121話 コダルの屋敷へ
ユーリたちはホークがなぜ突然声を荒げたのかを聞いた。
だが理由を知ったものの、シュカとフィーナはそれは冷静さが足りないのではないか? と告げる。
そして、ホークとシアンも危機を脱したのはユーリのお蔭とも言いホークの苦悩を告げる……
だが、ユーリはそれはあくまで仲間がいたから出来たことだと告げ――当時の仲間が魔物に殺されたのは彼一人ではなく仲間全員の所為だと口を滑らせてしまったのだった……
翌日、レオさんたちは急に依頼を受けないと言うこともなく朝食は終わり。
「さて、じゃ……行ってくるかね、あっちに着いたらここに鳥を飛ばす」
「う、うん……お願いするよ」
昨日のこともあるし、若干返事が歯切れの悪いものになってしまった僕を見てレオさんはなにを思ったのだろうか?
表情をほころばせると僕の背中を一回叩いてきた。
「うわぁ!?」
「そう心配なさんなお嬢ちゃん、もしなにか遭ったらちゃんと逃げるからよ」
「そうそう、これでも足は早いのよ!」
僕が心配してると思ったのかな? いや、確かに心配ではあるけど、昨日話をした訳だから理由は気づいてるはずなのに二人は僕にそう言って笑みを向けてくれた。
「それが出来れば良いですけどね……」
まだ三人で物資を届けることに……グアンナが出てくるかもしれないことに懸念を抱いているホークさんは昨日よりは落ち着いてはいるのだろう。
一言だけ発すると荷物を手に取り、早々に外へと出て行ってしまった。
うぅ……まだ怒ってはいる、よね?
大丈夫かな……
「じゃ……物資のことは任せておきな」
「うん、気を付けてね? 心配してるだろうからロク爺にも挨拶はしてね?」
フィーの言葉に頷いた二人も店の外へと行き……残されたのは僕たちだ。
「…………ふぅ」
三人がいなくなったことで、息を漏らしたのはリーチェさんだ。
彼女もずっと喋ってなかったけど、大丈夫ではないよね?
「あの、リーチェさん」
「なに?」
うぅ、声を掛けたら睨まれた。
当然か昨日水をかけてしまった訳だし……
「昨日は……」
「あーはいはい、水のことなら気にしないで、ユーリには世話になってるし確かにあの男にイラッて来た私も悪いからね」
でも、怒ってますよね? とは聞けず、僕は「分りました」と一言だけ告げ視線をシュカの方へと向けた。
彼女も大丈夫ではないだろう、目は赤くなってるし……今朝も布団の中からなかなか出ようとせず無理をさせるのも悪いと思って出掛けることだけを伝えたら、ようやく出てきた訳だけど……
「シュカ……本調子じゃないなら無理は……」
「大丈夫」
の一点張りだ。
確かにシュカがいるのといないのとじゃ違うけど、もう少し休んでくれても良いんだよ? って僕とフィーが言っても聞いてはくれなかった。
「それで、女……今日はどうするつもりだ」
「え、あ……うん」
僕はクロネコさんに声を掛けられ、慌てて彼に視線を向ける。
「クロネコさん、彼らが取引によく使う店ってあるのかな?」
臆病者である前に人の目につきやすい場所で取引はしないだろう。
そう思いつつも、もしかしたら……っと思い一応僕はクロネコさんに確認を取る。
「いや、探したが情報が無い恐らくは屋敷だろうな……」
そう言うと彼はシュカへと視線を投げた。
つまり、潜入するには彼女が適任……でも、あの様子じゃって所だろうか?
「女、魔法は出来たんだよな?」
「う、うん」
「仕方ねぇ女と俺で潜るか……」
ああ、僕がついて行くのは絶対条件なんだね?
でも、そうなると不安要素が出てくる。
「二人とも透明だと、ユーリ迷子になっちゃうんじゃ?」
その通りだよフィー、まさにその通りなんですが……はっきり言わなくても……
「シュカ、行く……ユーリ、紐つけておく」
「でも、大丈夫なの……今のアンタどうにも心配しかないんだけど」
僕に紐をつけることは大したことではないのか……
いや、それよりリーチェさんが言った通りシュカの方が心配だよ。
僕の迷子はいつも通りだしもうあきらめて……ってなんか悲しくなってきた。
誠実にクロネコさんの迷わない技術が欲しいです。
「大丈夫、シュカ、潜入得意」
「……しくじるなよ?」
クロネコさんは念を押すように彼女にそう言うとシュカは片腕を叩く仕草を見せ……
「シュカ、強い」
いつものように答えた。
本調子ではない彼女を連れていくのは不安ではあるけど、本人がやると言っている以上僕からはなにも言えない……
もしもの時は彼女にお願いすることにしよう。
「じゃ、早速潜入するのか?」
「馬鹿かお前は」
バルドさんの言葉にすぐに反論の意を示したのはクロネコさんだ。
「今の話……潜入はあくまで最終手段だ、まずは……」
クロネコさんはそう言いつつシュカの方へと一瞬目を移す。
彼も彼女を心配してくれているのか……いや、それもあるだろうけど負担が重すぎると判断したのかもしれない。
だとすると、僕たちがまずやることは……
「僕たちは王の依頼を受けてるんだ……堂々と行く」
そう言って僕は昨日王から受け取った証を取り出した。
「これがどんな物かは分からないけど、そう易々と作れる物じゃないのは確かだ。これをもって僕とフィー、シュカにドゥルガさんで行こう、クロネコさんとリーチェさんは一応宿屋に行ってあの部屋に誰かが入ったか調べてくれるかな?」
僕の言葉に首を傾げたリーチェさん、彼女は腕を組み僕に言葉を向けてきた。
「なんで今更宿屋を調べるの? っていうか、魔法は出来たんでしょ」
「うん、出来たよ。でも……おかしくない? 商人がまだこの街にいるとしたらどこにいるのか? なんで宿に戻ってないのか?」
もし何事もなければ宿屋に着いていてもおかしくはない、僕が気になるのは……
「情報の漏洩を防ぐために商人は閉じ込められてるかもしれない」
「……確かに、あいつはここに来る前に魔術師のことを調べただろう、例えそれが奴にとって良い話でもこれ以上、情報が漏れるのは好ましくないな」
「うん……誰から聞いたのか? どうしてどうやって魔術師のことを知ったのか、僕が臆病者なら聞いた上で閉じ込めて、人が消えたという騒ぎが薄れた頃に……」
僕はその後の言葉をためらった……考えたくもない、でも……それが確実だ。
情報は漏らしたくない、だったら……
「殺すってか? はぁ、つくづく救えねぇ野郎だな……分かった宿の方は任せておけ」
「いや、バルドにはやってほしいことがあるんだ……」
「あん? ……そういや、俺の名は呼んでなかったな」
僕は頷くと彼に筒状にしておいた紙を手渡す。
彼はそれを受け取り中を見るとにやりと笑みを浮かべた。
「なるほどな、任せておけ」
「じゃぁ、私たちはそろそろ屋敷に行こうかー?」
「うん、もし駄目だったら僕たちは追手がついてこないか確認してここに戻ってくるよ」
「ああ、頼んだぜ」
「気を付けていくんだよ……フィーナ様も皆もね」
ミケお婆ちゃんの言葉を背に受け僕たちは店を出た。
上手く屋敷に入れると良いんだけどな。
宮廷魔術師の屋敷の場所は事前にクロネコさんが調べていてくれて、街の東だそうだ。
当然街の中であり一人じゃない僕が迷う訳もなく屋敷の前には着くことが出来た。
「なんの用だ」
謁見の時の件がある以上僕たちの情報は向かっているはずだ……やけに警戒が強い兵士は僕たちを睨んできた。
やっぱり無理だろうか? そう考えながらも僕は王から預かった証を見せ、堂々と口にした。
「王よりの依頼です、コダルさんを含む陛下の部下に話を聞いている所です。お会いできないでしょうか?」
「…………話? どのような話だ」
「王より内密にっと言われております」
これは元々バルドが考えていてくれたことだ。
単純に会いに来たではいくら証があってもはぐらかされる可能性があるとかで、考えてくれたらしい。
実際、内密と言われたら彼らは一応は魔術師に話を通さないといけないだろう。
「…………待て、確認する」
そう言った兵士は屋敷の中へと入っていき代わりの兵士が僕たちの前に立ちはだかった……
以外にも話はすぐに通してくれるみたいだ。
暫く待つ間も僕たちはその兵士に睨まれ続け、居心地が悪いと感じていると中から扉が開かれ先ほどの兵士が顔を見せた。
「……お会いになるそうだ、武器は置いていけ」
「それは断る。王より、賊が街に出入りしてると聞いていてな万が一の時守れるよう武装の解除を禁じられている」
「…………」
武器を置いていけと言われ、即座に切り返してくれたのはドゥルガさんだ。
彼は黙り込む兵士を前に言葉を続ける。
「宮廷魔術師の屋敷に忍び込む愚か物はいないとは思うが、警戒は必要だ。これも依頼の内だ許可を求む」
「……チッ!」
ドゥルガさんの言葉を聞き、恐らく僕たちに聞こえないようにしたのだろう一旦扉の裏に隠れた兵士は盛大な舌打ちをし、再び顔を見せると……
「入れ」
それだけ繰り返した。
どうやらドゥルガさんの機転は効いたようで、僕たちは武器を預けずに済んだみたいだ。
屋敷の中は広く、兵士の後をついて行く間周りを盗み見るが別段怪しい人物はいない。
透明化の魔法を使っているのか? いや、それとも……僕たちが来たことを知り隠れているのだろうか……やけに時間がかかっているし、そのどちらかなのは間違いがない。
「女! キョロキョロするな!!」
「す、すみませんっ」
僕が見ていたことはばれてしまったようだ。
後ろにいた兵に注意を促され、前を向くことにした。
「この部屋でコダル様がお待ちしている。くれぐれも無礼の無いようにな」
「……失礼します」
扉が開かれ、僕たちは部屋へと足を踏み入れる。
目の前には長机があり、その奥にある椅子へと腰を掛けた細身の男性がいた。
僕は彼に驚いた……優し気な緑色の瞳はどこを捉えているのだろうか?
こんな人が本当にあんなことをするのだろうか? そんな疑問を抱えつつも僕の目と彼の目が合わさるとやけに怯えているような顔へと変わった。
「ぉう!」
声量を間違ったのか裏返った言葉が聞こえ彼は咳払いをする。
「王より話があると聞いたが?」
僕はシュカへ目配せをすると、まだ赤い瞳のままの少女は頷いた。
これも最初から決めていた合図だ、もし……この部屋に誰かが潜んでいたら僕が目を向けた時に頷いてくれとお願いしておいたんだ。
どういうことか分からないけど、フィーが臭いが分からないらしく、彼女では潜んでいるか確認が出来ないと言うことだったから、頼めるのがシュカしかいなかった訳だけど……
どうしたものか……
僕は一応部屋に見えている限りでは僕たちしかいないのを確認すると会話を始めた。
「ええ、実は……」
入ることは出来た。
でも、警戒されている以上直接聞いても無駄だろう……僕たちがここでするのは時間稼ぎだ。
「この頃この辺りを荒らす賊がいまして……」
だから頼んだよ、バルド……
 




