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132話 後編 理由と目的

 話の途中、ナタリアはフィーナを部屋から追い出してしまう。

 彼女にはどうやら聞かれたくない話なのだろうか?

 続く沈黙の中、ナタリアの口はそっと開かれた……

「……理由はフィーにある」


 暫く続いた沈黙の後、ナタリアはゆっくりと口を動かした。


「フィーに?」

「ああ、少し心を読んだ……フォーグに行ったらしいな、フィーの事はもう知っているだろう?」


 お姫様だったって事だろう、僕は頷き答えた。


「ゼルたちと方々に旅をしている最中だった……フィーは私たちにやけに懐いてな……よく私の髪を夕日みたいと言っていたよ」


 そうか……そう言えばナタリアの髪の色は僕と同じだったんだっけ。


「だが、そんな彼女の国は滅び私はフィーを連れ国から逃げた……ゼルたちに生き抜く術を教えられたフィーは冒険者として力をつけていったんだ……」


 現在ゼルさんの酒場で……いや、タリム一の冒険者と言われるほどの強さをフィーは持ってる。

 それは僕も知ってるし、皆も知っていることだ。


「だが、私にとっては妹とも娘とも見れるフィーが心配でな……やはり運命を観てしまった……」

「……もしかして、その……また相手が?」


 その為に僕を連れてきた? ナタリアにしては考えが足らないような気がする。

 だって、彼女が運命を観れたとしても僕の人なりは見えてこないだろう……だけど、その疑問は意味がなかったようで僕の問いに彼女は首を振り否定する。


「彼女は死んだんだ……見たこともない魔物に……森の中で殺された」

「……え? だって、ナタリア……そのフィーだよ? 森って言ったら近くの……」


 僕はそこまで言いかけ、死にかけていたフィーを思い出した。

 もし、あの時――


「ま、まさか……その魔物って……」

「ああ、お前が倒した魔物だ……試行錯誤するうちに私がその場に向かってしまえば良いと思ってな、魔法を作ったのだが、その後の運命は想像と違ったものだった……フィーの前に立っていた少女が魔物を倒していた」


 …………つまり。


「僕は最初からフィーを助けるために呼ばれたって事?」

「……ああ、だがそれだけではなかった。その少女……つまりユーリの正体を追おうとすると、どうあがいても観れなかった……まるで靄がかかったようでな」


 ん? でも……


「僕の運命は観れたんだよね?」

「いや、あれは嘘だ……あの時も観れなかったんだ」


 嘘? じゃぁ……あの時は心を覗いていただけって事? そう言えばそう言われていた気がする……


「……ああ、そうだ。それと分っていた事はある」

「分かっていたこと?」

「ああ、一つはその少女は私が必ず出会う者の中に居る事、だから行き着いた先でお前を探していた。そして仮面の男が危険だと言うことだ」


 仮面の男? そ、それって……


「あれは最初のフィーの運命を観た時だ……その時にはお前の言う仮面ローブは死にゆく彼女を見て笑っていたんだよ」


 ……つまり、ナタリアが観た時にはすでにキョウヤはこの世界に渡って来れていたってこと?


「悪寒がしたよ、助ける事が出来たならそれで目的は達成されている。出来ればユーリたちには関わって欲しくはなかった……勝手に連れて来ておいてなにをと思うだろうが……」

「……一つ聞きたいんだ」

「なんだ? お詫びとは言えんが、答えられることなら答えよう」

「……ナタリア自身の運命は観れないの?」


 もし、見れていたなら呪いは避けれたはずだ……いや、自身の相手が知れたってことは観れるはず。


「観れん靄がかかっているだけだ……だからこそ、呪いを解くと言うお前たちを止めようとした」

「じゃ、じゃぁ……」


 なんで、最初の運命を覗いた時に途中で切らなかったのか……そう聞こうとして僕は口を閉ざす。

 聞いたとしても彼女はそれを思い出すだけだ……


「観始めてしまったら、その者の終わりまで切れない……どんなに辛く苦しい運命だとしても……な」

「じゃ、じゃぁ……あの時フィーの運命を観れば自分がどうなるかぐらい……」

「不思議なものでな……ユーリお前の周りにいる人物にも靄が掛かるようになった……フィーの運命に関してはあの魔物を倒した所で見えなくなったんだ。だが、同時にお前がいればこの先の困難を切り抜けられるとも思えた……だからこそお前をこの世界に連れてきたんだ」


 僕の周りの人たちに靄ってそれじゃまるで……


「運命が定められてないみたいじゃないか……」

「恐らくそうなのだろう……異端者たるユーリが関わったことで生きる者もいれば死ぬ者もいる……」


 そ、そんな……じゃぁもしかしたらシュカも誰かに助けられてその人と一緒になれる運命があったのかもしれないってこと?

 ドゥルガさんだってエルフの騎士として讃えられる未来があったはずだ……


「ユーリ……よく考えてみろ、お前がなにをして今があるかをだ……」

「僕がなにをして……?」


 僕は奴隷制度に腹を立て、情報収集の為にシュカに会うことになった……

 あの時の職員にも苛立ちを覚えた僕はなにも考えず彼女を引き取り……その後フィーに彼女の意思を尊重した方が良いって言われたんだ。

 彼女自身、強かったこともあり安心したけど一緒にいる理由はシュカがいてくれたからだ。


 ドゥルガさんも彼自身の意思で僕たちと一緒に来てくれた……


 フィーに限っては僕の正体を知っていても今まで、いや……今まで以上の仲になった……


「もし、お前がいなければフィーは死んでいたのは確実だ。シュカはあの見た目だいずれ男に買われていただろう、ドゥルガは村が正体不明の魔物に襲われたんだろう? その時に死んでいた可能性もある……他にもお前の選んだ行動で救われた人間はいたはずだ」

「…………」


 すぐに思いついたのはノルド君たちにマリーさん、ミケお婆ちゃんたち、シンティアさん……それにあの兵士さんとクルムさんだ。


「だが、嘘をついてまで連れて来たのは私だ……いずれは話そうと思っていたがすまない……」


 嘘をついてまで連れて来たのはナタリア?

 そうじゃない……だってあの時……


「……いや、違うよナタリア」

「…………」

「ナタリアは僕に異世界に渡るかどうかを選ばせたじゃないか……僕は自分の意思でここに来たんだ。ナタリアがどんな事を思っていたのかは関係ない」


 そうだ……例えナタリアの目的が僕の魔力を使った実験だったとしても、僕は僕の意思でここに来た。

 それがフィーを救うためだったのなら光栄じゃないか。


「そうか……」


 僕がここに来た理由、仮面ローブ(キョウヤ)がいつからいるのかは分かった。

 でも、もう一つ気になることがある……


「どうした? 言ってみろ」

「また心を読んだの? まぁ良いか……フォーグでずっと言われたんだ……僕がナタリアの娘だってどういうことだろう? って思って」

「――なっ!?」


 ん?


「ナタリア?」

「…………」


 急に黙ってどうしたの? それじゃ……まるで……


「ユーリ……お前は……」


 静寂を破ったのはナタリアの声。

 そして……扉の錠が開く音と共に入ってきた二人の女性の声だった……


「フィー!? 待ってください!!」

「ひどいよナタリー!?」

「お前は私の娘だ……」


 …………

 …………え?


「……え? ナ、ナタリー?」


 二人が入ってきたことで外に声が漏れたのを嫌がったのだろう、ナタリアはシアさんを睨むようにすると彼女はすぐに扉を閉め鍵をかけた。


「申し訳ございません、止めたのですが……」

「いや、こうなると解っていたのだがな……考えが甘かった」


 いや、そんなことはどうでも良い。

 ナタリアはなにを言っているの? 僕がナタリアの娘? そんな訳あるはすが……


「ナ、ナタリア? ナタリアまでそんな冗談……」

「そ、そうだよ? だってユーリは異世界から……」

「そうだ、異世界から連れてきた……私自身がな、初めは他人の空似かと思ったのだが……いや、考えようとしていた」


 考えようとしていた?


「だが、忘れるはずもない……私を庇って死ぬ運命だった娘の顔を忘れることは出来なかった……あの男から受け継いだその緑の瞳も昔の私と同じ髪の色も見間違えるはずがない。あの男は目だけは優しそうなものだったからな」


 え?

 じゃ、じゃぁ……僕はナタリアから生まれる事が出来なかったから日本に?

 それに……人を弄ぶ優しそうな緑色の瞳って……いや、そ、それよりもじゃぁ僕え、えっと……?


「だからと言ってお前の親が変わる訳じゃない。だが……もしかしたらあの運命が待っているのかと思うと不安でなお前に魔法を叩きこんだ……」

「だから急に弟子なんて……」


 ナタリアはフィーの言葉に頷く……


「元々、目的もあったからな。それの為でもあったが……とにかく、ユーリよく無事で戻って来てくれた」


 …………ナタリアが僕の親? こっちの世界で生まれたら優し気な緑色の瞳を持つ父親?


「ま、まさか……僕がこっちで生まれていたら……」

「……言う必要はない。会う必要もな」


 なんだろう? この嫌な感じは?

 もしかしてあの宮廷魔術師がこっちに生まれていた場合の僕の親? だとしたらナタリアがフォーグに行った理由って……


「で、でもナタリー、ユーリは私と同じぐらいでしょ? もしナタリーの子だったら」

「私が生んでいたらの話だが今頃十三ぐらいだろうな。だが運命が変わった時、丁度彼女の両親の間に行き場所が出来たんだろう」


 もし、そうだったら、僕は正真正銘の……


「ユーリ」

「っ!?」

「お前の親はあっちにいた、私はただの魔法の師匠だ。こちらの世界での親については詮索をするな先ほども言った通り、ロクな人間ではない会うだけ傷つくだけだ」


 今は心を読んでいないのかな?

 いや、読んでてわざとそういうことを言っているのだろうか?


「…………」

「さて、話を変えよう」


 いや、ナタリアの心を読むのは癖だ……

 今も読んでいるはず。


「ユーリたちはその後、その男に――」

「……コダル」

「――ッ!!」


 僕が呟くとナタリアは今まで見たことのない様な表情を浮かべ固まった。


「やっぱり、あの宮廷魔術師が……僕の親なんだね?」

「え? え? それって杖で……」


 僕が皆を守るために杖の力を利用して殺してしまった人だ。

 ナタリアは暫く固まっていたが、ゆっくりと口を動かす……だけど、その目はどこを捉えているのだろうか?

 何時もの彼女では見られない行動だ。


「…………そうだ、お前がさっきから思い浮かべているその名がお前の親になっていた人物だ」

「そうか……」

「正直に言おう……お前があの男を殺すのは昔もそうだったんだ……隠し持っていた鏡の破片を使って、な……それとユーリ、仮面の話をする前に一つ聞きたい事と言っておきたいことがある」

「な、なに?」


 僕は珍しくナタリアが質問してきたことに驚きつつも答える。

 あの人に関しては……心は苦しいけど、ああしなければナタリアは助ける事が出来なかったし、なにより先にフィーたちが危険な目に合っていた。

 そう考える事にしよう……実際僕にとっては両親はあっちにいたんだから……


「ゼルの店に行ってな驚いたのだが……ユーリ・リュミレイユと書いていたな」

「まさか、あの人の?」

「いや、そうではない、私は家を出たと言ったろう? 今の名は偽名で私の本当の名はリュミレイユなんだゼルたちも知らんがな」


 ……そう言って彼女は机から手紙を取り出すと僕の手にそれを手渡してきた。


「どこで噂を聞きつけたのか分からんのだがな、時々送られてくる……どうやらフィーやユーリたちの言う心配性とは私の親から受け継いだものらしい」

「ナタリア様……」

「だからと言って今更、母親面をすることでもないが……なんと言ったら良いか……その名を見て少し嬉しくなった……それだけだ」


 彼女は優し気な笑みを浮かべ……僕は手紙へと目を移す。

 そこには……親愛なる娘へイリア・リュミレイユよりと書かれていた……

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