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165話 黒の雲が広がる大地

 ユーリとナタリアの旅立ちの日……

 酒場まで降りた彼女達の前には誰も居なかった……が、フィーナやメル達は見送りに来てくれたようだ。

 ユーリ達は遅れながらも新たな武器を持ち合流したバルドとドゥルガを連れ、フロムへと向かう……

 果たしてナタリアが言った通り、海路で向かうことは出来るのだろうか?

『ぐるぐるる……』


 門を抜けた所でデゼルトが僕に擦り寄ってきた。

 暫くこの子ともお別れだ……そう思いつつ僕は喉元を撫でて呟く。


「ちょっと、行ってくるよ……街をお願いね?」

『ぐるる……』


 僕の言葉を理解したのだろう、一つ喉を鳴らしてデゼルトは答えてくれた。


「で、どこに行くんだ?」

「うん、まずはドイズールに向かおう」


 外に行くには船が必要だ。

 それなら一番近い港に向かった方が良い。


「だが、問題はある」


 ナタリアはそう言い片手を顎に当てている。

 彼女の言いたいことは分かる……それは――


「私が外なら晴れている可能性があると言った手前だが、外に向かう手段を残しているとは思えん」

「おいおい、じゃぁ意味がねぇじゃねぇか!!」


 うーん……その時はその時で考えるとして……


「とりあえずは船があるかどうかだけでも確認しよう」

「無かった時は魔法で飛ぶとか言わねぇだろうな?」


 それも手の内だとは思うけど、いくらなんでも海を越える魔力が皆にあるとは思えないよ。

 なにより、ドゥルガさんは魔法使えないし。


「いや、ユーリ俺に考えがある」

「え?」


 ドゥルガさんに考え?

 まさか作る? いや、それは流石に無理だよね?


「メルンから山を越えると言うのか? だったら無理だ海側の山よりも険しすぎる」


 そう言えばフロムの酒場の人は山越えがどうのって言ってたけど、そう言うことだったのか……


「違う、村に寄れ」

「村にって……まさか」


 本当に作る気!?


「そう驚いた顔をするな、人手と道具を手に入れるだけだ」


 どういうこと? っと僕とバルドが困惑する中、一人合点の行った様子のナタリアは僕たちの疑問に答えた。


「元々船はオークの技術だ。当然人よりも物作りには優れている、その仕事の速さもな」

「そうだったの? 海の近くになかったし、建物……ってごめん」


 僕は村の様子からしてそうとは思えなかったけど、と言おうとし失礼だと思い途中で言葉を飲み込んだ。

 とはいえ、途中までは行ってしまった訳で……


「村の建物のことなら、森の中では魔物や動物によく壊される。あえて造りを簡単にしていた」


 塀があっても抜けて来る魔物がいるってことだよね?

 でも、よく壊されてしまうならって言うのは家ならすぐ直せるようにって言うのは分かる。

 ドゥルガさんを見ているせいかオークは強いイメージがある。

 普通の魔物だったら、相性の悪いスライムならともかくなんとかなりそうだ。


「船は確保しなくてはならないのは変わらん、ユーリどうする?」

「うん、オークの村に寄ろう……途中でお土産を取っていこう」


 確かオークの村ではそうしないと客人として迎え入れてくれないはずだった。

 それを覚えていた僕は皆にそう提案するが……


「いらん、俺がいる」


 巨漢はそう口にしたけど、アーガさんならともかく他のオークの人は大丈夫なのかな?





 ドゥルガさんの提案の元、僕たちは先にオークの森を進む。

 不思議なのはあの魔物に出くわさないことだ。

 太陽の光を嫌う性質があるらしい魔物がリラーグの周辺にいないのは分かる。

 だけど、ここは雲に覆われているし光は届かない。

 なのにあの魔物は姿を現さず、それがかえって不気味だった。


 森の中を進むとやがて見覚えのある塀が目に入り、以前の様にオークが門の前に立っていた。


「ナンノ用ダ、人間」

「俺だ、ドゥルガだ覚えていないか?」


 警戒するオークに対し、ドゥルガさんは臆することもなく語り掛ける。

 するとオークの門兵はなにかに気が付いたようにはっと表情を変え――


「人間ヲ嫁ニシタ、ドゥルガカ?」


 ちょっと待って!?

 それ間違ってはいないけど、絶対意味が違ってるよね!?


「そうだ、久しいな兄弟」

「アア、久シイナ……オ前ナラ信頼デキル、入レ」


 門は開けてくれたけど、僕としては腑に落ちないよ……

 気が付かれてないみたいだから――


「オオ、影デ見エナカッタゾ……恩人失礼シタ。ドゥルガトハ仲良クシテクレテイルミタイダナ」

「は、はい、でも意味は違うと思いますよ?」


 僕にはフィーがいるし、ドゥルガさんにはシアさんがいるんだからね?

 彼はその言葉に首を傾げると……


「人間ハ難シイナ」


 そう呟いていた……





 オークの村は以前の様子からは変わり、建物はすっかり立て直されていた。

 それにしてもあの魔物はここには攻めてきていないのだろうか?

 村の様子からしてそんな感じではなさそうだけど……

 それに魔物避けの香、あれを焚いていても恐らくは効果が無いはずだ。

 一体どうやって魔物を避けているんだろう? それさえわかればリラーグも安全性が増すのではないだろうか?


 そんなことを考えつつ、僕たちはドゥルガさんの後をついて行く。

 すると目の前に見えてきたのはやはり一際大きい建物だ。

 家の前には一人のオークが立っていて、彼はドゥルガさんを見るなり駆け寄ってきた。


「オ前、ドゥルガダナ? 久シイナ、元気シテイタカ」

「ああ、この通りだ。所で村長はいるか?」


 ドゥルガさんがそう聞くとオークは頷き。


「イルゾ、中ニ入レ」


 そう言って僕たちを家の中へ招き入れてくれた。

 村を旅立ったと言うのに信頼は失ってはいない、流石はドゥルガさんだ。

 家の中に入ると尋ね人である彼はすぐに僕たちの方へと顔を向け、顔を綻ばせる。


「ドゥルガか、良く戻った。それにお前はあの時の……無事なようでなによりだ」

「アーガさんお久しぶりです」


 僕は挨拶を交わした後、気になっていたことを聞く。


「あの、魔物……は襲ってきたりはしないんですか?」

「魔物? いや、あれからというもの村は平和そのものだ」


 ん~? 平和そのもの……

 なにか別の理由でもあるのだろうか?


「それで今日はなんの用で来た? 遊びに来たというのならお前たちであれば歓迎する」


 アーガさんがそう言うとドゥルガさんが僕たちの前へ出て膝を地につけ頭を下げる。


「村長、今日来たのは頼みたいことがあってだ」


 ドゥルガさんは話を切り出し……それを聞いたアーガさんはナタリアとバルドへ目を向け……


「ふむ……以前の者達とは違うようだな、言ってみろ」

「実は――」


 ドゥルガさんは今までのことを丁寧にアーガさんへと伝える。

 五年前、この村の近くであった仮面のこと……僕がナタリアの呪いを解いたこと、タリムが崩壊し屋敷へと籠ったこと。

 そして、今僕たちが唯一の対抗手段である呪い破壊の為に他の地方に行く手段を欲していることを……


「それでだ、村長港に行っても船が無くては話にならん」

「すまないが、手を貸してくれないか? オークの長」


 アーガさんは話を聞くとゆっくりと立ち上がり……僕を見る。


「村を救った者の頼みだ。答えねばオークの恥となるな」

「え、救ったって……僕そんな」


 フィーのことで怒ってただけなんだけど……

 アーガさんはどうやら勘違いをしているのではないだろうか?


「理由はどうであれ、オークの信頼を得たのはユーリだ」

「ユーリ、村長は話を受け入れてくれた不満は無いだろう」

「寧ろ断る方がバカじゃねぇか?」


 ……確かに断る理由は無い。

 ナタリアの言う通り理由はどうであれ、スプリガンを倒したのは僕たちだ。


「……アーガさん、お願いします」

「任せておけ」


 頼もしくも彼は腕を組みそう答えた。

 これで船は手に入ったも同然だ。

 目指すはフロム……呪いの武器の情報は絶対に見つけよう。

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