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126話 小さな太陽

 集まっている冒険者たちを気絶させ、鍵を奪うユーリたち。

 だが、そこに現れたのは先ほど落とし穴へと案内をした冒険者だった。

 ディ・スペルを使い魔法をかき消す冒険者に対し、わずかな魔法で対処をするユーリ。

 彼女の機転は活き、冒険者の魔力を削り取ることに成功、勝利を収めるのだった……

「…………」


 刃が降り落ちる瞬間は見ることは出来なかった。

 魔法が解けることは無く維持出来たのは自分自身でも奇跡だと思うとはいえ……やはり僕は――


「ユーリ、大丈夫?」


 フィーの声が聞こえ、僕は首を縦に振る。

 嘘だ……だけど、今回も倒れる訳にはいかない僕は深呼吸をし……牢屋の方へと顔を向けた。


「フィー早くバルドたちを」

「うん」


 それだけ言って僕はその場に座り込む。

 どんなに経験してもこれだけは慣れることは出来ない……でも、ここで立ち止まるわけにはいかないんだ……

 そう考えていた時だった。

 ドサリと言うには軽すぎる音が鳴り……僕たちは新手かと顔を音の方へと向けた。

 そこには……


「ドゥルガさん!?」


 血だらけのドゥルガさんが倒れていて、その先にはこの国の宮廷魔術師であるコダルが立っていた。

 恐らく彼を運んできたのだろう男たちは息も絶え絶えで戦えそうもない。

 だけど、あの怪我じゃまずい! すぐに治さないと……


「動くな……」


 そう呟いたコダルの手にはミミズが何匹も張っている用に見える杖……僕たちが探し求めていたルテーがあり……


「動いたらお前ら全員呪われるぞ、ん?」


 確か、呪いにかかるとなにかを失うはずだ。

 エルフやナタリアの状況からして呪いを解いた者はいない……だとすると呪いを解いても失ったものは戻ってこない可能性がある。

 ドゥルガさんは見た目からしてなにかを失っていないように見える。

 僕たちに見せつけるために技と連れてきたんだろう……


「うぅ……」


 今度は後ろからうめき声が聞こえた……声からして男性でバルドの声じゃないのは確かだ。


「コ、コダル様!?」


 ますます状況は悪化していく……


「お、お前たちも動くな! 使えないゴミめ……なんだこの有様はぁあ!?」


 叫び声を上げたコダルは僕たちへその醜い目を戻すと……


「良いか? お前たちが動けば全員殺す、だが……動かなければ女たちは許してやる。日の元に出ず一生をここで暮らすと良い」

「…………ッ!!」


 やっぱり呪いを知ってる?

 いや、当然か……恐らくは商人から話を聞いたんだ。


「おい! お前らは戻ってこい!!」


 全員、ってことは一人だけにかかる魔法ではないってことか……それに、今までの経験からしてマジックアイテムは身に着けているか魔力を籠めて使う。

 無詠唱魔法みたいなものだ。

 ナタリアは無いって言ってたけど、あるんじゃないか。


「ふひ、これで玩具が四個だ……ぞ、存分に楽しめるぞ……」


 コダルはなにかを呟いたのだろう……気味の悪い笑みを浮かべた。

 いや、今はそんなことはどうでも良い。

 このままじゃ捨てられたあの人たちだけじゃない……皆が、フィーも……女性になってしまった僕はともかくバルドたち男性は死ぬ。

 もう後には引けないんだ……覚悟を……


「さぁ、この魔法で――」


 決めるしかない。


「氷壁よ、邪なる力を阻む守壁となれ」

「日の浴びれないからだにしてやろう」

「ミラーウォール!!」


 想像しろ、時間は十分だ。

 一面だけをまるで鏡の様に……僕たちに呪いが届かない様、壁を……


「か、壁!? 魔法か……」


 僕たちの後ろから声が聞こえる……どうやら冒険者が目覚めたみたいだ。


「そこでじっとしててよ……下手に動いて壁の外に出たりしたらコダルの呪いにかかっても知らないよ」


 氷狼が言っていた言葉ほんとうならこの魔法の壁は名前の通り鏡だ……呪いは向こう側に居るコダルたちにかかる。

 勿論、後で杖を手に入れた後にでも治せば良いだろう……


「――――っ!!」


 僕の言葉に息をのむ冒険者たちはどうやら、大人しくしててくれるみたいだ。

 ルテーは発動したのだろうか? 例え発動してても、幸い魔法は上手くいった……僕たちにはなにも変化はない。


「シュカ! ドゥルガさんに呪いは!?」


 僕は黒髪の少女に声をかけると、倒れた男性から振り絞る様な声が耳へと入る。


「安心しろ、そこまでヘマをしていない」


 ふぅ……っと僕は一つ安堵のため息をつく。

 しかし、それも束の間僕の作った壁の向こう側から――。


「コ、コダル様一体なにが!? な……そ、その姿はいった――ギャアアアアアア!!」


 誰かが駆けつけてきたのだろうか? 叫び声と共に聞こえるのはなにかが壁にぶつかった音だ。

 金属? いや違う……もっと、もっと別のなにか……。

 背中がぞくりとし、壁の向こうにはなにか得体のしれないモノがいる……僕はそう感じ、すぐに詠唱を唱える。


「太陽よ慈悲を、邪なる者に裁きを……」

 

 ミーテの詠唱が終わるのとほぼ同時に魔法で作った僕の壁は壊された。

 ありえない……あれは単なる鏡ではなく、強固な盾としても使えるはずだ。

 それに作ったのは補助魔法が得意な僕だ! なのに……

 そう疑問に思う僕の目の前、つまり壁があった場所には血に塗れた魔物がいて……


「な、なに? あんな魔物さっきまでいなかったよ!?」


 フィーの叫びに近い声が聞こえる……確かにあんな魔物は居なかった。

 だけど、僕はそれがなんなのか気が付いてしまった……あれは、宮廷魔術師だ。

 その証拠に身にまとっている破れた衣服、優し気な瞳……そして手には杖を持っていて……。


『グゥゥウゥルゥゥゥウゥアァァァァ!!!』


 奇声を上げながら僕たちへと迫ってくる。


「っ!! ルクス・ミーテ!!」


 僕は魔法の名を唱え、光の玉を出現させるとそれを即座に前へと出した。


『――ッ!! ガァァァァァアアアアア!!!』


 魔物となっても、反射したルテーの効果は変わらないのか、苦しみ悶えだす。

 ……時間が経つとうごめいていた影は動きを止めた……終わったのだろうか?

 それにしても、あれは間違いなく宮廷魔術師のはず……なんで突然魔物なんかに……ってドゥルガさんは大丈夫!?

 僕は血だらけのドゥルガさんのことを思い出し。慌てて彼へと駆け寄った。

 あえて倒れている男たちには目を向けないようにしながら、僕は詠唱を唱える。


「ヒール!」


 その言葉を紡ぐと徐々にではあるがドゥルガさんの傷は癒え始め、大方治した所でドゥルガさんは溜息を一つつき。


「助かった、血は足りないが大丈夫だろう」

「ごめん、僕の注意が足りなかったんだ……」


 もし、彼になにかあったら僕はシアさんにどんな顔をして会えば良かったのだろうか……

 とにかく、間にあって良かったよ。


「…………小さな太陽?」


 そんな呟きが聞こえ僕は魔法を解いていないことに気が付き、ミーテをかき消す。


「ユーリ、シャムさんもバルドも無事だよ?」

「うん……」


 さて、これからどうしたら良いんだろう……宮廷魔術師を見るも彼はその体が砂のように崩れていく……

 あれが、呪い……

 もし、魔法が失敗してしまえばナタリアも……

 不安に思いつつ考えごとをしていると何人かの影がここに向かってくるのが見えた。


「ッ!!」


 まずい、今騒がれてしまうのは……


「そう、身構えるな……冒険者よ」

「え?」

「無事だった様だな……杖も見つかってるじゃねえか」


 クロネコさん?


「クロネコ? それに……」


 フィーは僕を守ってくれるつもりだったのだろう、真横から声が聞こえ、僕は彼女の心強さを感じながら、昨日会ったばかりの人の顔を見た。


「王様?」

「うむ……そちらの仲間が倉庫で怯えている男を見つけてな……そのものから話を聞き私自らコダルへ手を下そうと赴いたのだが……」


 彼はそこまで言うと津への方へと目を向け――


「その必要はなかったようだ」


 倉庫で怯えていたって……一体……


「カバール、商人の奴だが陽光の呪いをかけられてな倉庫に逃げ込んだらしい」


 ……え?


「持ち主に見つかって匿ってくれと金をぶん投げて頼んだらしくてな、不審に思った持ち主が酒場に依頼を出していたんだよ」

「じゃ、じゃぁ……」


 もうすでにコダルは魔法を使っていた?

 そう言えば氷狼が言っていた使えば最後……道具を含めた魔法を使えなくなる。

 あれってつまり、二度目に使おうとすれば魔物になってしまうってことだったの?

 それに考えてみれば死に方が違う……コダルは砂になったけど、聞いた話では干からびた死体だ。


「ああ、マジックアイテムを使い呪っていたと言うことだ。彼は冒険者にそのことを告げていたそうなのだが……連れ出されてな」


 王はそう言いながら杖を拾うと……


「これはこの国には必要のない物だ……約束でもある持っていくが良い」


 僕へと手渡してくれた。

 つまり、その人は……商人は亡くなったってこと?


ご主人(ユーリ)様、左の手を杖へと添えていただけますでしょうか?』


 呆然とする僕の頭にソティルの声が響く……

 左手?

 何故左なんだろう? そう思いながらも僕はソティルの言う通り左手を杖へと添えた。






 何故だ、魔法は無限の可能性があるのではないのか?

 いや、可能性はある……だが何故だ? 何故奴は私からあの人を……太陽のような人を奪っていく……

 友人だと言ってくれたじゃないか。

 ああ、憎い……私の前であの人と陽の元へ出て笑うな。

 私を笑っているのか? 笑うな! その人は私の太陽だ。

 憎い、返せ……ああ、そうか、魔法は破壊の力……なら――


【お前を陽の元に出れなくしてやれば良い】

「――――っ!?」

「ユーリ!?」


 悪寒と言うには言葉が足りないなにかが背中に走り、僕は思わず杖を手放した。

 な、なに……今のは一体? なにが起きたんだ?

 僕はただソティルの言う通りに……


『このアーティファクトを作った者の思念であり怨念です』


 作った? じゃ……だとすると僕の作ったのにもなにかしらの……


『いえ、それは無いでしょう、ですが……呪いは違うのです。作った者の狂気を取り込みそれを媒体としています……使い手はこの狂気にのまれ魅入られる……心の弱い者の心を喰い今再び肉体を得るために』


 そう言えば、アーティファクトは術者に成り代わるってこういうことだったの?


『肯定します。喰われぬ物であればそれを心身が拒否、強い意志を持つ者……または私欲に塗れ自我が強い者はご主人ユーリ様の様に自身の意志で手放すことが可能です……』


 それを見せる理由って……あるの?


『思念を知ることにより、それを浄化する方法を得るのです。……本来であれば私だけが見れれば良いのですが……申し訳ございません、同調が進んでいるためご主人(ユーリ)様の脳へ流れてしまう様です』


 そうなのか……まだ見ないと駄目なんだよね?


『はい、ですがご安心ください。以前申したように私がお守りいたします』

「ユーリ、大丈夫? なにかあったの?」

「……うん、大丈夫」


 ナタリアの呪いを解く為なんだ、僕はそう言い聞かせ一つ息をつくと再び左手を杖へと添えた。

 その瞬間から杖より流れてくるのは怨念ともいえる思念。

 捨てた者への憎しみ、そして愛情。

 裏切者への怒りと友情。

 苦悩し、迷い……憎悪へと変わっていく……


ご主人(ユーリ)様、式が理解できました、詠唱は――』


 私から、二人(お前たち)を奪ったお前たち(二人)だけは――


「『陽光よ、今一度かの者に降り注げ……ルテー・ディ・カース』」


 杖は音を立て砕け散る……

 恋人を奪われた人の思念……僕だってフィーが奪われたら狂ってしまうかもしれない。

 だけど……そうはなりたくはないな……


「…………」


 砕け、砂となって消える杖を見ながら僕は――


「……戻ろう、二人をミケお婆ちゃんの所に帰して……早くレオさんたちと合流してリラーグに」

「うん、そうだねー?」

「……ん」


 二人は当然様に頷き答えてくれてドゥルガさんは声に出さないでも頷いてくれたし、大丈夫だろう……バルドはまぁ、約束があるし問題ないはずだ……


「お、おい、まさか……お前……シュ、カか……?」


 そんなことを考えていた時、冒険者は彼女に気が付いたようで名を呼んだ。

 ……やっぱり知り合いだったのか。


「……お、おい、また一緒に組まないか?」

「…………」


 彼女は答えずに近くにいたドゥルガを気遣うようにしていた。

 組む気はないってことだろう、微かに震えてもいる。


「お、おい、なぁって……」

「シュカは僕たちの仲間だ。彼女を無理やり連れていく気なら……それなりの覚悟はしてくれるよね?」

「あぁ? 元は俺たちの――」


 男がなにかを言いかけ、それに合わせる様にバルドは地面へ拳を叩きつけていた。

 叩きつけられた床は綺麗だったはずなのに、ひび割れ……殴っただけで出来る芸当じゃないよ普通。


「チッ本調子じゃねぇが……デカブツ抱えるぐらいは出来そうだ。さっさとずらかるぞ……ユーリ」

「うん、そうしようか」


 バルドはわざと音を立てたのだろうか? でも、そのおかげで口を開けっ放しの冒険者はその場に呆然と立ち尽くし……僕たちは屋敷を後にした。

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