128話 シュカとバルド
訪ねてきた冒険者はシュカの仲間だと言う、だが彼女は彼らに怯えていた。
ユーリは彼女の様子を見て、彼らの元へ帰すことを拒否する。
だが、冒険者たちは引かず……バルドの怒りを買い手痛い目に遭うのだった……
あれから僕たちはすぐにあの村へと向かおうと考え……でも、ドゥルガさんを置いていく訳にもはいかないし、肝心の手紙もまだもらっていない。
とはいえ無事レオさんたちが着けたのか分からず、心配だったので一応ロクお爺さんに対し手紙を出しに来たんだ……
そう、たった今三人で手紙を出しに来たんだ……なのに……
「ここ……どこ?」
やっぱりフィーについて来てもらえば良かった……
ドゥルガさんの為に栄養がある物を買い出しに行ってもらっていたのが仇となってしまった……いや、まさかシュカとバルドについて来てもらって迷子になるとは思わなかったけど……
事の顛末はこうだ。
フィーに買い物をお願いした後、手紙を書き終えた僕は早く手紙を出そうとバルドについて来てもらおうとした。
すると、シュカもついて来てくれるというから、断る理由もなくお願いしたのだけど……
何故かシュカはバルドにべったりで……どういうことか気になっていたら理由はこっそりとバルドが教えてくれた。
以前あの冒険者を倒した後、シュカはどうやらお礼を言いにバルドの元へ来た。
彼としても酒場での一件で彼女の異変には気が付いてたみたいで、牢の前でシャムさんとの会話を盗み聞いていたらしい彼は売られた女性と言うのがシュカで彼女がヘマをし、騙され奴隷となる寸前を僕たちが救ったと考えたらしい。
バルドとしてはそういうのが気にくわないらしく……こう言ったとのことだ。
「俺はクズが嫌いなだけだ……イラついたからぶん殴ったそれ以外に理由はねぇ」
う、うーん、それだけでシュカがべったりになるかな?
そう思った僕は隙を見てシュカにも話を聞くと彼女は冷静さを取り戻した後、乱暴者だと認識していた彼があの人たちに対し怒っていたことにふと疑問に思ってたらしく、何度か話を聞いて見た所、シャムさんが牢屋での話をしてくれたとのことで……彼はその時誰の事を指しているのか分からないはずなのに怒った事を知り……
「誰かの為に、怒れる人、頼れる」
となったらしい……その時に彼女から教えてもらったんだけど……
どうやらあの冒険者は元々はシュカと一緒に仕事をしていたらしい、でも腕がどうしても上がらず差は開きその内一緒には居なくなったとの事だ。
そして、久しぶりに会った時に酒になにかを仕込まれたらしく……気が付いたら袋の中に居たと僕に教えてくれた。
それにしても……シュカはあの人たちに怯えてたから、もしかしたら奴隷市場に居た原因だとは思ってたけど……そう言った話だったんだね。
彼らがシュカを連れ戻そうとしたのは連れて行ってまた売るつもりだったのだろうか? あくまで予想だったけど、バルドがいてよかった。
まぁ、そのバルドはシュカの視線とその場の雰囲気に耐え切れなくなったのだろう――
「ああ、うざってぇ……先に帰るぞ」
「え?」
その一言だけ残し帰ってしまい。
「――ッ」
「シュカ!?」
僕のことが目に入らなくなってしまったのかシュカはバルドを追いかけて行ってしまった。
そこからは以前のタリムの様に人込みを避けきれなかった僕は置いてけぼり、迷子という訳だ。
それでも途方にくれつつも覚えている限りで移動をしたんだけど……
「ここ……どこ……?」
えっと確か酒場から出て、犬がいてあの犬毛並みが綺麗だったなぁ近くの路地を曲がった時に尻尾振ってて可愛かったよ……それと曲がった所で球が転がって来て、なんだろうって思ったら小さな子が遊んでたんだよね。
それからは確か道を真っ直ぐだったはず……はずなのに……
僕がいるのは酒場ではなく、商店街。
もはや鳥小屋がどこだったかも分からなくなってしまった……
「おや、君どうしたんだい、困ってるようだけど今一人なのかい?」
「っうわぁ!?」
「おっと……」
おろおろと辺りを見回していたら後ろから突然声を掛けられ、僕は思わず声を上げてしまう。
というかこの世界に来てから何度となくこの目にあってるけど……後ろから話しかけないでください……
「はは、は……びっくりさせてしまったかな?」
「あ、いえ……」
とはいえ道を聞くには丁度良い、流石に聞いてすぐだったら迷わないはずだ。
そう思い僕は返事をしながら振り返ると……
「ん? ……君は……」
「急に声を上げてしまいすみません」
「じゃ……」
「ふぁ!?」
ちょ、声かけておいて去るのってどういうこと!?
「ま、待って! 迷っちゃって酒場街ってどっちですか!?」
僕は藁にもすがる思いで彼へと声を投げると……
「この街は広いんだぜ? 酒場街なんていくつあるのか、っま頑張って探しなよ」
いや、どう考えても酒場街は一つだったような気がするけど……ってあれ? どこかで聞いたような……
「というか、どうせ以前の連れと一緒に来てんだろ? 悪いがコブ付きの女の子を引っかけると決まって嫌なこと起きるんだよ、じゃ頑張って探しなよ」
ああ、この人タリムで僕を見捨てた人だ……
この人がお店に連れてってくれたら、あんな怖い目には合わなかったのに……いや、僕も動き回ってたのが悪いけど……
あの人に聞くぐらいなら、別の人に聞こう、うん……丁度商店街だし酒場の冒険者もいるだろう……でもフィーを探す方向で行こう。
「君、荷物重そうだね……少し持とうか?」
近くから聞こえる声に呆れつつも僕は目につく店に入ろうとし……
「やっぱり、ユーリ? どうしたの一人じゃ迷っちゃうよ?」
彼女の声が聞こえ声の方へと振り返ると荷物を抱えたフィーの姿が目に入った。
よ、良かった……これで帰れるよ。
「実はバルドたちが……」
「ま、待ってくれ! 君荷物を……ん? また君か悪いけどこの子は」
さっき声をかけていた人はフィーのことだったのか……
「ん? 変な人だと思ってたけど、まさかユーリの知り合いなの?」
「ああ以前、彼女を助けてね」
そうなのっと首を傾げるフィーに対し、僕は静かに首を振り。
「シアさんとはぐれた時に声をかけてくれたんだけど、連れがいるって言ったら去って行って……途方に暮れつつも歩き回ってたらギルドの冒険者に襲われたんだ」
「そう、それでこの俺が――」
「そこをバルドがたまたま通りかかって助けてくれたんだよね、お金は要求されたけど」
ついていい嘘とついてはいけない嘘ってあると思うんだ……
「そうなんだー? そうすると、もしかしてあの時バルドの機嫌が悪かったのって」
「シアさんが気が付いてお金を返してもらったからじゃないかな」
フィーはへぇ~っと声を上げると再び首を傾げた。
「それでユーリはなんでここに?」
「うん、実は手紙を出しに行ったんだけど、バルドたちとはぐれちゃって……」
僕がもごもごと言っているとどういうことか理解をしたのだろう。
「そっかー迷子になっちゃったんだね?」
はっきりと言わないでください!?
「帰る所だったから、丁度良かったよ? 帰ろうかー?」
「お、おい君?」
フィーは器用に荷物を片手で持つともう片方の手で僕の手を握ってくれた。
というか……先ほどから近くにいる人のことは目に入ってないのかな?
「荷物少し持つよ」
「うん、ありがとー」
「…………お、おーい?」
僕がそういうと一旦手を放し軽そうな荷物を僕に渡してくれて再び手を繋いでくれたんだけど……
「ご飯楽しみだねー?」
「そ、そうだねー?」
全く反応してないし……もしかして怒ってるのかな?
うん、ちょっとかわいそうになってきたよ?
それから数日後、僕たちの元に手紙が届いた。どうやらレオさんたちは無事あの村に着いたようだ。
あの魔物……グアンナには遭遇しないで済んだみたいでなによりだよ。
でも、あの魔物はなんで出てきたんだろう? そう疑問に思っていつつも僕は手紙を読みふけっていると……
「失礼する……ユーリ殿たちはこちらにおられるでしょうか?」
そんな声が聞こえた。
見た所、兵士さんみたいだけど……どうしたのかな?
「ああ、やはりこちらに……国王が話したいことがあるとのことで……ユーリ殿それにその仲間たちを丁重にお迎えにあがれと命を受けて来ました。ご同行お願いできますでしょうか?」
話? 一体なんだろう?
「わ、分かりました……」
僕は手紙から目を離し、フィーたちを呼びに行く……ドゥルガさんは……まだ休んでいて欲しいし、後で僕から伝えよう。
それと……シュカとバルドはまた鬼ごっこ中なのだろうか? 結局見つからず、僕とフィー、クロネコさんにリーチェさんの四人で王様に会いに行くことになった。
王城へと入ると僕たちはすぐに謁見の間へと通された。
どうやら重要な話らしくわざわざ僕たちに会う時間を割いてくれたらしい。
「来たか……」
王を目の前にし、依然と同じように頭を下げようとすると彼はそれを手で制した。
「よい、話の前にこれを渡しておこう……約束にあった文だ。私の血印とこの国の印を押しておいた問題は無いか?」
シュターク王はそういうと僕へその手紙を手渡してくれた。
でも……二枚?
「全く同じものを二つだ……お前たちのやり方を学ばせてもらったこの方が確実だろう」
「ありがとうございます!」
僕は一通をフィーへと手渡すと王に向き直る。
「話がある……そう、聞きましたけど一体なにがあったんでしょうか?」
王は難しい顔をし……何から話して良いかと呟くとやがて話し始めることを決めたのだろう、その口を動かす。
「冒険者たちよ……奇妙なグアンナに遭遇してはいないか?」
「奇妙なって……目が良かったり魔法を使ってないのに追ってくるグアンナのことかな?」
フィーの言葉に王は頷くと険しい顔で言葉を続ける。
「ああ、実はそのグアンナのことも含め……色々と分かったことがあってな……」
分かったこと? 僕たちへ話すほど関係があるのだろうか?
疑問に思いつつも僕は王への話に耳を傾けた……




