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169話 懐かしきフロム

 無事フロムへと着いた一行は港ルーフから出発をする。

 まず目指すはナタリアの屋敷があるあの村だ……

 果たして彼女達は無事、あの村へと着けるのだろうか?

「よし、じゃぁ行こうか」


 必要な物を買い足した僕たちは港町を後にしようとしていた。

 買った物は色々ある。

 温暖石と言われるルビーで出来たマジックアイテム、どうやら熱を蓄えているみたいでこれを身に着けていると若干寒さをしのげるらしい。

 前にフロムに来た時は見なかったし、ナタリアも知らなかったみたいだからつい最近出来たものみたいだ。


「ほう、本当に暖かいな」

「って、早速使ってるし……」


 道具を売っていた人のことでは大体三日ぐらいは持つらしいから村までは持つ計算だ。

 とはいえ暖かいと言うだけなので防寒具は外せない。

 僕とナタリアは持っているからいいとして二人の分を買い足し、身体を温める食材を買ったところと言う訳だ。


「ドゥルガさん、それにバルト道をお願いね」

「分かってるって……任せたらこの石が冷たくなるどころじゃねぇからな」


 多分僕たちが冷たくなると言う事なんだろうけど……なんか言い返せない……そんな自分が悔しいよ。


「大丈夫だ、案外着くものだぞ」

「それは運が良かったと言うことではないだろうな?」


 ドゥルガさんまで……

 まぁ二人がここまで呆れているのには理由がある。

 単純で分かりやすい理由で二人してこの小さな港町で迷子になった。

 というかナタリアが傍にいなかったら僕はまた泣きそうになっていたかもしれない……

 そもそも僕が迷うのは手を繋いでくれる人が居ないからで……ってよそう、なんか悲しくなってきた。


「余計な時間を喰ってしまったんだ、急ぐとしよう」

「そ、そうだね、早く村に着かないと」

「その原因を作ったのはオメェらだろうが!!」


 そんなに怒鳴らなくても良いじゃないか……

 僕だって迷わないで良いのなら迷いたくないんだから。


「とにかく、出発だ……二人は離れない様にな」

「「……はい」」


 ドゥルガさんのため息交じりの声に僕たちは揃って答えた。





 雪道を歩き続けた僕たちの前にぽっかりと口を開けた洞窟が広がる。


「奥は……真っ暗だね」

「ああ、例の魔物が潜んでいるかもしれん、警戒だけは怠るなよ?」


 僕たちは彼女の言葉に頷く。

 外は太陽があるから出て来ずらいとしても、洞窟の中は僕がさっき言ったように真っ暗。

 あの魔物にとっては過ごしやすい場所であることは間違いない。


「ルクスを使うよ?」


 僕はそう言った後に詠唱を唱え魔法を発動させ、光を洞窟の中へと動かすと以外にも中は広いみたいだ。


「……ユーリ分っていると思うが――」

「大丈夫、ドゥルガさん前をお願い」

「任せておけ」


 巨漢は何時もの様にそう言うと洞窟の中へ足を踏み入れる。


「次は僕の方が良いかな?」

「いや、バルド、ユーリ、私の順で入ろう……これでも剣の腕にはそこそこの自信がある」


 それは心強いけど、バルドに後ろにいてもらった方が安全だと思うのは僕だけなのだろうか?


「そう言うことなら、先に行くぜ」

「あ、う、うん……」


 ナタリアがそう言う以上、バルドは反論する気はないのだろうさっさと洞窟の中へと入ってしまい、僕も慌てて後を追う。

 無事この洞窟を抜けられると良いんだけど……

 その為にもナタリアの言っていた通り警戒は怠らないようしておこう。





 流石は雪国と言った方が良いのだろうか?

 洞窟の中は所々凍っていて、専用の靴を履いているにもかかわらず足を取られないかヒヤヒヤとする。

 それにしても、この洞窟……


「ふむ、妙だな……」

「や、やっぱり?」


 ナタリアは僕が思い浮かべた言葉をそのまま発し、僕は彼女にそう聞いた。

 何故なら魔物は愚か動物さえ見当たらない。

 水だってあるし、明かりを照らすとわずかながらも草が生えている。

 あれが毒物って可能性もあるけど……


「あの草って危ないのかな?」

「いや、あれは寒い地方に生えるもんだ。別に珍しくもねぇ」


 僕の問いにバルドはそう答え先へと進む。

 しかも、この洞窟は外よりも暖かい。

 つまり、生物が住めない訳ではない場所でなにもいないって訳かなんか……


「いやな予感しかしないんだけど」

「うむ、やはり警戒はしておいた方が良いだろう」

「そうだな、慎重に進もう」


 ナタリアの言葉にドゥルガさんは振り向かずにそう答える。

 僕も一応周りを確認しておいた方が良いよね……そう思った僕は歩きつつ、洞窟内を見回す。


「ん?」

「どうした?」


 僕の目になにかが映り思わず歩みを止めた所、ナタリアに声を掛けられた。

 今、なんか……


「今、上の方でなにか小さい物が通って行った気がするんだ」


 そう彼女に告げ僕はもう一度注意深くそこを見てみる。

 すると――


「あ……」


 僕の目に映ったのは白い毛並みと赤い瞳の小さな動物。


「フェレットだ……いや、オコジョかな?」


 この世界にもいたんだなぁ……そう思ってのんびりと可愛らしい動物へと目を奪われていた。


「ユ、ユーリ……取りあえず前に進もう、なるべく早くだ」

「へ? でも動物がいたんだし、これで安心だよね?」


 確かフェレットは肉食だったはずだけど、これだけ離れていれば大丈夫だろう。

 それに警戒はしてるけど流石にあの子が襲ってくるなんてことは無い……はず。


「良いから早くしろ……良いな?」

「わ、分かったよ……」


 背中を押され僕は半ば強制的に前へと歩かされる。

 もうちょっと見てたかったなぁ……

 そんな風に思いつつ、あのフェレットが通ってきたであろう道を見上げてみると……


「あ……」

「今度はどうした?」

「あの子追いかけて来てるよ? 可愛いね」


 僕がそう言うと背中を押していたナタリアの動きが止まったのを感じ、そう言えばナタリアは動物の毛が苦手なんだっけ? っと言うことを思い出した。


「ま、まずいな……」

「だ、大丈夫だってこれだけ離れてれば毛も……」

「良いから走れ!! ドゥルガ、バルドもだ!! 全力で走れ!!」


 彼女は怒鳴り声を上げ、僕の背中を思いっきり押す。

 って!? そんなに押したら……


「こ、ころ!? 転ぶってナタリア!?」

「安心しろ、転んだら魔法で連れてってやる!!」

「なんでそんな急に!?」


 それに、いきなり走れって言われてもドゥルガさんもバルドだって困ってるじゃないか。


「ナタリア変だよ……動物見たぐらいで走れなんて……」

「ぁあ、動物だぁ?どこにいんだよ?」


 バルドに言われ僕はまっすぐにフェレットらしきものに指を向け示す。


「お、おい……ナタリア、あれってまさかじゃねぇよな?」

「そのまさかだ。だから、早く走れと言っている」

「え? え?」


 なんでバルドも呆然としてるの?

 可愛い動物じゃないか、ナタリアたちが警戒している理由が分からないよ……


「ドゥルガ! ユーリを担いで先に――」


 疑問を上げる僕に痺れを切らしたのだろうナタリアは声を上げ掛け、言葉を飲み込んだ。

 どうしたんだろう? そう思いつつドゥルガさんの方へと顔を向けてみた所。


「あ、もう一匹いる、ね……?」


 でも、なんでドゥルガさんも固まっているんだろうか?

 なんか……だんだんと、いやかなり不安になってきたんだけどさ……

 まさか、あれが動物や魔物がいない原因ってことは無いよね?


「先に進んでも駄目か……と言うことは……三体か」


 ナタリアの声に僕は後ろへと振り返る。

 そして、其処に見えたものを目にしてなんで三人がこんなにも警戒していたのかを知った。

 そこにいたのは人で簡単に噛み千切れそうな鋭い牙がある口、白く整った毛並みを持ち、鋭い爪の生えた四本の手足。

 その姿は見方によってはお爺さんにも見え、尻尾は僕が可愛いと感じていた動物。


「な、なにあれ?」

「フロスティ……人や動物、魔物さえも喰らう魔物だ、厄介な事に腹を空かせていない時は凍らせて保存する……出会ったら倒すより逃げた方が安全だな」

「え? そ、それって……」


 つまり、ナタリアはそれに気が付いて僕たちを急がせたってことか。


「というか、それならそうと……」

「奴らは警戒心が強いんだ、すぐには襲って来ないのはその為だ、説明するのは後でも良かった……とは言っても、流石に知能を持っている魔物相手に逃げると言うのは無理か……」


 彼女はドゥルガさんの方へと一瞬目を向け再び後ろの魔物へと目を向ける。

 知能を持っているってことは……交渉は出来ないのだろうか?

 そんなことを考えていると……


『メシ……メス生肉デ、オス腐サラセテカラ』

「も、もしかして……話って通じない?」


 ナタリアは頷き腰にある剣へと手を掛ける、細い刀身は鈍い銀色の光を放ち引き抜かれた。

 残る二人も武器を構えたのだろう音を立て、ナタリアは静かに呟いた。


「通じても奴らにとっては別の生き物は等しく食料だ」


 うん、つまり言葉は通じても会話は出来ないし、今危険な状態なのは良く理解できたよ。


「弱点は炎だが、分かってるな」

「わ、分かった……あれだね」


 ここは氷の洞窟、弱点の炎を魔法で使うことは出来ない。

 だけど……それはあくまで普通の魔法だ。


「万物の根源たる魔力よ、(つるぎ)に宿りて力を示せ……エンチャント!!」


 僕は短剣を引き抜くと炎を想像し、魔法を唱える。

 すると僕たちの武器は燃え盛る炎に包まれた。

 通常の攻撃魔法とは違うこれなら、攻撃が当たらない限り効果は発動しない。

 つまり燃えている様に見えてもそう見えるだけ……


「でも気を付けて、それは衝撃を加えた場所を炎で焼くんだ!」


 実際に見たり使ったことのあるドゥルガさんやナタリアは知っているだろうそれを僕は叫ぶ。


「ああ、分かったよ……ねぇよりマシだ!!」


 燃え盛る拳を握り、バルドはそう吼えた。

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