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136話 魔法陣の先は……

 洞窟の奥にあった扉。

 それはユーリの知らない扉だった……そしてその部屋も彼女が知るものではなかった。

 しかしその部屋からナタリアの魔法で別の場所へと繋がれた……だが、同時に魔物も現れて……ユーリたちは急ぎ転移陣へと駆け込んだのだった。

 僕たちがたどり着いた部屋は確かにソティルが置いてあった部屋だ。

 勿論ソティルはいないけど……この部屋は見間違えるはずがない。

 でも……


「ナタリア……どういうこと?」


 なんでいきなりあんな魔物が?


「なんで、いないはずのキメラがこの世界にいるの?」


 いや、そもそもゾンビにしろあの熊にしろ、いるはずもない魔物のはずだけど、なんで突然現れたのか……

 腐臭はしなかったけど、あれもゾンビ? だとしたら……


「急いで戻らないと!!」


 僕は魔法陣の方へと振り返るとそこには光を失った魔法陣があり、どう見ても動きそうではない。

 それにナタリアも詠唱を唱えることが無く……


「ナタリー?」


 それを見たフィーは不安そうに彼女を見て彼女の名を呟いた。

 だけど、ナタリアはフィーに答える事無く僕の方へと向いていて、ゆっくりと口を動かす。


「落ち着け、ユーリ……良いか? あの魔物は恐らく仮面の男が本の力で作った物だろう……不死の魔物も同様だ。現状確実に黒の本を滅せられるか分からないのではソティルを持つお前が戻るのは危険すぎる」


 そんな話をするっていう事はやっぱりあそこには……


「仮面がいたの? だったら黒の本を壊すチャンスかもしれないじゃないか!」


 それに僕たちが逃げたら奴はタリムに向かうかもしれないし、何をするか分からない以上本を壊すのは早い方が良い。


「安易に壊すと言ったが、どうやってそれを成すつもりだ? もう一度言うが現状、確実に黒の本を滅せられるか分からないだろう……」


 それは……ソティルの魔法を使えば良いんじゃないのかな?

 ソティルの使命だし、それしかなさそうだけど……


『……申し訳ございませんご主人(ユーリ)様……調べてはいたのですが、黒の本を滅ぼす手段は私の持つ記憶にはございませんでした』


 そんな……

 僕ががっくりと肩を落とすと、ナタリアはそっと肩に手を置いて来て優しい声を紡ぐ。


「しかし、だ……ここにはそれを探しに来た。急ごう」


 そうだ……急がないと皆が危ない。

 早く戻ってキョウヤの奴を止めないと、そう思うと途端に不安に思うのが光の消えた魔法陣だ。

 これがなにを意味するのか……ちゃんと戻れるのかな? 


「ナタリー、魔法陣壊れてないよね?」


 そんな僕の不安を汲み取ってくれたのか、フィーは遠慮がちにナタリアに聞く……


「いや、壊した……追って来られても面倒だからな、恐らくあちら側も部屋を潰されているだろう。歩いて戻る他ないな」

「ちょ、ちょっと待ってよ!? それじゃ……街が!」


 アイツは街に行くのは間違いない、ソティルの本のことは一部の人しか知らないだろうけど、万が一僕にたどり着いてしまったらゼルさんや皆が……

 それだけじゃない、此処が何処かも分からないじゃないか!!


「……ユーリ、今は急ぐんだ」

「――っ!!」


 方法が無くても本を壊すしかなかったのではないか? そう言おうとしたけど、即座に生き埋めにされたらどうする? という答えが飛んできそうでその言葉は飲み込んだ。

 事実、ソティルさえ対抗手段が分からないのでは無謀も良い所なのかもしれない。

 相手はゾンビ、キメラを作り出しているだけだけど、他にも強力な魔法がある可能性が高いんだから……


「ナタリー、私だけでも戻せないかな? シアたちと協力すれば……」

「それは駄目だ。相手が不死の魔物を解き放てばユーリしか対抗できん……だからこそユーリを連れてきたんだが」


 どういうこと?


「ユーリは魔物に気を取られていたようだが、奴の後ろには男がいた。恐らくユーリのことも目に入っているだろう、奴らはお前を狙う……」

「じゃ……じゃぁ一緒にいたのを知ってるシュカやドゥルガさんが危ないってことだよね!?」


 仮面は僕と一緒にいたのを見てるはずだ。


「安心しろ、シアに任せてきたあらかじめ作っておいた魔法を渡しておいたからな……屋敷にいれば安心だ、近場の者には鳥を飛ばしておいた」


 ってことは、ゼルさんとかにも鳥を出しているってこと?

 な、なんだ……良かった。

 もし、皆になにかあったらと思ったら、不安でしょうがなかったよ……

 ナタリアもそういうことをしてくれていたなら、最初からそう言ってくれたら良かったのに。


「…………」

「ナタリー?」


 ん? フィーがなんか、不安そうな声でナタリアの愛称を呼んだけど、どうしたのかな?


「なんでもない……さ、手掛かりを探すとしよう」


 僕はナタリアの方へと目を向けるが、其処にはいつも通りの彼女が居て……フィーの声が不安そうに聞こえたのは僕の聞き間違いだったのかな?

 そう思い、彼女に答えた。


「うん、早く探して戻ろう!」


 ナタリアのお蔭で安心出来た僕は現金かもしれないけど、俄然やる気が出て部屋の中を探し始める。

 ここで黒の本を壊す手がかりが見つかれば……後は皆と協力してキョウヤを止めるだけなんだ。ナタリアが作ってくれた時間を無駄にはしてはいけないよね?






「ゼルさん、お手紙です」


 冒険者の少年は月夜の花の主である男性……ゼルへと手紙を手渡した。

 ゼルはその手紙を受け取ると乱暴に封を解き、中へと目を通す……


「誰からなの? 字的には女の子みたいだよね? もしかして、別れた奥さんとか?」


 手紙の内容が気になるのだろう、少年と一緒に居る少女はゼルの足元に落ちた紙片を手に取ると其処に書かれていた文字を見て若干うわずった声で尋ねた。


「馬鹿野郎! 俺は独身だ! 昔の仲間からだ……元気かどうかと書かれていたよ。全く――ほら、お前ら! 依頼さっさと行ってこい!!」


 ゼルはまだ日の浅い冒険者たちを急かすように怒鳴りつける。

 すると――


「やだなぁ……ゼルさん今日は仕事無い日だって言ってたじゃないですか」

「うるせぇ、手紙の最後に依頼が掛かれていたんだよ! 初の遠征だリラーグに行ってこい! 領主にユーリの使いだとでも言っておけ!」

「え? リラーグって……」

「遠いけど良いの? まだ、ひよっこだからって言ったのに?」


 新米の冒険者たちは目を丸くし、酒場の主人へと問う……主人はなにも言わない代わりに頷き答えると……


「あいつら起こしてくる!!」

「そ、装備整えないと!!」


 二人は歓喜の声を上げながら大慌てではしゃぎ始めた。


「遠出なんだ! あまりはしゃぎすぎるな!!」


 ゼルはそう怒鳴りながら、手に持っていた手紙を釜戸へと投げ……冒険者帳簿を取り出すとそれをも投げ入れた。

 彼は焼ける帳簿を眺めながら……珍しく小さな声で呟く……


「悪いなナタリア……そんなお前さんが危険だっていうぐらいだ。……時間稼ぎはしてやる」







「ナタリー、ユーリ……ここ見て? ここの本棚変だよ?」


 部屋の中をどれぐらい探したのだろうか?

 かなりの時間を費やしても手掛かりになる様なものは無く、ソティルに聞いても分からないとの事で半分……いや、殆どお手上げ状態になりながらも探しているとフィーが一つの本棚を指さした。


「変? 変ってなにがだ」

「どこが、変なの?」


 そこは確かあらかた探したはずの本棚で特に変わった物は無かったはずだけど……


「うん、でもね? シルフが集まって来てるの」


 シルフ?


「ってことは風の通り道があるってこと? こんなところに?」


 入口ならまだしもここになにかあるって事か、フィーがいなかったら気づくのにもっと時間がかかってたかもしれない。


「本棚をどかしてみよう……フィー、ユーリ下がってくれるか?」


 僕たちが彼女の言葉に従うとそれを確認したナタリアは詠唱を唱え始め……


「マテリアルショット」


 魔法の名を発した。

 本来初級攻撃魔法である魔法でも物を動かすのには重宝する。

 とはいえナタリアの場合その初級魔法でさえ尋常じゃない威力なのはこの身で分かっている事だ。

 あれで手加減してたんだろうし、本気を出されたらと思うとぞっとするよ……


「壁だねー?」


 ナタリアの魔法によって動かされた本棚の裏には岩壁があり、特に変わった様子は見られない。

 でも、これって……入口と同じ?


「ユーリ、頼めるか?」

「えっと、良いの?」


 入口で怒られたこともあり、僕はナタリアに若干声を震わせながら聞くと彼女は頷きながら答える。


「使える事は分かったんだ、ただし危険だと思ったらすぐに魔法を切れ、良いな?」

「分かった……具現せし、畏怖をかき消せ……ディ・スペル」


 魔法を唱えると魔力が吸われていく感覚と共に入口の時と同様に岩壁は最初からなかった様に消えていく。

 その奥には細い道が続いていて……


「ふむ……フィー先に頼めるか? 私はユーリの後ろにつこう」

「うん、任せて?」


 フィーは細い路地の中へ進んでいき、僕もそれへと続く……

 ナタリアは先ほど言った通り僕の後ろを歩いているみたいだ。


「もう一つ、部屋があるみたいだよ?」

「フィー、気を付けてね」


 フィーは「分かった」と答えると聞き耳を立てた後、ゆっくりと扉を開く……

 彼女の肩越しに見えてきた部屋にあったのは――


「……ソティル?」


 所々欠けていたりしたが、僕の知るソティルそっくりな石像だった。

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