや右腕が無い?

 異様なその光景に僕はとっさに口を動かす……


「万物の根源たる魔力よ、(つるぎ)に宿りて力を示せ! エンチャント」


 此処はもう陽の光が届いてない彼はキメラに襲われてるのかもしれない。

 そう判断した僕は皆の武器へと魔法をかけ、僕自身もナイフを取り出し身構える。

 やがて飛び出してきた魔物は口元を血で汚していて……彼の腕はあの魔物に食べられたんだろう。


「ドゥルガさん、バルド! 魔物を引き付けて! ケルムはあの人を!」


 助けないと、そう思って僕は皆に声をかけ……


「ナタリア! 魔法を――」


 ナタリアの方へと振り向いた。

 その時、僕の目に見えたのはナタリアの後ろで徐々に姿が現れる魔物……いや、姿が変わりつつある魔物で――


「――――――ッ!!」


 あれは――


「ユーリ!! どうした!?」


 スプリガン――ッ!!


「我が意に従い意思を持て!!」


 そう脳が判断を下す前、僕は右手をナタリアへと向け詠唱を唱える。

 以前魔法を消された時はもしかしたらこの魔物の所為かもしれない……

 そう思い僕は必要以上に魔力を籠め――


「マテリアルショット!!」

「――――なっ!?」


 魔法を唱える。


「ッやっぱり……」


 すると、やはり魔法はすぐにかき消されナタリアは少し飛ばされた所で地面へと落ちた。

 だけど……余計に魔力を籠めた分は移動させれた……ナタリアにあの巨大な拳は届かず空を切る。


「なるほど、まだ居たか……」


 ここで出てくると言う事はスプリガンもキメラ? だからあんなに頑丈だったのだろうか……

 それにしても、やっぱりスプリガンは魔法を消すのだろうか?

 でもあの時は魔法で倒しているはずだ。

 そもそも詠唱はスプリガンから聞いた覚えはない……いや、待てよ……だとすると……まさか――


「…………っ」


 僕はゆっくりと振り返り――

 彼を目に入れる。

 すると、その顔はどこか苦痛とは違った表情に見えて……


「ケルム!! その人は敵だ――っ!!」


 とっさにそう叫んだ。

 僕の声を聞きケルムは大地を蹴り、後方へと飛ぶ。

 その様子を見て明らかに顔を変えた男性は僕を睨みつけ……


「もう少しで一人殺せたって言うのに……残念だね~」


 この声……やっぱり聴いたことがある。


「お前……まさか」


 ナタリアも知ってるのか……あの顔にも僅かながらだけど面影が……あの人は――


「……まぁ、自業自得だと思ってほしい」


 彼はそう言い左腕を動かす……それと同時に視界に入っている魔物が僅かだけど、動き始め――


「魔物が動く! 気を付けて!!」


 僕の声と同時に彼の腕は動き、それを合図としていたのだろう魔物たちは動き出す。

 なんで……?

 あの人は確か……クロネコさんと同じ情報屋……


「アル!! なにをしているのか分かっているのか!!」


 ナタリアの声が辺りに響く……

 そう、目の前に居るのはアルさんだ。

 フィーに連れられてリラーグに来る時に出逢い、依頼をした情報屋。


「なにをしているって? そんなの決まってるじゃないか、あんな情報を流せって言われなきゃこんな目には遭わなかった」

「…………ッ!?」


 彼は僕の方へと双眸を向けてくる。

 その目は冷たくどこか刃物のような物で……


「お前の所為で、生きて配下になるか、死んで配下の選択を迫られたんだ!」


 僕の……所為?

 そんな、でも……いや、今彼になにを言ってもそれはただの言い訳に過ぎない。

 どうにかして、説得を――


「確かオークの森でもその変化魔物に遭ったんだよな? その時の奴に殺されてれば……右腕は失わなかったのにっ!!」

「……え?」


 オークの森でって……

 そうか、じゃぁやっぱりあの時……誰かが……あの魔法を――

 でも、その人は? 僕は顔を見た覚えも――


「まぁ、そいつも流れてきた魔法に焼かれたらしいが……知ってたか?」


 ――え?


「ユーリ! 防御の魔法を頼む!」


 流れてきた魔法とは何の事だろうか? そう考える僕の耳にドゥルガさんの声が聞こえる。

 今は考えてる場合じゃない! 僕がしっかりしないと……彼は攻撃を避けることが出来ないんだ。

 彼は頑丈だ……とはいえ、相手も普通の魔物ではない、手を抜ける訳が無い。

 すぐに光衣マジックプロテクションをかけたいけど……このままじゃだめだ!


「我が前に具前せし、畏怖なる(こと)を奪え!!」


 さっきもそうだ。

 魔法はかき消される……以前の様に魔力合戦しているなんて悠長なことも出来ない!

 なら――


「サイレンス!」

「ぐ――」


 僕の魔法の発動に合わせたんだろう詠唱は途切れ、声を奪うことは出来た。

 これで魔法は消されないはずだ。


「魔力の障壁よ、牙を防げ!! マジックプロテクション!!」


 光衣マジックプロテクションも皆にかけた。

 後は……二つの魔法が切れない様に維持し続けないと……


「人と……戦うのか? 魔物じゃ……なくて……」


 ふと、ケルムの声が聞こえる。

 声の方へと目を向けると其処には棒立ちになっている彼がいて……


「ケルム! ぼさっとしているんじゃない!! アルをその男を気絶でもさせておけ!!」


 ナタリアは彼の事を気遣ったのだろう……あえて気絶させろと叫ぶ――

 だけど、その言葉を受けてもケルムはそのままだ。


「――――」


 そんな彼が格好の的であると気が付いたのだろう、アルは懐からナイフを取り出し、彼に迫った――


「ケルム!!」


 僕はそれを見て慌てて彼の方へと駆け寄り、右手に持つナイフでアルのナイフを弾く――

 よ、良かった……この人本人は魔法が使えなければそんなに強くは無いみたいだ。


「ユ、ユーリちゃん……」


 だけど、油断はできない……もしそのナイフにそれを貫通させる魔法が備わっていたら?

 ケルムが動けないなら、僕がどうにかしないと……仲間を傷つけさせるわけには行かないんだ。


「…………」


 僕は身構えアルを睨む。

 きっかけは僕なんだろう、だけど……

 仲間を傷つけさせる訳にはいかないんだ。


「ユーリ無茶をするな! バルド!」

「今は無理だ!」


 浮遊(エアリアルムーブ)が使えれば、こっちが有利だけど沈黙(サイレンス)光衣マジックプロテクションを維持している以上は無理だ。

 そのことに気が付いたのだろうナタリアはバルドを呼ぶが、帰ってきた言葉は当然の物で……

 僕がやるしかない……これは僕の考えが足りなかった事が招いてしまった結果だ。

 もしかしたら、人と対峙した時点でケルムが戦えないかもしれない、そんな簡単なことに僕が気がつけなかった……

 僕の……


「――――」

「……え?」


 身構える僕をあざ笑うかのように口元を歪めたアルは左手を地面へと向ける。

 すると、魔法は使えないはずなのに黒い魔法陣が現れ地面からズルリと這い出てくる人……


「そ、そんな……」


 その人は僕が良く知っている人で……いや僕だけじゃない。


「テメェ……!!」

「どこまで墜ちた!! アル!!」


 その人を知るバルドとナタリアは声を荒げる。

 それも当然だろうその地面から這い出た人というのは――


「ゼル……さん」


 変わり果てた月夜の花の店主の姿だった。

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