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164話 師弟の旅立ちの日

 フィーへと旅立つ事を話した翌日……

 ユーリは仲間達に話をし、ドゥルガとバルドについて来てほしいと告げた。

 だが、同時に彼らの子供たちの事もあり、強くは言えず……二人の判断に任せる結果となった。

 期限は数日……その間にユーリとナタリアはレオ達へと魔法を教える事になったのだが?

 あれから更に数日経った……最後の呪いは問題なく壊す事が出来たけど……レオさん達に教えた魔法は残念ながら全く使い物にならなかった……

 ナタリアもこれには慌ててシルトさんに頼みリラーグでも腕の立つ魔法使いを集めたけど……何故かレオさん達以下の魔法しか扱えない結果なってしまった。

 原因は分からない……でも時間だけは確実に過ぎて行き……

 僕とナタリアはその日、旅立つために部屋のある三階から一階の酒場へと降りてきた。


「……仕方がない、途中で腕の立つ冒険者を雇おう」


 酒場を見渡し、そう呟いたのは僕よりも背が高い女性ナタリアだ。


「そう、だね……」


 自分で考えてと言った以上、こうなっても仕方がない。

 むしろ、今は子供がいるんだ……寂しい気はするけど、それが良いのかもしれないよね。

 でも……


「フィーやメルもいないのは、凄く寂しいよ」

「…………そうだな」


 やっぱりメルには納得してもらえなかったんだろう、食事を済ませるとフィーを引き連れてどこかに行ってしまったし……ここに来ないのはメルのせめてもの抵抗なのだろうか?


「気になるのなら、会いに行ってきても良いのだぞ?」


 ナタリアはそう言うけど、今彼女たちに会ったら引き留められて僕はそれをまた拒否しなくちゃいけないんだよね?

 それは、もう嫌だな……


「行こう」


 僕はただそれだけをナタリアに告げる。

 彼女は一瞬眉を吊り上げたものの、僕の顔を見ると溜息を一つ吐き……


「そうしよう……」


 誰にも見送られず、旅に出るのは初めてだ……

 そんなことを思いつつも、僕たちは酒場の入口を開こうとする。


「ゆーりまま!!」


 そんな時不意に後ろから誰かが抱きついてきた。

 いや、誰なのかは分っている。

 そんな呼び方をするのは一人だけだ。


「メル?」

「…………」


 メルは僕からそっと離れると手に持った布袋を差し出してきた。

 これは……?


「メルと一緒に作ったんだよ?」

「フィー? 一緒に作ったって……」


 見てみるとそれは不格好で中になにかが入っているみたいで、袋を受け取り僕は中身を確認しようとすると……


「だめ! だいじなの! あけたらだめ!」

「だ、そうだぞ?」


 それはそれで凄い気になるよ?

 大きさは両手にはすっぽりと入ってしまうなにかだけど、これは……


森族(フォーレ)のお守りだよ? メル頑張って作ってたんだから見るのは後でにしてあげてね?」


 つまり、見ても良いけど恥ずかしいってことかな?

 僕は思わず微笑むと……メルの頭を撫でる。

 すると彼女は頬を膨らませつつナタリアの方へと行くともう一つの布袋を彼女に手渡した。


「ユーリの方が大きいな」

「それは、私のも入ってるからだよ?」


 フィーの言葉にナタリアは若干がっかりした様子だ。


「私も一応はフィーの親であり姉であり親友であるつもりなのだがな」

「中身のことはそうだけど、布袋は私が作ったんだよ?」


 明らかにフィーの目が泳いでるけど……忘れてたってことは無いだろう。

 それにナタリアはそれで充分みたいの様で……


「そうか、それなら良い」


 なんか声が嬉しそうだった。

 僕と同じで誰もいなかったのは寂しかったんだよね?


「でも二人とも――」

「「ん?」」


 フィーが真剣な顔になり、僕たちへなにかを言おうとして耳を傾ける。

 彼女は息を一つ吸うと……。


「置いて行ったら駄目だよ?」


 そう告げてきた。

 置いて行ったら? フィーたちは連れていけない。

 それは分かってるはずだ。

 じゃなければわざわざお守りを作ってくれることは無いだろう……ってことは……


「全く、準備に手間取っていれば勝手に行く気だったのかユーリ、俺は答えを聞くまでもないと言ったはずだが?」


 入口が開き巨漢は呆れた様に酒場へと足を踏み入れ、その背には大きな荷物を背負っていた。


「で、でも……子供が」

「確かにユーリの言う通りだ。だが、手がある内はユーリの騎士として恥じぬよう努めよう」

「ほほう」


 あの……ナタリア?

 なんか、意味ありげな目で僕を見ないでください。


「そういう意味じゃないからね?」

「どういう意味か知らねぇが……テメェで考えろって言っておいて俺らの答えを聞かずに置いて行くとはどういうことだ?」

「……バルドもか」


 ドゥルガさんの後ろからは黒髪の青年が顔を出し、機嫌が悪い様で僕たちを睨みつけつつそう言った。


「でも、二人ともいなかったし……それに……」

「いなかったのはこいつを取りに行ってただけだ」

「……え?」


 バルドがそう言って見せた物。

 それは――


「これはダイヤの武器?」


 見間違えるはずもない、それは彼が使うために作られたのだろうガントレットとも手袋とも言えない武器がある。


「ああ、ユーリの魔法無しではまだ完成とは言わないが……」


 ドゥルガさんはそう言って背に背負っていた物の布を取る。

 そこにはやはり、ダイヤで出来た斧があって……


「それだけじゃないからね」

「リーチェさん?」


 彼女は顔を出すとその手になにかを持っていて、二人と同じように僕にそれを見せてきた。


「これは……リーチェこれをどうやって知った?」


 そうだ、彼女は知らないはず。

 なのに……


「フィーナとシュカに聞いたの、全くこんな武器で戦うなんて馬鹿みたいロマンがどうだ―じゃないって普通」


 そこにあったのは靴にダイヤの刃が仕込んである武器。

 嘗て、ケルムさんが見せてきた武器そのもので……


「向こうに行ったらケルムもいるだろうし、無いよりはマシでしょ?」


 フィーがそう答えた。

 そうか……これなら、あのケルムだって戦えるかもしれない。


「さ、ユーリ後はアンタの仕事だからね」


 僕は頷き、荷物の中から布を取り出すとそれを床へと敷く……その上に三つの新たな武器を置き……ってあれ?


「ナタリアの武器は?」

「ああ、心配いらん私もアーティファクトを持っている」


 そうだったの!?

 そういえば、見たことない剣が腰に刺さってるけど、それのことかな?


「さ、早く済ませてくれ」

「う、うん……我望む、最も固き鉱物、決して傷つくことの無いものを、砕けることなく、未来永劫をこの物に与えたまえ――アダマンタイト」


 魔法を唱え、以前の様に光は武器たちに吸い込まれて行き……やがて静寂が辺りを包む。

 リーチェさんは静寂の中動き、鎚でそれぞれの武器を叩いていき……


「よし、持っていきな!」


 そう声を張り上げた。


「……では行くとしようか」

「うん、行こう!」


 僕がそう言うとドゥルガさんは道を開け……その向こう側が目に入った。

 そこにはシアさんたちを始めとする人たちがいて……

 その中から、生まれたばかりの赤ちゃんを抱く女性は僕の方へと向かってきた。


「シュカ!?」

「……ユーリ、迷子、気を付ける」

「シュ、シュカ……?」


 僕は迷子になること以外に気を付ける場所があると思うんだけど!?


「そうだねー? 迷子になっちゃだめだよ?」

「フィーまで……」


 僕ががっくりと項垂れていると肩に手を置かれ、顔を上げると其処にはシアさんとマリーさんが立っており……

 彼女たちは揃って視線を動かし、僕はそれに釣られ同じ場所へと目を動かすとそこにはナタリアがいて。


「ま、まて……二人とも何故私を見る!?」

「ナタリア様もどうか迷子にならない様、お願いいたします」

「ナタリアも一人で歩くんじゃないよ? どうせ治ってないんだろう?」


 ほぼ同時にその言葉が聞こえた。


「待てと言ったろうに……」


 だが、注意をされた本人はがっくりと項垂れ……っていうか僕の迷子ってナタリアからの遺伝なの!?

 ぅぅ……つまり、僕がこの世界での本来の身体を得た結果が迷子……


「あれ? でも前に一緒に行動した時は迷子になってなかったような……」

「そう言えばそうだねー?」


 村の中ちゃんと家に着けてたし、場所の把握だってしていたってことは僕を励ますための冗談?

 でも、ナタリアのダメージは大きいみたいだ。


「ああ、ナタリアの場合それはただ単にあてずっぽうか、誰かの記憶を見てるにすぎないよ」


 な、なるほど……


「もういい、行くぞ!」


 ナタリアはなんか怒ってしまったみたいだけど……


「そっちは広場だよ、正門は丁度右手側!」


 出て行ったナタリアはマリーさんに注意されその場に立ち尽くしてしまっている。

 うん、分かるよその気持ち……


「大丈夫なのか?」

「ああ、心配でならねぇな……」


 二人のそんな会話が聞こえた気もするけど、聞かなかったことにした僕はフィーとメルに向き直り。


「行ってくるよ」

行っ(いっ)()らっ(らっ)しゃ(しゃ)()


 屋敷にいた時の様に……そう、狩りに行く時と同じやりとりをした。

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