138話 リュミレイユ
隠された部屋の中、手掛かりを探すユーリ達だったが其処にはなにも無かった。
だがその部屋でユーリは突如気を失い夢を見る……
その夢はどうやら医学者が残した記憶だった様でユーリは「最愛の者の墓の下」と言う手掛かりを得たのだったが……やはりそれだけでは分からず、途方に暮れている所……
白紙の魔導書ソティルは「リュミレイユ」と呟くのだった……
『クーシェ・リュミレイユ……』
「え?」
ソティル? 今なんて……
『クーシェ・リュミレイユ、私は昔そう名乗っていたのを思い出しました』
リュミレイユって……確か……
「ユーリ、どうした?」
ナタリアの……本当の名前だったはずだ。
僕は訝しげな表情を浮かべる彼女の方へと向き……ソティルの紡いだ名前を伝えた。
「クーシェ・リュミレイユ……」
「なんだと?」
僕の言葉を聞き、ナタリアは眉を吊り上げる。
「そ、それって確か、ナタリーの本当の名前でユーリの……」
「うん……それが、ソティルの名前らしいよ……」
クーシェ・リュミレイユ。
偶然とは重なるものなんだろうか? ともかく、これで名前が分かった……あの夢の中医学者の方のソティルが言っていた『最愛の者の墓の下』と言うのは見つかりそうだ。
理由は簡単、今フィーが言った通りナタリアの本当の名もリュミレイユだ。彼女たちが知らなくてもなにかしら情報は見つかるはず。
「にわかには信じがたいが調べてみる価値はあるか……」
ナタリアはそう呟き、僕は彼女の言葉に頷く……
そうと決まれば、次に行く場所は決まった様なものだ、でもまずは――
「早く屋敷に戻って皆と合流しよう」
僕は二人にそう告げた。
「そうだねー? 早く戻ろうか」
もし、仮面が僕の事に……いや、ソティルのことに気がついたら皆が危ない。
多少大所帯になっても屋敷の人も含めリラーグ辺りにでも行った方が良いのだろうか?
そんな事を考えてつつ部屋から出て僕たちは歩く……どうやら構造は同じみたいでほぼ一本道、フィーが居るしシルフが道を教えてくれるから出るのは大丈夫そうだ。
それよりも、ナタリアは何か考えているみたいだけど、先ほどの事だよね? 僕が彼女を見ている事に気が付いたのだろう、ナタリアは真剣な顔で口を開いた。
「二人共、屋敷ではなくこのまま私の生まれた家に行こう」
「なっ!? なんで?」
「そ、そうだよ? いくらナタリーの魔法があるからって……」
対策をしてくれていたのは知ってる……先ほど彼女自身が言ってたし、でも心配性のナタリアならすぐにでも戻りたいはず。
なのに……
「理由は簡単だ……奴はまだ屋敷の情報を手に入れてない可能性、私なら住処を探る……寝込みを襲えばどんな剣士だろうが魔法使いだろうが楽だからな」
「でも、転移魔法を使えば良いだけじゃ?」
「私が作った対策魔法をシアへ渡したんだぞ? 相手が万が一転移が出来る事を考慮してそれを防いだ。つまり、私たちも歩いて帰る他無いな」
そんな……じゃぁここがどこか遠い場所だとしたら……でもまてよ?
「さっきみたいにタリム近辺のどこかに繋いじゃえば……例えば月夜の花とか……」
「それは先ほどみたいにあちら側に陣がすでにある場合だけだ、月夜の花は仮面に出くわす可能性が高い、なにせタリムでは有名な酒場だ……避けて通った方が良いだろう」
うぅ……じゃぁナタリアの転移はフロムとかにしか行けないって事? フロムが一番近いだろうけど、山越えしないといけないんだよね……確か。
流石にそれはなんの装備も無しじゃ無理だよ。
でも転移陣が使えない以上……って。
「相手がディ・スペルを使えたらどうするの……」
「そ、そうだよ、あれって元々ナタリーもユーリも知らなかった魔法だよ?」
あれが使えたら、いくらナタリアの魔法だとは言っても意味が無いのではないだろうか?
「案ずるな、シアへ渡した魔法は屋敷の者の魔力を使って発動する。私ほどではないが、シアやバルドの魔力は多い方だ。仮に先ほど使ったディ・スペルを使えたとしてもお前並みの魔力が無ければかき消せん」
「……へ?」
あの屋敷には普通に働いてるメイドさんもいる。つまりそれでナタリアと同等位の魔力があるって考えて良いのだろうか?
ナタリアは自慢げだし、大丈夫なんだろうけど……
でも、それじゃ……
「戻る時どうするつもりだったの?」
「そうだよ、僕の魔力ってナタリア以上なんでしょ?」
「作ったのは私だぞ? 勿論対策はある」
な、なるほど……弱点か何かがあってそれをついて魔法を壊すって事かな?
やっぱり自信たっぷりだし、恐らくその弱点もナタリアじゃなければ突破できないとかそんな所なんだろう。
「さぁ、もうすぐ外だ……問題はここから私の家が近いかどうかだが……」
ナタリアはそう口にし、洞窟の外へと出た。
僕たちも続き外へと出ると……
「…………山?」
「山だな」
「山だねー?」
と、言うかここは見覚えがある……
いくら方向音痴だからと言っても景色はちゃんと覚えている、ここは……
「トーナの山だ……」
ノルド君を助けた……あの山だ。
念のために後ろに振り返ってみると洞窟は跡形もない。
やっぱりここにも結界があるみたいだ。
「本当か? フィー」
「うん、あの裂け目の下に大蛇がいたみたいだよ? 知ってる所で良かったよー」
「ほう、それは好都合だ」
ん? 好都合?
大蛇が居た事が? いや、そんなはずが無い……ナタリアが好都合って言うんだ。
「ナタリアそれって、もしかして……」
「ああ、このまま山を抜けるぞ」
彼女は浮遊を唱え空へと舞いあがる。
周りをぐるりと飛ぶと再び舞い降りて来て……
「多分、あちらの様だな……途中に川がある、水はそこで得よう」
「確かにあっちには村があったけど、水を得ようってトーナに降りないの?」
フィーの質問にナタリアは頷き……
「ああ、その川を越え少し歩いた所にあるはずだからな」
「そう言えば、確かに村があったような……? 確かにこっちからならトーナより近いねー」
フィーも知っている所なら安心だ。
正直ナタリアが今言った言葉には不安があったし……
「何も無ければ今日中……昼過ぎには着けるだろうそれに……」
ナタリアは持っていた荷物を指さすと笑みを浮かべ。
「こんな事もあるかと思ってな、ちゃんと保存の利く食料は持ってきている」
流石は元冒険者と言った所か、準備は怠ってなかったみたいだ。
「よし、じゃぁ早速ナタリアの家に行こう!」
僕はそう言葉にし、フィーを先頭に歩き出した。
知らない場所に行くとは言ってもここはトーナの山だ。
魔物の生態が急に変わるはずもなく、ナタリアが言った川にすぐ着く事が出来た。
僕たちはそこで水を汲むと、彼女の案内の元道なき道を進んでいく。
なんでこんな所を? なんかますます不安感が……
途中ドレイクバードに襲われたりしたものの、特に目立って強い魔物に合うことが無く順調に歩みを進めると。
「もう少しで着くはずだ、二人とも大丈夫か?」
「うん、まだ大丈夫だよ」
「私もだよ? ナタリーこそ大丈夫? 久しぶりに体を動かしてるんでしょ」
そっか、ナタリアはずっと屋敷暮らしだったから、無理してないだろうか……
「大丈夫だ、これでも一応は衰えないようにはしていた」
「そっか、でも無理はしない様にね? ナタリア」
そんな、他愛のない会話をしていた所だ。僕たちは開けた場所へと出ることが出来、ほっとしたのも束の間、目の前に一人の女性がうずくまっていた。
どうしたんだろう? まさか、怪我や魔物や虫とかの毒だろうか、だとしたら早く治してあげないと!!
「ん? 誰かいるな……」
いや……なんか妙だ……なんだ? なにか不自然だ。
周りは森、魔物も出るし、動物だって危険なのが居る……武器を持っているならともかく、彼女は丸腰だ。
武器を身に着けるための道具も見当たらない、服もあまり汚れていない。つまり、彼女は冒険者ではない……なんでこんな所に女の人が一人で?
「怪我したのかなー?」
それになんか頭に布をかぶっていて顔が見えない……。
「こんな所で一人では危ないな、ユーリ傷を治してやれ一緒に連れて行こう」
「う、うん……」
なにか引っかかったけど、二人は心配しているみたいだし、この世界では普通なんだろうか? 確かに万が一怪我でもしていたら手遅れになる前に治したい。
不安は一向に消えてくれないけど、僕は頷きフィーたちと共に女性へと近づく……
「どうかしたのか?」
ナタリアの声に反応し、女性はゆっくりと顔を上げる……
「え、ええ……魔物に襲われてここまで……」
「怪我をしたの?」
フィーもナタリアも彼女に対し、やはりなにも感じていないのだろう……女性へと質問を繰り返す。
「はい、足を切られてしまいまして……手当はして止血は出来たのですが……どうも軽い毒を持っていたようで……」
「ふむ、恐らくはビー・ダンジェか知らないと言う事はこちらの地方の人間ではなさそうだな」
「……はい、仲間と共にわたってきたのですが……その仲間も……」
僕の思い過ごし? でも……おかしいよ。
武器も持たず、女の人がこんな所へ……この世界は魔法使いですらなにかしらの武器を持つのに……僕が例外なのに……
そう思って彼女を観察する。
顔は……美人と言って良いのだろうか? フィーは勿論、ナタリアとかも美人だからなぁ……
目が慣れてしまったのかもしれない……普通だ。
そこは良い、武器はやっぱり持っていないみたいだ。
それに、なにより気になるのは――
「ユーリ、思った通りだ見てやれ」
「ユーリ?」
やっぱり服だ……ボロボロだけど、洗ってはあるみたいだ。
もし逃げてきたのなら土や血がついてあるはずなのに……綺麗すぎる。
「ユーリ早くしてやれ!」
「ユーリ変だよ? 怖い顔してるけど……」
二人が僕を呼ぶためにこっちを向く……すると、女性のかぶっている布は不自然に動き出す……。
「っ!? 我が意に従い意思を持て!! マテリアルショット!!」
それを見た僕はそれが彼女が何なのか予想し、魔法を女性へ向け放つ。
「なっ!? ユーリ!! なにをしている」
「ど、どうしたの!?」
僕の魔法によって飛んでいく女性、彼女が被っていた布はめくれて風に持って行かれ、彼女の正体は確認出来た。
ソレは後ちょっとと言う所で食事を邪魔されたのが気にくわないんだろう、どこか苛立った声が聞こえる。
「感が良いのがいる……折角食事にありつけたと思ったんだけど、ね?」
「なに?」
「……へ、蛇!?」
そう、布をかぶってた理由は頭から生えている蛇を隠すためだ。
メデューサ……とは違うのかな、僕も二人も話していたからには目を見てるはず。
それに食事って言ってたからには石化させる訳がない。
これは推測でしかないけど、頭の蛇は毒蛇だ。
「まったく、餌に歯向かわれるとはこんな事は初めてだよ……」
やれやれと言った風に言ったのだろうか? メデューサは以前苛立った声のまま僕たちを睨みそう言葉を漏らす。
「頭に蛇をはやした人間がいるとはな……私も初めて見た」
「え、えっと魔物? なのかな?」
ナタリアは冷静に、フィーはどう判断したらいいのか分からなかったのだろう僕へと質問を投げかけてきた。
なるほど、二人の様子からしてメデューサはこの世界にいない、だけど僕は知っている……つまり――
「メデューサ……恐らくはキョウヤが作った魔物だ!」
僕がそう言うと真っ先に反応を見せたのはメデューサだ。
なにも言って来ないって事は平静を装っているのだろうか?
とにかく、知能がある分やりにくそうだ。
「頭の蛇に気を付けて猛毒を持ってるはずだよ!」
「……チッ! まぁ良いわ、生きが良いのも食べがいがある」
メデューサはそう口にし、髪の毛、いや蛇たちを一斉に僕たちに向け威嚇させた。
「何故か知っているみたいだしね、感が良いこともある……生かしておくわけにはいかない」
僕の感は正しかったのか、メデューサ本人は僕を睨む。
やっぱり、キョウヤとの関係性はありそうだ。
それにしても……なんだろう、まだ……なにかが引っ掛かる。




