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122話 潜入

 ユーリたちは王より手渡された証を手に宮廷魔術師の屋敷へと訪れる。

 証の効果もあったのだろう思ったより簡単に屋敷の中へと入ることが出来た彼女たちはコダルとの

対談を始めた。

 そしてユーリは対談では尻尾を掴ませないだろう魔術師コダルの陰謀を暴く為、バルドへある物をあらかじめ手渡していた……

 彼は今、なにをしているのだろうか?

 ユーリたちが宮廷魔術師コダルとの面会している間、ユーリより手渡された魔法陣を使っていたバルドは屋敷の中を捜索していた。


(魔力が消耗し続けるってことだったな、早いとこ見つかると良いんだが……)


 そう、彼は考えながらも屋敷の中を歩き……辺りを警戒し、気配を殺し一部屋一部屋と調べていく……

 だが、どういう訳だろうか? 彼が求める証拠となる部屋がなく、同時に彼と同じように透明化をしている人間がいる気配もない。


(チッ! このままだと証拠より、魔力切れが……ん?)


 内心焦る彼の目に明らかに兵士とは違う装備の男が現れ一つの部屋へと向かって行った。

 バルドは声に出さぬように笑うと、男の後をつけ扉が閉まる前に部屋へと潜り込んだ。


 当然透明化の魔法を使っており、手練れの冒険者であるバルドの気配に気づくはずもない男は辺りを警戒する様子もなく二つある本棚のうち一つへと手をかける。


(なにしてやがんだ? 本を読みに来たって訳じゃねぇな……どうも頭が悪そうな面をしてやがる……そう言えばあの向こうは変な具合に壁があったか?)


 バルドの疑問へ応えるかのように男は本棚をもう一つの本棚の方へ横に動かす……

 本棚がもう一つある以上動かせるわけがない、動かせたとしても滑車が付いていて二つ動くことになるだろう、だが滑車が付いている様子のない本棚はもう一つの本棚に吸い込まれるように動く。

 もう一つの本棚どうやら幻影魔法作られていたものだったようだ。

 そして、男がわざわざそんなことをした理由は本棚の裏にあった。

 バルドからは良く見えないが、どうやら階段があるらしく奥へと続いている。


(――ッ!! 幻影魔法? いや、だが……あのコダルとか言う魔術師は魔法が苦手じゃねぇのか? 維持するのにそれなりの技術も魔力も必要だぞ)


 男が本棚の奥へ向かっていく中、バルドは躊躇した……

 簡単すぎるっと……彼自身隠密行動には自信はあったが、大金を払い集めた冒険者が全く気付かないなんてことはあるのだろうか?

 この先に重要な秘密があるのは理解していた、だが……同時にこれが罠である可能性が高いと考えた彼は懐から瓶を取り出し、中身を自身と辺りにまいた。


(これはすぐ乾くから楽で良いが……奴らの中にはいないことを願うか)


 彼は静かに息を吸うと男が消えた本棚の奥へと向かった。

 階段で音が鳴らぬよう神経を研ぎ澄ませ……ゆっくりと降りていく。


(廊下と部屋か……チッ! 鍵がかかってやがる)


 手ごろな部屋へと入ろうとし、彼は部屋に鍵がかかっていることに気が付いた。

 いや、気が付くもなにも立派な鍵が取り付けられていて、この中に重要なものがあると言わんばかりだ。


(あっちも、こっちも鍵だらけだな……開けてやりたい所だが流石に無理か)


 彼はチラチラと見かける男たちに気を配りながらも地下を進む。

 奥に行けば行くほど、先ほどから見かける冒険者らしき男たちは増え、警備が強い。


(人数が多い割には、見つからねぇ……どうやら雑魚ばっかりの様だな……とは言っても一人でこの相手は面倒くせぇ……)


 バルドが潜入してるとも知らず、今日の晩飯の話や酒場で働いてる娘の話をのんきにしている男たち。

 そんな彼らの横をすり抜け、バルドはようやく何故奥になるにつれて警備が厳しくなったのかに気が付いた。


(牢だと……?)


 彼はその場から動かずに牢を遠目から除くように見る。

 屋敷の中でそこまで遠いわけではなく、見るには十分な距離だった、だが――


(――っ!?)


 油断大敵とはこのことだろう、彼がいくつもある牢の一つへと目を移した時一人の女性が見えないはずのバルドを捉えていたのだ。


「おいババアどこを見ている!!」


 普段の様子とは違ったのだろう、男の怒鳴り声が聞こえバルドは息をのむ。


(クソッ!! そういや婆の話ではそうだったな……証拠としては十分だが、ずらかるか?)

「……なんだ? 何処を見ようが勝手だろう? うちの可愛い娘を閉じ込めた部屋を見てたのさ! 下郎ども!!」


 だが、女性はバルドのことに気が付いていないのだろうか?

 男に怒鳴り声をぶつけ始めた。


「チッ毎回うるせぇぇぇんだよ!! 大体な俺らはタダの雇われだ。お前ら見張っておけば一日銀貨二枚破格だぜ? 以前手に入れた大金も底をつきかけてたからな! 良い仕事だぜ?」

「安っぽい男だね、だからあんな馬鹿魔術師につけるんだね! それとうちの娘の男を殺した連中に閉ざす口なんてないよ! それにうちのババの店を荒らし放題ケツの穴が小さい、いや無いのかね!?」

(……やけに話やがるな……やっぱ気が付いてるのか? あの女)


 元々そうなのだろうが、声を張り男を挑発する女性は恐らくフィーナの乳母であるシャムであろうことに気が付いた彼は貴重な情報提供者の怒鳴り声へと耳を向ける。


「大の男共が揃って安い賃金で安酒かい? あーあこれだから落ちぶれ冒険者は嫌なのさ!」

「な、なんだと!?」

「これまで何人と冒険者を見てきたんだ力量位はすぐに分かるよ。大方あんたら全員、運良く名が売れたぐらいだろう?」


 シャムの言葉は的を得たのだろう、男たちは次々に顔を真っ赤に染めていき牢へと向かっていく……


「おい、ババア……死体の処理が面倒だから殺すなって言われてるけどよ? 痛い目には合わせるななんて言われてないんだぜ?」

「はんっ! よってたかって脅しかい? つくづく救えないね、安っぽい挑発に乗るところが本当にしょうもない連中だ。今に痛い目見るよ!」


 声は良く通り、牢の周りにいた男たちはシャムの牢屋を取り囲む。


「テメェ……」

「それになんだい? あの杖は! 売りに来た商人殺したのかい!? 死体何処にやったんだい! 処理がどうこうと言っておきながらまた捨てたのかい? あんたらの親分が以前飽きて殺しちまった娘たちの様に……」

(…………)

「ああ? あの商人を殺しただぁ? 知るかよ! 大体コダル様がなにしようと知らねぇってんだ、飽きたから金払えば返してやるって寛大な心を無視したのはあいつらの親だろう?」

「その金をむしり取った分際でよく言うね! 元から返すつもりなんてないのにさ!」

「はははははは、そりゃそうだろ? あの人は人形が欲しいだけなんだよ、遊べた上でマジックアイテムの実験に使える人形がさ、良かったなぁまだ玩具が飽きられてなくてよ? 今は一個しかないもんなぁ?」

「人を物扱いかい!?」

「そりゃそうだろ? 物だよ物、特に女は髙い値が付くじゃねーか! 例え冒険者でも薬で眠らせて自由を奪ってから売り払えばちょろい商売だぜ?」

「ああ、あいつのことか思ったより値が付いたよな? しっかしお前も考えたもんだ仲間と安心してから売るとはな!!」


 数人の男は過去に売り飛ばしたらしい女性の話で盛り上がり、それとは逆に先ほどから威勢が良かったシャムも背筋を凍らせたのだろう、言葉はつまった……


「ああ? どうしたんだよ? おい?」


 だが……

 男の言葉でバルドの中にあった緊張の糸となにかが切れる音がした。

 彼は後ろを振り返り、この辺りにいる冒険者らしき者たちがここぞと牢屋に集まっていることを確認すると、魔法を解き……


「我が嘆きを我が憎しみを我が怒りを現世(うつしよ)へ現せ……」

「あん?」


 突然聞こえ始めた声に疑問を抱いたのだろう、男は声のする方へと振り返る。

 そこには、姿を現したバルドが詠唱を唱え終わり冒険者たちを睨んでいた。


「テメェどこから!!」

「サーヴァント」


 魔法の名を口にした彼の足元、影はぐにゃりと形を曲げ彼の横に立つ、更にその影の影も同じように形を変え立ち上がった。

 二つの影を引き連れ、冒険者たちへと一歩一歩近づくバルドの表情は顔を伏せているため良く見えず。


「テメェどこから来やがったって聞いて――」


 一人の男が彼にそう言いながら切りかかろうとした瞬間、影の拳は男の腹部へと叩き込まれた。


「ッ!? ハァ――ッ!?」

「なっ――……」

「テメェら……うざってぇんだよ……黙ってろ」


 バルドは前にいる何人もの冒険者たちを睨み……そう口にする。


「おいおい、たった一人で英雄気取りか? 誰の依頼か分からねぇが、この人数相手に勝てるとでも思ってるのかよ?」

「うるせぇな……ギャアギャア臭ぇ口で騒いでるんじゃねぇよ……」


 普段から口が悪い彼だが、更に棘を鋭くした声を男たちに向ける。

 男たちは先ほどから女性に言われていたこともあったのだろうわなわなと震え始め。


「……ブッ殺す!! おい殺せ! 侵入者だ!」


 一人の男の言葉で三人の男たちが得物を手にバルドへと襲い掛かるが、彼は焦ることなく拳を握ると……


「今頃遅ぇんだよ」


 二つの影を操りそれぞれの攻撃をいなし、得意とする蹴りを放つ。

 見事その足は頭を捉え、男を壁へと衝突させる……

 だが、頑丈だったのだろう今一度、彼へと向かおうとするのだが……


「しつけぇ……」

「が、ぐあぁぁぁああ!?」


 彼は片手で男の顔を覆うように持つと指に力を入れ……再び壁へ叩きつけた。


「雑魚だな俺の影とはいえ、そいつらは俺より弱ぇんだが……」


 残る二人の相手をしていた影の方へ目を向けたバルドはまだ影が存在していることを確認し、呟く。


「……な、なんなんだよ、お前……」

「答える必要なんてあんのかよ」


 バルドは影たちを両脇に呼び戻すと冒険者目掛け突進し、彼の視界はぐにゃりと形を変えた……

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