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番外編 金の理由

 金に執着するバルド……そんな彼にユーリは疑問を持っていた。

 何故なら彼は仲間に対しては思いのほか優しく……中でもシュカの支えとなっている。

 だが、簡単に踏み入って良いのか分からず、彼女は彼が話してくれるまで待っているのだった……

「ふぅ~~」


 僕はナタリアの話の後、屋敷にある浴場から出て来て一つ息を漏らした。

 僕が入るのは当然女湯……一人でゆっくり入れる時間が限られてる……フィーは何も言わないでくれてるけど、やっぱり彼女の事を思うとなるべく他の人が居る時間はさけたほうが無難だろう。

 元々お風呂好きという訳ではなかったけど、呪いを壊して今日は疲れたしそういう時は長く入っちゃうなぁ……

 それにしても……何とかお風呂までたどり着けたけど、どうやって戻ろう……こっちは酒場だし……


「ん?」


 僕が迷子になりながら歩いていると酒場へたどり着き、まだそこが明るい事に疑問を感じた。

 今日は色々と点検するから早く店を閉めるってゼファーさんが言ってたような?

 まだ一人でやってるなら、大変だ……少しぐらいなら手伝えることがあるかもしれない。

 そう思って僕は酒場の中を見渡すと――


「バルド?」


 そこには黒髪の男性が一人座っていた。

 彼の目の前には何も無く、普通こういう時には果実酒とか飲んでると思うけど……バルドってお酒飲まない人だったのかな?


「なんだ、ユーリか」

「どうしたの? こんな時間に……」


 僕に気が付いたらしい彼の傍により声を掛ける。

 彼からは盛大な溜息が聞こえ――


「追い出された」

「…………また?」


 確か昼間もそんな事を言っていたような気がするけど?

 というか、今度はシュカに何か言われたのかな? 凄い落ち込んでるようにも見える……

 うーん、バルドの事だしまたお金の事を言ったんだろうけど、確かに大事ではある。

 それに彼の言い分も分からなくもない……でもなんでそんなに固執してるんだろう?


「ねぇ、バルド?」

「なんだよ……お前まで説教か?」


 うわぁ……思いっきり嫌な顔をされてしまった。


「えっと違――」

「良いか? 金があれば大抵の事はどうにか出来る、世の中お前らみたいなのばかりじゃないんだよ!!」


 大声とは言えなかったかもしれない、でもそれはいつものバルドらしくない怖い声で……

 僕は思わず後ずさりしそうになるのを押さえ彼に聞いた。


「ぼ、僕たちみたいなの? その、お金に拘る理由ってそれと関係あるの?」


 僕の言葉を聞き彼は一瞬ハッとした顔になり、舌を討つ……


「……いや、悪かった……それとお前らとは関係はない……」


 これ以上、彼は話す気はないのだろうか……どこか辛そうな顔で黙り込み。


「……その、僕――」

「ただな……ナタリアや師匠に……せめて一か月、早く会えてたらと思う時があんだよ」

「……え? ナタリアに師匠って……」


 バルドがその呼び方をするのは初めてだった様な気がするけどシアさんの事だよね?


「本当は話すつもりはなかった、だけどよ……金にうるさいだけって思われるのも気分が悪ぃからな」

「…………」


 本当にそう思ってたから何も言えない……でも、理由はやっぱりあったんだ。


「俺は孤児院育ちでな、質素だったが悪くはねぇ暮らしだった……それこそついこの間までの屋敷と同じだ」

「そうだったんだ……」


 そう言えばバルドは屋敷で暮らしてた中で文句を言ってなかった。

 質素で自給自足……お金はあったけど、外に長時間出れないから意味が無い物だったのに。


「だが、経営は悪化……満足に食事も取れず、中には盗みをする奴も出てきた……これじゃ不味い院長はそう思ったんだろうな……」


 彼はそう言うとこぶしを握り歯をむき出しにする……バルド自身お金は大事にしてるし盗みなんてしない。

 でも、怒ってるって事は彼自身が納得出来ない何かがある……仲間想いの彼が怒る理由って……


「その……盗んだ子を追い出したとか?」

「いや、違ぇ……さっき言った通り確かに盗みをした奴は居た、だがその度に商品を返しに行って頭下げてた年長者が居たんだよ」


 ん? じゃぁ……なんで怒って……


「その人はな、皆から良く懐かれてた姉ちゃん、姉ちゃんってな……俺も小さかったからな姉ちゃんが謝りに行く度に手繋いで一緒に行ってたんだよ……」

「…………」


 彼の目が揺れ……だんだんと言葉もつっかえて来ていた。

 そうじゃなくても、僕自身……なんとなくだけど理由が分かった気がした……


「あのクソ院長はな、そんな姉ちゃんを人買いに売りやがった……たかだか金貨二枚の為にな」

「…………」


 シュカを買ってしまった手前僕は何も言えなかった……結果的に彼女の為になれたのかもしれない。

 だけど……


「……夜中の事だったんだが、俺は偶々起きててな追いかけた……だがな、その時はただのガキだ。何も出来ずに野に捨てられた……」


 なんて言ったら良いのか分からない……


「運良く、どこかの村について運良く食いつないで……更に運が続いてその後にナタリア達と出会った……」

「そうだったんだ……」


 僕が言えたのはそれだけだ。

 だけど、そんな僕を見てため息をついた彼は――


「……今の話でシュカの事を思い出したのか? だったらあいつから話は聞いてる。お前と奴らは似ても似つかねぇよ」

「……え?」

「ただな、俺が金さえ持っていれば姉ちゃんは救えた……それだけの話だ」


 シュカが僕の事を話してた? い、いやそうじゃない……じゃぁ、バルドがシュカの為に怒ったり……お金を求める理由って……


「もしかして、稼いだお金を貧しい子にあげてるとか?」

「ぁあ? なんでそうなる?」

「え? だって今の話の流れだと……」


 絶対そうだよね?


「テメェは馬鹿か? 確かに俺は仲間を売る奴や人買いは嫌いだ! だが今のは俺が金を持ってれば姉ちゃんを救えたって話だったろうが! ガキやシュカが居んのになんで他人に金をやらなきゃいけねぇんだよ!!」

「…………あ、うん……そう、だね?」


 うん……うん? なんか途中まで悲しい話と、その、実は見知らぬ子供たちの為の活動をするバルドに対する感動のお話だと思ってたけど……バルドはバルドだったよ……


「はぁ、何でフィーナみたいな口調になってやがるんだ? もういい話してやったんだ、とっとと上に行け」

「う、うん、そうしたいんだけど……その、迷子になっちゃうから……案内お願いできないかな?」


 僕が苦笑いをしつつそういうと、盛大な溜息をついたバルドは――


「……銀貨一枚だ」

「お、お金取るの!?」


 僕が驚くと何故か彼は僕を睨みつける……なんだか怖いよ?

 まるで今、理由は話しただろ? とでも言いたげだし……うん、やっぱりバルドはバルドだった。

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