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146話 森を抜けタリムへ

 トーナに残っていた石板。

 そこに書かれていたのは黒い本は呪いを集め蓄えるとの事だった……

 やっと見つけた手掛かりを手にユーリたちはタリムへと急ぐ――

 森を抜け暫くすればタリムの街が見えてくるはずだっと……

 やっとここまで戻ってきた……

 森の中、フィーの足が速くなり僕はタリムが近いことを悟った。

 殆ど走る様に森を抜け、街へと急いだ僕たちの目の前には夕方だと言うのに暗い街並みが広がっていた……

 雨でも降るのだろうか? そんな事を考えていると――


「……え?」


 どこか呆けたような声が聞こえ……

 僕はその理由はすぐに分かってしまった……いや、寧ろ分かってたのに見ないふりをしていたと言った方が良いかもしれない。


「あれって……どういうこと?」


 遠目に見ても嘗て僕が感動した街は無く……ここから見える街並みには黒い物が目立つのが分かった。

 もう黒煙は上がってはいないが恐らくは焼け焦げた後だろう、それだけじゃない……僕たちが街に近づいて行くとやがて聞こえてきたのは活気あふれる生活の音ではなく、魔物の遠吠えの様なものだ。


「…………あれは……先ほどの魔物か? 見えるだけでも厄介な数だな」


 ナタリアはその場から街の中をのぞき込むとそう言ってきた。

 僕も彼女と同じように街の中へと目を向けると確かにトーナに居た様な魔物が見える。

 でも、それじゃリーチェさんとかは? それになんで……なんで街の中に魔物が入り込んで……


「一旦屋敷に行こう」

「で、でも、おじさんもリーチェも助けないと!」

「そうだよ、魔物を避けて通る手段ならあるんだ……それで透明になれば」


 透明化の魔法で侵入すれば僕たちは見つからない。

 それなら中の様子を見て来ることは十分に可能のはず……


「駄目だ、奴らの嗅覚が優れていたらどうする? それに安心しろと言ったろう? 良いか、屋敷に戻るんだ」

「あ……そうだったね……」


 そうか、ナタリアはもしもの時を考えて手紙を出してくれていたんだっけ?

 彼女自身は言ってなかったような気もするけどリーチェさんにも手紙を出しているんじゃないだろうか?

 それなら、彼女も屋敷にいるかもしれない……

 街の人たちのことは気になるけど、確かに三人で魔物の群れの中へと飛び込むのは自殺行為だ……


「ユーリ、万が一のことを考えてその魔物を避ける手段を今使うんだ、それと逸れないように対処をしておけ、分かったか?」

「分かった、すぐに使うよ」


 僕は頷くと以前買ったロープを自身へと巻き付けると片方をフィーへと持ってもらい、魔法の詠唱を唱え――


「クリアトランス」


 僕たち三人に魔法をかける。

 すぐに効果の現れた魔法は僕たちを包み込むと辺りの景色に溶け込む様に体の色が消えていく……

 問題なく魔法は発動したみたいだ。


「では、屋敷に行こう……」

「分かったよ?」


 フィーの声が聞こえ、僕を繋いでいるロープがゆっくりと動くのが分かった。

 街ではなく、ちゃんと屋敷へと向かっているみたいだ。


「ユーリもちゃんといるな?」

「大丈夫、いるよ……」


 ナタリアの声に答え、僕たちはゆっくりと向かって行く。

 途中何度か確かめる様にナタリアの声が聞こえ……


 暫く歩いた所で僕たちは再び目の前の景色に呆然とした。


「ナタリー!」

「なんだ?」

「ナタリア、なんだ? じゃないよこれ……」


 屋敷が焼け焦げている……。


「ああ、そうだな焦げているな?」


 彼女は何でもないかのように答えると再び声が聞こえてきた。


「ほら、急がないと夜になってしまう」


 その声は少し向こう側で聞こえてきていて……


「ナタリー? どういうことなの?」

「あれは幻惑魔法だ、あらかじめ屋敷の前に焼け焦げた屋敷が見える様にして置いたんだ」

「幻惑? じゃぁ本物の屋敷は」


 というかここまで隠す必要はあるのかな? うーん……


「問題ないちゃんとある」


 ナタリアはそんな事を言いつつ進んで行く……でも、どんどん進んで行ってる気がするし、こんなに歩いたっけ?

 日は沈んじゃったし……それに屋敷の周りには林があった気がするけど、森になってるような?


「ナ、ナタリー? 屋敷ってこんなに遠かったっけ? それに森なんてなかったような……」


 フィーも同じことを感じたんだろう、ナタリアへと質問をし……


「ここらへんで大丈夫か、ユーリ魔法を解け」

「え? う、うん」


 フィーの質問に答えないナタリアに疑問を浮かべつつも僕は魔法を解く。

 するとそこにいたのは、どこか誇らしげな表情を浮かべている女性……ナタリアがいて――


「仮面がお前たちと関係があることを警戒し、私が作った結界魔法だ……朝に使った魔法とは違い、こちらは中にいる人間の魔力で結界が濃くなるという代物なんだ」

「そうなんだ? でも……私たちも入れないみたいだよ?」

「うん……すごいけど入れないね……」


 中にいるってことはバルドたちやメイドさんたちの魔力で結界が出来ているってことだよね?


「ああ、バルドとシアが中心になって結界は作ってある。効果は見ての通り、ユーリは勿論だが、私より魔力が低くてもこの効果だ」


 うん、ナタリアには相当な自慢の魔法らしく胸を張っているけど、問題は――


「ナタリー、入れないねー?」

「ナタリア、入れないよ?」

「まぁ、慌てるな――」


 彼女はそう言うと息を吸い込み……空へと向かって声を上げる。


「シア! 聞こえているか? 今戻った、扉を開けてくれ」


 森の中に響くのはナタリアの声だけで……

 暫くの間、沈黙は続いたかと思うと、目の前の景色が急に歪み初め僕たちの前には見慣れた塀が現れた。


「や、屋敷が目の前に!?」

「あ、あれ? かなり歩いたと思ったのに?」

「さ、入ろう」


 フィーの言う通りかなり歩いていたはずだ。

 なのに、日は傾いたままで沈んでいない……さっきまでは沈んでいたはずだ。

 疑問を浮かべつつも僕とフィーは屋敷の中へと入り……


「おかえりなさいませ、ナタリア様、ユーリ様、フィーご無事でなりよりです」

「心配かけたなシア」


 いつも通りのシアさんがそこにいて……


「戻して良いぞ」

「かしこまりました、結界を再び展開いたします」


 彼女は布を取り出すと、それに向け右手を向ける。

 恐らくはあれがナタリアの作ったマジックアイテムで結界の正体なんだろう。


「さて、種明かしだ……あれには結界に侵入する者に方向感覚を狂わす魔法と時間経過を感じさせる魔法を含めている」

「つまり、僕たちは屋敷の前でぐるぐる回ってたってこと?」

「そうだ、屋敷に近づけば近づくほどその場で歩き続けている感覚に襲われる、そしてそれがとても長い時間に感じ脳が陽が沈んだと錯覚させるんだ」


 なんか、さらっと言ってるけど……。


「凄い、魔法だねー?」

「ああ、そしてこの魔法は確かに結界魔法ではある、だが実際には転移魔法を応用どの世界にも認識されない様にしている」

「…………つまり、屋敷ごと異世界っていうか異次元に持ってきたって事!? でも、なんでそこま――」

「フィーナ! ユーリ!」

「「ふぁ!?」」


 僕が質問をしようとした所聞きなれた声が聞こえ僕とフィーはそっちへと顔を向ける。

 そこには先日まで一緒に旅をしていた仲間であるリーチェさんがいて……


「呼び出されてこっちに来たらタリムが焼けたって聞いて心配してたんだよ、それよりも武器が壊れたって本当!? 全くすぐにフィーは壊す……ってあれ?」


 彼女はそう言う理由で呼び出されたのか、でもフィーの武器も僕の武器も壊れてはいない。

 そのことに気が付いたみたいで首を傾げる彼女は屋敷の主であるナタリアへと顔を向け……


「その方が飛んでくると思ってな」


 堂々と嘘を暴露した!?


「あ、あのねぇ……」


 でも、この様子ならゼルさんも……


「ってあれ? ゼルさんは?」


 帰ってきたらすぐに来そうなのに……


「……ゼル様は屋敷に来ておられません、ギリギリまで待ったのですがこれ以上は危険と判断し結界を張りました」

「やはりか、あの馬鹿が……」

「ナタリー? でも、手紙を出したって……」


 確かにそう言っていた。

 だからここにいると思っていたのに……


「手紙は出した、だが同時に来るとも思っていなかった……付き合いが長い分、嘘は通じんからな……奴は恐らくタリムに残っていたんだろうな」

「じゃぁ……」

「……残念だが、あの様子では――」

「――――っ!?」

「フィー!?」


 その言葉を聞きフィーは屋敷の扉を開け、外へと走って行き。

 追いかけようとした僕は追いつけず彼女は塀の外へと出て行ってしまった。

 そんな……一人じゃ無謀だよ!?


「安心しろユーリ」

「安心ってフィー一人じゃ!」

「ちゃんとに戻ってくる」


 へ?

 ナタリアの言葉のすぐ後で先ほど駆けて行ったフィーは再び塀の中へと駆け戻ってきて、彼女はそのつもりはなかったのか辺りを見渡している。

 すると再び身をひるがえし、外へと向かおうとし……


「無駄だ!! 先ほどユーリも言ったようにここは異次元だ、どの世界にも繋がっていない。何処に行こうと行きつく先は此処しかない!!」


 彼女の方を向かないままナタリアは声を張り上げた……


「でも、おじさんが!!」

「無理だ! トーナでの魔物を見ただろう!!」


 トーナの魔物? あの村の周りから出れなかった魔物のことなのは分かるけど、それがどうしたというのだろうか?


「あれなら外から撃てば」

「あの魔物は私の魔法で何度立ち上がった!!」


 彼女は声を張り上げたまま、答える。

 確かにそうだ……あの魔物は僕だけでなくナタリアの魔法を受けても立ち上がって来ていた。

 だけど……


「フィーの剣の腕なら……それに僕の補助だってあるよ? バルドだってすごい魔法を……」

「確かにお前たちはゼル自慢の冒険者だ、並みの冒険者では倒せんだろうあの魔物でさえ倒せる……協力すればな、だが私が入った所であの数を相手に出来るのか? タリムは広い、どこに魔物が潜んでいるかも分からん」


 ナタリアが言っている事は分かる……

 そして、彼女の言う通り……数が多ければ当然、戦いは辛いものになるしもしかしたらって事にもなる。

 それでも納得しろと言われて出来るものでもない、それが分かっているのか彼女は言葉を続けた。


「そして、他の魔物がいる可能性だ。その魔物がユーリの魔法しか対抗策が無かったらどうする! タリムを落としたのが仮面で本当に黒の本の持ち主の仕業だとしたら体力、魔力、精神を使い果たし、奴を沈黙させられると言うのか! 知識ある人間は魔物よりも厄介だぞ!!」

「でも、それもユーリがいれば!」

「彼女は確かに私たちにない発想と考えで対抗策を練れるだろう! だが、相手も同じだと言うことを忘れるな!! 事実、あの蛇女もトーナの魔物の死体も私が知らない魔物で作られた物なんだぞ!」

「――そんなっ!!」


 フィーは声を上げたけど、僕には分かるナタリアが言った同じっていうのは……恐らく僕と仮面が別世界から来たということだろう。

 彼女の言う通りダイヤの知識にしたってメデューサやキメラもこの世界にはなかったことだ。

 だからこそ僕が自然に考えていたゾンビには神聖魔法か炎、陽の光などの対処法はナタリアたちには想像もつかなかったこと……そんなものいない世界だったから……分かりもしないことだ。

 でも、だからと言って……


「「放っておくなんて出来ないよ!!」」

「……だから、なにもするなとは一切言っていない、ここで無駄死にするなっと言っているんだ!! ゼルは恐らくお前たちの情報を消しただろう、アイツが作った時間を無駄にするな」

「…………でも、おじさんは……」


 フィーは幼い頃からゼルさんを知っていて、師匠でもある……

 そんな人が危険な目に遭っているかもしれないって言うのにじっとしていろって言うのが無理だよね。


「それに急がないとマリーさんも……」

「安心しろ、マリーにならリラーグへ登れと伝えてある。あいつのことだ馬鹿なことはしない」

「それだってリラーグだって安全とは……」

「もうすでに仮面がいるであろうタリムでは使えんと判断したが、結界(同じ物)は鳥に持たせた。規模が小さく魔力が足りない私の故郷とは別でリラーグなら問題は無いだろう」


 でも……それだって一部の人が安全なだけだ。

 ノルドくんたちやフォーグにケルムさんがいる地方は安全とは限らない……


「ユーリ、仮面がもしお前たちを探しているのなら逆に好都合だ……唯一の敵であるお前たちが表舞台に出なければ安心して玉座に座るだろう、その間に秘密裏に動き呪いを集めるんだ」

「ナタリーでも……それじゃいつになるか」

「だから言っただろう? マリーにも同じものを届けたと勿論転移魔法の陣も送ったあいつには手紙に色々と頼みごとをしたからな」


 頼みごと?

 ナタリアは予測だけでここまで準備をしていたのだろうか?

 彼女だってゼルさんのことは心配のはずだ。


「そんなゆっくりはしていられないよ!! だっておじさんは……それにマリーさんも絶対無事なんて言えないんでしょ!?」

「……ッ」


 フィーの声にナタリアは顔を伏せる……

 なんにも言えないんだろう……フィーの言っていることは間違っていないから……

 でも、ナタリアが言っている通りこのまま行っても犬死は避けられないだろう、それに彼女が考えも無しにここまでするだろうか?

 僕やフィーは彼女にとって子供みたいな物、守ろうとはするだろうけどナタリアは他の人はどうでも良いなんて人では無いんだから……


「ナタリア、手はあるの?」

「ユー――!?」


 フィーがなにかを言おうとしてたみたいだけど、彼女はいつの間にかリーチェさんとシアさんに拘束され口をふさがれていた。


「……私たち三人の死体を偽装し、奴を安心させる時期を見てこの屋敷を実際に焼き払いリラーグへ飛ぶ、唯一の手掛かりである呪いを集めることに関してはそれからだ」

「……その時期っていつ?」

「恐らくは数年になるだろう、数か月では警戒している可能性があるからな」


 でも、それじゃ不完全じゃないだろうか?

 根本的にあの魔物の解決策が無い……ナタリアの魔法でも耐えるあの魔物……


「……あの魔物に関しては正直どうしたら良いのかが分からん、私の魔法まで耐えられてしまうのは予想外だ……」


 ナタリアの魔法は僕の魔法より強力なのは分かり切ってる……だから、普通の方法では倒せるけど時間も魔力も費やしてしまう。

 でも、生きているとしても作られたとしても何らかの弱点があってもおかしくは無い……もし、キョウヤが作るとしたらなんなんだ?


『なぁ、何でゲームって属性相性があるんだろうな? そう言えばお前光使うけど、人殺しは闇の方が良いんじゃないか? ククク……ぴったりじゃね!?』


 ……記憶の断片に以前あいつの家にいた時にやらせてもらえたゲーム、その時に言われた言葉……

 なにもないよりはましだ。

 もし、アイツが考えるなら闇には他の属性が利きにくく光に強くも弱くもあるって特性があるはずだ。

 なら……


「ナタリア」

「……なんだ? 何度懇願しても私は行かせないぞ」

「神聖魔法を作ろう……多分、恐らくだけど……それがあの魔物の弱点だ」


 彼女にそう伝え僕はフィーの元へと向かう……

 どこか攻めるような瞳を向けられて、昔を思い出すようで目を逸らしたいのに抗い僕は彼女に語り掛ける。

 ナタリアの結界がある以上、僕も彼女も外には出られない……だからと言ってこのまま彼女を放って置くなんてことは出来ないんだから……


「フィー……今行ってもナタリアの言う通り……死ぬ、僕はフィーがあんな目に遭う所はもう見たくない……僕のわがままだけど、お願いだ……僕が必ずなんとかするから……なんとかして……みせるから今……は……」


 話している途中でゼルさんのことが浮かび……なんでか分からないけど、目頭が熱くなってちゃんと言えていたのかは分からない。

 おかしいな? 僕、ゼルさんとあまり話したことなかった気がするんだけど……

 フィーやナタリアの方が辛いはずなのに……


「ユーリ様……」


 そんな僕を見てだろうか? シアさんとリーチェさんがフィーの拘束を緩め……


「…………ユーリ?」


 涙声の彼女が僕の名を呼んだ……

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