表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/210

16話 再会

 森を抜け、無事タリムへと戻ったユーリとフィーナ。

 二人は元々の目的であったハチミツを持ち帰るのを忘れてたことに気がつくが、日が沈んでしまったこともあり、酒場に戻ることにした。

 僕たちが店へと戻ると、意外な人物がそこには居た。

 その人は僕たちの顔を見るなり立ち上がると、人差し指を突き出し一言、言い放った。


「遅いっ!!」

「ナ、ナタリア!? どうやって……」

「ユーリが帰ってくるのが遅いから、ローブを着て、フィーの馬車でやって来ただけだ……一体、いつまで掛かるんだ?」


 いや、貴女が冒険して来いって言ったんじゃないんですか……。

 いや、正しくは手紙で書いてたんじゃないんですか。


「フィーがついておきながら、なんでこんなに遅いんだ?」


 そのフィーナさんは死にかけたわけだけど、彼女を見てみると小刻みに震え耳と尻尾は完全に垂れ下がってしまっている。

 いや、尻尾はくるくると巻かれている……負け犬ムードってやつかな?


「フィー……ナさ、ん?」

「いや、あのさ! あのね? 見たこともないね? 魔物がね? 居たんだよ?」


 うん、言ってることはあってる。

 でも、なんでそこまで焦っているんだ?


「で、でもね? ユーリは無傷だし! ちゃんと言われたとおり魔物も倒したし、遅かったのはかんべ……」

「……………っ! ほ、ほう? ところでフィー……なんで、そんなにボロボロになっている?」


 ナタリアはようやくフィーナさんの姿に気が付いたみたいだけど……よく気がつかなかったなぁ……。

 いや、もしかしてあえて見ないようにしていたとか? そんなまさか……。


「これは……その死にかけて、あは……は」


 彼女はそう言いながらふらっと揺れ始め、倒れかけた。


「フィーナさん!?」


 慌てて体を支えようとするが、彼女一人ならともかく……今、フィーナさんは武器や荷物を少なからず身に着けている。

 当然、僕の力では足りず、一緒に倒れそうになってしまった。


「我が意に従い意志を持て……マテリアルショット」


 だが、すんでのところでナタリアの魔法により僕とフィーナさんは宙へと浮き、ゆっくりと床に着地した。


「なんだ! さっきから楽しそうだな……ってフィー! どうしたんだ!?」


 多少なりとも声は聞こえたのだろう、ゼルさんが店の奥から顔を出し現状を把握すると飛んで来た。


「ゼル、部屋につれてって休ませてやれ……ああ、鎧を脱がさんといけないな、ユーリ鎧を取ってやれ」

「へ? ぼ、僕!?」


 なぜ、僕なんだ!? ナタリアがすれば良いと思うのだが……。


「私はユーリほど力が無い、それに砕けている鎧で怪我をしそうだし、ゼルは男だろう? お前が適任だ」


 僕は元々男なんですが……そこは、良いのだろうか――。

 いや、こっちの世界では女性だけど、いくらなんでも、ねぇ……フィーナさんに申し訳がな――。


「なにをごちゃごちゃ考えてる、そんなことより汚くて冷たく固い床でフィーを寝かせるつもりか?」

「だから、心を読むなって! でも、確かにそうだね、早く横にさせてあげないと」

「…………お前ら、店主の前でよく言えるな。とにかく先に部屋へ運ぶぞ、鎧はその後だ」


 ゼルさんはなにやらブツブツ言っていたが、フィーナさんを部屋まで運んでくれた後、医者を呼びに向かってくれた。

 その後、ナタリアのマテリアルショットで浮かせられた彼女の鎧を外す……とはいえ僕は鎧なんか着たことがない――。

 今日、買った装備も比較的軽い物……所謂。レザーローブとかそんな装備だ。

 なので、ナタリアに教わりながらなんとか外すことに成功し、フィーナさんを休ませることは出来た。

 やはり途中、休憩を挟んだとは言っても無理をしていたのだろう、申し訳なさがこみ上げてきた。


「で、ユーリ……」


 フィーナさんを険しい顔つきで見ながら、ナタリアが僕を呼んだ。


「フィーの鎧や服の現状から見て、フィーが怪我を負ったのは分かる。付いている血も彼女の物だろう? だが、なぜ傷が無い……?」

「それは、実はフィーナさんと一回はぐれて、この本を拾ってさ……そこに、回復魔法が書かれていたんだ……」


 僕は素直に例の白紙だった魔導書をナタリアに手渡した。


「なにか、日本語で僕の名前も書かれてたし、怪しいとは思ったんだけど、使うしか助ける方法が見つからなくて」


 そう言う僕をよそに、ナタリアは本を読んでいる。

 そういえば読めないページがあったけど、ナタリアなら読めるのかな?


「…………ユーリはこれが読めるのか?」

「へ?」


 なにやら難しい顔をしながらそう言ってくるナタリアだが、なにを言っているんだ? まさか、ナタリアが読めないってことは無いだろうに……。


「いや、聞くだけ野暮だったな、読めたのだから使えたのだろうしな」


 本当に何を言っているのだろう、ナタリアは……。

 それは、ともかく他の魔法についても調べておきたい。

 もしかしたら、解毒とかそういう魔法もあるかもしれないし。


「あ、ああ……それで、読めないところがあるんだけど――」

「私には読めん、これはお前専用だ」


 本を押し返され、ナタリアは良く解らないことを言いのけた。


「はい? いや、読めないって、この世界の文字で書かれてるのに?」

「ああ、読めん、私にはそれが、ただ無意味な言葉が書かれている本にしか見えない、魔法の魔の字も無い。それは、古代人が作ったマジックアイテム……アーティファクトだ……簡単に言うと物の形をした魔法そのものだ」


 アーティファクト? アーティファクトってあれか? 神に献上したり、置くとマップが広がったりする、あれなのか?


「まぁ、ここで話すのもなんだ、ユーリが借りている部屋に行こう」

「そうだね、わかった」


 僕は頷き、ナタリアを部屋へと案内すると、彼女はすぐに椅子に座る。

 因みにこの部屋椅子は一つしかない、つまり僕は立ったままだ……。


「さて、まずは……その本の話をする前に聞きたいことがある、なにがあった? フィーは強い……いくら、ユーリを守らなければいけない状況であっても、倒れる子ではない……」

「それは……」


 僕は今日あったことを説明した。

 蜂蜜を採りに森に入ったことから始まり、魔物を倒し順調に進んでいたのに自分の油断で熊に襲われて坂の下に転がってしまったこと。

 本を手に入れた後、精霊に導かれキメラのゾンビに遭遇し、倒したのを全てを丁寧に彼女に伝えた。


「ふむ、合成魔獣……キメラと言ったか?」


 ナタリアは(いぶか)しげな表情をしているけど、そんな魔物は居ないのだろうか?


「僕の世界のゲーム……作り話では良く出てくる魔物だよ……こっちには居ないの?」

「ああ、居ない。少なくとも今日ユーリが目にするまでは、な……それに日の光で消滅する魔物、ゾンビと言うのも居ないな」

「へ? ゾンビも居ないのか!?」

「性質上、物を腐らせる唾液を振りまく魔物は居るが、魔物自体が腐っていると言うのは居ないな……ましてや、死体が動くはず無いだろう?」


 なんと言うか、変な所で現実的な世界だ。


「じゃぁ……僕たちが見たのは新種?」


 ナタリアは僕の言葉に頷く……マジか……。


「しかし、不思議なのは誰が作ったか、というところだな……合成と言うからには作られた物なのだろう?」

「うん、キメラと言う魔物は基本的に実験か、なにかで作られる魔物だよ」


 だからと言って、あんな森の中に誰がどういう理由で解き放ったのだろう? それも疑問の一つだ……。


「所でユーリ……そのキメラ、ゾンビと言ったか? そいつの近くに人は居たか?」

「え? 人? 居なかった。少なくとも僕達以外は……」


 なんで人? と思ったけど、すぐに彼女が言いたい事が分かった。

 彼女は恐らくあの魔物を放ったものが近くに居たのでは? と考えたんだろう。

 暫く黙っていたが、難しい顔のまま口を開く……。


「なにはともあれ、二人とも無事で良かった……ユーリ、フィーを救ってくたことに感謝するよ」

「い、いや……元はと言えば僕の所為だ。もっと、ちゃんと警戒していれば」


 崖下に落ちることは無く、あのまま街に戻って来ていたはず、なんだから……。


「そう、自分を責めるな……ユーリがはぐれたから被害が広がる前に魔物を発見し、倒すことが出来たんじゃないか」


 そうは思えないあの魔物は森の深く……日の当らない場所に居た。

 ゾンビ相手なら日の当る場所なら安全だし避難も出来る。


「ユーリ、そんな顔をせず良く考えてみろ、日の光に弱いと言うのは私みたいに何かを被ったり、影の中を移動したり、夜を移動すれば良いことだ。あの森は街に近い、餌が無くなったら夜に森を出て、街に来ていた可能性だってある」

「…………」


 確かに、日に弱いなら夜に移動できる。

 彼女の語るそのことは分かるんだ……だけど……。


「そうなった時ではもう遅い、抗う術も見つからず、ただ蹂躙されるだけだ。街の者は勿論、フィーもその時に死ぬだろう……だが、今回はユーリがその本を手にし、そのお陰でフィーは助かり、魔物は倒すことが出来た……違うか?」

「そう、だね……」

「なら、それで良いじゃないか、最悪の結果は残らず。結果的に街を救ったのもお前だ」


 それは、いくらなんでも楽観視しすぎじゃないだろうか? 良いほうに考えすぎな気がする。

 だけど、ナタリアの言うとおり、あの魔物が夜中に来たら対処出来ず、次の朝は拝めないだろう。

 ゾンビが存在しないということは、その弱点をその時に探さなければいけないんだから……。

 仮に弱点が分かったとしても、あの魔法が他の人が使えるなら良い。

 でも、ナタリアは僕専用だとさっき言った……。

 つまり、他の人は使えない……襲われてしまったら対処できない。


「ねぇ、ナタリア、この本って一体、なに?」

「さっき言ったとおりだ……古代のマジックアイテムであり、それ自体が強力な魔法だ。普通は武具や道具の形をしているが、本の形をしているのは私は初めて見た」


 彼女は本を指差し、話を続ける。


「そこに書かれている魔法は、ユーリ、恐らくお前しか使えん。なにしろ、私には読むことすら出来んからな」

「じゃぁ、最後のページに日本語で僕の名前があるのはなんでなの?」


 この世界にその文字があるなら解るが、無いのだから当然の疑問だと思う……。


「それは、分からん……アーティファクトは自分の主を選ぶと言うが、その名を刻むと言うのは聞いたことが無い。それに、ユーリの世界の言葉はこちらには当然、無い。なにかしら意味があるのだとは思うが、当人に分からないのでは、お手上げだな」

「そうか……それと後、二つ聞きたいことがあるんだけど……」

「どんなことだ?」

「読めない場所があるんだけど、読もうとすると頭が痛くなるんだ」


 そこに重要な魔法があれば是非とも憶えたいし、この本の魔法が強いっていうのは実証済みだ……だけど、それにはもう一つの問題が関わってくる。


「後、この本の魔法、魔力の消費が激しいみたいなんだけど、魔力は増えないのかな?」

「まず、魔力に関してだ、それは安心しろ、魔法を使い続ければいずれ増える。すぐにと言うのは無理だ、長い年月が必要になってくる」


 なるほど、つまり体力みたいなもので、運動すればするほど体力が徐々に付いていくみたいなものなのかな。


「それと、その本の魔法が魔力の消費が激しいと言うのなら、暫らく多用はせずに切り札だと思っておけ」


 数回使ったら魔力切れで倒れてしまう以上、ここはナタリアの言うことを聞いておいた方が良さそうだ。


「最後に本の魔法については……詳しいことは解らん」

「……分からないことだらけだね」

「言っただろう、見たことが無いと、だが、読めないところはいずれ読めるようになる……とは思う」


 彼女が解らない以上、この本については自分で調べていくしか無さそうだ。

 それに、まだ教えてもらっていない魔法もあるのだし、焦る必要は無い。


「私に解ることはこれぐらいだが、それで良いか?」


 僕はナタリアの言葉に頷く。


「では、フィーの容態が分かるまでユーリも休むと良い」


 容態の予想はつくのだけど……。

 ナタリアは心配だろうし……そうだ。


「どうした? 急に金を数え始めて」


 手元にあるお金は銀貨が九枚……これだけあれば十分、貧血に良いものでも買おう。

 幸い食べ物の見た目と味が全く違うわけじゃないし、効能も似た物があるはずだ。

 それに、ナタリアに聞けばきっと地球の食べ物と、どう違うかが分かるはずだ……多分、きっと。


「ナタリア、ローブを羽織って!」

「ん? だから、どうしたと……」

「フィーナさんのために買い物に行こう!」


 買ってきた物はゼルさんに調理をして貰えば良い。


「いや、フィーは医者に見せてから食事を取らせれば良いだろう? 今は寝ているしな。それに、私がついていく必要があるのか? 昨日、街の中は見たはずだが?」

「…………ま、迷子になるんです」

「……ユーリ」


 ナタリア……そんな残念な人を見るような目で見ないで……。


「…………すまん」

「え? 何か言った?」


 凄い小声でなにかが聞こえたような気がする。


「何でもない、はぁ……分かった。日も落ちている事だ一緒に行こう、はぐれるなよ?」

「うん!」


 僕たちは街に繰り出し、まだやっている店を探すと蜜やほうれん草のような物を買ってきた。

 勿論、効能はナタリアの折り紙つきだし、すぐに効果が出るわけではないが、なにも無いよりマシだろう。

 それと、今日はフィーナさんが心配なのと、遅いのもあり、再び、月夜の花亭で泊まっていくことになった。


「そういえば……ユーリ、その本に名前はあるのか?」


 そんな夜中に、ナタリアが突然そんなことを言った。


「いや、無いと思う……タイトルも書いてないし」

「そうか……では、名も無き本では格好もつかないだろう? その本をソティルとでも名づけると良い」

「ソティル? なにか理由があるの?」


 名前があれば愛着も湧くだろうし、名前があるにこしたことは無いけど……。


「ソティルとは、この世界で医学を発展させた者の名だ。人一人救った、という魔法が書かれている魔導書にはピッタリだろう?」

「なるほど、確かにピッタリだね……ん?」

「どうした?」


 僕が何気なく本を手に取ると、無名だった本の表紙には何か文字が刻まれていた。

 まさか!? と思い、その文字を読もうとすると、やはり頭に流れ込んだ言葉は……今、決めたばかりの本の名――。


「ソ、ティル……」


 そう、書かれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ