プロローグ9
ユーリとフィーナの間に生まれた子供。
彼女には「メアルリース」と言う名が付けられた。
屋敷という狭い世界で過ごす事になったユーリたちにとってメアルリースとシアの子供たちは生きる希望となっていた……
それから年月は過ぎ……
僕の娘が生まれ五年……屋敷の中は慌ただしく、皆は荷物をまとめている。
僕たちは今日ようやくリラーグへと発つ。
転移魔法を使う際に足りない魔力に関しては僕の魔力を分け与えることで解決したし、子供たちに関しては抱きかかえながら移動することに決まった。
手を繋いでいても万が一振り払ってどこか行ってしまわない様にと考えてだ。
特にメアルリース。
あの子はなにかにすぐ興味を持つから危ないとナタリアが心配していたよ……
というか、あれからナタリアは彼女にべったりだ。
本人曰く。
「本来なら私の孫だ。可愛いのは当然だろう?」
と言っていたけど、可愛がり方が尋常じゃないんだよね……
例えばシアさんに怒られていた時だ。
今は食料が貴重で、それでもシアさんは子供たちの料理には気を使ってくれていて多めにしてくれていたんだ。
とはいえまだ小さい彼女たちはお腹が空く。
そこで三人はそろってつまみ食いをし、あらかた食べつくしてしまった。
当然、自分の子たちも含め怒っていた彼女の元に来たナタリアは……
「そんなに怒ることは無いだろう? メルたちはまだ子供だ腹も空く……なに、私たちはスープだけで我慢すればいい」
後でシアさんから聞いた話だと……
「ナタリア様はメアルリース様に抱きつきながらそうおっしゃられておりました……私としては子は勿論ですが、狩りや畑仕事をしてくれる皆様にも食べていただきたいんです。でなければ皆飢えてしまいます」
それを聞いた僕とフィーは当然のことだし、ナタリアに対し直談判をしに行く結果になった訳で……
いつもであれば、冷静な彼女が……
「し、しかしだな? まだ小さい子供が……」
「お腹を空かせてるのは分ってるよ? でも、狩りに行けなくなったら少しでも食べさせることが出来ない、畑だって耕す力が無くなっちゃうよ?」
「フィーの言う通り、魔法で食べ物は生み出せないよ……」
「うぐ……そ、それは……」
っとしどろもどろだった。
それだけじゃない、刀剣を持ったチャンバラごっこ。
あれはドゥルガさんの子供の一人が慌てて僕を呼びに来たんだ。
駆けつけ慌てて止めた僕に対してナタリアは……
「ただの遊びだ良いじゃないか、将来に役に立つユーリより扱えているぞ?」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!? 本物の剣を使ってやる遊びがどこにあるの!?」
子供たちは無事だったけど、下手をしたら怪我じゃ済まないことは分っているはずなのに彼女はなぜかその光景をのんびりと見ていた。
後でナタリアはフィーとシアさんにも怒られてたし……
なんというか、子供のすること……特にメアルリース……メルがすることは何でも許してしまう人になっていた。
だからこそ、今回の転移に関してはナタリアも慎重になってくれたのは助かるけど……そんな準備をしている中だ。
「ユーリ様!!」
息を切らしたシアさんが僕の名を呼び――
「どうしたの?」
「メ、メアルリース様が何処にもいません! 私の子供と一緒に部屋にいたはずなんですが、三人ともいないんです」
泣きそうな顔でそう叫んだ……




