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137話 ソティルの石像?

 辿り着いた部屋、そこでユーリたちは一つの通路を見つける。

 だが、そこは洞窟と同じように魔法で塞がれていた……

 ディ・スペルを使い魔法を解いたユーリたちは通路を進み一つの部屋へと辿り着く、そこでユーリが目にしたものは?

 僕が見間違えるはずもない……あれは、ソティルだ。


「ふむ、あれがお前の言うソティルか」

「う、うん」


 でも、なんでこんな所に?

 これじゃまるで、ソティルを讃えて祀ってるように見えるけど……


「ナタリー、ユーリここになにか書いてあるよ?」


 フィーが指さしたのは石像が置かれている台座だ。

 そこには石像が崩れた物が散乱してるけど、確かになにかが見える。

 フィーはそれを一つ一つ丁寧にどかしてくれた。


「……どれ」


 ナタリアと僕は台座に彫ってある物をまじまじと見てみる。

 それにしても、なんか見たことない文体だし、これはなんかの模様かな? これはまるで……


「なんか、この模様太陽みたいだねー?」


 フィーの言う通り、海に沈むもしくは海から顔をのぞかせた太陽の様な模様だ。


「ふむ……どうやら、この石造は神や精霊と言った物ではなそうだ」

「え……違うの?」


 どういうこと?

 じゃぁ……なんで……


「これはソティル……医者の方だな彼に向けての贈り物だ……崩れていて読みにくい上昔の癖があるが……なんとか読めそうだな」


 ナタリアは文を指でなぞりながらゆっくりと僕たちに分かるよう言葉を紡ぐ。


「悲劇の医学者、ソティル……思い人への想い、まだ見ぬ人への思い、その一心で死病を克服せし者へ……汝の優しさが思い人ク……レ……へ届く様に……名前の部分の損傷がひどいな、まぁさっき言った通り贈り物のようだな?」


 そうか、その贈り物がここにあるってことは……


「ここ、その医学者の部屋だったんだね……」


 僕は辺りを見回してそう呟く……見れば医療道具なども置いてある。

 古すぎて使い物にはならなそうだけど……


「だろうな……」


 それにしても、ソティルと同じ容姿とは言っても流石にこの石造は何かの役に立つという訳じゃなさそうだ……

 他に手掛かりになりそうな物は無いのかな?


『……ソ、ティル?』


 なんで急に名前を? ああ、そうか……ソティルにはナタリアに名をもらったという自覚はあっても、トーナで聞いた話ぐらいしか知らなかったんだっけ?


「うーん、この部屋の本棚にあるのも医学書か、なにか研究したものみたいだねー?」


 フィーは本棚にある本の表紙を調べたりしていたみたいだ。

 でも、これと言って手掛かりが見つかった様子は無い。


「当てが外れたのか……困ったな」


 ナタリアは腕を組み、そう呟くと唸りこんでしまった。

 僕もここになら何かあると思ったけど、完全に的外れだったみたいだ……


『……思い人……ソティル?』


 なんだろう?

 ソティルの様子がおかしい気がする。


『………………』


 な、なに……頭が……急に、頭が痛い……


「「ユーリ?」」


 フィーとナタリアの声が重なったのが聞こえ、僕の意識は……そこで途絶えた。






 ここはどこだろう?

 頭が痛い、体は寒い……でもどこか熱っぽい。

 苦しくて……辛い、そんな簡単な言葉で済ませられそうもない。


 僕は一体どうなったんだ?

 体を動かそうにも少し動かそうとしただけで全身に激痛が走る。

 これは……病気?

 参ったな……そうだ、キュアの水で……


「――っ!? ~~~~っ!!」


 かっ!? な、なんで……喉が……

 熱いよ……水、水が……欲しい……


 僕が悶えていると、誰かが部屋へと入ってきたみたいだ。

 フィー?


「クーシェ!? 待ってろ、今水を……」


 だ、誰?

 見たこともない人だ……

 彼は慌てた様に部屋の外へと行き、暫くするとなにかをもって戻ってきた。


 水? 水だ……


「すまない、もう少し、もう少しだけ待っててくれ」


 彼はそう言うと水差しで水を飲ませてくれる……

 これなら、魔法が……でも、なんだろう違和感がある。

 それに、クー……シェって……?


 なん……だ……? 身体が、瞼が……重い……





「良いか? 死ぬのは変わらねぇんだよ!! だから生きてるように見せかければいいだろ!!」

「それは助けたと言わないだろう!! 目を覚ませ!!」

「目を覚ますのはアンタだ!! 良いか? 薬で生きながらえさせて苦しませて、あんな姿のあいつらを見てお前は平気なのかよ!? 俺には無理だ……せめて、楽に……」


 なん、だ?

 誰かが外で騒いでる……


「ク……シェ? まだ、いる?」


 横から誰かの声がする。

 そうか、僕一人じゃなかったのか……僕は痛みに耐えながらも声の方へと振り返る。

 そこで見たのは……


「っ!? ――――――!!」


 肌の色は土色で、所々腐りかけ……まるでゾンビみたいになっていた女性の姿だった……





 ふと視界が開けると僕はまた知らない場所にいた。

 いや……ここは知ってる……さっきまで僕たちがいた部屋だ。


「ソティル、その……なんだ、リラーグの奴から贈り物だ」

「贈り……物? そんなものは要らない」

 

 そうか、これはソティルの記憶ってことか……でも、さっきはまるで僕がその場にいたみたいだったけど、今度は違うみたいだ。


「……ほら、あの子たち何処かの良家の娘だったろ?」


 男性はそう言うと、持ってきた贈り物の布を解く……

 もう一人の男性……恐らくソティルはその石像を見て目を丸めてふらふらとそれに近づいて行った。

 そして、振り返り一言を告げる――


「これは……?」

「見たまんま、クーシェの像だよ……ソティル、リラーグの領主からの依頼だ。ネクノの奴がアーティファクトを作った……それに対抗する物を作ってくれってな」

「……俺は、魔法使いじゃないぞ」

「だが、同じ苦しみは知っているだろう? お前が止めてやれ……それが領主の情けだ」

「………………俺は――」


 彼は、その手に抱える様にしていた白い本を抱きしめる様にうずくまった。






「――俺には無理だ」


 先ほどの部屋で老人は呟く……恐らくはソティルの歳を取った姿だろう。


「これを使うほどの魔力は無い……だが……」


 老人は白い本を魔法陣の上に乗せ、魔法を唱える……僕が初めてソティルの本を観た時と同じ光景が目の前に広がる。


「いずれ来る……この記憶を観るだろう持ち主よ……最愛の者の墓の下…………」


 いずれ来る? つまり、これは医学者が残した僕への言葉? だけど……最後が聞き取れないよ……


「その者と共にしている愛すべきクーシェよ……縛り付けてすまない、お前たちを助けてやれなくてすまない……」


 その言葉と共に……再び僕の意識は途絶えた。






 身体を揺らされる感覚がする。


「ユーリ!? ナタリー!! 一体どうしたの!?」

「分からん! なにか魔法でもかかっていたのか? いや、だがそんな魔法陣はどこにも……」


 フィー、それにナタリア?


「ぅ……っぅ」

「ユーリ!! 良かったぁ……」


 まだ頭痛はする……けど、どうやら体は動くみたいだ。

 涙目のフィーは僕の顔を覗き込むようにして、ナタリアもどこか力が抜けたような表情を浮かべた。


「一体どうした?」

「ごめん、急に頭が痛くなって……僕にも分からないよ……」


 あれは夢? それにしてはあの痛みや苦しさ……それにあの女性も男性も夢には見えなかった。

 だとしたら、やっぱりあれは医学者ソティルが本の持ち主がここに来ることを予想してあらかじめ本に仕込んでおいた魔法なのだろうか?


「……最愛なる者の墓の下」


 つまり、僕が体験した女性クーシェさんのお墓の下って意味だろう。


「ユ、ユーリ?」


 僕がそう呟くと、フィーは再び顔を覗き込んでくる。

 そして、ナタリアはなにかに気が付いたのだろう……


「なにか、見たのか?」

「うん、ソティル……医学者の方が言ってたんだ。最後の方は聞き取れなかったけどなにか手掛かりになる物があるかも……」


 でも、その人の墓の下って……何処?

 あれが比喩表現だとしたら、もしかして……


「フィー、石像の下になにかありそうかな?」


 道があるならシルフが教えてくれるはずだ。

 だけど、彼女は首を振る。


「ううん、シルフもこれ以上は無いって言ってるよ?」


 彼女はそう言いつつも石像を押しずりずりと動かす。

 だが、そこには周りの床よりも綺麗な物があるだけで何もない……

 だとしたら――


「墓の下、か……もしかしたらそのままの意味かもしれんな……調べてみよう、その者の名は分かるか?」

「うん……確か、クーシェって人だった」


 ナタリアはその名を聞き考え込むが困った様に首を傾げる。

 当然だ、相当昔の人だろうし……


「聞いた事が無いな……せめて家名があれば分かりやすいのだが……」


 うーん、良家の娘だって話だったし、せめて何処の領主か分かれば良かったんだけど……


「良家の出って言われてたから、リラーグの近くにある……街か村の領主の娘だと思うんだ……」

「なんで領主の娘って分るの? 良家って言ったら他にもあるよ?」

「え? ……あれ?」


 確かにそうだ……

 なんで僕は領主って思ったんだろう? 分からない、だけどそんな感じと言うか、そうだって思った。


「まぁ、なにも無いよりは収穫があったと捉えよう……しかし、リラーグの近くか……ん? 本はあの森と繋がった場所にあったと言うのにタリムではないのか?」

「う、うん……リラーグの領主からその石像をもらったって――」


 夢……いや、ソティルの記憶ではそうだった。

 そう言えば妙だ、なんでタリムじゃないんだろう?


「もしかして、タリムが無かった? 確かトーナで熱病の所為で死んだ二人に本は関係あるって村長さん言ってたよね? だとしたら相当昔なんじゃないかなー」


 タリムが無かった?

 あれだけの大きな街、トーナより後に出来たと言うのだろうか、流石にそれは無いんじゃないかなって思うよフィー……


「確かにそうかもな……トーナより歴史が浅い、一方リラーグは昔からある」

「そ、そうなの!?」


 僕が驚いた声を上げると……


「もしかして、私の言った事信じてなかった? 前に言ったでしょ……タリムは森族(フォーレ)魔族(ヒューマ)が初めて一緒に住んだ土地だって」


 そう言葉にする彼女は不満気だ……ごめん、今思い出したよ……

 でも、だとすると何処にあるんだろう、メルン地方なのは間違いはないだろうけど……


「熱病で亡くなった双子……名前はクーシェそれだけじゃ分からないよね……」


『リュミレイユ……』


 困り果てる中、僕の頭の中に響いた声はソティルの呟きだった――

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