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144話 旅立ちの前に

 嫌な予感がする……フィーナの訴えに一抹の不安を覚えたユーリとナタリア。

 不安を感じつつも夜は明け……

 ユーリ達はタリムへ戻る為に村を出る事にした。

 そんな中ナタリアは自身の母へと言葉を告げるのだった……

「もう、行くのですか?」


 名残惜しそうにそう言うのはナタリアのお母さん……イリアさんだ。


「……母上」

「なにかしら?」


 ナタリアは真剣な顔を浮かべると自身の母親の顔を見つめ……


「なにも言わずに、なにも聞かずに……リラーグへ発ってくれ」


 彼女の様子から察したのはこの村になにかが起きるのだろう。

 僕と関わった人……つまりイリアさんや屋敷にいた人たちは運命が観れないとしても別の人なら見れた。

 その所為でどうなるのかが分かったんだ……それは、つまりアイツがこの村にやってくるってことだろうか?


「なにかあるんですね? それでしたら領主である私が真っ先に逃げることは出来ません……それに仮に逃げてもこの村の者、皆を迎え入れるのは無理でしょう?」

「そんな……なにかあるって分ってるなら!」


 僕は思わず口に出して言ってしまったけど、イリアさんの言っていることはもっともだ。

 いくらリラーグよりは小さいと言っても普通なら街と言っても良いぐらいの広さだ……

 確かにこの村の人全員を受け入れるっていうのはリラーグでも無理かもしれない……だけど、なにかがあるなら逃げて欲しい。

 知り合った人が危険な目に合うのは――


「分かってるなら……絶対、逃げてくれた方が――」

「でもね、ユーリちゃん? 私はまだ良いけど、私と同じぐらいの人にはすでに歩くことが困難な人がいるのですよ? その人たちは置いて行けと貴女は言うのですか?」

「…………そんなことは」


 ない、でも……実際に担いでいくには距離がありすぎる。

 連れていくことも出来ず、置いていくしかないと言われたら何も言えない……

 どうにか……出来ないだろうか?

 ……ん?

 いや、出来るんじゃないかな?


「ナタリア……それならこの村に結界を張ってしまえばどうかな?」

「……無理だ、いくらなんでも魔力が足りん」


 そ、そうか、流石にこの街を覆うほどの魔力が無いのか……

 だったらどこか別の場所にとは言っても狭ければそれだけ暴動とかも起きそうだ。

 手は無いの? そんなの……


「ユーリの魔力があっても駄目なの?」


 フィーがそう不安そうな声でナタリアに聞く、彼女は昨日の夜からずっとあの様子だ……

 皆が心配のはずなのに……急かさないのは、ナタリアの事を思ってだろう。


「結界さえ張れてしまえば後は大丈夫かもしれんが……無理だ! いくらなんでも二人だけでは……」

「でも、ユーリは魔力船を一人で動かした上にドラゴンの攻撃を防いだよ? 船の水晶体は壊れたけど、沈没はしなかったよ?」


 いや、確かにやったけど……いくらなんでも二人は無理だとはっきり言われたよ?

 そう思いながらもナタリアの方へと顔を向けると彼女は目を丸くして僕を見ていた。

 ん? なんかビックリされてる?


「……その話は本当か?」

「うん、それに、そのドラゴンも一人で倒して手懐けてたよ?」

「いや、でも魔力はギリギリだったし、ソティルのサポートもあったからだよ」


 あの時本当に一人で戦っていたなら負けていただろうし、ソティルがいなかったら皆は守れなかったと思う。


「まて、その話は本当か? 魔力船と言ったらサヴァルニャラハのことだろう? あれは本来二十人いて安全に運航できる船だぞ!?」

「へ? 僕は十人って聞いたよ?」


 確かホークさんがそう言ってたけど……


「確かに動かすには十人で事足りる。だが、魔力の回復が追い付かない。だから二十人必要なんだ……だが、船が小さすぎ使い物にならないアーティファクトと言われていた。あれをまともに使ったのは私ぐらいだ」


 なるほど、だからクロネコさんはナタリアの弟子なら何とかなるって言ってたのか……


「しかし、何故そんなに急激に魔力が……」


 なんかナタリアがぶつぶつ言っているけど、もしかして……


「結界出来そうなのかな?」

「…………ユーリ、今魔力はどのぐらい残っている?」

「えっと……」


 どのぐらいだろうか?

 昨日は結構魔力を使っていたから回復しきってはないだろうけど……


『ナタリア様に分かりやすい言い方ですと魔力船を丸二日一人で運行し、魔力を注ぎ込む余力は残しています』


 そうか、ありがとうソティル。


「ソティルの言うことでは魔力船を二日動かして、更に魔力を注ぐぐらいはあるって」

「そうか……急いで準備をしよう、良いかユーリお前の魔力を貸してもらう」

「出来るんだね? だったら手を貸すよ」


 僕は彼女に向かって頷くとナタリアはその瞳をフィーの方へと向けた。


「それとフィー、これでもぎたての果実を買ってきてくれ」


 彼女はそう言うと懐から布袋を取り出し、フィーへと手渡す。

 音からして相当入ってそうだけど……


「果物? 良いけどどうして?」

「ああ、野菜や果実には精霊力が豊富にある。採れたてであればその方が良い」


 ん?


「ちょっと待ってなんで精霊力? 魔族(ヒューマ)は魔力を持ってるんでしょ? それに魔法を使うんだから精霊力を取り込んでも……」

「そう言えばユーリには言ってなかったな、魔力とは元々は精霊力だ。魔族(ヒューマ)や魔物は食事や休息によって精霊力得て魔力へ変換する。従って新鮮な果物や野菜は回復が早まるんだ……特にユーリの様な者には効果的だろう」


 そうだったの!?


「それなら、そうと早く言ってくれても良かったんじゃ?」

「ユーリには必要が無いと思っていただけだ。ただでさえ常人以上の回復力と魔力を持っているんだぞ?」


 それうとは言っても何回か尽きてるんだよ? その度にひやひやしている僕の身にもなってほしいんだけど……

 でも、ナタリアは嘘は言っていないみたいだし、それだけ僕は魔力だけは豊富なのか……う~ん自覚はやっぱりないなぁ。





 あれからすぐに準備に取り掛かった僕たちだけど、僕に言い渡されたのは……


「これを食べれるだけ食べておけ」


 そう言って指を指した先には先ほどフィーに買ってきてもらった果物。

 美味しそう、美味しそうなんだけど……


「すごい量だね」

「なにも無理に詰め込めばいい訳じゃない、いつもの食事の様に食べるんだ。その方が魔力の回復により効果が出る」


 と言うことらしい、僕は言われた通りに果物を食べ続けていて……


「流石にお腹いっぱいになってきたよ……」

「そ、そうだね? でも買いすぎちゃったかな?」


 確かに、目の前にある果物の山は一向に減ってない。

 全部食べろとは言われてはいないけど、もしそうだったら無理だよこれ……

 僕がそんなことを考えていると、ナタリアは空を飛び戻ってきた。


「待たせたな、ユーリはちゃんと食べたのか?」

「い、一応食べれるぐらいは……」

「それで良い……さて、始めようか」


 彼女はそう言うと僕を手招きして呼ぶので、近づいていったものの……


「僕、結界魔法の詠唱しらないけど……」

「安心しろ、今回は規模が規模だ。私が詠唱し魔法を使う、ユーリは魔力を私に分け与えてくれればそれで良い」

「えっと、ユーリも使わなくて大丈夫なの?」


 フィーの疑問にナタリアは頷き。


「ああ、これは私だけの魔法だ」

「でも、屋敷にも同じ魔法を使ったんじゃ?」


 今度は僕の質問に彼女は頷くと……


「その通り、シアに渡したものと同じだが、あちらは魔力を籠めるだけで使えるようマジックアイテムにしておいた……それよりも、早く済ませてしまおう。ユーリ魔力船(サヴァルニャラハ)の感覚は覚えているか? 詠唱を始めたら同じように私に魔力を注ぎ込め、良いな?」

「う、うん」


 僕の返事を聞き、ナタリアはゆっくりと瞼を閉じ……息を大きく吸い込む。


「我望む、我が領域に邪なるモノを拒む――」


 詠唱が始まったっと同時に僕はゆっくりと魔力をナタリアへと渡す。

 ぶっつけ本番だし、内心僕は怖かった……船は物だけど、今度は人それもナタリアへと魔力を注いでいるんだ。

 もし、量を間違えたらなにかが起きるかもしれない。

 そう考えると怖かったんだ……


「形無き魔力よ、我らが聖域と化せ……」


 それでも、イリアさんたちを助けるにはこの手しかない……

 僕はそう考え……ナタリアに変化が無いか細心の注意を払って魔力を注ぎ続けた……








 頬になにか触れる感触がした。

 だけど、そこには何もなくて……空気が変わったとでもいうのだろうか?

 張り詰めた感じでもなく、不思議だけど……風が吹いていないのに心地の良い風が当たっているかの感覚だ。


「ユーリ、もう大丈夫だ……お前のお蔭でこの村は助かった」

「…………ふぅ」


 うーん空気が変わったってだけだけど、ひとまずは安心なのだろうか?

 作業が終わったのを確認し、フィーはナタリアの傍へとより声をかける……


「これでこの村は大丈夫なの?」

「ああ、魔法をかき消す魔法でもそう簡単には解けないだろう……一応食料には困らんよう結界は広めにとってある、今まで通り農作物や畜産は出来るだろう」

「でも、ディスペルって皆使おうと思えばできるんじゃ?」


 ナタリアがそう言うと彼女は首を傾げてそう言葉にしている、それを見てナタリアは――


「ユーリの詠唱から式を調べてみたが、どうやらあの魔法を使うには条件がある。簡単に言えば消す魔法と同等、それ以上の魔力の消費が条件なんだ……だからこそ底抜けに近いユーリは結界を解いたという訳だな」

「へ? そうなの?」


 フィーが僕の方へと顔を向けて確認してきたので僕は頷き答えた。

 

「うん、使った感じその通りだよ」


 その言葉にフィーはようやく笑みを見せてくれて……


「それなら安心だねー?」

「ああ……さてユーリ、すぐに発とうと思うが大丈夫か?」


 確かに魔力の減少は感じる、でも目眩とかは無いから大丈夫だろう……


「大丈夫、行けるよ」


 僕の言葉に頷いたナタリアはイリアさんの方へと向き直ると今度こそ別れの挨拶を告げた。


「そうか、では母上今度こそ行ってくる……」

「ええ、行ってらっしゃい……ユーリちゃんもフィーナちゃんも気を付けてね」

「うん、大丈夫だよー?」

「また皆で来ますね……」


 僕たちはイリアさんに見送られ村を後にする……後はタリムへ戻って屋敷へと向かうだけだ。

 ……皆は無事だろうか? いや、そもそもなにかが起きているかなんて分からないんだ。

 そう、考えているとフィーが僕の手を握り、その手は微かに震えていた……

 彼女の予感が当たっていなければ、良いんだけど……なんだろう、なにか僕も胸騒ぎがするんだ……

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