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163話 話の後で……

 リラーグに残る呪いは後一つ、だが黒の本を壊すにはまだ足りない……

 そこでユーリは氷狼の元へと向かう事を考え、ナタリアへと話す。

 ついて来てくれると言う彼女に感謝をし、その日ユーリは寝る前にフィーナへと告げるのだった……

 その日、寝る前に僕はナタリアと話したことをフィーへと告げた。

 彼女には早めに伝えておいた方が良いと思ったからだ。

 だけど……彼女は話を聞き、表情に陰りを見せる。


「フィー?」

「うん、分かってるよ? でもやっぱり心配だよ……太陽が無いとナタリーの魔法も威力が落ちちゃうんでしょ? それに……」


 フィーが言いたいのは僕が殺されかかったことだろう。

 事実、デゼルトが起きなければ僕は死んでいたんだ……。

 あの数で来られよう物なら、同じ結果になることは十分に考えられる。

 だけど……


「このままじゃきっと、リラーグは潰される……皆やデゼルトがいくら強くても、時間は無限じゃないんだ」

「……それは、そうだけど、私はついて行けないんだよ?」


 以前フィーにお願いしたこと。

 それは、メルたちとこの街を守ってもらうことだ……

 でも、実際にはメルが寂しくない様に、一人にさせない様にって思って言った言葉だった。

 フィーも同じ思いで残ると言ってくれたんだから、今更ついて行くとは言いづらいんだろう。


「……大丈夫、僕は運が良いみたいだから」

「運って……」

「僕がこの世界に来れたのも、フィーと出会えたのもナタリアとたまたま出会えたからなんだからさ」


 彼女に僕はそう告げる。

 実際にはナタリアに目的があったのだけど、彼女はその事実を知らないだろう。

 だから、そう言ったんだけど……


「そうかな? ナタリーは言わないけど、転移魔法って()()()()()()()()()()()()()()だったんじゃないのかな?」

「っ!?」


 彼女の言葉に僕は思わず息をのむ。

 違う世界から来たって言うのは今も言った……だけど転移魔法が何で作られたのかは言ってないはずだ……

 勿論、ナタリアも……


「やっぱり、そうだったんだ? ナタリーの考えそうなことだね? だから、あの時にユーリと会ったんだねー」

「ち、違う、僕は――」


 僕は何故か焦って言葉を発しようとして、フィーに口を塞がれた。

 違うんだ……あの時は僕が外に出たいと言ったんだ……


「メルが起きちゃうよ? それに大丈夫、ちゃんと分かってるよ? ナタリーの事だからユーリの意志は尊重してるはずだよ、だから今回も行こうって言ってくれたんだと思うよ?」

「…………」


 フィーとナタリア、二人はどれほどの信頼があるのだろうか?

 今となっては僕とフィーもそうなんだろうけど、若干それが羨ましくて……


「でも、ね? 私はユーリが心配だよ?」


 それは分かってる……だってもし――


「……うん、僕も逆だったらそうだと思う」

「だから……」


 そう言ってフィーは一つのお守りを手に取った。

 以前ノルド君にもらった物で……フィーの命を救った大事な物。


「それは駄目だよ」


 彼女の言わんとしている事が分かり、僕はそれを拒否した。


「でも、これがあれば……」


 フィーの言葉に僕は静かに首を振る。

 それがあれば確かに安心だ。だけど――僕はナタリアに聞いたんだ……


「ナタリアの言うことでは外は雲が晴れてるはずなんだ。だから……少なくともここよりは安全だ」

「………………」

「残るフィーたちには危険な所をお願いするんだよ、僕は……それをフィーに持っていてほしいんだ」


 彼女は無茶をする。

 ナタリアがいつも言っていたことだ。

 事実、フィーは無茶をするし時として自分の身を盾にしだすから、こちらとしては冷や汗をかくなんてものじゃないよ。

 ……さっき心配してくれてると言ったけど、僕がそれを分かった理由もこれだ……本当に怖いんだからね?


「私も、ユーリに……」

「ねぇ、フィー」

「……ん?」


 僕がお守りを受け取らないことで泣かせてしまったのだろうか? フィーの瞳には涙が溜まっていて……それで胸が痛む。


「ドゥルガさんやバルドにもついて来てもらうんだ」

「うん……」

「それにナタリアだっている……僕の魔法だってある。いつもはあんなだけど、皆が言うには僕は皆を守るための魔法ならナタリア以上だよ?」


 それが師であるナタリアにも言われた僕の自信を持って言える所だ。


「うん、そうだね? 空を飛ぶのもナタリアよりずっと早いからね?」

「それに……」


 僕は寝息を立てるメルへと目を向ける。


「メルにちゃんとした空を見せてあげたいんだ」


 屋敷でも、この街でも空は少ししか見えない。

 本当はずっと広く、どこまでも続いているのに……メルや双子、それにシュカの子だってそれは知らない。

 彼女たちだけじゃない、ある時を境にこの街で生まれた子も空は暗いものと思っていただろう。


「そうだね?」

「大丈夫、皆がいるんだちゃんと戻ってくるよ、だから……もう一度お願いしたいんだ。僕たちの戻ってくるこの街を皆で守ってほしい」


 フィーは僕の目をじっと見つめた後、メルへと目を向けた。


「……メルね? 今日ずっと空がトカゲさんと同じ色って言ってたんだよ?」

「え、う、うん」


 予想外のことを言われ、僕は思わず言いよどむものの我が子のことを聞き少し気が緩んだ。


「ユーリの言ってる通り、この子たちが知ってる空は狭いんだよね?」

「……うん」


 頷き答えると、フィーは僕の顔をしっかりと見つめ直し……


「皆で戻ってこないと駄目だよ?」

「分ってるよ、皆で戻ってくる」


 そう僕は答えると、フィーは初めて僕に呆れたような顔を見せた。


「異世界生まれでも、やっぱりユーリはナタリーの子供なんだね?」

「へ!?」


 な、なんでそうなるのだろうか?


「一度言い出したら、よっぽどの事が無いと聞いてくれないよ?」


 その後はフィーによるナタリアに対しての不満が暴露されたのは言うまでもなかった。

 というか、ナタリア……老婆のローブを試すために止めるフィーたちを引き連れて冒険したって……それはいくらなんでも危険すぎるんじゃないだろうか?

 その後もどうやらちょくちょく外に出ていたし、以前僕と戦った時も言ってたけど――今更、足枷でも無い呪い。

 あの言葉はあながち嘘ではなかったんだね。


「あ……その、ユーリ?」


 フィーが話の途中でなにかを思い出したらしく、僕の顔を覗き込むようにし……ぅぅ、それは卑怯だよ?


「えっとね? ユーリを連れてきた理由、ナタリーには私が知ってること内緒だよ?」

「良いけど……なんで?」

「だって、知ってるって分ったら、ナタリーのことだから今のユーリとの仲は本物だって語られそうだよ?」


 彼女はそこまで言うと若干顔を赤らめながら「分かっててもずっと語られそうだよ?」っと繰り返し、僕は思わず。


「根掘り葉掘り、言われて恥ずかしがってるフィーはちょっと見てみたいかもしれない……」


 と言うと、彼女は耳と尻尾を垂らし……がっくりと項垂れぼそりと呟いた。


「ぅぅ、ユーリがナタリーみたいだ……よ?」

「だ、大丈夫……言わないよ?」

「うん、信じてるからね?」


 うぅ……そう言われてしまうと僕は弱いんだよなぁ。

 勝つ必要とかは全くないのだけど、フィーには一生をかけても勝てそうもないよ。





 翌日の朝、ナタリアは食事終わりに皆に残るよう言った。

 勿論、子供たちもだ……いずればれることなら話に交じってもらった方が良い、そう思ってナタリアに僕が告げていた。

 全員がいることを確認したナタリアは真面目な顔で皆へと告げる。


「ユーリから話がある」


 皆の顔が僕へと集まり、さすがに緊張をしながらも僕は皆に向けて言葉を放つ。


「……ロクお爺ちゃんが持ってきてくれた呪いも後一つ壊せば終わる。そこで、僕とナタリアは呪いを探しに行こうと思うんだ」

「おいおい、外は闇だろうが」


 バルドの言葉に僕は静かに頷き。


「だけど、メルンの外……つまり他の地方にはあの雲が無い可能性がある。あくまで可能性なんだけど……それにかけてフロムの氷狼に会いに行く、そこでドゥルガさんにバルドについて来てもらいたいんだけど……」


 二人の方へと向き、僕は答えを待つ……

 無理に連れていくことは出来ない、二人にだって子供はいるんだから。


「強制はしないぞ? お前たちで選べ……時間はまだある」


 僕の意図を組み込んでくれたのだろう、ナタリアはそう付け加えてくれた。


「俺の答えは聞かなくとも分かるだろう?」


 そう言うのはドゥルガさんだ。

 彼はエルフの騎士を辞めてまで僕について来てくれたんだ。

 そう言われるのは予想していた……だけど……


「今回は前とは違う、もしかしたら雲は外にも広がっているかもしれない。ドゥルガさんにも子供がいるんだ。それを踏まえて騎士がどうこうじゃなく、考えて欲しいんだ」


 僕の言葉が予想外だったのか、ドゥルガさんは考え込んでしまった。

 でも、これで良い……現状残ってもらうとしても、それはそれでいいんだ。


「やだ!!」


 部屋の中、一際大きな声で反論をしたのはメルだ。

 

「ゆーりままもなたりあもいっしょがいい!」

「……メル」


 ここから出て行かないでって言う意味だと取れるその言葉は嬉しい。

 まだ小さい子の子達にも納得してもらわないといけないけど……子供たちのため、なんて言ったら彼女たちは納得しないだろう。

 そんな事は分かっている。


「……メル、これは誰かじゃなくてソティルの力を使える僕じゃなきゃダメなんだ」


 こんな事を言ってもまだ幼い彼女には分からないだろう。

 それどころか、突然屋敷から離れたと思えば急に戦いが始まって不安しかないだろう。


「でも、ゆーりままたちはかんけいない!」

「……違うよ? 関係があるんだ」


 僕はただゆっくりと我が子の目を見ながら告げる。


「空を真っ黒にして、魔物を作って皆を困らせてるのは、僕の家族だ……メルとは会ったことが無いけど、メルの家族でもあるんだよ? 怒りに行かなきゃ」


 本当にアイツなのかは分からない。

 可能性としてはかなり低いけど、アイツじゃないかもしれない、だけど……それでも、このリラーグにいた仮面ローブ。

 そしてフォーグに顔を見せていたアンザイキョウヤは同一人物で、僕の知る従兄であるその人だと、直感が告げていた。


「………………ゆーりままのめるのかぞく?」


 その言葉が引っ掛かってくれたのか、先ほどまでは声を張っていた我が子は小さな声で呟いた。


「……悪い事をしたら怒られる。メルは分かってるよね?」

「うん……わかってる」

「大丈夫、いつもみたいにちゃんと帰ってくるよ」


 そう言って僕はメルの頭を撫でる。

 彼女は何時もの様に目を細めたりはせず、不安そうな顔で僕とナタリアを交互に見つめ始め。


「めっしたらかえってくるの?」

「その前には一度戻る、外の面白い物を買って来てやろう」

「ナタリア……旅行じゃないんだから」

「な、良いだろう!? それぐらいは!!」


 本当にメルには甘いなぁ……


「…………」

「メル? 待ってようね?」


 フィーにそう言われたメルは納得はしていないのだろうけど、黙ったままフィーへと抱きついた。

 悪いことをしたよね……全部終わったらいっぱい遊んであげるからね?


「話は以上だよ、二人は良く考えてね」

「お、俺たちは」


 レオさんは慌てた様に立ち上がり、そう言葉にし……僕は静かに首を横に振った。

 戦力的な問題もあるけど、別の理由がある。

 それはナタリアと話していたことだ。


「レオさんたちには別にお願いした事があるんだ」

「お願いしたい事って……お嬢ちゃん一体」


 彼は僕に質問をするが、その問いに答えたのは別の人物で……


「私たち二人で太陽の魔法を教えてやる、それをお前たちがリラーグに広めるんだ……良いな?」


 彼女はレオさんの質問へそう答えた。

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