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179話 空に浮いた街

 リラーグへと戻ってきたユーリ達。

 だが、そこには嘗てあったはずの街はなく、ユーリは呆然とする。

 しかし、ナタリアがある事に気付き空を示すと――そこには巨大な岩が浮かんでおり、それは空へと浮いたリラーグの姿だった。

 僕たちの目の前に広がるのは空に浮いた街リラーグ。

 言うまでもなくデゼルトは其処へと向かっている様だ。

 でも、これは一体誰が考えたんだろう? さっきの様子からするとナタリアではないし、勿論僕でもない。

 というか……


「これって魔法なのかな?」

「いや、ユーリちゃん魔法じゃないと無理だって! 精霊じゃ持続的に浮かすのはどう考えても限界が」

「ケルムの言う通りだ……しかし、こんなことをするとしたら相当の魔力が必要のはずだ。一体どこから……」


 ナタリアは一瞬僕の方へと目を向けてそう呟いたってことは僕やナタリアが居れば出来るってことだろうか?

 いや、流石にこれは無理があるよ……魔力船みたいに魔力を蓄えるならともかく……ん? 魔力船……?


「水晶は?」

「あれでは足りんな……だからこそ、どうやっているのかが分からん」


 彼女がそう答えてくれたのと同時にデゼルトはゆっくりとリラーグの外に降り立った。

 僕たちはデゼルトの背から降りその地に立つ。

 なんというか、地面に立っているのにもかかわらず、微妙な浮遊感があってこれは――


「フィーが嫌がりそうだよ……」

「全くだな」


 いや、怖がる原因を作ったのはナタリアですよ?


「ユーリさん、おかえりなさい」

「え? ……あ、ただいま」


 気を取られていると兵士さんがこちらへと向かって来てたようだ。


「その様子では皆さんこの街に驚いたようですね」

「いや、寧ろ驚くなというのは無理があると思うが……」


 ドゥルガさんの言う通りだ。戻ってきたら街が空に浮いてましたなんて誰が想像するだろうか?

 そんな僕たちに対し、どこか明るい表情の兵士さんは語る。


「私は詳しいことは分からないのですが、どうやらフィーナさんの発案らしいですよ」

「フィ、フィーの発案……?」

「はい!」


 空を飛ぶのが苦手な彼女がこれを?


「っと此処で立ち話をしているのもあれですね、今門を開けます」


 僕たちは彼の後をついて行き、ゆっくりと開く門の向こう側、街並みへと目を向ける。

 そこには、以前よりも活気にあふれているリラーグの姿があった。


「改めましておかえりなさい、皆さん……空中都市リラーグへ」


 僕たちは門をくぐり待ちの中へと足を踏み入れた。

 この街でやることは決まっている。


「取りあえず、龍に抱かれる太陽に向かおう」


 フィーは其処に居るはずだし、というかこの街の現状だと……


「フィーが心配だな」

「うん……」


 酔うほどじゃないから、確かにこれなら空を舞う魔物以外怖い物は無いけど、浮遊感はあるしフィーは苦手のはずだからなぁ……






 僕たちはその足で龍に抱かれる太陽へと向かった。

 扉を潜り抜けると、ゼファーさんがこちらへと目を向け……


「おかえり、皆」


 そう出迎えてくれて……


「ただいま」


 そう返し早速酒場の中を見てみる物のフィーの姿は見当たらない。

 家の方に居るのかな?


「フィーナさんなら上に居るよ」

「ありがとう、行ってくるよ」


 彼にそう告げ、僕たちは上へと向かう。

 フィーやメル、それに皆元気だろうか?

 シュカたちの子供もすくすくと育っているといいんだけど……

 そんなことを思いつつ階段を上がり、扉を開けると――


「うぇぇぇぇん!! うぇぇ、うぇぇぇっ!!」


 僕たちの耳に届いたのは泣き声だ。

 メルのではない、当然シュレムやシウスでもない……ってことは――


「――――っ!!」

「っと、バルド!?」


 声の主である赤ちゃんの父親バルドは血相を変えて家の中へと走り去っていく。

 なんというか、うん……ちゃんとパパなんだなぁっと感心してしまったよ。

 僕は三人に顔を向けバルドの走り去った方へを指しながら告げる。


「追いかけようか」

「ああ、そうしよう」

「……全く、危険はないというのに……」

「え? 何? バルドって子供居るの!?」


 そう言えばケルムには何も言ってなかった気がする。


「バルドだけじゃない、三人とも子供がちゃんといる。特にメルは可愛いぞ? やらんがな」

「いや、やらんってナタリアの子供じゃないんだからね?」


 そのやらんっていうのは同意見だけど……


「え……まさか、ユーリちゃんの……」

「ん? メルの事? うん、メルは僕の子だけど」


 なぜそんなにわなわなと震えているんだろうか?


「そんな……そんな、ユーリちゃんが……他の男に!? クソっ! ユーリちゃんのピンチに華麗に助けに入って惚れさせる作戦が!!」

「…………」


 なんだろう、どこかで聞いたような言葉だけど……


「ユーリ、放って置こう……」

「そうだね……」


 今はフィーが心配だし、早く会いに行かないと。


「え!? ちょっと待ってくれって!?」


 後ろの方でなにか聞こえた気がするけど今はそれどころじゃない。


「……あんまり、二人を怒らせん方が良い。屋敷の女性を敵に回せば無事では済まないからな」

「……ええ!?」


 ドゥルガさんがなにか忠告したみたいだけど、彼のことだ。

 ふざけたことをあまり言うなとでも言ってくれたんだろう、それにしてもそんなに驚くことかな?


「我々の業界ではご褒美です」

「…………」


 ふと後ろを振り返ってみると――ケルムのそんな言葉とドゥルガさんの困り果てた表情があった。

 ドゥルガさんは僕が見ていたことに気が付くと、静かに首を横に振りこちらの方へと向かってくる。


「案内をしよう」

「大丈夫だ、メイドにでも会えば道は分かる」


 心をもう二度と覗かないと言っていたんじゃ?

 迷子になるのは嫌だけど、またナタリア嫌い! なんて言い出したらかわいそうだ。


「うっかりメル心覗いちゃだめだよ?」

「案内を頼む」


 即答だったよ……


「じ、じゃぁ……ドゥルガさん、お願いします」


 僕がそう答えると頷いたドゥルガさんは歩き始める。

 すると――


「ちょ!? 待ってくれっ!!」


 そう言ってケルムは後を追ってきた。






 歩き始めて暫くすると目の前にメイドさんが目に入った。


「ナタリア様、やはりお帰りだったのですね、バルド様が血相変えて走って行きましたのでもしやと……」

「ああ、だがすぐに出るつもりだ……所で」

「フィーはどこに居るのかな?」


 僕がそう聞くと彼女はにっこりと微笑み――


「フィーナ様でしたら、メル様と共に自室にいらっしゃいますよ」

「そっか、ありがとう!」


 やっぱり、部屋に居るのか……まぁこの状況じゃ仕方ないのかもしれないっと思っている矢先……


「お美しいお嬢さん」

「へ?」


 ケルムはいつの間にか僕たちの前に出て、声を作りながらメイドさんに語り始め……

 当然、メイドさんは目の前に現れた男性にぽかんとしてしまっている。


「俺は今、思い人に振られ傷心中なんです。そのあなたのすべ……」

「我が前に具現せし、畏怖なる(こと)を奪え、サイレンス……」


 僕は呆れつつも魔法を唱える。


「――――っ!! ――――――」


 だが、本人は自分の世界に入ってしまっているのか声が奪われたことなんて気にしてはいないようだ。

 というか、この魔法本来こんな使い方じゃないんだけどなぁ……


「――? ――――――!?」


 言い終えたところで声が出ていないことに気が付いたのだろう、彼は無音のまま慌てふためいていた。


「なんというか、私と戦うために作った魔法がケルムに使われると複雑だな」

「僕もこんな使い方するとは思わなかったよ……」


 いや、本当にそうは思わなかった。


「あの、ユーリ様……この方は――」

「えっと、うん、女性にすぐ話しかける人が来たって……皆に伝えてくれると助かるよ」

「は、はぁ……かしこまりました」


 僕の言葉を聞き、振り返ったケルムは表情だけで語ろうとしているのか、コロコロと変えてるけど……


「なに言っているか分からないよ、ケルム……」


 まぁ声を奪ったのは僕だけど。


「では、メルの所に行こう」

「うん!」


 再び家の中を歩き始めた時、ドゥルガさんのため息が聞こえ……


「本当に連れて来て良かったのか、疑問しかない」


 という苦悩が聞こえた。





 懐かしい部屋の扉を叩く。

 するとゆっくりと内側から扉は開かれた。


「……ゆーりまま?」


 ひょこっと頭を見せたのは我が子であるメルだ。


「ただいま、メル」


 そう言うと顔を輝かせたように笑顔になり彼女は僕に抱きつくと、ふと辺りをキョロキョロとし始め――


「なたりあ!」


 そう言ってナタリアの方へと向かってしまった。

 うん、数秒だった……そしてナタリアはなぜか勝ち誇った顔をしてる。

 ぅぅ……悔しいけど、僕にはフィーもいるんだから……

 そう思いつつ部屋の中へと目を向ける。

 すると――


「おかえり、ユーリ」


 椅子に座り、本を開いたままこちらへと双眸を向け微笑みながら僕にそう言ってくれる彼女がいた。


「ただいま、フィー」

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