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158話 日が射した朝

 魔物との戦いの後、目覚めたユーリはメルの様子を見て考えた……

 いくらシア達が居ても残して自分達が戦いに行っても良いのだろうか? と……

 そして彼女は一つの案を思いつき、フィーナへと話そうとしたのだが……彼女もまた同じ想いだったようだ。

 そんな翌日の事――

 翌日、僕は気が付いたことがあった。

 寧ろなんで気が付かなかったのか、その方が疑問だ。

 魔力が大分回復し、動けるようになった僕は空気を入れ替えるために窓へと手を掛けた時だ。

 そこには二日前には見えなかった光景が広がっていて……


「日が射してる……?」

「ん? もしかして、気が付いてなかったの?」


 食事を持ってきてくれたフィーに首を傾げながら机の上に食器を置きつつ、そう言われ気が付かなかったことに少し恥ずかしく思った。

 でもこれって一体……


「う、うん……気が付かなかったよ。もしかしてナタリアの魔法かなにかで?」

「おひさまげんきになったのっ!」


 一晩経って調子は戻ってきたのかメルはぴょんぴょんと跳ねながらそう言い、僕は彼女の頭を撫でると気持ちよさそうに目を細める。


「ナタリーの魔法じゃなくてね?」

「ん? じゃぁ……」


 どうやって?

 あ……そっか。


「フィーが精霊に頼んでくれたんだね」

「そうでもないよ? これはね、デゼルトのお蔭なんだよ?」


 デゼルト?

 でも、あの子は水の龍のはずだ……

 確かに魔物に匹敵する力はあるみたいだけど、あの分厚い雲をどかすことなんて出来るのだろうか?


「気になるなら、会いに行こう」


 僕たちの会話が聞こえたのかそう言いながら、入ってきたナタリア。

 彼女の顔を見るなり、いつも通りメルは近づいて行き……


「めるもいく!」


 ってなにを言い出してるの!?


「メル、外に行くんだから――」

「いや、今ならば問題は無いだろうもし、ことが起きても現状なら打破出来る」

「そんなこと言っても、フィー」


 危ないのには変わりがない、そう思ってフィーの方へと顔を向けると流石は彼女だ頷き分かってくれたみたいで、メルへと近づくと目線を合わせるためにしゃがみ込み、語り掛ける。


「危ないから絶対にママたちから離れたらだめだよ?」

「うんっ!」

「そんなフィーまで……僕だって魔力が回復しきってる訳じゃないんだよ?」


 そんな状態で皆を守れるかどうかなんて分からないんだし……


「なら、お前の魔法を試す良い機会だろう?」


 僕の魔法って……そうか、いやだからと言って……


「心配なのは変わりないよ、それよりもメルはシアさんに――」

「ああ、シアならシュカの出産が長引いたらしくてな今は疲れて眠っている彼女を見ている、安心しろ子供は無事生まれたからな」

「今日はゆっくり休ませてあげようって、ドゥルガも子供たちと街を散策してるんだよ?」


 そうか、そう言うことなら……デゼルトもいるみたいだし、でも……


「絶対に手を離したら駄目だよ?」

「うんっ!」


 そう言って手を伸ばした僕の手は取られず、メルは迷うことなくナタリアの手を取った。

 そこは僕たちだと思ったんだけど、僕ショックだよ?


「え、えっとメル? ユーリママと手を繋がないの?」


 フィーも予想外だったのだろう、困惑しつつ彼女に問うと――


「だってゆーりままもまいごになるよ?」

「そ、そんな……」


 僕は我が子も公認の迷子ですか……





 我が子に言葉と言うナイフを突きつけられた僕は落ち込みつつもフィーの手を取り目的である正門へと向かう。

 勿論デゼルトと僕たちのご飯を持っていくことになったんだけど、僕たちの方はどうやらナタリアが気を利かせてくれていたみたいで出掛ける前にゼファーさんに昼食のサンドイッチを貰って来たから、メルは初めてのお出かけにご満悦だ。


「うわぁぁぁ、おっきいね?」


 門へと着いたメルは目の前に広がる巨大な門へ驚いたのだろうそう声に出し……


「大きいだけじゃないよ、この扉は錬金術師って人たちが作った凄い扉なんだ」


 メルの声を聞いたのだろう、他の兵士たちよりも立派な鎧と剣を持った人がメルにそう教えてくれたんだけど、メルは初めて見る顔の見えない兜に怯えたのだろうナタリアの後ろに隠れてしまった。


「だ、大丈夫だよ? メル怖くないよ?」

「こ、怖がられてしまったかな?」

「す、すみません……」


 僕は慌てて兵士さんに謝った……それにしてもどこかで聞いたような声だなぁ?


「いえ、ユーリ様が頭を下げる必要はありませんよ」


 え? 今僕の名前を……あ、もしかして――

 そう言って彼は兜を外し、その顔があらわになると僕は確信した。

 面影が残るその顔はグリフィンの時妹の為に剣を取り、その後ではクルムさんの恋人になっていた人で……

 名前は……


「え、えっと……」

「そう言えば名乗ったことは無かったですね、改めまして領主シルト様より一部隊を任せていただいております……カロティスと申します」

「は、はい、ユーリと言います」


 思わずつられて答えると彼はにっこりと微笑み。


「っと、邪魔をしてしまいましたね。私も妻の様子を見に行く途中だったので失礼いたします」

「妻ってもしかして、森族(フォーレ)の……?」


 フィーがそう聞くと、彼は恥ずかしそうに頭をかき始め……


「はい、実は……このご時世ですがクルムと一緒になりましてその子供が……」

「そうだったんですか」


 彼は顔を赤くしつつ兜をかぶり……


「では、失礼いたします」


 そう言って去っていった。

 クルムさんも結婚したんだ、あの人には僕は命を救われたんだよね……それに元気なようで良かったよ。


「……メル良く見ておけ? あれがユーリの出した結果だ……」

「ん?」


 ナタリアに名前を呼ばれた気がし、僕が振り向くと……


「なんでもない、早く門を開けてもらおう」

「そ、そうだね」


 確かに呼ばれた気がしたんだけどなぁ……疑問に思いつつも僕は門兵さんに要件を告げ門を開けてもらい……

 そこには僕たちを待っていてくれたのだろう。


『ぐるぐるぐるぐる』


 目が合うなり、喉を鳴らし始めた青い龍がいて――


「デゼルトッ!!」


 僕が名を呼び近づくとデゼルトは以前の様に僕に擦り寄り始めた。


「ちょっ、だからくすぐったいって……」

『ぐるぐる……』

「相変わらずだねー?」


 懐かしくも嬉しく思い僕はデゼルトとじゃれ合っていた。

 本当に生きててくれたんだね……


「おっきなとかげさんだぁ~!」


 そんな声が聞こえ、僕が彼女の方へと振り返るとドラゴンを目の前にして怖がる所かトカゲと呼ぶ我が子は走ってデゼルトへと近づいてきた。

 前に人に危害を加えちゃダメって教えたし大丈夫だよね?


「めるも、めるもとかげさんとあそぶの!」

「いや、これは遊んでる訳じゃ……」


 いやでも、遊んでいるの一環なのだろうか?

 とはいえ、急に走ってきた少女に興味がそそられたのかデゼルトは擦り寄るのを止め、メルの方へと目を向ける。


「だ、大丈夫かな?」

「すぐに威嚇しないから大丈夫だと思う……」


 僕が近くにいるし、デゼルトは警戒しているって感じじゃない。

 もしなにかあってもすぐに止めれば賢いデゼルトは分かってくれるだろう。


「すぐに助けられるよう魔法だけは準備しておかなくてはな……」

「……私と同じようにするのは止めてねー?」


 以前のトラウマが思い浮かんだのだろう、フィーは何故か泣きそう声でナタリアにお願いしてた。

 その間もわくわくしながら、なにかを待つメルと彼女を見つめるデゼルト……暫くその状態が続いたかと思われた時我が子は不意にこちらに向き。


「ゆーりまま、とかげさんあそんでくれない……」


 不満そうな声でそう訴えてきた。


「あ、はは……初めましてだから、ビックリしちゃったのかな?」


 そう言いながら、デゼルトの首を撫でるとようやく龍は動き出しメルの匂いをしきりに嗅ぎ始めた。


「ん~?」


 当の本人は龍がまじかだと言うのに動じる様子は無くゆっくりと手を伸ばし、鼻先を撫で始めてるけど……これって教育上どうなんだろうか?

 デゼルトは確かにおとなしい。

 だけど、実際にドラゴンだし最初は僕たちを襲って来ていた訳で、いやでも龍は怖いんだよって教えるのもデゼルトを前にすると気が引けちゃうし……


『ぐるぐる……』


 そんな僕の考えを知るはずもないデゼルトは鼻先を撫でられご機嫌になったのか喉を鳴らし始め……それが分かったのかメルは――


「かわいいねー?」


 満面の笑みを僕に向けてきた。


「ドラゴンが……可愛いだと?」

「え? デゼルトは可愛いよ? 擦り寄ってくるし、良く喉も鳴らすし賢いんだよ」


 うん、改めてみてもこの子は可愛い。

 メルも可愛いと言ってくているし……なんでナタリアはそんな顔をしているのだろうか?


「ユーリ……一応その子魔物の中では相手にしたくない魔物だよ?」

「そうだけど、フィーは可愛いと思わない?」

「……うーん、他のドラゴンはともかくデゼルトは良い子だし、頭も良いとは思うけど……可愛いのかな?」


 そんな……フィーも可愛いって思ってくれてると思ったのに。


『見た目が見た目ですから、皆さまがそう思われるのも仕方ないのかもしれませんね』


 ソティルまで……


『いえ、私はご主人(ユーリ)様との同調の影響もあり、デゼルト様を可愛いと感じております』


 それって、僕との同調が無かったら可愛いと思わないってことじゃないのかな……


『…………そう、なのでしょうか?』


 ははは……本人にもそこは分からないんだ。


「ともかくユーリ、メルもだ早く外に出よう、先ほどから門兵たちが固まっている」


 ナタリアに言われ僕は彼らへと目を向ける。

 彼女の言った通り、固まって僕たちを見ている兵士が何人もいて……僕なにか間違っているのだろうか?

 確かにドラゴンとじゃれつくのは初めてだと戸惑うかもしれないけど、固まることは無いと思うよ。


 そう思いつつ僕はフィーと手を繋ぎ、門を抜け改めてデゼルトへと目を向ける。

 デゼルトは陽光に照らされまるで青空の様な模様になっていて、依然見た時よりもずっと綺麗だ。


「とかげさん、おそらみたいだねー」


 メルは先ほどのことですっかりデゼルトが気に入ったのだろう、僕たちにそう言い。


「そうだねー? 綺麗だね」


 フィーがそう答えると、自分のことを言われているのだと気が付いたのだろうデゼルトは小さく喉を鳴らす。

 以前よりも大きくなっているデゼルトを見て、僕は改めて龍に声をかけた。


「……おかえり、デゼルト」

『グルッ』

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