127話 老婆の依頼
無事コダルを倒し、ルテーを解呪したユーリたちは老婆ミケとフィーの願いであったジェネッタとシャムを助け出すことも出来た。
後はミケ婆の待つ家へと変えるだけだ……
そんな安堵の中、ユーリは王との会話を思い出していた。
僕たちは屋敷を後にし、シャムさんとジェネッタさんの二人を連れてミケお婆ちゃんの所へと戻った。
帰る途中、僕は王に呼び止められ依頼金を手渡された時のことを思い出す……
「この度は私の依頼を受けてもらい感謝する」
「……いえ、でも大丈夫なんですか?」
僕の質問の意味を理解したのか彼は穏やかな表情で会話を続けた。
「正直に言うと、色々と問題が起きるだろう……次の宮廷魔術師の選別を始めとし、物資の輸送も早急に対処しなくてはならない……優秀な魔法使いがいれば良いのだが」
彼はそこまで言うと僕に目を向けてきて、その意味に気が付いたのだろうフィーが僕を後ろに隠すようにし、尻尾を立て威嚇するしているみたいだ。
「……その優秀な魔法使いはどうやら、仲間に好かれている様だからな諦めるほかなさそうだ」
王には罪に問われなかった。
その理由は王自らの依頼であり、多少前後はしてしまったもののコダルのやってきたことは許されることではなく死刑は免れなかったとのことだったからだ。
死刑が決定してても普通は罪のはずだけど、この世界の法律って良く分からないな……
「ユーリ」
それにしても、あの本棚……調べてみたら魔力船みたいに魔力を蓄積する水晶があったんだよね……
いったいどうやって誰があんなマジックアイテムを作ったんだろう?
「ユーリ!!」
「ふぁ!?」
呼ばれていたことに気が付いた僕は顔を上げると、そこには頬を少し膨らませたフィーがいてその奥には苦笑いをしているシャムさんとジェネッタさんがいた。
どうやらいつの間にか酒場の前まで着ていたようだ。
「フィーナ様も大変だ、でも、そうやって考え事してる時の顔良く似てるね流石は親子だ」
「え、えっと……ユーリは」
ここでも僕はナタリアの娘って呼ばれるんですね。
というかそう呼ばれても違和感を感じなくなってきてしまった気がする……ごめん、母さん……うぅ、罪悪感が。
「えっと、どうしたの?」
「え、うん、ちょっとね?」
「なにか分かったことがあるなら言っておけ、情報は武器になる」
クロネコさんの言葉に一旦は頷く僕だったけど、それよりも先にやることがある。
「そのことは食事の時にでも話すよ、それよりも……」
酒場の入口へと手をかけ皆へと振り返りながら……
「二人を早くミケお婆ちゃんに会わせないと」
そう言った。
「うん、そうだねー?」
酒場の中へ入ると、机に座っていたミケお婆ちゃんは僕の方へと顔を向け。
「帰ったのかい、お帰り」
優しそうな顔でそう言ってくれた。
その時、僕はあの事件が起きるまでは優しかったお婆ちゃんの顔を思い出し、少し悲しくなったものの笑顔を作り……
「ただいま……それと、僕たちだけじゃないよ」
そう言葉にすると扉から横へと移動する。
「きったなくなってるかと思ったら……ちゃんと掃除してあるね」
「お婆ちゃん!!」
シャムさんは店の中を見るなりそう口にし、ジェネッタさんはミケお婆ちゃんへと駆け寄った。
当然、ミケお婆ちゃんは目を丸くし、二人の間を目は行ったり来たり……
抱きついたジェネッタさんへと目をとどめると……
「姫様だけじゃなく、家族まで……お婆はなんとお礼を言ったら良いのか分からないよ」
「……僕たちでなんとかするって約束したからね」
王様の話ではここもまた酒場が出来る様にしてくれるって話だし、この家族はもう大丈夫だろう。
ただ、ジェネッタさんの恋人に関しては分からなかった……
予想は付くけど……彼女もそれを考えているだろうし言わない方が良い。
「ユーリ……」
「ん?」
フィーに呼ばれ僕は彼女の方を向く。
「ありがとう」
「……フィーも頑張ったんだよ」
彼女のお礼に頷きつつもそう伝え……僕は再びミケお婆ちゃんたちへと目を向けた。
するとお婆ちゃんも顔を上げていて、僕を見ながら。
「二人は姫様とお婆にまで光を示してくれる、太陽みたいだよ……」
「そ、そんなことないですよ……」
確かにそういった魔法を使えるしリュミレイユっていうのは半分太陽って意味だけど……
僕、自身が太陽みたいな人ってことは無い。
ナタリアに関しては分からないことだらけだから、なにも言えないのだけど。
「うん、小さな太陽だよ……お婆ちゃん」
「まぁ、間違ってはいないねあんな魔法あるとはね、ありがとね」
うぅ……なんか恥ずかしくなってきたよ。
でも、フィーもにこにこしているし、助けられて良かった。
この日の食事は三人が腕を振るってくれたようで豪華なものだった。
その翌日……
酒場の扉が開き、僕たちはそちらへと顔を向けると……そこには。
「おう、シュカ迎えに来たぞ」
「ッ!!」
なんで昨日の冒険者が?
「牢獄行きじゃなかったの?」
僕の疑問をフィーが代わりに聞いてくれると男の一人はにやりと笑い。
「俺たちは利用されてただけだ、交渉してな金を払ってこの国を出ていけば許してくれるってことになった訳だ」
昨日バルドに怯えていたはずなのにそれとこれとは別ってことなのだろうか?
しかし、彼らは何をしに来たんだろうか? やけにニヤニヤしているし見ていて気分のいい感じではない。
「昨日は驚いたがよく考えればそいつは一度俺たちが捕らえてる、お前ら殺されたくなかったらシュカ返せよ」
「……シュカは戻りたくないみたいだよ、僕はシュカの意思を尊重するよ」
僕はいつの間にか隠れてしまったシュカへ目をやるとそう答えた。
実際彼女がここまで怖がっている以上、はいそうですかって見捨てる訳にはいかない。
「そんな雑魚についてても、良いことないぜシュカ」
だが、相手はどうやらなにも考えてはいないみたいで……帰る気もないみたいだ。
面倒だけど脅した方が良いのかな? 彼らに対し苛立ちを覚えた僕はそんなことを考え始めた所だった。
「うぜぇ……」
心底嫌そうな声がバルドから聞こえた。
「あん? 雑魚がなに言ってやがる」
「確かに俺はお前らに捕まったが……さっさと失せろ、じゃねぇと…………殺すぞ?」
「ちょ……バルド!?」
今、絶対殺すとかそんなこと言ったよね!?
はっきりと聞え過ぎだよ!?
焦る僕とは別に男たちは笑い出し……
「表出ろよ……」
その言葉だけ残し外へと出ていき……バルドも彼らに続いて外へと向かう。
「バルド!?」
「手ぇ出すな……」
いや、手を出す必要はないと言うか……相手の方が大怪我じゃ済まなそうなことを心配してるんだけど……
なんか、凄い怒ってるし本当に殺しかねないよ。
「え、えっと……いざとなったら止めようかー?」
「そ、そうだね、お願いするよ……」
ドゥルガさんが万全なら今止められただろうに……
そう思いながら僕たちも外へと出る。
「おい、あの魔法使えよ……曲がりなりにも大魔法だろ?」
すると、残念過ぎる挑発が聞こえ……横でクロネコさんは鼻で笑う。
「あの馬鹿野郎がどうして捕まったのかは知らねえが、実力の差を理解出来ない馬鹿は見てて滑稽だな」
ああ、クロネコさんはまたそんなことを……
僕が止めた方が良いのかなぁ……でも流石にバルド相手じゃ魔法を使うのも気が引けるしなぁ。
悠長に考えてる場合じゃなさそうだけど……
僕が内心そう思っている時だ……バルドの口からそれが紡がれたのは――。
「我が嘆きを我が憎しみを我が怒りを現世へ現せ」
「…………へ?」
そ、その詠唱は知ってる。
確かナタリアからもらった本に……って――
「バルド! 流石にそれは――」
「サーヴァント」
僕の制止は届かず、その魔法は具現した。
結果から言おう、バルドが使ったのは闇属性の最上位、つまり彼らが言った大魔法というのは本当でナタリアの本曰く、体力精神力が共に優れていないと使えない魔法だ。
因みになぜか分からないけど、僕は闇の魔法が一切使えない。
攻撃魔法とは違い全く駄目だった。
ナタリアに理由を聞いてみると……
「実はな、私も闇の魔法は苦手でな……」
っと苦笑いをしていた。
それでもわざわざ書いてくれたのは対峙した時に対処出来る様にというナタリアの優しさからだろうけど……
「ひ、ひぃぃぃぃ」
正直に言おう、仮に相手がバルド並みの冒険者だった場合。
「た、頼むもうやめ――!?」
「ぁあ? 俺は雑魚なんだろ? ほらよ……」
あの魔法を使わせないのが得策だと悟った……
三人が同時に理不尽なまでの暴力を振るわれるその光景は……まるで相手がサンドバックの様に見えて若干の気の毒さを覚えたよ。
というか、加減ちゃんとしてるみたいだけどさ……逆にそれがかわいそうだ。
これには流石にシュカも……
「いい、気味」
以外にも引いてなかったけど、予想が当たってれば彼女がそう言うのも当然なのだろうか?
しばらく続いた一人による三人へのいじめとしか言えない行為は……彼らの一人が気絶することで終わりを告げ。
「……失せろ」
バルドのその一言でその気絶した男を連れ、去って行った。
うん、絶対に約束は守ろう……バルドの性格からすると現在女の子としてこの世界にいる僕もなにされるか分からない。
「ユーリ」
「ん?」
「その、バルドは仲間には手を出さないよ?」
僕の考えてることをまるで見透かすようにフィーは引きつった笑顔でそう教えてくれた。
「その、シュカがそのままで良いみたいだから、放っておいたけど……止めた方が良かったかなー?」
「そ、そうかも」
「いい、気味……」
……僕はふと皆へと目を向けてみた……えっと、シュカとバルドそれにクロネコさん以外はちょっと引いている。
うん、止めた方が良かったね……




