123話 コダルとの対話
ユーリから渡された魔法「クリアトランス」を駆使し、バルドは宮廷魔術師コダルの屋敷を調べていた。
そして、地下へと通じる道を見つけるもその先にあった牢屋に捕まっていた女性と冒険者との会話で彼は冷静さを失い単身で挑んでしまった。
同時刻、ユーリたちは時間稼ぎの為に会話を続けていたのだが?
「ほうほう、では……賊以外にも脅威があると?」
「はい、事実僕たちもその魔物グアンナに襲われ、命からがら逃げてきた訳です」
話し始めて時間は結構経ったはずだ。
僕たちは賊の話……被害情報から始まり、魔物グアンナの情報を宮廷魔術師へと伝えた。
賊の話も全くの嘘という訳ではなく、実際あった事件をクロネコさんが聞きそれを拡大解釈したものだ。
これなら後で知られてもどこかしらで情報がねじ曲がったで済むし保険なんだけど……
「して、私になにを?」
「はい、まずは魔物グアンナの討伐を王が依頼したいらしく」
「な……なるほど」
魔法使いとしては実力がないと言うのは本当なのだろうか? 彼は引きつった顔で答えた。
「それとは別に王より、部下の宝を守ってくれと言われ……こちらに僕たちが派遣されました」
これで許可が下りれば潜入しているバルドと合流して……
「必要ない」
「……はい?」
僕は予想していた言葉を聞き、彼に聞き返した。
当然だ。彼は臆病者……例え王が本当にそう言っていたとしても赤の他人を信用するはずが無い。
ましてや、王になにかを隠している可能性があるんだから……
「必要ない、私には信頼できる部下がいる。いくら王からの賜りものと言え見知らぬ人物に警備などさせられるか」
「だけど、私たちはその王が信頼できるって派遣されたんだよ?」
「王はそうだろう、だが私は違う!」
先ほどまでとは違い今度はやけにはっきりと喋るコダル……彼を良く見れば、どこか焦っているようにも見えた。
「わ、分かりました……貴方様がそう仰られるなら……」
僕はフィーを手で制するとコダルへそう伝える。
拒まれている以上変にしつこくして怪しまれても困ってしまう。
バルドなら今頃きっとなにかを見つけてくれている頃だろう。
「王にはそのように伝えておきます」
僕は目の前にいる宮廷魔術師に頭を一度下げ、部屋の外へと向かう。
勿論フィーたちも僕に並び部屋を出ようとした時だった。
「コダル様!」
突然扉は開けられ、若い冒険者風の男が部屋へ転がり込んできた。
どう見ても先ほど見た兵士たちの中にはいなかった。と言うことはコダルがお金で雇った冒険者だろう。
「な、なななんだ!」
「い、いえ……」
彼は扉を開け中にいる男に声をかけたまでは良いが、僕たちがいたことは予想外だったのか、言葉を詰まらせる。
「どうした!!」
暫く黙ったままの冒険者に苛立ちを覚えたのだろう、大きな声を裏返しながら宮廷魔術師は叫ぶ。
「ぞ、賊が……宝物庫に」
……賊? いや、でも……まさかバルド!
そんなことはありえない。
透明化は確かに魔力を消費し続ける……そのことは事前にバルドにはそれを伝えてあるし、彼が自身の魔力の総量を見誤って見つかった。なんて可能性は低いだろう。
なんて言ったってフィーと同じ月夜の花駐在の凄腕冒険者なんだ。
「賊だと? 先ほど聞いていたが……被害は」
「いえ、宝に異常はありません、魔法を使い攻撃をしてきたのですが……暫く暴れた後に魔力切れで倒れた様です、今は部屋に閉じ込めています」
それを聞き僕は内心ほっとした。
魔力切れを起こしたならバルドじゃないのは確かだ。
安堵している所、袖を引っ張られる感触に気が付いた僕はフィーの方へと顔を向けた。
「ユーリ……」
「フィー?」
何故かフィーは僕の名を呼び険しい顔をしている……
なんでフィーはこんな顔を? なんだろう……次第にその賊がもしかして、やっぱりバルドなんじゃないか? と言う不安が僕の中に再び生まれ……
「――コダル様」
「な、なんだ? お、お前らもう用は済んだだろう!」
「王より、賊を見つけた時は僕たちが王の前に出すようにと言われています、お手数ですがそちらに案内願えますか?」
なるべく声は震えない様張って、僕は宮廷魔術師へと告げる。
「ならん……先ほども言ったが――」
「これは王よりの勅命で、優先するようにと言われています」
冷静じゃない、そんなのは分かってる。
とはいえ、このままバルドを置いて戻ったとして……次に潜入する時には警備は強くなっているだろうし、なによりその時まで彼が生きているとは限らない。
「……ご案内お願いいたします」
もう誰もあんな目には遭わせない、フィーがあんな目に遭った時に決めたはずだ。
「し、仕方ない」
「良いのですか?」
コダルの言葉に冒険者は答え、それに頷いたコダルは彼に近づきなにかを耳打ちした後に僕を睨む。
「ただし、そうだな……そちらの女をここ置いていけ」
彼はフィーを指差しながら、そう一言言い。
「それが条件だ」
「っ……」
フィーを置いていく? そんなこと尚更出来るはずが……
「……いや、残るのはこちらに決めさせてもらう俺が残ろう」
「ドゥルガさん?」
「なに、賊の残党がいた場合ここに来るかもしれん、女が残るより安全だろう」
彼は腕を組んだままそう言ってくれた。
ありがとう、気を使ってくれたんだね……
「し、しかしだな、それは宝物庫でも……」
「そちらには優秀な部下がいるのだろう? ……それに賊は拘束されているはずだ。危険がある以上、護衛をするなと言われたから見捨てたでは王に表向き出来ないからな盾になることでは俺が適任だ」
「ぐ、……連れていけ……」
王と言われたうえ、盾になることでは適任と言われて返す言葉が彼にはなかったのか、冒険者になにやら耳打ちをした後に渋々と言った感じではあるが彼は承諾してくれた。
「では、少し見てまいります」
ドゥルガさん、ごめん……すぐ戻ってくるから、そう思いながら彼へ目配せをすると、ドゥルガさんは腕を組んだまま頷いてくれた。
冒険者の後をついて行くこと数十分といった所だろうか?
一つの部屋に着き……
「この中だ……」
冒険者は扉を開けた。
僕は中を覗き見るがそこはなんの変哲もない部屋だ。
特に変わった様子もなく、バルドがいる気配もない。
「早く入れ!」
そんなに急かさなくても入るよ……というか君が先に入るものじゃないのか普通……
そんなことを思いながらもフィーとシュカに続き、部屋へと足を踏み入れようとしたその時――
「――ッ!!」
「きゃぁぁぁあ!?」
二人の悲鳴が聞こえ僕の視界から下へと落ちていく……どうして!?
床は確かにある、なのに床に飲み込まれるように……
「っ! 我らに天かける翼を! エアリアルムーブ!!」
僕はとっさに魔法をかけ二人を追いかけようとした。
迂闊だった……この床は幻影魔法だ……宮廷魔術師が魔法が苦手だって聞いて油断しきっていた。
でも、このぐらいの罠なら……
「具現せし、畏怖をかき消せ……ディ・スペル」
「……え?」
浮遊感を得た体は無慈悲にも再び地に着く……どういうことなんだ?
ディ・スペル? ディスペル!? いや、そんな魔法ナタリアだって……。
……いや、あの時光衣が切れた時も、この魔法を?
そんな疑問を感じている僕の背中を冒険者は押し、僕は慌てて床に見えるそれへ足を付けようとするもののそこには床は無く、落ちていく……
「うわぁぁぁあ!?」
「よーしこれで仕事終わりだ……あー終わりついでに教えてやる。この魔法相手の魔法をかき消すのも一苦労なんだ……そりゃーもう疲れるぐらいにとはいえ、お前たちが落ちるまでは俺の魔力も持つ」
どんどん遠くなっていく言葉はそれでも確かに聞こえた……
間違いない……魔法をかき消す魔法。
最悪だ一番出会いたくない魔法に出会ってしまった。
いや……あの時にもうすでに使われたことがあったのに……その危険性を視野に入れてなかった。
唇をかむ僕の耳に男の笑い声がこだまし……最後に男の――
「じゃ、後の余生はこの屋敷で過ごすんだな」
大きな一言と扉が閉まる音が聞こえた。
僕たちは成す術もなく、下へと落ちていく……
一回上に戻る? いや……足場がないんじゃフィーが怯えて後で動けなくなる。
今はいったん安全に下に降りてバルドを助けてから上に上がろう。
「落ち、落ちてるよ!?」
「我らに天かける翼を……エアリアルムーブ」
僕は今度こそ皆に魔法をかけるとフィーを支える。
反対側はシュカが支えてくれたみたいだ。
穴は思ったよりは深くはなく、すぐに床に彼女を降ろしてあげることは出来た。
「フィーナ、大丈夫?」
「空、怖い……」
相当怖かったのかな……口調がシュカみたいになってる。
「もう、大丈夫だから……」
「本当?」
「うん」
彼女の頭を撫でながら僕は部屋を見渡す……ここはどこだろう?
屋敷の中なのは間違いないだろうけど……ん? 誰かいる?
「……そ、そのお顔はまさか……フィーナ様?」
近づいてくる女性は目を丸くしながらフィーの名を呼んだ。




