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156話 目覚め

 ユーリとナタリアが作った魔法……太陽の魔法は魔物へと効果があった。

 だが、魔物の中に人影が見え、それは魔物を呼び出している様だった……

 それに気が付いたユーリは対処をするものの横から湧き出た魔物の牙を向けられる……

 そんな彼女の窮地を救ったのは……空の様な青だった……

 天へ向けって頭を動かし咆哮を上げる青き龍。

 その龍はたった今、目覚めたばかりだと言うのに主人である女性を救った。


「……殻を破ったの?」


 奇跡としか言いようのない状況で、その奇跡である龍は空へと吠える。


「これがユーリの手懐けた龍か……」

「う、うん……そうだよ?」


 フィーナは友人である女性ナタリアへとそう答える……その時――彼女たちの立つ場所に変化は訪れた。


「これは、日が射しているのか?」


 ゆっくりと……確実に分厚い雲は咆哮に答えたかのように動き始め、暗く光の射さなかった地上には徐々に光が射し始める。


「……これは、いや……まさかな」


 やがて雲はリラーグを避ける様にぽっかりと穴をあけ、街の人々は久しく見ることの出来なかった太陽が顔をのぞかせた。

 それを理解したのか、していないのか龍はゆっくりと顔をユーリ、魔物の順番に向け、(たてがみ)を逆立て威嚇する。


「怒ってるの?」

「恐らくな……」


 彼女たちがそう言葉を交わすと先ほどの魔物は立ち上がろうとしており、フィーナはそれを目にし慌てて声に出す。


「ナタリー!」


 だが……


「なんだ?」


 魔物には俊敏さは失われ、立とうとするもののまるで酒に酔ったようにふらつき倒れ、また立とうとする。

 やがてなんとか立ち上がるも、一向に向かってくる気配は無く……その場にたたずむばかりだ。

 それだけではない、日の射した場所にはどういう訳か魔物たちは足を踏み入れないのだ……


「日を嫌っているのか?」


 ドゥルガの言葉を聞きナタリアは思考する。 

 その間にも、光の中にいる魔物は標的を失ったかのようにふらふらしては立ち止まるを繰り替えす……


「いや、闇の中で初めてまともに活動できるのかもしれん……だから、太陽の光を使うユーリを……」

「そうかあの時、ユーリは魔法で攻撃したから……」


 フィーナの言葉にナタリアは頷き、龍へと顔を向ける。

 そこには首を魔物の集団へと向けるデゼルトの姿があり、龍は徐に息を大きく吸い込み始め――


「――ッ!? フィー! ドゥルガ! 離れるんだ!!」


 ナタリアはそう叫び、すぐに魔法を詠唱し……


「マテリアルショット」


 ユーリを安全と思われる場所まで魔法で誘導する……

 まるでそれを待っていたかのように龍は夕日色の息吹を魔物へと放つ。


「……え? え?」

「ユーリの話では水の息吹だったはずだぞ」


 その様子を見たフィーナとドゥルガは聞いた話と違うことに気づき困惑するも……


「これは……そのまさかか……ユーリめ、またとんでもない龍を手懐けたものだな」

「ナタリーそれって、どういうこと?」


 合点が行ったような女性に対し、フィーナは問い彼女はそれに応えるべくゆっくりと口を動かす。


「神話で大空を作ったとされる龍がいるだろう? 海と風を纏い、空を作り、太陽の光を地上へと降り注がせた龍のことだ」

「エルフ様が作ったとされる原初の王のことか……」


 ドゥルガの言葉にナタリアは頷き話を続ける。


「ああ、そうだ……魔族(ヒューマ)天族(パラモネ)は進化の過程で生まれたが、その龍はお前たちオークや森族(フォーレ)と同じくエルフの子供にして、エターレが作られ最初に作られた龍族の王……アルリドレーク」

「で、でも……デゼルトは水龍のはずだよ? それなんで……原初の龍に?」


 フィーナはそう呟き青き龍へと目を向ける。

 そこには――


「幼体の龍はすべて水龍だとも言われている……恐らく、今は飛べるだろうな」


 雲の様に真っ白な膜を張られた翼がある龍の姿があった。


「さて……魔物どもはこのドラゴンに任せるとして、私たちは大本である魔法使いを叩くぞ、良いな二人とも?」


 息吹の光が収まり……数が減った魔物たちを見て、ユーリの師である魔法使いは詠唱を唱える。


「陽光よ裁きとなりて降り注げ、アルリーランス」


 太陽の槍と名付けられたその魔法は陽光の力を経て、先ほどよりも巨大な槍へと変貌を遂げる。


「さて、自慢の弟子の魔法があってあの威力だった訳だが……これはかき消せるか?」


 声を落とし、黒フードを睨む女性は龍の前に立つ……近寄りがたい雰囲気に気圧されたのだろうドゥルガは普段よりも尻尾の毛を逆立てている森族(フォーレ)の女性へと声をかけた。


「……以前にもまして怒っているようだが?」

「あ、はは……私も気に入らないけど、ユーリが狙われたのに余程怒ってるみたいだね?」

「なにを言っているフィー、怒るのは当然だろうに……愛弟子であり、恩人であり、娘同然のユーリを狙ったんだ……それなりの罰は受けてもらう」

「そうだねー? それなりの罰は必要だと思うよ?」


 その言葉の終わりと共に光の大槍は空より振り落とされ……黒フードは片腕を前にだす。

 だが――


「言っただろう? それなりの罰は受けてもらうと……無駄に魔力を籠めたからな、全部は消せないだろう」


 その言葉は現実となり、槍は前へと出していた右腕をもぎ取った。


「幸運なことにユーリはまだ生きているのでな、命だけは許してやる……失せろ、だが二度目は無いぞ?」


 痛みに悶える黒フードを睨み銀髪の少女ともいえる女性はそう口にする。


「もう一度言う、失せろ……」

「…………っ」


 相手は形勢が逆転したことを悟ったのだろう……驚くほどあっさりと魔物に引きつられ去って行き、ナタリアはそれを確認すると身をひるがえし、先ほど娘と呼んだ女性の元へと向かう。


「ナタリー……」

「傷は負っているが大丈夫だ、魔力切れで気絶をしているのだろう……ユーリなら一日で目を覚まし、自分で治せるはずだ」

『ぐるぐるぐるぐるぐる……』


 戦いの終わりを感じたのか、龍は自身の主を見つめ心配そうに鳴く……


「デゼルト、ユーリは大丈夫だよ? 助けてくれてありがとうね?」

「……三人で魔法使いを仕留めるはずだったのだは無いのか?」


 そんな二人と一匹の姿を見つめるドゥルガはこの日、小さな呟きと共に密かに誓いを立てた……

 ユーリを含む屋敷の女性は怒らせない様にしようと言うことを……






「……んぅ、いっぅ……」


 身体中が痛みで僕は目を覚ます。

 ここは?

 見たこともない部屋だ……

 だけど、そこには見慣れた少女の顔があり、彼女は今にも泣きそうな表情で……


「メル?」

「……ぅぅ……ひっく……」

「メ、メル!? ど、どうし――っぅ」


 泣き始めた我が子を見て慌てて声を上げると再び身体を激痛が襲う。

 そうだ、確か魔物たちと戦って……陽光(ミーテ)を動かした時に僕は魔物に襲われて……あれ、その後……

 まさか――!?


「メ――」

「ふぃーなまま、ぁ、あ……なたり、ぁ、あ……ゆーりままがぁ~~!!」


 僕が不安に駆られ、我が子の名を呼ぼうとした時……メルは二人の名を叫び――外からはその声を聞きつけたのかバタバタと走る音が聞こえ始め……


「ユーリ!? よ、良かったぁ……泣き声が聞こえたから心配したんだよ?」

「大丈夫だと言った手前、メルに泣かれてしまうと不安でな……」


 フィーとナタリアが息を切らしながら部屋へとなだれ込んできた。

 だけど……


「フィー、ナタリア……あの……」


 ドゥルガさんがいない……

 彼がいない状況……すぐに頭に思い浮かんだことがあり、僕は言葉を詰まらせる。


「…………」

「ユーリ、それよりもね?」

「そ、それよりもって……」


 フィーの言葉にショックを受けつつも僕は疑問に思う。

 もし、ことが起きてしまったのだとしても、僕はあの状況からどうやって助かったんだろうか?

 どうして二人は僕だけを心配してるのだろうか? すぐに分かってしまうことだから内緒にしておくことはないだろうし……


「ああ、もうすぐシュカの子供が生まれる……この屋敷には色々足りなくてなドゥルガたちを走らせている所だ……」


 な、なんだ……僕の不安はどうやら思い過ごしだったみたいでほっとしたよ……

 ん? 今なんて……?


「へ?」

「だから、シュカの子共が生まれるんだよ? バルドが珍しく大慌てだよー?」

「ええええええ!? ―――っぅぅ!?」

「ユ、ユーリ、びっくりし過ぎだ。そろそろ時期だろうに、それにまだ魔力が戻り切っていない、ヒールも使えないのに大声を出すんじゃない」

「ぅぅ……」


 そうは、言われても……びっくりするよ……気がついたらいきなりなんだから……


「ゆーりぃまま、ぁだい、じょう……ぶ?」

「だ、大丈夫だよ?」


 泣きながら心配してくれるメルにそう告げ、僕は魔法を唱えようと考えたけどすぐにそれは無理だと判断を下した。

 ナタリアの言う通りヒールを唱えて傷を治そうとしても、恐らく魔法は使えない……使えてもその瞬間に気絶するだろうから意味がない。

 それにしても、シュカもついにか……


「ん? ってことはあの魔物たちは?」

「追い払ったぞ」

「うん、デゼルトのお蔭だねー?」


 デゼルト? 


「……あ」


 僕はその名前を聞き、思い出す。

 気を失うその直前、僕の目に映った光景を……

 そうか、あれは……デゼルトが守ってくれたんだ……

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