154話 我が子に会いに
酒場、龍に抱かれる太陽へと辿り着いたユーリたちはジェネッタたちとの再会を果たす。
フィーナに姉と慕われている彼女はどうやらユーリとの事に気が付いたようで複雑な思いを持っているようで……
そんな中、ユーリたちはナタリアに言われ酒場の三階、子供たちの元へと戻る様に促されたのだった。
「ふぃーなまま、ゆーりままっ!!」
三階へと上がるとずっと待っていてくれたのだろうメルが僕たちに抱きついてきた。
ナタリアの言う通りだった……ぅぅもうちょっと早く帰ってあげれば良かった。
「ただいま、メル」
僕がそう言って頭を撫でると気持ちよさそうに目を細める彼女はそれに満足すると今度はフィーへと抱きつく。
そこで誰かが足りないことに気が付いたのだろう辺りをきょろきょろと見渡し……
「なたりあは?」
「ナタリーは下でちょっとお話してるよ?」
普段だったらすぐに下に行くって言いそうなものなんだけど、メルは僕たちへ目を交互させると……
「すぐにもどってくる?」
「うん、すぐ戻ってくると思うよ」
「じゃぁ……めるまってる」
珍しくメルはそう言うと更にぎゅとフィーに抱きついている……昼間にあった魔法の一件が相当堪えたのかな?
だとしても、いつもより大人しい気がするなぁ……
「おかえりなさいませ」
僕がそう考えていると何時もの様にシアさんが出迎えてくれて、メルを見るなりクスリと笑うと僕たちにそっと耳打ちをしてくる。
「いい子にしてたらすぐに皆さまが戻ってくるっと言っておいたんですよ」
「そうだったんだ……」
「なるほど~、だから待ってるって言ったんだね?」
流石はシアさんだって言いたい所だけど、メルに寂しい思いをさせてしまった……
「……ん?」
申し訳なさが込み上げて来て僕はフィーに抱きつくメルの頭を再び撫でると、今度は僕の方に抱きついてきた。
「なんか、きょうはゆーりままとふぃーなままがやさしいよ?」
「「…………」」
僕たち普段そんなに怒ってないよ?
と言うか今日はって……なんかすごい悲しくなってきたよ……
「ユ、ユーリ様にフィーはメアルリース様のことを思ってるんですよ?」
「でも、いつもおこる」
いつも、なの?
「ユーリィ……」
フィーが悲しそうな声で僕の名を呼び、なにを言いたいのか大体分ってしまった僕は彼女と一緒にがっくりと項垂れながら答えた。
「うん、僕もだよフィー……」
優しくしているつもりなのに、子供には伝わらないものなのだろうか……と言うかナタリアの様に甘くすれば……でもそれだと危ない時にも言ってあげれないし……
ぅぅ……僕たちはメルに嫌われてしまっているのだろうか?
「メ、メアルリース様? お二人が――」
「でも、めるはゆーりままもふぃーなままもだいすきだよ」
「落ち込んで……」
項垂れる理由を知ってか知らずかメルの声ははっきりと聞え、その一言だけで先ほどまでの気持ちが取り除かれた気がした。
「私もだよ? ね、ユーリ?」
「うん、僕もメルのこと大好きだよ」
ああ、親バカなのかもしれないけど、この子には僕たちは敵いそうもないなぁ……
「羨ましいものだな……」
メルの告白に二人してにやけていると巨漢の男性から心底羨ましそうな声が聞こえ……僕は彼の方へと顔を向ける。
「ドゥルガ……?」
「ああ、そういえば俺は言われたことが無い気がしてな」
ドゥルガさんは若干気を落としてしまったような声で呟き、それに対しシアさんは小さく笑うと……
「……面と向かっては言いづらいみたいだけど、私にはよく言ってますよ?」
「そ、そうか……」
そう伝えられ、彼の声も若干上ずっていた。
僕たちだけではなく、ドゥルガさんたちも我が子の前には敵いはしなさそうだ……
でも、この世界ではこの子たちは無事育つのだろうか?
分厚い雲に覆われ陽の光もなく、作物はやっと……物価も高いはずだ。
「…………」
「ユーリ、どうかしたのか」
いや、先のことは僕たちでなんとかするんだ。
この子たちだけじゃない、シュカの子だってそうだ……この五年で生まれた子たちは他にもいるだろう。
その為に僕たちは自分たちを隠し、魔法を作ったんだ。
「いや、なんでもないよ」
相変わらず僕の魔法は攻撃には向かない。
だけど、今は魔法が得意であるナタリアがいる……仲間だって屋敷の人たちだけじゃなくこの街にも集まっていた。
一人じゃないならきっと出来るはずだ。
「なたりあまだかなー」
「もうちょっと待とうね?」
「ナタリアが帰ってきたらご飯にしようか、ゼファーさんの料理美味しいんだよ?」
そんな何気ない会話をしていた時だ。
以前聞いた事のある鐘の音がけたたましく鳴り響く――
「――ッ!!」
「この音前に……」
その音は収まるどころか鳴り続けている。
「なに? こわい……」
メルは初めて聞いたこの音に怖がり僕の服をしっかりと掴む。
「ユーリ様……」
「うん、行ってくるよ……メルちょっとお仕事に行ってくるね?」
不安そうに見上げる彼女にそっと声をかける。
メルは僕をじっと見つめ、やがて手を離すとシアさんの方へと駆け寄って行ってこちらを振り向くと……
「いいこにしてたら、すぐにもどってくる?」
「うん、戻ってくるよ」
「だからちゃんと良い子にしてるんだよー?」
フィーには残ってもらった方が良いのだろうか? だけど、僕のあの魔法について知ってるのは彼女だけだ。
特に難しいことではないにしても、慣れている彼女の方が扱いが上手いだろう。
「俺も行こう……ついでに店主へ食事の準備を頼んでおく、シア今日はゆっくりとしていろ」
「はい、行ってらっしゃい……ユーリ様、フィー……ドゥルガをお願いいたします」
「分ってるよー?」
シアさんに子供たちを託し、僕たちは再び二階へと向かう。
急いでナタリアの元に行くと彼女は僕たちの方へと顔を向け、真剣な表情を作る。
「その様子だと鐘は聞こえたようだな」
「聞こえたよ……急ごう!」
「無理は……しないでください」
ジェネッタさんは心配してくれているのだろう、僕たちは頷き屋敷から外に出ると鐘の音の方へと急ぐ。
その先には大きな門が見えて来て、あの先には……
「デゼルト……っ!!」
そう僕たちの大事な仲間であるデゼルトが眠っている場所だ。
門へと駆けつけると話は通っていたのだろう、門兵さんたちはすぐに門を開けてくれ、開けた視界の向こう……遠くには魔物たちの姿が見え――
その魔物たちはゆっくりと確実にこちらへと向かってきている。
凄い数だ……
「この頃守り神のお蔭で来なかったのに一体どうして!!」
僕たちの後ろから聞こえる門兵たちの悲痛な叫びを聞き、そういえばクロネコさんが魔除けの香を焚いてくれていたって話を聞いたっけ?
今まで近づいてなかったって事は効いていたはず……なんで急に……
「どうやら臭いに慣れてしまったようだな……」
「に、臭いに慣れるってナタリー今までそんな魔物……」
「だが、そうとしか考えられん、奴らは未知の魔物だぞ? それぐらい適応性があってもおかしくは無い」
確かにナタリアの言う通りだ……
普通の魔法にも耐性があるんだから、今までの常識と言うのは通じないんだろう。
「さて、ユーリ――あれが効くかどうかは本番での勝負と言ったところだが、準備は良いか?」
「勿論だよ、今は信じて使うしかない」
僕とナタリアで作った魔法を……
大丈夫だ……あの魔物たちが僕が考えた通りなら弱点は必ずある。
「フィー、ドゥルガさん前をお願い、ナタリアは安全な所からの魔法を!」
「うん、任せてね?」
フィーはダイヤの剣を鞘から解き放ち、真剣な表情を作るといつも通りの返事を返してくれた。
「分っている……」
ドゥルガさんも斧を手に取り、巨体を揺らしながら前へと立つ。
「さぁ、始めるとしよう」
ナタリアはその場から動かず、右腕だけを魔物へと向ける……
先ほどまではゆっくりと向かって来ていた魔物たちも僕たちが戦う意志を見せると走り出してきた。
以前なら、ナタリアの魔法でさえ何発も必要だった。
だけど……今ならきっと!!
「万物の根源たる魔力よ、剣に宿りて力を示せ……」
僕は以前フィーに見せた魔法の詠唱を紡ぎ――
「陽光よ裁きとなりて降り注げ……」
ナタリアは魔物に対して使うのは初めてとなる魔法を紡ぐ……
「エンチャント!!」
「アルリーランス」
二人の武器が光に包まれるのと共にナタリアの言葉で彼女の手に現れた光の槍が放たれる……
光を掻い潜り、剣と斧を振りかざし魔物へと向かって行く二人がいて……魔法が当たってしまうのではないかとハラハラする。
だけど、そこはナタリアだなんとかしてくれるだろう。
後はこの魔法が効くかどうかなんだ……
光に包まれた空間を目を細めながら見つめ僕は詠唱を唱えながら祈る。
「魔力の障壁よ、牙を防げ!!」
魔法が魔物に対し、効果があることを……




