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147話 対抗魔法

 トーナとタリムの崩壊、ゼルの危機……

 ユーリたちは急いでタリムへと戻ろうとナタリアに告げるも結界の中に閉じ込められた。

 相手の数も力量も対策さえもまともに分からない以上、危険だというナタリアの言葉にユーリは納得をせざる終えなかった。

 だが、そんな彼女はある事を思い出し……一つの対抗策となるかもしれない魔法を提案した。

 神聖魔法……今は僅か過ぎる希望でしかないそれを口にしたユーリはフィーナへと屋敷に留まる様に願うのだった……

 あの後、僕とフィーはその場で泣き明かした……

 寧ろ僕が慰められる形になってしまい、情けなかった。

 だけど、フィーに死んでほしくない、そんな僕のわがままは聞いてもらえたのか彼女はシアさんに連れられて僕の部屋へと向かって行った。


「すまないな、ユーリ……」


 そう呟くのは勿論ナタリアだ。


「ナタリアの所為ではないよ……でも、やっぱり辛いよ……」

「……知人が死んだんだ。それが普通の反応だ」


 そう言うナタリアの声は微かに震えていて……


「でも、僕も皆もまだ見たわけじゃない……生きている可能性はあるかもしれない、生きてれば助けられるんだ……」


 そうだ、この目で見たわけじゃないんだ。

 情報を吐き出させるために生かされている可能性だってあるんだ……

 こっちが黒の本の情報が欲しいのと同時に相手はソティルの情報が欲しいに決まっている。

 あの場所に来たと言うことは恐らくは先にソティルを倒そうと考えたに違いない。


「……そうだな、それで?」

「……それで? って……」


 ナタリアが呆れた表情をしてるけど、僕はなにかしてしまったのだろうか?


「お前が言ったんだろう? 神聖魔法を作るとそれは一体どんな魔法なんだ?」

「あ、うんそれなんだけど――」


 僕が答えようとするとナタリアは手で制してきて、すぐに口を動かす。


「あ、いや……その前にここで話す必要はない、一旦私の部屋に行こうユーリの部屋ではフィーが休んでいる。暫くは私の顔は見たくないかもしれん」

「そ、そうだね」


 こればっかりはフィーに限ってナタリアが嫌いになる事は何て言えない……同時に僕の事もだけど……


「シア、暫くユーリと話す……フィーのことは任せたぞ」

「かしこまりました、ナタリア様」


 ナタリアは一旦シアさんへと向けた顔を僕へ戻すと一言「ついてこいと」だけ言い、歩き出す。

 僕は彼女について行き、部屋に入ると椅子を勧められた。


「……それで、いったいどんな魔法なんだ?」

「……うん、簡単に言うと呪いとソティルの魔法だよ」


 そう言うとナタリアは盛大な溜息をつき、呆れた顔を僕に向けた。


「だから、ソティルは――」

「呪いはソティルでしか解けない」

「ん? まぁそのお陰で私は助かったな、だがソティルはお前の魔法だ。他の者には到底扱えん」


 それは知っている……

 なんて言ったって僕が譲渡するって決めない限りソティルはその人に従わないし、その人が使えるほどの魔力が無ければ意味がない。


「それは分っているよ、でもこの世界にも属性があるでしょ? 火とか水とか……氷狼(グラヴォール)と戦った時には火の精霊の力を借りた」

「ああ、火は氷を解かす、同時に水になれば火は消される、木々は火で燃えるし、水を得て成長する……だがそれがどうした? 自然の現象でしかない」


 そうただの自然現象。

 だけどそれは理に適っていて特定の条件じゃなければ覆されることは無い。

 例えば雷だ。

 水に通りやすい性質を持っているって言われるけど実際は微妙に違う。

 海水なら通りやすく、真水なら抵抗するといった様に全く逆になる事もある。

 だけど……少なくともゾンビに関しては違うはずだ。

 僕達(僕とソティル)の魔法で倒されたと言う事は物語の条件を無意識のうちに他の魔物にも適用しているはず……


「あの魔物たちには恐らく属性があるんだ」

「魔物に属性? 火を噴く魔物とかは確かにいるが……それが神聖魔法と関係があるのか?」

「うん、トーナにいた魔物は闇の属性を持ってるからナタリアの水の魔法である水大槍(ウォータージャベリン)を耐えたんだと思う、恐らくだけどアイツは無意識のうちにゲームで培った知識を魔物に適応している……それなら、こっちも神聖魔法を作れば……」

「だが、神聖魔法とはソティルの魔法なんだろう?」


 今の所あるとしたら確かにソティルの魔法だけだ。

 だけど、ソティルが僕の矢撃ち(マテリアルショット)から射撃(スナイプ・アロウ)を作った様にその逆も出来るはずだ。


「だから、今から作る……神聖魔法って言うのは一般的に光の魔法、陽光で攻撃したりとか仲間を守ったりするんだ」

「ふむ……」

「主に補助の魔法が多い、だけど火以外で唯一ゾンビに対して有効だったりするんだ……そして闇と対になるからこそ、弱点でもある」

「つまりだ……光の魔法といった所か?」

「え?」


 光の魔法? そうなるけど……でも、確か光ってルクスしかなかったような。


「闇の魔法はこの世界にもあり、バルドが得意としている、先ほどバルドの事を言っていたと言う事から見たことはあるだろう?」

「うん、凄い魔法だったよ」

「だが、光は今までルクス以外存在しなかった……」


 やっぱり、そうなんだ……

 もし知ってるならナタリアが教えてくれないと言うことは無いだろう。


「フィーから聞いたがユーリの使うルクス・ミーテだったか? あれとは随分と違うものだしな」

「無理、そうかな?」

「そうは言っていない、今までどう作って良いのか分からなかったと言うだけだ……だが、聞いた話ではそのミーテと言う魔法はユーリが使う他の物と似ているのかもしれんな」


 僕が使うって事はソティルの魔法に似たような物ってことだよね?

 うーん、支援魔法って意外になにかあったかな……


「……自覚が無いのか? 解呪だ、あの魔法も陽だまりの様な魔法だろう?」

「確かに温かかったけど……」


 ん? でもよくよく考えればミーテのゾンビを倒すって事は不死の呪いを解くって事だよね?

 解呪にしても特定の呪いを解くって事だし……


「なら、やっぱりソティルの魔法を元にすれば――!」

「出来るかもしれないな……光、いや太陽の魔法がな」


 彼女は自身に満ち溢れた笑みを見せそう言葉にした。

 その姿はとても頼もしく、なんだか安心が出来る……


「ユーリ……それとは別に大事な話があるんだ、良く聞け――」

「……え?」


 だけど、彼女はすぐに表情を引き締めると部屋には他に誰も居ないと言うのに僕に耳打ちをしてきた。

 その内容は……


「そんな……」


 僕は信じたくない物だった――


「まだ時間はある……大切にな」

「分かった……でも方法がない訳じゃないよね?」


 僕の言葉に彼女は首を縦に振り……


「運命とは果てしない努力や最悪の状態から変わる……無いとは言い切らん」


 僕と出会った時のナタリアが言った言葉を彼女は再び口にした。

 そうだ、彼女は最悪の状況を避けるために僕を連れて来てその結果が今だ……うん、そうだよね決めつけるのはまだ……早い。






 ナタリアとの話の後、僕は部屋の前まで送ってもらった。

 部屋の中からはフィーのすすり泣く声が聞こえ……


「私より、お前の方が良いだろう……頼んだぞ」


 ナタリアはそう言うと部屋の前から去って行ってしまった。

 確かに僕はさっきまだ本当にそうと決まった訳じゃないと言った。

 だけど……ゼルさんが生きているかは分からない。

 フィーが感じた嫌な予感と言うのはそれのことなんだろうか?

 今の彼女になんて声を掛けたら良いのか分からなくて……でも、一人にはしたくないそう思って僕は自身の部屋の扉を叩いた。


「…………ユーリ?」


 しばらくの沈黙の後、僕の名を呼ぶのが聞こえ……僕は扉越しに声をかける。


「フィー……入るよ?」


 そう言って暫く待つ……もしかしたら、見られたくないかもしれないし……それなら駄目って言われるはずだ。

 だけど、フィーはなにも言わず……僕はゆっくりと扉を開けた。


 部屋の中のランプは僕が戻ってきた時の為なのだろうか? 火が灯っていて、それに照らされたフィーの顔……瞳は赤くなっていた。


「……えっと、その……話は終わったの?」

「うん……」

「それじゃぁ寝ようかー?」


 いつも通りを装っているのだろうか?

 フィーは声を震わせながら、そう言葉にし……


「ユーリ?」


 僕に皆を守り切れる力があれば……ナタリアを説得してすぐにでもタリムに行けるのに……

 黒の本の対処さえ分っていたら、あの洞窟の中でキョウヤだと分かり彼を止めれていたら……フィーは悲しまずに済んだんだ……


「……ごめん」


 僕はそう一言だけ呟くと、彼女を抱きしめた……


「ユ、ユーリ? 苦しい、よ……?」

「ごめん……フィー……ごめん……」

「ユーリの所為じゃないよ? だから……ね?」


 フィーはそう言いながら再び涙がこみ上げてきたのだろう、次第に泣きじゃくり始め……

 僕はそんな彼女を抱きしめながら……心の中に決めた。

 絶対に対抗策である魔法を作ることと……そして、もう止めれないのであれば迷わない。

 僕はユーリ・リュミレイユ(この世界の人間)なんだ……

 守りたいモノを……護りたい人たちがいる。

 大事な人たちの為に僕とソティルの力を使うんだ……っ!!


 呪いも……黒の本も消し去る。

 もう誰一人として傷つけさせない……

 そう誓いを自分に立て、フィーの頭を撫でる。


「おじ、さん……が、ゆーりぃ……」

「…………」


 その日フィーは泣き疲れるまで泣いていて……僕はただ彼女の傍にいて……ゼルさんが無事でいる事を祈る事しか……出来なかった。

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