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178話 リラーグへの帰還

 解呪の魔法を得たユーリ。

 その日の夜、夢の中でソティルとの再会を果たし……共に氷狼の記憶を見た。

 そこには変わり果てる前の氷狼がおり、彼の瞳でそれを体験した。

 それはエターレにはないはずの無詠唱魔法を操る仮面の姿だった……

 翌朝、僕が目を覚ますとナタリアはもう起きていた。


「どうしたユーリ、難しい顔をして」

「……うん、実は――」


 僕は彼女に夢の内容を告げた。

 あのやけに現実的な夢はソティルの教えてくれた通り過去にあったことなんだろう……

 だとしたら、彼女に告げておかなくてはならない。


「ふむ、記憶の継承か……にわかには信じがたいが……」


 人の思考を読めるナタリアでさえそう言ったことは無いのだろう。

 それでも僕は彼女に伝える……なぜなら――


「それで、なにを観たんだ?」

「あいつは……魔法を詠唱無しで使ったんだ……」


 詠唱が全く聞こえなかったなんてものでは無い。

 あの時、確かになにも言っていないんだ。


「しかし、奴も本を持っているのだろう? アーティファクトなら、在りえなくはないが」


 彼女は顎に手を添えそう言うと、僕の方へと目を向けた。


「僕には無理だ……もし出来るならソティルは直接詠唱を教えてくれたりしなかった」


 その理由を悟った僕はそう告げる。

 ナタリアとの戦いの時、ソティルは詠唱を教えてくれた。

 つまり、ソティルの作る魔法の発動には詠唱は絶対なんだ……


「ふむ……黒の本にはそう言った詠唱が描かれているのか……いや、しかし」

「複数の魔法を詠唱無しで使い分けるって……出来るの?」


 ソティルと同じなら、魔法は増えていくはずだ。

 それに気になることがまだある。


「それに、まだ気になることがあるグラヴォールの時は詠唱は無かった……でもアルムでは詠唱を使ってたみたいなんだ」

「なんだと?」


 これはマリーさんが言っていたんだ。

 彼女だけじゃない、雨を降らせたのを見ていた人もいる。

 その所為で僕は疑われたんだから……


「まさか、な…………ユーリ、その無詠唱の魔法は一体どんなものだったんだ?」

「えっと、直接見たのは黒い剣だったよ……」


 その言葉を聞きナタリアはその顔を険しい物にしていく……一体なんだというのだろうか?


「……古い手だが、それは魔法ではないな」

「え?」


 魔法じゃない? でも確かにあれは……


「今から説明しよう」

「う、うん……」

「我々魔族(ヒューマ)森族(フォーレ)やオークとは違う出生だ――」


 えっと、森族(フォーレ)やオークたちはエルフから……

 僕たちは進化の過程だよね……それ位はわざわざ教えてもらわなくても……


「進化の途中、魔力を持った生物が生まれた……それは幾つもの生物に分かれ、その内の一つが魔族(ヒューマ)となり、知識と理性を得たんだ」


 なるほど、過程は似てても人間に進化する前に魔力を持ったんだ……って、あれ?


「……幾つもって他の生き物はどうしたの?」

「お前も見てきただろう?」


 見てきたって……まさか!? いや、でも……


「魔物だ……魔物も魔族(ヒューマ)も己が魔力を糧にして動いている」

「魔力で動いてるって……そんな、僕たちと魔物が同じ、なの……?」

「以前言っただろう? 果物を接取すると回復が早まると……あれは魔族(ヒューマ)が吸収しやすい魔力が肉ではなく果物や野菜に多く含まれているためだ。それだけではない致命傷を負わずとも魔力が完全に尽きてしまえば気絶ではなく死に至る」


 そんな……じ、じゃぁ……


「魔法って自分の命を使ってるってこと?」

「……魔法に関しては安心しろ、必要な魔力が足りなければどんなに詠唱しても使えん。魔法を使って気絶することはあってもそれが原因で死ぬことは無い」


 いや、でも……確かソティルは言っていた。

 合成魔法を使った時にあれは危険な物で既存の魔法を使うと魔力を余計に食うって、その所為で僕は死にかけていた位なんだ。

 いや、ソティルがいなかったら死んでいた。


「話を戻すぞ? そしてエルフは魔物を恐れ、同時に同質の力を持つ魔族(ヒューマ)を自身の庭を守らせる戦士とするために対話を望んだ……そこで生み出されたのが森族(フォーレ)だ」

「でも、森族(フォーレ)とは上手くいかずに戦争になったんだよね?」


 フィーでさえ魔物扱いされていたんだ、忘れる訳が無い。


「ああ、あろうことか魔族(ヒューマ)は捕らえた森族(フォーレ)を利用し戦争を始めたからな……そして、エルフたちはオークを生み出し森族(フォーレ)を救い出すと魔族(ヒューマ)が危険な生物と認め、戦争を始めた……これがユーリの言っている戦争だ」


 そう言えば、エルフにあった時も最初は魔力を得てなにをすると聞かれた気がするし、グラネージュと出会った時もフィーが傍にいたにもかかわらず信用すらなかった。

 あれは単純に魔法を使う僕を警戒していたってことか。


「そして、魔族(ヒューマ)は独自の技術で作った武器だけではなく、魔力そのものを使った攻撃を得意としていた。私は実際に見たことは無い……だが、いずれもどす黒いモノだったと聞いている」

「それが……アイツの使った?」

「ああ、詠唱を使わず使えたと言われているからな。ほぼ間違いはないだろう……だが、禁術と言っても良い物だ。当時の魔族(ヒューマ)たちでさえ死を恐れ、森族(フォーレ)の使う精霊魔法を真似て魔法を作ったぐらいだからな」


 魔法よりも危険な物を使っていたってことか……

 でも、アイツには死に対する恐怖とか躊躇が一切なかった。

 死ぬのが怖くないのだろうか? それとも、不死者を作る本なんだ……もう死んでいて本の力で動いている?

 いや……それよりも、魔力そのままを剣に変えるなんて技をあれだけ使っていたんだ。

 魔力の量はどうなって……


「ねぇ、その……」

「分からん、私はその夢を見ていないからな……だが、下手をすればユーリ以上かもしれん」


 ナタリアは僕が言いたいことが分かったのか、即答だ。

 アイツの力量は僕の夢、いや氷狼の記憶頼りってことか……


「ユーリ、どうするんだ? 恐らく相手は死を恐れてはいない、捨て身でも力無き者ならともかく……相手は違うぞ?」

「それでも、対抗出来るのは僕だけ……いや僕たちだけだ。逃げるつもりはないよ」


 それに、氷狼が僕に託したものは記憶だけじゃない。

 彼が必死に護ったのはそれだけじゃないんだから……


「放って置けばいずれ、誰も止められなくなる……その前に手を打たなきゃ」


 ここが無事だったのは氷狼が耐えてくれたからだ……氷狼に再び会えて魔法を得たのは皆やエルフやオークの村の人たち……そしてクロネコさんたちの力があったからだ。

 リラーグが無事だったのはマリーさんやレオさんたち、そして彼らが連れて来てくれたデゼルトがいたからだ……


「危険だぞ? 今ならまだ異世界に逃げると言う手も使える流石に全員は無理だが――」

「さっきも言ったけど逃げる気はないよ。確かに僕一人じゃなにも出来ない。でも皆がいればきっと、なんとかできるよ」


 僕の言葉を聞きナタリアは優し気な笑みを浮かべると、頭を撫で始めてきた。


「わわっ!?」

「そう言うと思っていたぞ……流石は自慢のむ……弟子だな」


 今なにか言いかけたような?

 大体予想は付くし、事情がもう分かっていることだからそう言われても気にはしないんだけどな。


「ユーリ」

「ん、ん?」

「早くリラーグに戻ろう、私たちが守るべきものをその目に焼き付けておけ……特にお前は守るためであれば力を発揮出来るようだからな」


 確かに、そうなのかもしれないけど……

 僕としてはいつもその力が発揮出来ていれば安心なんだけどなぁ。

 でも、今更それを言っても仕方がない。


「うん、早く戻ろう」


 だから、僕はそう答えた。




 そして、その日すぐにリラーグに戻る為に酒場を発った――勿論ケルムも一緒に来てくれたんだけど……

 バルドたちはケルムを連れていくことに関してはあれ以上なにも言わなかった。

 信頼に値したのかな? そう思って旅の途中でさりげなく聞いてみたところ。


「信用すらできん」

「出来る訳がねぇだろ」


 ――と二人とも辛口評価のままだ。

 当のケルムはいつも通りだし、それも仕方のないことなのかもしれない。

 でも、なにも言わないってことは口ではなんと言おうともってやつなのかな?


 そんな奇妙な空気の旅も順調に進んで行き、氷の洞窟を超え、海を渡り――

 僕たちはリラーグのあった場所へと立っていた。


「…………」

「これは、一体……」


 大きな影に最初は雲がまた出ていたのかと思った。

 いや、正直嫌な予感がし見るのが嫌で……そう思っていただけだ。

 だけど、それでも僕は見てしまった、そこにはリラーグは無くただぽっかりと穴が開いていて……


「そんな……・リラーグが……ナタリア……」


 僕はぽっかりと空いた穴から目を離せず、呆然とし瞳からは涙があふれ――


「まて、ユーリ……」


 そんな中ナタリアが僕の肩へと手を置き、僕は彼女へと視線を向ける。

 涙の所為でぼやける視界の中に見えたのはナタリアが何かを見つけ人差し指で空を指し……僕はそれに釣られ空を見上げる。

 目に映ったそれは信じられないもので……僕は思わず目を見開いた。


「岩が……そ、空に浮いてる?」


 僕たちのいる場所からは岩が浮いているようにしか見えないそれの陰から一つ影がこちらへと向かってきた。

 あれは、見間違えるはずもない。


「ド、ドラゴンじゃんか!? やばいって逃げないと!!」

「あれは……デゼルト……」


 降りてきた影の正体はデゼルトで僕を見つけるなり、喉を鳴らしつつこちらへと飛んでくる。


『ぐるぐるぐるぐる!!』

「うわぁ!?」

「っ!?」


 ドラゴンの羽ばたきで思わず飛んでいきそうな僕とナタリアの身体をドゥルガさんが支えてくれ、安堵する中。


「惜しい……あとちょっとで見えたんだが……」

「おい、テメェ……」

「男なら分かれよバルド君」


 ケ、ケルム彼は一体なにを考えているのか……いや、それよりデゼルトが元気って言う事は皆――無事だよね?


「分っても実行するような馬鹿にはなれねぇよ……」

「フッ……これだから」


 いや、うん……シュカが選んだのがバルドで良かったよ。

 僕には彼女を買ったっていう責任がある以上、悲しい思いはさせたくないからね。


「って……それよりもこれは?」

『ぐるるるる……』


 僕の疑問に答えるかのようにデゼルトは首を下げてきた。


「背中に乗れって」


 そう皆に告げ、デゼルトの背に僕たちは乗り始めた。


「おおっ、俺ドラゴンの背中に乗るのなんて初めてだぞ!?」

「普通はそうそう乗らんからな?」


 はしゃぐケルムを残念な目で見ているナタリアだけど、これははしゃいでも良い様な気もするよ?


『ぐるぐるる』

「っと、デゼルトが飛ぶって言ってるよ、どこかに捕まって!」


 翼を広げたデゼルトは力強く羽ばたくと空にある岩の塊へと向かう。

 実際に見るまではなにが起きているのか分からなかった。

 だけど……


「これは、驚いたな……」


 それを見てナタリアは目を丸くし。


「これはユーリの案だな?」

「相変わらずというかなんというかだな、おい……」


 ドゥルガさんとバルドは何故か僕がやったと勘違いしていた。

 だ、だけど、それなら僕は泣かないと思うんだけど……


「僕なにも言ってないし……してない、よ?」


 デゼルトの背から見えたその岩の正体は――――空に浮いたリラーグだったんだ。

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