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181話 酒場に集う人々

 守るべきものを目に焼き付けて置け……ナタリアによりそう告げられたユーリだったが、その本人が言葉を偽ったと不満を覚えた彼女。

 何故そんな事を考えたのか? その理由は理解が出来なかったユーリ……

 そんな彼女達は旅立つ前に龍に抱かれる太陽で食事をする事となった……そしてそこに集うのは? 

 その日の夜、僕たちは一階で食事を取ることになった。

 どうやら最初から僕たちが戻ってきた時はそうしようって話だったらしい。


「でも……」


 僕は辺りをぐるりと見まわし唖然とする。

 そこに居る人たちは僕が知っている人ばかりだ……


「でもね、ここはフィーナ様たちのお屋敷じゃないのかい?」

「全くだよ、ユーリそんな不安な顔してないでほら、しゃんとするんだよ!」


 そう言うのはシャムさんとマリーさんだ。

 でもね、二人とも……


「貸し切りはど、どうなのかな……?」


 一階は酒場、龍に抱かれる太陽なんだし……一般のお客さんだって出入りしている。

 だけど今いるのはゼファーさんや屋敷の皆、そしてマリーさんやノルド君といった僕たちが知る人たちだ。


「安心しな嬢ちゃん! お客代表として俺がいる!」


 そう言って豪快に笑うのは確か……荷を降ろしてくれている商人さん名前は……コリアネスさんで合ってたっけ?

 確かにお客さんなんだろうけど、お店に格安で商品を届けてくれている以上関係者ではあるような?



「すまないね、また旅立つと伝えたらぜひ会いたいって言われて断れなくてね」


 僕が黙っていた事でゼファーさんを勘違いさせてしまったみたいだ。

 慌てて首を振り僕はそれを否定する。


「いえ、来ていただいて嬉しいですよ。コリアネスさん」

「そう言ってもらえて光栄だよ、邪魔はせんようにするからこれからもご贔屓に」


 やっぱりこの人は優しそうな人だ。

 前も思ったけど、いつも笑っているしここでゼファーさんが酒場をこれからも続けていくだろうから、仲良くしておいた方が良いよね。


「えっと……ボクたちは場違いではないのでしょうか……」

「ノルド来る前までは嬉しそうだったのに、急に緊張してしまったの?」

「……母さんっ!!」


 ノルド君は勿論としてあの女性は忘れることは無い。

 彼の母親でセラさんだ。

 彼女は僕の方へと目を向けると深くお辞儀をし始めた。


「お久しぶりですね。こうして再び出会えるとは思ってもみませんでした……ノルドから話は聞いていたのですが、ご無事で何よりです」

「い、いえ! 頭を上げてください」


 セラさんが頭を下げる必要はない。


「ですが、ユーリさんは命の恩人ですので……」

「そうだよ、ユーリお姉ちゃんが居なかったらボクもどうなっていたか……」


 そうは言われても、彼女とノルド君のお蔭でフィーは生きているし、メルも居るんだ。

 彼女たちだけじゃないんだ。

 フィーが助かった事で僕は旅を続けられた。

 だからこそ、救えた人もいる。


「僕も二人にはフィーを助けてもらったし、そのお陰でナタリアを助けられたんだ」

「フィーナ様を? それもこのお二人がって……ユーリさん一体なにがあったんですか?」


 フィーを助けたということが気になったのだろうジェネッタさんに聞かれてしまった。

 うーん、言った方が良いのかな? 治癒魔法のことはなるべく黙っておきたい。

 切り札ではあるし、なにより回数に制限があるんだ。

 ここにいる人たちに裏切者が出るとは思っていない……ただ、傷を治せるなら安心だなんてことは思ってほしくは無いんだ。

 絶対ではないんだから……


「えっとね? 木彫りのお守りをもらってね? それが私が死にかけた時に代わりに割れたの、そのお陰でユーリの手当てが間に合ったんだよ?」


 そんな事を考えているとフィーは僕の気持ちを読んでくれたのか、魔法に関しては伏せてジェネッタさんに答えてくれた。


「まぁ、流石はユーリ様ですわね」

「流石って言うかなんて言うかねぇ……ユーリって一体何なのさ」

「なんなのって言われても……」


 この世界で唯一の回復魔法の使い手ですとしか言えないんだけど……


「私の自慢の弟子だ!」


 そこでナタリアは何故胸を張るのでしょうか?

 いや、そう言ってもらえるのは素直に嬉しいのは間違いない。


「そして自慢の娘という訳ですな」

「そうだね、なんとかすると言って、本当に二人を救い出してくれた……昔フィーナ様を助け出してくれたことを思い出したよ」


 ロクお爺さんにミケお婆ちゃんは僕を優しい目で見て来てうんうんと頷きながら言葉を紡ぐ……

 うん、それは言われると思いましたよ……


「ナタリアの娘? そう言われれば……確かに似てるような感じもするね……にしては胸デカくないかい?」


 マリーさんそれは禁句だと思います。


「ほっとけ!! 私のは呪いで育たんだけだ!」


 ナタリア怒っちゃったよ……この後の言葉はなんとなく想像が出来る。


「やはり、寝ている内に抉り取っておくべきか」

「やっぱりそうきたか……って、それでも怖いことは言わないでよ!?」


 そんな僕たちのやり取りを見てクスリと笑い声が聞こえた。

 そちらの方へと目をやると、其処に居たのはウサギの耳を持つ森族(フォーレ)の女性クルムさんとこの街の兵士であるカロティスさんだ。


「カロティスから、こちらに戻ってきたことを聞いてました……シュカはまだみたいですね?」

「うん、その内来ると思うよ」


 良く見ずともクルムさんの両手には小さな子供が抱かれている。

 可愛らしい子供が気になるのだろう、カロティスさんは寝ている子供のほっぺたをつつき始めている。

 分かる、あの頬っぺたはなんだか触りたくなるし、つつかれて「なに?」って聞いてくる様な顔もまた可愛いんだよね。


「なんだか、周りがこうだとあれだな」

「仕方ない、アタシも結婚を――」

「その前にシアンは相手がいないでしょう……」


 なんか、懐かしいやり取りを感じつつもホークさん……流石に今のは傷が深くついたようですよ?

 シアンさんがこれまでになくがっくり来ているし……レオさんもどう言ったら良いのだろうかって感じで困ってる。


「第一貴女みたいな、なにを考えているのか――」

「ホ、ホーク? それは……ひどいと思うよ?」


 フィーも見ていられなかったみたいで口をはさんでる……というか、うん……

 シアンさんは普段が確かにちょっとかもしれないけど、いざと言う時は頼りになってた気がするんだよなぁ。

 そう言うのって大事じゃないだろうか?

 そんな事を思っていると彼女は辺りをきょろきょろとし始め一人の男性の所へと向かった……


「頭がいい人とくっ付けば問題ないってことねっ!」

「なんでこっちに来やがんだ!? 馬鹿女!!」


 ク、クロネコさんの馬鹿女という呼び方はシアンさんになったようだ……じゃなくて、何故クロネコさんを選んだのだろうか?


「あほの子……独身、女性……閃いた!!」


 なんかすごい嫌な予感がするけどケルムがこちらに顔を向けてきた。

 要するに話を聞いてくれって所だろうか?


「ケルム……嫌な予感がするけどなにが閃いたの?」

「酒に酔わせてそこをおと――」

「後で皆を敵に回しても知らないよ」


 そう言うと彼は片手と首をぶんぶんと振り――


「いや、うん……本気じゃないぞ?」


 だったら言わない方が良いと思うよ? ただでさえ勘違いされやすいんだから。


「なるほど……そうやって女性は落とすのか、あんちゃん! 師匠と呼ばせてくれ」


 ドゥルガさんの娘であるシュレムは本当に将来が心配だよ……


「ほう、中々に見どころのある」


 ケルム……もしかしてその口調――


「「もしかして私の真似か(ナタリアの真似)?」」

「……なにを言っている、師が弟子を得たらこうなるものだ」


 うん、絶対ナタリアの真似だよね?


「頼むぜ師匠! 次の女性の落とし方を教えてくれ!」

「いや、だからシュレムが女の子だからな?」


 なんか、シュレムがケルムになついてしまった……シウスは頭を抱えてるしなんか可哀そうになってきた……

 仲良くなるのは別にいいけど、ケルムみたいにはならないでほしいなぁ。


「ユーリさん……」

「ん?」


 僕がシュレムの将来を不安に思っていると、シルトさんに声を掛けられた。

 彼も来ていたのか……


「賑やかになりましたね……」


 食事はまだだというのに赤くなっているのは手に持っている果実酒でも飲んだのかな?


「その、今度――」

「ゆーりまま! ごはんまだ?」

「っと、メルもうちょっと待とうね? シュカたちが来たらご飯だからね?」

「ま――――」


 ナタリアじゃなくて僕に来てくれた我が子の頭を撫でつつ、シルトさんに顔を向けると……

 彼はなぜか固まっていた。


「えっと、話の途中だったね?」

「いえ、なんでもありません……」


 今度はがっくりと肩を落としてるし……どうしたというのだろうか?


「それより、シュカさんたちが来られたようですよ」



 なんだったんだろう?

 そう思いながらもシルトさんが果実酒を持つ手で示してくれた方へと視線を動かすと……

 丁度、シュカとバルドそしてドゥルガさんにシアさんがこちらに向かって来ていた。

 勿論シュカの手には彼女たちの子供が抱かれていて……


「ユーリ様、ナタリア様お待たせして申し訳ございません」

「ううん、大丈夫だよ」


 彼女はシュカの準備を手伝っていたのだし、なにより僕たちは皆と会話をしていたから待っていたとは思わなかった。

 それよりも、気になるのはちょっとやつれた感じのバルドとそんなバルドを同情の目で見るドゥルガさんだ。


「なにかあったの?」

「ああ……」


 子供が泣いていたのを聞いて駆けていったはずだけど……どうしたのかな?


「シュカの準備をする中、子供を見ていたが……バルドが抱えると泣き止まなくてな」


 ああ、うん……それはショックだ……。

 とはいえ、生まれてすぐに旅に出た訳で、普段顔を見てなかったから仕方ないのかな? そう思いつつシュカの方へと向き直る。

 すると彼女は僕に抱いている子供を見せてくれて……


「ユーリ旅出て……教えるの、遅れた……名前、フォルディロス」

「フォルディロスか、良い名前だね」


 というか、バルドが教えてくれても良かったのに……とは思うけど黙っておこう。

 シュカは幸せそうだし、それが一番だ。


「ユーリの、お蔭……」

「……え?」


 シュカは急に何を言い出したのだろう?


「シュカ、ここに居るの、フォルここに居るのも、ユーリのお蔭……ありがとう」

「…………」


 僕が彼女をあそこから出した事を言っているのかな……

 あの時は人を買うなんて事をしたくはないと思っていた。

 だけど、仕方なくそうした訳で……勿論最初から彼女をそう扱うつもりなんて無かった。

 でもシュカがなにも言わないだけで、もしかしたらっと……どこか不安な気持ちはあった。

 だけど……面と向かってその言葉を言われ、僕はただ純粋に嬉しかった。


「僕の方こそ助けられてばっかりだよ、ありがとうシュカ」


 僕は彼女にそう言うと赤ちゃんへと目を向けた。

 彼女の両手に抱かれるバルドとの子供は今は母親に抱かれてご機嫌なのだろう、笑い声が聞こえ笑顔を浮かべている。

 以前ナタリアに言われた事ではある。

 僕の選択で助かった人もいれば、救えなかった人もいる。

 ……でも、その選択のお蔭で増えた仲間はここに集まってくれたんだろう……

 こちらの世界の方が幸せになれるというナタリアの嘘はあながち嘘ではなかったようだ。

 僕たちの話が終わるのを待ってくれていたのだろう、ゼファーさんは手を合わせるとその優しそうな声を酒場の中に響かせた。


「さぁ、食事を始めよう! 皆遠慮はしないで食べてほしい」


 メイドさんの手によって運ばれた料理はどれも美味しく、僕たちはその日の食事を楽しんだ。

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