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182話 リラーグの夜

 酒場に集ったのはこれまで苦難を共に歩んできた仲間や彼女に関わってきた人達……

 そんな彼らとの食事も終わり、ユーリ達は再び部屋へと戻る。

 翌日の出発に備え、フィーナ達と過ごす予定のようだ。

 その日の夜、僕とフィー、メルそしてナタリアは屋敷の窓から空を見上げていた。

 宙に浮いているからか、月が近く星の輝きが良く見える。


「おほしさまきれいだねっ!」

「そうだねー?」


 フィーとメルはどうやらいつもこうやって夜空を見上げていたらしい。

 ちょっと羨ましいななんて思ってしまうほど、今見上げている夜空は綺麗だ。

 戦いが終わって戻ってきたら今度は皆で見上げたいな……


「ゆーりまま、きれいだね?」

「うん、本当……」


 ふとナタリアの方を見てみると、彼女は微笑んでいた。

 この世界に来れたのは彼女のお蔭だ。

 だけど、今僕の世界に居た人がこの世界を滅ぼそうとしている。

 仮面の正体が何であれ……彼はもう後戻りはできない。

 僕には守りたい人たちが居るんだ。

 その一人で最愛の人であるフィーは僕との約束を果たすために苦手である空へと街を浮かせた。

 空を飛ぶ魔物が来ない限りここは安全だろう。

 いや、むしろ今まで空を飛ぶ乗り物が無かった世界だ。

 街自体が浮くなんて事はあいつでも思いつかないはず……

 とは言えそれも時間の問題だろう、だから……


「どうやら決心は揺るがん様だな」

「……当たり前だよ」


 今日はゆっくり休んで、明日からの戦いに備えよう。

 なにせここには雲が広がっている……道中あの魔物たちに襲われる可能性が高いんだ。


「ユーリ、やっぱり……」

「大丈夫だよフィー……今度はちゃんとお守りを持っていくから」


 彼女はついてきたいって言いたいんだろう。

 だけど、それだと街を守れる人が少なくなってしまう。

 本当は近くに居たい、メルも一緒に連れていきたい……だけど、街よりも危険な場所に連れて行って守り切れる自信はない。


「……そう言うと思ったよ、でもちゃんと帰って来てね?」

「うん……」


 なんだろう? もっとついてくるって言われると思ったんだけど……

 ナタリアもそう思っていたのか? 疑問を浮かべている様で眉を寄せている。

 すると――


「なたりあ、こころよんだらきらいだからね!」

「ぅぅ……わ、分かっている。読まない読まんから、そう言ってくれるな」


 なんか、妙だなぁ……

 メルのタイミングが良すぎるような? あの様子じゃナタリアはフィーの心を読んでいるってことはなさそうだ。

 黙っていれば大丈夫そうだけど、もしなにかあるなら彼女はフィーに詰め寄るだろうし、まず黙っていることは無理だよね。

 そんなことを考えつていると、フィーは僕の視線に割り込んできていつもの笑顔を見せてくれた。


「えっとね? これ……」


 彼女は微笑みながら依然と同じように布袋を手渡して来た。

 でもそれは以前よりもずっと大きく重い。


「これって?」

「今回はこれをもって言って欲しいんだよ?」


 また旅の途中で見てね? って言うものだろうか……


「開けても大丈夫?」


 一応そう聞くと彼女は頷いて答えてくれた。

 なにがはいっているんだろう? そう思いながら袋の中身を確かめてみると……


「それは……腕輪か?」

「うん」


 ナタリアが言う通り、袋の中に入っていたのは二つの腕輪。


「前と同じ人たちで行くんでしょ? だから皆の分を作っておいたんだよ?」


 見た所普通の腕輪だ。


「ユーリはペンダントが良いって言うと思ったんだけど……時間が無くてね?」


 ただ、その中心に入っている宝石には恐らく錬金術で描いたのだろう光を抱える龍の姿が描かれていて……


「なるほどな、この酒場の冒険者の証という訳か……」

「そうだよー皆お揃いで作っておいたからね?」


 フィーはそう言うと懐から一つ腕輪を取り出し自身の腕へと身に着けた。

 確か前には引っかかったりしそうとかで避けたんだっけ?

 でも、折角作ってもらったんだ。

 それに……ピアスはナタリアからもらった物があるし、実をいうとペンダントは外したくは無かった。

 だから、腕輪なのは今となっては嬉しい。


「ありがとう、フィー必ず戻ってくるよ」


 僕はそう言葉にし右腕に腕輪をはめる。

 それを見て、ナタリアも腕輪を手に取った。

 今頃ドゥルガさんやバルドも受け取っているのかな?


「うん、約束だよ?」


 フィーは嬉しそうにそう言い、そんな彼女を見ているとこちらまで嬉しくなってくる。

 さっきメルが心を読んじゃダメって言ってたけど、フィーのプレゼントを察して欲しくなかったんだね。

 メルは良い子だなぁ……こんなことを言うと親バカって言われそうだけど……


「――――ッ!?」

「ユーリ!?」

「まま!?」


 僕がのんびりと考えごとをしていると、左腕に針が刺されたような痛みを感じた。

 慌てて押さえるも、当然そこには誰も居ない。


「どうした!? 腕がどうかしたのか?」


 ナタリアもフィーも僕の様子を見て慌て、抑える手を無理やり剥がされると袖をめくられ左腕を確かめる。

 だけど……


「び、びっくりしたよ?」

「なんでもないようだな……」


 そこには傷なんて見当たらず、いつも通りの左腕がある。

 でも、確かに今もずきんずきんと痛みが広がっていく……


「ゆーりままぁぁ……」


 傷はないのにずっと痛みが……そう思っているとメルが初めて見るような顔で僕を見つめてきた。

 泣きそうというか、凄い怖がってる? 心配してくれてるんだろうけど、どうしたのかな……


「大丈夫だよ、メル」


 僕はなんとか痛みに耐えつつメルに作った笑顔で答えた。

 なんだろう? この痛みは……なんかずっと昔に同じ様な痛みを受けたような気がする。

 ……でも、なんだったっけ?





 同時刻、暗闇の中――

 フードを深く被った影がある。

 それはフードによって身体の線が隠され男性か、女性かも分からない。

 影はその場に跪く……すると――


「おい、どうなんだよ!」


 何処からともかく男の声が聞こえる。

 その声に影はビクリと身体を震わせた。


「や、奴ら……そ、空に街を浮かせて、げ、現状の魔物では――」


 声からして影はどうやら男性の様だ。

 震える声で姿なき声に答えた彼は虚空を見つめその瞳はどこか焦点が合っていない。


「ぁあ? 傷がふさがるまで待ってやったってのに、なに言ってやがるんだ! そこをどうにかして街ん中入れば、夜に襲えるだろうが!! 良いか? 俺に逆らう奴を殺せそう言ったはずだよな?」

「で、でも……こ、殺せってあ、あの――」

「良いか? テメェに選択肢はねぇ……働けば許してやろうと思ったんだが……使えない駒は――」


 男の声は苛立ちを見せ、慌てた影は右手を伸ばすもそこには腕が無く……


「ま、待ってくれ! 情報だ! 情報ならある!」


 それでも構わず影は無い腕を伸ばし叫び声を上げた。


「言ってみろよ」

「あんたが探してた……銀髪の女と犬の耳を持つ女……そして、殺したがってる夕日髪の女」

「それがどうしたんだよ?」

「奴らは生きてる……あの街にいるんだ! だから――」

「そいつは良い情報だな。だが……だったらお前が狩れよ。別に良いんだぜ? 殺さなくても……」


 姿なき男はクククと笑い、影はその声に身体を震わせる。

 殺せと言ったり、殺さなくても良いと言ったりっと、なにを考えているのかが彼には分からないのだ。

 そして何故、あの三人に拘っているのかも、何故その中で夕日髪に特にこだわっているのかも……


「殺さないで良いのか?」

「ああ、ただしその時は四肢をもいで俺の前に連れて来い」

「……は?」

「は? ってお前馬鹿だろ? 王には世継ぎが必要だろうが……おっとその時は顔は傷つけんなよ? 確か記憶じゃどれも良いからな……クク、クククク」


 笑い声はやがて高笑いとなり暗闇の中に響く――

 そして、その笑い声の中影は理解し怯えた。


「で……どうするんだよ?」

「……や、やります! やるから……命だけは――」


 そう答えつつも影は現状に絶望を抱く……逃れる術もなく、生き残る術も声の男に従うしかなく、タリム一と謳われた冒険者だけではなく大魔法使いと対峙しなければならない。

 彼は考える何故こうなった? っと……最初は些細な依頼だった。

 だが、彼は捕まり駒として扱われる羽目になり……ついには右腕を失った。


「しかも、あの時の痛みは夢でいつも……そうだ――あの女だ……あの女が――!!」


 影は暗闇の中リラーグの方へとその視線を向ける。


「……許しちゃいけない……ふ、ふざけるなよ!! 今こうなってるのはあいつらの所為だ!!」


 男の叫びは暗闇へと消えた……

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