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168話 船上で……

 クロネコ、オーク達、そしてエルフ……様々な人の力を借り、ユーリ達の新たな船エオールは海へと出た。

 目指すは氷狼の住む大陸フロム……果たして無事着くことは出来るのだろうか?

 船に乗り僕は空を見上げていた……

 分厚い雲に覆われたそこは心成しか雲が薄くなっている気がする。

 更にしばらく進んだ所で僕は再び空を仰ぐ。


「……あ」

「やはりか……」


 すると……その先にある雲は先に進むほど晴れて行き、その先には青空が広がっている。


「でも、あの魔物がいないって保証できる訳じゃない……気は抜かないで行こう」

「その通りだな……そう言えば」


 ナタリアは懐から一つの布袋を取り出し、それの中身を取り出そうとしていた。

 あれは確か出掛ける前にフィーたちから貰った物だ……って!?


「開けちゃだめだってメルが言ってたんじゃ?」

「フィーは見てる前では開けるなと言っていった。つまりここなら開けても問題は無いだろう?」


 そう言えば、確かにそう言ってたような?


「ほう、これは……」


 取り出されたのは丸く削り取られた木に模様が描かれた物。

 削り取るのは危ないから、墨で書いたのかな?

 彼女はそれを布袋に戻し懐にしまう。

 僕のも同じものなのだろうか?

 同じように僕も袋を取り出すと横からナタリアがそれを見て……


「やはりユーリの方が大きいな」

「め、目に見えてそうだね?」


 そんな恨めしい声で……そんなことを思いながらも袋の中身を取り出すとメルとフィーが作った木に模様を描いたお守りが二つ入っていた。


「ほら、同じだよ?」

「だがフィーのもあるじゃないか、それにまだなにか入っている様だぞ?」

「え?」


 ナタリアに言われ、僕は袋の中身を見てみる。

 だけど、取り出した二つ以外にはなにも無い……でも袋だけにしては確かに重みもあり、触ってみるとなにかが入っている感触が確かにした。

 これは一体なんなんだろう? 気になった僕は袋を良く見てみる。

 ……どうやら、この袋はどうやら二重になってるみたいだ。

 それに破かないで取れそうだ。

 僕はそれを取り出し――


「なん、で?」


 それがなんなのか、なんの意味を持つ物なのか……それはすぐに分かった。


「木彫りの物か……それはフィーが作ったのかもしれないな」


 違う……これは手作りじゃない、これは……


「これは、フィーの命を救ったお守りだよ……フィーのは壊れて、僕があげた物……」


 オークの村でのことはナタリアには言っていなかったかもしれない。

 だけど、僕が見間違うはずがないんだ。


「話した時にこれを持って行ってって言われたんだ。だけど、僕はフィーに持ってって、そうフィーに言ったのに……」

「……ユーリ、それはちゃんと返しに行けば良いだけだ大事にしまっておけ」

「で、でも……これがあるか無いかで」


 これがあるかどうかでフィーが助かるか助からないか変わってしまうって言うのに……


「だが、それはあくまでもしもの時の手段だろう? それに絶対に助かると言う見込みがあるのか?」

「え……」

「フィーがそれを持っていても街が滅んでいたら意味が無い、その時にはデゼルトもメルも死んでいるだろう……もし、本当に命を救う道具なのだとしたら、それはユーリが持っているべきだな」


 ナタリアは一体なにを言っているんだろう……


「街の方は他の者たちがなんとかするだろう、だが……私たちの要はユーリだ。なにせ、唯一傷を治せる魔法使いだぞ? 狙われてもおかしくない、事実前回の戦いではそうだったんだぞ?」

「……うん」


 あの時、僕の運が悪かったら……いや、ほんのちょっと違うだけで死んでいたかもしれない。

 それは十分理解していた。

 それに……もう、船は進んでしまった。

 お守りを返しに行くって言うことは出来てもここまで戻ってくることが出来るかは分からない。

 その間に船が壊される可能性って言うのは十分にあるんだ。


「分かった……ちゃんと返せるよう大事に持ってるよ」

「ああ、フィーの気遣いだ大切にしろよ」


 ナタリアの言う通りだ。

 リラーグにはフィーたちやデゼルトだけじゃない、テミスさんやシンティアさん、クロネコさんにマリーさん。

 頼れる仲間がいるんだ!

 今は相手より先に呪いを手に入れて壊す。

 僕は僕が出来ることをしないと……そう思い、三つのお守りを布袋に戻した。






 数日後、僕は操舵室の掃除をしていた。

 船での旅は順調に進んでいる……だけど。


「ねぇ、ドゥルガさん」


 僕はその部屋で舵を握る巨漢へと声をかけた。


「どうした?」

「その、魔物だけど……襲って来ないね?」


 この船に乗ってからと言うもの、空を飛んでいた時は別としても海に来てかも魔物には遭っていない。

 以前はドラゴンであるデゼルトがいたから理由が付くけど、今回はいないのにだ。


「ああ、香木を使っているからだ」


 香木?

 もしかして、魔物避けの香に使われる物を使ってこの船は出来ているのだろうか?

 だとしたら相当量が必要だと思うけど……


「そうなんだ……じゃぁ――」

「だが、保証できるのは行きだけだ、恐らく帰りは効果は無い」


 安心だねって言おうとしたら、ドゥルガさんに先に言われたのはそれがずっと続くわけじゃないってことで……

 まぁ、当然か……行きだけでも安全が確保されているのはありがたい。

 そう思っている所に扉を開け入ってきた黒髪の男性は僕を見るなり――


「おい! ユーリ!! なにサボってやがる!!」


 そう、怒鳴りつけてきた。


「サ、サボっては無いよ!?」

「手が止まってるじゃねぇか……」

「そ、それはふとした疑問を……」


 僕は正直に言おうとし、彼の目が鋭くなったのを感じ。


「ごめんなさい……」


 そう謝るとバルドはゆっくりと近づいてくる。

 こ、怖いよ!?


「バルド、ユーリはただ海の魔物が出た時の対処の話をしていただけだ」

「ぁあ!?」


 ドゥルガさん?


「今はまだ魔物が出ていないが、いつまでもという訳ではない」

「……チッ!! ならちゃんとそう言え」

「ご、ごめんなさい!?」


 ぅぅ……ドゥルガさんありがとうございます。

 手は止まってた訳だから、サボってたのは間違いないのに嘘までついてもらって……

 ん? そういえば……


「あの、ナタリアは?」


 確か食事の準備してくるって結構前に出て行ったきり戻ってこない。

 この船は大きいし、迷子になっているのだろうか?


「そうだった……おい、甲板で寝てやがるアイツを起こして来い」

「えっと……バルドが起こしたら?」


 起こすだけならそれで良い気がするけど……


「命がいらねぇならとっくにそうしてる」


 バルドは真顔でそう言ってるけど、ナタリアの睡眠妨害ってそんなに怖いのだろうか?

 だけど、冗談を言っている感じではないし、少なくとも本人は魔法が飛んでくるとでも思っているのかな。

 いや、流石にそれは無いよ……だって魔法は危ない物だって教えてくれたのはナタリアだ。

 そう思いつつも、僕は溜息をつきバルドにそうお願いした。


「案内して」

「いい加減、船の内装ぐらい覚えろよ……」


 そんなこと言われても……


「無茶なことは言わないでよ……これでも必死に覚えようとしてるんだよ?」

「お前なぁ……」


 あきれた様子のバルドだけど、仕方ない物は仕方ない。

 エルフにお願いがもう一度できるのだとしたら、僕は迷わないようにしてほしい。

 うん、そうしよう。


「諦めろ、ユーリは筋金入りだ」

「ド、ドゥルガさんまで……」

「ああ、そうだな……ナタリアでさえ覚えやがったからな」


 ぅぅ……それは本当に言わないでほしい。


「と、とにかく! 早く案内してって」

「ああ、分かったからそんな目で睨むんじゃねぇよ……」


 僕はそんな哀れんだ目で見ないでほしいよ……

 口には出さず心の中でそう呟いた僕はバルドの後をついて行った。

 それはそうとして……旅は順調だ、これならフロムにすぐ着けるはずだよね。

 氷狼がなにか知っていると良いんだけど……


「おい、離れるとまた迷子になるぞ!!」

「ちょ!? ま、待ってよ!? 僕本当に迷子になるんだからね!?」


 ぼんやりと考えごとをしている内にバルドは先に進んでしまった様で僕は慌てて彼の後を追った。

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