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124話 屋敷の中で……

 バルドが捕まったのではないのだろうか?

 冒険者の報告を聞きいたフィーナの顔を見て、ユーリはそんな不安に駆られた。

 真相を確かめるべく、彼女たちは冒険者の案内の元向かうのだが、たどり着いた部屋で罠へかかってしまったのだった……

 ドゥルガは、部屋の中で腕を組み佇んでいた。

 先ほどから彼に殺意を込めた視線が向けられていることを知っていながら……

 その様子を見て気の弱い宮廷魔術師は気味の悪い笑みを浮かべ……それを一瞥したドゥルガは鼻で笑う。


「な、なにがおかしい!」

「いや、俺が居なければユーリたちを捕まえられると思っているみたいだが……それは見当違いだ」

「な、なにを言っている!?」

「ユーリは抜けている所があるが、あれで頼りになる立派な戦士だと言うことだ」


 ドゥルガは腕を組んだまま扉の前まで移動すると、コダルへと向き直り……


「悪いが、他の者達をユーリたちの元へは向けられん」


 巨漢は背に背負っていたオーク族の斧を手に取り床へと突き付けるようにし立つ、彼は初めから分かっていたのだ。

 目の前にいる男が自分たちを知っていることにだが、それを警戒し作を練っていればレオたちに追手がかけられるのも理解していた。

 彼らにしてみれば一番体躯がしっかりしていたドゥルガが脅威だっただろう、だが……彼はそれを見通しあえて残った。


「残すなら、ユーリを残すべきだったな」


 彼はそう言葉を紡ぐと見えない刃に襲われた……







 らしくないことをした。

 バルドは鉄格子の中、未だ霞む視野の中で思考する。


「あんたねぇ……」


 あきれた様子の女性の声が耳に入るが、そんなことはどうでも良かった。

 先ほどから良く見えない目で男たちを観察していたがどうやら森族(フォーレ)はいないようだ。

 恐らくは元々彼らの国で部下としておくには信用が出来なかったのだろう……そう考えた彼は一先ず安堵の息をついた。


「あの人数相手に一人でやりあおうとするんじゃないよ!!」

「うるせぇな……万全だったら一人で足りる」


 彼は耳元で聞こえる声に心底嫌気がさしたのだろう、ぶっきらぼうにそう言うと……小さく呟いた。


「本当に頼りになるのか、お手並み拝見と行こうか……」








「フィーナ様?」


 そう言葉にした女性は僕たちを……いや、正しくはフィーを見て目を丸くしていた。

 ……ってすごい格好だよ!? 服と呼んで良いのか、いやギリギリ服ではありそうだけど……辛うじて見えないとは言ってもほぼ布きれじゃないか!?

 僕が彼女の格好に驚いているとフィーはそれに気が付いたのだろう僕の目を塞いで来た。


「うわぁ!?」

「ユーリは見ちゃだめだよ?」


 見ちゃだめって、まぁ見ちゃだめなのは分かるけど……いきなりで少しびっくりしてただけです。


「……ジェ、ジェネッタお姉ちゃんだよね?」

「はい、なんでこんな所へ……」

「えっと、それはね?」


 なにと答えたら良いのか分からなくなったんだろう、フィーは困った声で答えていると言うかこのままじゃ、僕なにもできないよ?

 とにかくなんでも良いから彼女に服を……そうだフロムに行った時の上着が確かあったはずだ。

 あれなら丈も長いし、温かいこの地方でも今の彼女には丁度良いだろう。


「フィー、僕の荷物にこの前の上着があるはずだよ」

「え? シュカ、お願いできる?」

「良い、けど……ユーリの目塞ぐ、理由ない」


 そう言えばシュカには……いやフィーとナタリア以外は僕が元男性と言うのは知らないんだった。


「え、えっと……色々あるんだよ?」


 フィーの言葉で呆れてしまったのか溜息だけ聞えたよ?


「あった、これ着る」

「あ、ありがとう……」


 というか、そのジェネッタさんも呆れてると言うかどう対処したら良いのか分からなくなってる気がする。

 そんなことを考えている内にどうやら服を着てくれたのだろう、フィーがようやく覆った手を動かしてくれた。


「それで、なぜフィーナ様が?」

「え、えっと……」

「実は……僕たちは冒険者で依頼でここまで来たんだ……それで、ミケお婆ちゃんと出会って……」


 僕は彼女に簡易的ではあるが話を伝えると……一瞬顔を綻ばせすぐにその表情は曇った。


「そうだったんですか……でも、ここに捕まってしまったらもう……」


 ん? ここって屋敷の中で部屋だよね? 見た所鉄格子もないし、恐らくカギがかかってるぐらいだろう。

 上から繋がっていることも考えると、上の部屋へ戻れない様になってるか戻れても鍵がかかってそうだ……そもそも、僕がいることは分かっているんだし何の対策もないってことは無いよね?


「扉には鍵がかかってますし、外には見張りが何人もいる……逃げることは……」


 なるほど……どっちにしろ彼女は連れていくことは出来そうだ、後はバルドと合流してフィーの乳母さんと杖を探せれば……

 その前にシュカに確認しておいた方が良いよね?


「シュカ、気配は?」

「ない、大丈夫」

「あ、あの……ですから、脱出は不可能……」

「大丈夫、なんとかするよ」


 僕は荷物の中から布を取り出しそれを広げた。

 潜入するために一応作っておいたものだ。


「ユーリこれって……」

「うん、透明化の魔法陣だよ、浮遊(エアリアルムーブ)みたいに全員に付与出来る様に式を変えてる。これなら皆安全に移動できるよ」


 僕たちがこうなった以上、置いてきたドゥルガさんも心配だ。

 早く戻った方が良い……


「透明になる前にユーリはロープを繋いでおこうね?」

「う、うん……そう、だね?」


 僕が迷子になってしまうからね……

 自分を情けなく思いつつも僕は詠唱の準備に入った。


「我らは求む、視認させぬ身を……数多の危機から逃れる術を、牙をもたぬ物を覆す力を……クリアトランス」


 僕たちの身体は徐々に透けていき身に着けているものまで透明へと変わっていく。

 魔法陣を鞄の中にしまってと……後は外に出るだけだけど……外には見張りが良そうだし、簡単に出るってことは出来ないよね……

 扉を開けたら透明になっていてもばれるのは間違いない……不意打ちでもかけられて気絶させられたらいいんだけど…………そうだ!


「我と否定する我に幻創の身体を与えんトランス!」


 僕は声だけ変えるようイメージをする。

 声の感じはさっきの冒険者で良いだろう……落ちてから時間はそんなに経っていないし、恐らくあの男は報告に向かうはず。


「ユーリ?」

「しっ……僕が叫んだら扉が開くはず……そうしたら入ってきた人を二人にお願いできる?」


 僕は変わりつつある声で二人にそうお願いした。


「分かったよ?」

「任せる……」


 二人の声を聴き、僕は声を確かめるために何度か小さく呟いた。

 よし……これならいけそうだ。


「おい誰か出してくれ!! 他にも潜入者がいやがったんだ!!」


 ひ、久しぶりにこういう口調を使った気がするけど、大丈夫かな?

 僕たちは息をのみ静かにその時を待った……

 何十秒経っただろうか、駄目……だったかな? そう思い始めた時だ。

 外から慌てた様に走る音が聞こえ扉から鍵が開く音が鳴り響き、三人の男がなだれ込む様に入ってきた。


「ど、どういうことだ?」

「誰もいねぇ!! お――ッ!!」


 声を上げようとした男は突然頭がなにかに殴られたかの様に大きく揺れ……


「お、おい? どうし――か、はっ!?」


 それに驚いた男は慌てふためている所を腹部を殴られたのだろう、体をくの字に曲げた。


「ま、待て! 俺たちだ落ち着け! ――ッ!!」


 残る一人は仲間が透明化しているものと信じていたのだろう、二人を落ち着かせようとするもののそれは叶わずに同じように気絶をさせられた。

 音はそんなに大きくなかったけど、うめき声が聞こえたはず……

 僕は扉を睨みながら警戒をしていたけど、これ以上入って来ないことと大声を上げようとした様子から近くには人がいないのかな?


「ユーリ、どこー?」


 僕はすぐに答えようとし、声を変えたままだったことに気が付くとトランスだけ解き彼女に答える。


「ここだよ」


 フィーたちも警戒を解いたみたいだしこれ以上の気配は近くにないのだろう。

 そう一先ず安心していると僕の頭にポンとなにかが触れた。


「うわぁ!?」

「あ、ご、ごめんね?」


 び、びっくりした……フィーの手だったのか。

 相手も透明だと急に来るから怖いものがって……


「フィ、フィー?」

「ユーリの髪さらさらだね?」


 気に入られてしまった様でフィーは僕の頭を撫でる様にしてくるけど、これ結構好きかもしれない……


「ユーリ、フィーナ……早く、する」

「「はいっ!」」


 見えなくても会話で大体の予想が付いたのであろうシュカの呆れた声に僕たちは同時に答えた。



 廊下へと出るとすぐ近くには階段があり、恐らくは上につながっているはずだ。

 このまま上に出て行けたら良いのだけど、バルドを助けないと……


「こっちだよ?」


 彼がどこにいるのかまるで分っている様に、フィーは僕の身体に括り付けたロープを軽く引っ張り迷うことなく進んでいく。

 因みにこのロープちょっと長めにしてあり、シュカとジェネッタさんもロープに手をかけることではぐれない様にしている……意外と役に立ってるのかな?

 そんなことを悠長に考えていると、目の前に大きな牢屋が見えてきた。

 あの中にバルドがいるのだろうか?

 僕は目を凝らし、牢の中を見ようとした……だけど、目の前には冒険者たちがいて良く見えない。

 シュカなら近くまで行ってみることが出来るだろうか?

 そう思い僕がシュカへと声を掛けようとすると……


「――っ!?」


 あ、危なかった……なにかに抱きつかれた感覚がして思わず声を上げそうになったけど、怖すぎて逆に声が出なかった。

 不幸中の幸いと言うやつだけど……背丈からしてこれは……


「シュカ?」


 僕が小さく呟くと……彼女に一体なにがあったのだろうか、更に抱きついてきてその体は……微かに震えていた。

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