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134話 森の洞窟へ

 呪いの解けたナタリアを連れ、ユーリとフィーナは屋敷を後にした。

 目的は白紙の魔導書……ソティルを見つけた洞窟だ。

 だが、ユーリの記憶ではその場所はすでに入れなく、またソティルの言う事では部屋を移したと言う事なのだが……?

 森の中僕たちはあの場所へ向かうために進む。

 でも……


「実を言うと僕あの場所がどこだか分らないんだよね……」

「な、なんだと?」

「あはは、ユーリはすぐ迷っちゃうからね?」


 うぅ……それはそうなんだけど、あの時は必死で走ってたからどこをどう曲がったのかなんて覚えてないよ。

 確かナイフで傷をつけたとは思うんだけど……


「うーん」


 覚えてない……


「洞窟から出てきた所をドリアードに会ったのは覚えてるんだ」


 どこだったっけ? 僕はそう呟きながら考えるものの全く思い出せない。

 正しくは全く覚えてないんだけど……


「まさか、そこまで方向音痴だったとは……」

「あはは、でもドリアードに案内してもらえば大丈夫そうだね?」


 フィーはそう提案してくれると木に手を添え、精霊を呼び出す詠唱を唱える。

 彼女が精霊の名を口にするのと共に現れたのは植物で作られたようなドレスに身を包んだ精霊、ドリアード。

 そう言えばドリアードと話せるのは初めてだ。


『ユーリはまだ迷子になるの?』


 わくわくとしながら、僕はフィーの恩人でもある精霊に話しかけようとした。

 だけど、開口一番でそんな事を言われた僕は落胆し、地面へと目を逸らす。


「なにを言われたんだ。ユーリは……」

「え、えっと……ドリアード、ユーリと初めて会った場所に連れってってくれる?」

『うん、分かったよフィー』


 ああ、うん……僕もう出来る限り迷子にならない様にしよう。


「無理だろうな」

「…………はっきり言わないでよ」


 僕だってなりたくてなってる訳じゃないのに……

 そう思いながら、僕は心を読んだ女性へと目を向けると彼女は油の切れた人形みたいに首を逸らした。

 ん? どうしたんだろう……





 ドリアードの案内の元、暫く進んだところだろうか?

 目の前には見覚えのある魔物、エイシェントウィローが徘徊していた。

 タリム近辺において恐らくは最も弱いとされる魔物で駆け出しの冒険者ですら倒せる魔物だ。

 勿論、数が少なければ……だけど、目の前にいる魔物は集団、流石に多すぎないかな?


「そっか、そろそろ時期だったかな?」

「時期?」


 何の時期だろう?


「エイシェントウィローは何か月かに一度、木々を傷つける。枯らすためにな……」

「枯らすってもしかして、あそこにいる魔物も元は木だったって事?」


 僕が聞くと二人は頷いてくれた。


「そういう事だね?」


 な、なるほど……

 確かに自然に生まれる訳がないんだし、出てくる原因があるんだろうけど……まさかそんな風に増えてたとは思わなかったよ。


「でも、多いって事は森自体が枯れちゃうんじゃ?」

「安心しろ、一つの木から何体も生まれ出る」


 それは安心だけど、逆に怖いよ?


「……しかし、やはり数が多いな仕方がない」


 ナタリアはそう呟くと右手を真っ直ぐに魔物へと向ける。


飛礫(つぶて)よ我が命により舞い踊れ……アースショット」


 彼女が魔法の名を口にすると空中にいくつもの小石が現れ、それは魔物の群れへ向かい放たれる。

 魔物はこっちに気が付いていなかったようだし、不意打ちもあってか見事に当たり……っていうかエイシェントウィローが砕けてる。


「ふむ、丁度良い薪木も手に入った。帰りに持って帰ろう」

「うん、そうだねー持って帰ろうかー?」


 え、えっと……僕の魔法ってどれだけ弱いんでしょうか?

 僕が苦労したはずの魔物はなんか……数秒程度で倒されてしまっているのですが……

 そんな僕の葛藤を読んだのか、ナタリアは僕に振り返ると。


「気にするな、お前にはお前だけの魔法があるだろう。あれは私では出来ない事だ」

「う、うん」


 確かに補助魔法は得意だ。

 ソティルのお蔭でヒールもあるし、氷魔法なんかはナタリアでは使えない。

 ヒールはともかく氷魔法はその内使いそうだけど……


「さ、進むぞ」

「わ、分かったよ」





 森の中、僕自身も魔法を唱え戦闘に参加しながらも順調に進む。

 そんな中ドリアードは不意に立ち止まり。


『ここが私とユーリが初めて会った場所だよ』


 そう口にした。

 僕は彼女の言葉を聞き、辺りを見回す。

 そうだ、確かにここだ……今は跡形もないけど、洞窟があった場所……僕は岩壁へと手を触れ皆に告げた。


「この奥に洞窟があったんだ……出て来たらもう岩壁だったけど」

「そうだったの? 私もここに来たけど、洞窟は無かったよ?」


 あれ? そうだったの?

 でもなんでだろう……確かに洞窟はあったし……まてよ? あの時、熊を見たはずだ。

 なのにあの熊は僕がいた洞窟には目もくれず去って行った。

 最初は結界のお蔭だと思ったけど、もしかして僕以外には見えていなかった?


「ユーリその考えは外れではなさそうだ……」

「え?」

「どこの誰が施したのか分からんが、ここには高度な幻惑魔法もかけられている……しかし、参ったなここまで高度だと式を崩すだけでは入れそうもない」


 式を崩すって魔法自体を壊すって事だから出来るんじゃ?

 前に僕自身もやった事だし、それなら入れそうだけど……


「ナタリーでも無理そうなの?」

「ああ、恐らく幻惑魔法の式を崩すと別の魔法が作動する」


 彼女はそう言いながら僕と同じように岩壁へと手を添えた。


「全く、ずいぶんと難儀な場所で見つけたものだな」


 苦笑いを浮かべたナタリアは初めて見たよ……でも、と言う事はここに入るにはどうにかして魔法をかき消さないと無理? でもそんな事……


「ねぇ、ユーリ?」

「ん?」

「フォーグの時に魔法を消す魔法を使ってた人いたよね? あれって使えないかな?」


 ディ・スペルのこと? あれはオリジナルのはずだ。

 確かオリジナルっていうのは癖があって使いにくい、ナタリアの話だとそうだったはずだけど……


「ふむ、話に聞いていたものか……試してみる価値はありそうだが、オリジナルではここで式を作り直すのは難しいぞ」


 やっぱり……そうだよね……


「ユーリは前に一回見ただけで魔法を覚えた事あったよ?」

「それはすでに万人向けに式を変えられていたからだろう?」


 フィーが言っているのは火壁(フレイムウォール)水槍(ウォータージャベリン)の時の事だろう、確かにあれはナタリアやシルトさんの魔法を見て使った、

 でも、ディ・スペルに関してはナタリアの言う通りだ……でも、まてよ……そう言えば前にオークの村で魔法が勝手に消えた事があった。

 あれがもし、ディ・スペルが使われていたとしたら……別人の可能性は高い。


「でも、ユーリなら出来るよ?」

「信頼してるのは分かったが、根拠も無しではな……今日の所は戻ろう」


 フォーグに居たあの人がオークの村での一件に関わりがあるなら、僕たちを――いや、フィーを見てなにか反応があるはずだ。

 あの状態から生きて帰れるなんて事、普通は無いんだから……なのに、なにもなかった。

 という事は……あの魔法はすでに?


「…………」


 試してみる価値はあるかもしれない。

 僕はあの時、あの男が言っていた詠唱を思い出そうと試みてみた。

 大丈夫……間違ってはいないはず。


「ユーリ!? やめ――」

「具現せし、畏怖をかき消せ! ディ・スペル!!」


 魔法を唱えると僕の身体の中から魔力が抜け出ていく感覚がし、なにかが割れる音共に目の前の岩肌は消滅する。

 どうやら、成功したようだけど……結構魔力を持っていかれた気がするよ。


「この、大馬鹿者!!」

「――――ぃっ!?」


 奥に続く懐かしい光景を見てほっとしたのもつかの間、何故かナタリアは罵声と共に拳を向けられた。

 魔法は成功したし、一体なんで殴られたの!? しかも容赦なくって凄く痛い。


「痛いって!! なんでいきなり……」

「魔法とは危険なものと教えただろうに! 失敗すれば攻撃性のない魔法でも何が起きるか分からん! それを思いつきで使う馬鹿がいるか!?」


 そ、そんなこと言ったって、あれはもうすでに万人向けに式が作られていたと思ったからで……。


「もし、失敗すればかき消そうとした魔法が暴走、結界内に捕らわれる可能性もあるかもしれない。それは考えたのか? 考えていないだろう!」


 確かにそこまでは考えていなかった。

 もし、そうなっていたら……そう思うと途端に怖くなり、僕は目の前の女性に向け頭を下げた。


「うぅ……ごめんなさい」

「ナ、ナタリー? 魔法は成功したんだから……ひぅ!?」


 フィーはフォローを入れてくれようとし、ナタリアに睨まれたのか変な声を上げた。

 うぅ……ごめんフィー。


「フィーもだ……ユーリなら成功するっと言ったな? なんの根拠もない事を言うな! その気になったユーリが失敗していたらどうしていたんだ!?」

「は、はぃ……」


 フィーは僕の横に来て同じように頭を下げている。

 二人して怒られてしまった僕たちはその場に縮こまる様にしていると……。


「はぁ、今回は成功したこれ以上は言わん、だが……次からは思い付きで魔法を使うな。分かったな?」

「分かりました……」

「フィー、ユーリは確かに優秀な弟子だ。だが、事が起きてからでは遅い……分かったな?」

「わ、分かったよ?」


 僕たちの言葉を聞いたナタリアは一つ大きなため息をつく。


「分かったなら良い」


 そう言いながら僕の頭を撫でてきた。

 子供じゃないんだからっと反論しようとし、顔を上げると満足したのか今度はフィーの頭を撫で始めていた。

 そんな彼女の姿はどこかやっぱり親の様な感じがした……この感覚はこの身体がそう思わせているのだろうか?


「さて、では行くとしようか」


 フィーも顔を上げた所でナタリアは一言、そう言うと洞窟の方へと身体を向けた。

 この先にソティルを見つけた場所がある。

 でも、確かソティルは僕の精神の中に部屋を移したと言っていたはずだ。

 あれがなにを意味するのかは分からない、でも本当にそうなら現実には無い部屋って事だ。

 ……ここで本当になにか手掛かりが見つかるのだろうか?

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