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120話 ユーリとホーク

 王からの依頼を告げた後、突然ホークは声を上げた。

 だが、一度は落ち着きを取り戻した彼にリーチェが再び火をつけ口論となる。

 途方に暮れたユーリはなんとか止めることに成功したのだが、この先を危惧するのであった。

「ふぅ……」


 話が終わり、部屋へと戻った僕はベッドに仰向けになると思わず息を漏らした。


「ほら、シュカもう大丈夫だよ?」

「…………」


 ホークさんが声を上げてからシュカはずっとあんな様子だ。

 無理もない、彼女は元々奴隷として扱われていたんだ……でも、初めて会った時は怒鳴られても怯えてなかった様な?

 いや、そんなことは良いか、事実……今彼女は怖がってる訳だし、落ち着くまで時間はかかるだろう。

 幸い原因であるホークさんとは別行動だ。

 再会するまでにいつも通りに戻ってくれればいいんだけど……


「シュカ……」


 僕は彼女の名前を呼んだ……けど、それ以上言葉が続かなかった……

 なんて言ったら良いのか分からない、さっきの怖かったね? とか言っても僕は彼女がどんな目に遭ってきたのか詳しくは知らない。

 そんな僕がなにかを言っても、彼女の気が紛れることは無いんじゃないのか? そう思い僕はベッドから立ち上がるとシュカの頭を撫でる。


「…………」

「少し落ち着くまで休ませてあげよう、ね?」


 シュカはフィーの言葉を聞いたのか聞いていないのか分からないけど、僕たちの間をするりと抜けるとベッドへと潜りこんでしまった。

 う、うーん無理はさせられないし、シュカにはお留守番してもらうことも考えた方が良いかもしれない。

 僕がそう考えているとノックの音が聞こえ、こちらの返事を聞かずに扉は開け放たれた。


「まどろっこしいから、返事なんて聞かない!」

「いや、返事は聞いておけ! お前は良いが俺はまずいことになるだけなんだぞ?」


 いやそれなら扉の前じゃなくて横にいたほうがいいんじゃないでしょうか? ってそうじゃない。

 ホークさんの姿は見えないみたいだけど……


「えっと……」


 シュカはまだあんな状態だし、ちょっとそっとしておいてあげて欲しいんだけどな。


「あー、なんだホークなんだが……悪かった」

「悪気は無いの、ただちょっとね」

「え……」


 二人はそう言うと頭を下げ、暫くその体勢のままでいたかと思うとゆっくりと頭を上げた。


「だが、そっちの姉ちゃんも……あーなんだ」


 姉ちゃんと言うのはリーチェさん以外にはいないだろう……


「う、うん、リーチェさんの件はごめん……」


 僕が彼らと同じように頭を下げるとフィーも頭を下げ、一緒に謝ってくれた。

 とはいえ、あんなに怒るなんてなにがあったんだろう? いや、彼が怒った発端は魔物がいたらどうする? 何故いないと言い切れるってことからだ。

 そういうことを考えると……


「ホークさん、もしかして別の依頼の時に……」

「ああ、ここで立ち話してると目に入るかもしれないか……入っても大丈夫か?」


 そう言われて僕はベッドに潜り込んだシュカを見る。

 なにか理由があるなら、とも思うけど……今彼女は関わりたくないと思ってるだろうし、もし知りたくなったら僕が話せば良いか……


「まだ空き部屋があったはずだから、そっちで話そう」

「あ、ああ、そうか」

「じゃぁ私も行くよ?」


 フィーも? でも、それじゃシュカを見てる人が……そう心配する僕の目を見て。


「帰る時、ユーリ一人じゃ迷子になるしね?」


 ぅ……確かにそうなんだけど、そう言いつつもフィーはシュカの方を気にしてるし、やっぱり一人にするのは気が引けるんじゃないだろうか?


「こ……い……」

「シュカ?」


 僕たちがどうするか考えていると、小さな声が聞こえそれがシュカのものと気が付くのにそう時間は要らなかった。


「ここで、良い……フィーナも、ユーリもいて」


 泣いていたのだろうか? 布団から少し出した顔はうっすら濡れていて瞳は真っ赤になっている。

 や、やっぱりここで聞くのはどうなんだろう?

 でも、シュカを一人には出来ないし、勿論僕一人じゃ戻ってこれない……あまり一緒にいると見られてしまってホークさんたちの立場が悪くなるかもしれないし……


「シュカ、良いの?」


 フィーも同じことを考えているのだろうか遠慮がちにシュカに確認すると、彼女は布団に戻ってしまい。


「良い」


 そう一言だけ残すと布団のさらに奥へと潜り込んでしまった。

 本人は良いと言ったけど、どうなんだろうか?

 僕はフィーへと目を向けると、彼女は困った表情を浮かべたものの首を小さく縦に振る。


「そ、それじゃ、部屋にどうぞ……」

「ああ、邪魔する……すまないな小さいお嬢ちゃん」


 レオさんは部屋に足を踏み入れると、もはや姿が見えなくなって布団の塊と化したシュカへと一言告げた。

 続けてシアンさんも部屋へと入り、布団へ目を向けた後扉を閉めてくれる。


「さて、なにから話したもんか……」

「なにからって一つしかないでしょ」


 話と言うのは彼が怒った理由だろう。


「取りあえずホークはなんで急に声を上げたの?」

「……あ、ああ……あいつが声を上げた理由なんだが……」

「歯切れ悪い! アタシに任せておきなさい! 簡単に言うとホークの恋人は死んだの」


 え……恋人が?

 僕たちが言葉を失っているとレオさんは慌てた様にシアンさんの方へと向き直る。


「おい!? 人が言って良いか迷ってるところに」


 彼の一言を聞かなかったようにシアンさんは話を続ける。


「ホークがちゃんと状況を把握できなかった所為でね……あの子はアタシたちの頭脳であるホークを守って魔物に傷を負わされた……」


 僕の頭にスプリガンとの戦闘がよぎる……あの時、僕がもし……スプリガンを無視し浮遊(エアリアルムーブ)を使いフィーを助けに向かっていたら?

 多分、僕はスプリガンから逃げられるだろう……

 でも、フィーは助けられたとしてもシュカは殺されてた。

 ドゥルガさんも、それにオークたちは全滅、二人であの魔物に挑む? いや、僕はきっとその時後悔で動けなくなる。

 そうなったら……僕自身は愚か、せっかく助けたフィーでさえ……


「そこで、ホークはアタシたちにちゃんと指示さえ出来ていればって言ってたけど」

「……そりゃ無理だ。あいつはたった一撃で死んでた……それに」

「それに?」

「あのリーチェってお嬢ちゃんが言ってた通りなんだよ」


 リーチェさんの言ってた通り? つまり、それって……


「格下の魔物に殺されたんだね?」


 フィーの言葉に二人は沈痛な顔で頷く。


「魔物にも知性があるのがいるからね、それに相性もあるし……グアンナだって腐る涎さえなければただの牛となにも変わらない」

「ああ、その通りだ……あの魔物は大した強さじゃなかった」

「でも、猛毒を持ってた……それは分かってたよ、決して油断してた訳じゃなかった……奴らはアタシたちを殺すために死にかけた魔物の毒を使ったって訳」


 ど、どういうこと?

 死にかけた魔物の毒を使うってことは、あの蜂ではなさそうだ。


「死にかけの魔物を抱えて去ったんだ、まさか後ろからそいつを投げるためなんて誰が気付く? アイツが死んだのは誰の所為でもないんだ」

「まさか迂回して追って来て……息が途絶える前の魔物があの子を噛むなんてね」


 そんなことが……でも……


「でも、ユーリなら抱えて逃げた時点で警戒するよ? ううん、それなりに経験を積んだ冒険者なら警戒すべきだよ、誰の所為でもないなんてただの言い訳……」


 僕も思ってたことだけど、フィーが言うとキツイ言葉のようにも感じる。

 彼女はそれだけ場数を踏んでるんだよね……


「……それも分かってる、だが、ホークになんて言ったら良い? 俺たちは仲間、ホークは恋人と仲間を一気に失った」

「ユーリ、は……皆を守った、シュカを見捨てなかった、フィーナも救った……」


 布団にもぐっていても話は聴いていたのだろう、シュカは布団から顔を見せるとそう言葉にした。


「ドラゴンの時のことか……それは――」

「違う、ドゥルガも吹き飛んだ、フィーナはユーリを守って吹き飛んだ、シュカはなにも出来なかった……」


 彼女もあの時のことを思い出してたみたいだ……でも、シュカがなにも出来なかった?

 そんな記憶はない……いや、正直に言うとあの時のことは記憶に薄い、だからこそあの時と同等の魔法が使えないんだろうけど……


「ユーリは冷静、怒っても、必要なこと理解してる、すぐ怒ったホーク……駄目」

「駄目って! あんた――」

「だからこそだろうよ、怒ったのはな……」


 声を上げかけたシアンさんを手で制したレオさんは目を閉じ一言口にした。


「俺が知ってる中でも、お嬢ちゃんはドラゴンを手懐けることで遭難と魔物、二つの危機を乗り越えた。それだけじゃない、あの牛も倒す算段をすぐに回した……ホークの奴はいざと言う時に頭が回らない」

「ちょ……」

「……だが、過去は変えられない。お嬢ちゃんのお蔭で無事ここまで着いちまったことで内心悔しがってたんだろう……自分がお嬢ちゃんの様に頭が回ればアイツを助けられたのにってな」


 僕の様に? それはちょっと買い被り過ぎだ。

 僕は攻撃魔法が普通の人より劣る、その分必死で考えてるだけで今まで運もあってここまで来られたんだ。

 それに――


「僕は、僕一人じゃなにも出来ないよ。フィーがシュカがドゥルガさんが……皆がいて初めてなんとかなってるんだ」


 この世界唯一の回復魔法の使い手というメリットはある。

 だけど、そんなのは関係ないだろう……今までそんな人はいなかった訳だし、他の冒険者たちだってパーティーを組んでる以上は一人ではたかが知れてるはずだ。

 フィーたち、一部の人間を除いて……


「だが、事実あのドラゴンや牛は――」

「グアンナに関してはレオさんたちもいたし、ドラゴンに関しても助けてくれる仲間がいたからだよ」


 ソティルがいなければドラゴンを手懐けることは思いつかなかった。

 それだけじゃない、彼女のサポート無しでは僕は負けてただろう……


「だがな、頭が回ればアイツを……」


 頭が回ればって……なにも分かってない。

 例え頭が回っても、勝算が必ずあるとは限らない……それになによりそれを実現してくれる仲間がいないと作戦なんてただの空想でしかない。


「僕はその時のホークさんを知らないから分からないけど……少なくとも僕だけじゃ出来ないことだ。フィーが言った通り誰の所為でもないなんて言い訳だよ……寧ろ、全員の所為だ」


 …………い、言い過ぎた気がする。


「「…………」」


 うぅ……二人も黙ってしまったし、フィーとシュカは目を丸くして僕を見てるんじゃないだろうか?

 喧嘩しても意味はないし、そんなことをしたい訳でもないのに……ど、どうしよう?


「はぁ……本当あんたたちってキツイ言い方するのが多い!」

「全くだ、俺なら美人さんたちにこう毎回キツク当たられたら、参っちまうな」


 ……怒ってない? よ、よかったぁ。


「ご、ごめん……でも、勘違いはしないでくれるかな? グアンナを倒す案だって僕だけのものじゃない、あの時言ってたけどシアンさんが腐らないものを探すって提案してくれたお蔭なんだ」

「やっぱり、アタシの案のお蔭じゃない!」

「いや、なんだ……役に立つこともあるんだな……お嬢ちゃんたちには迷惑をかけたな……」

「い、いえ……」


 彼らは笑みを浮かべ扉から出ていく……

 だ、大丈夫かな? 明日になって依頼受けませんなんて言われないよね?

 うぅ……ちょっと今のは冷静じゃなかったと思う……シュカに冷静だって言われた手前恥ずかしいよ。


「……全員の所為……」


 なにか呟き声が聞こえ、それがフィーの物と気が付いた僕は振り返る。


「フィー、なにか言った?」

「ふぁ!? な、なんでもないよ?」


 僕の質問に慌てた様に取り繕う彼女を見て僕は首を傾げる、すると布団から顔だけ出したシュカは……


「良いこと、言う」


 なぜか褒めてきた。

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