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117話 レライ城へ

 レライの王は宮廷魔術師を疑っている可能性がある。

 そのことをクロネコの情報で得たユーリたちは直接王に会うため城へと向かう。

 だが、相手は一国の王……謁見が叶うのか話す中、クロネコはフィーナのことを伝えれば良いと提案したのだった。

 王城へとついた僕たちは兵士に止められた。


「なんの用だ」

「なに、王に取り合ってほしい」

「謁見か……ならここに署名をしてくれそうだな……一月は待ってもらうことになるが良いか?」


 い、一か月……やっぱり結構待つんだね。

 でも、本当にクロネコさんはあのことを言うんだろうか?


「悪いが割り込みだ、フォルティスの忘れ形見が謁見をしたいと伝えろ」

「な……なんだと!!」


 兵士たちは腰にある剣を抜き僕たちへと向けるが、クロネコさんは冷静だ。


「剣を収めろ、別に争いに来た訳じゃねえ……第一フィーナは今酒場付きの冒険者だ。それも凄腕のな」

「…………」


 兵は動かずただ僕たちへ剣を向けるだけだ……

 やっぱり無理だったんじゃないかな?


「それに、もしなにかをしでかすつもりなら、もう動いてるはずだが? 言っとくがここにいる連中はお前が思ってるより強いぜ」


 ちょ……!? なんでそんなこと言うかな!?


「……話すかはシュターク王、自らが決める」

「え……」


 思わず声に出してしまったけど、良いの?

 僕がびっくりしていると兵士は剣を構えたまま片手で扉を叩くと中にいた兵士に僕たち……いや、フィーが来て謁見がしたいと伝えろと言ってくれた。

 だが、こちらに振り向くと顔は依然として怖いままだ。


「動くな……」

「おいおい、クソネコこのままじゃ逃げるのもめんどくせぇぞ?」

「安心しろ、出来ない訳じゃねえだろ」


 物々しい雰囲気の中で待つことどの位の時間が経ったのだろうか?

 何事かと集まり始めた人がいる中、扉が開き僕たちを睨みながら兵士は口を開いた。


「剣を降ろしていい、王が謁見するそうだ」

「なんだと! だがこいつらは」

「王が会うと言っている、それと冒険者たち武装は解かなくていい」


 納得いかない兵士たちは歯ぎしりを立てながらも剣を収め、僕たちを睨んだまま。


「入れ」


 僕たちが入城するのを許可してくれた。


「う、うわぁぁ……」


 僕が上げたのは歓喜の声じゃない。

 周りにいる兵士たちは整列し僕たちが通り過ぎるのを睨んでいる。

 なにかあっても対策出来るようにってことだろうけど、いくらなんでもここまでしなくても良いんじゃないだろうか?


「これより先、謁見の間だ入れ」


 扉は開かれ、広い部屋の中が見える中……最初に目に入ったのは初老の男性。

 酷くやつれていて何処か生気がない様にも感じるこの人が王様? それにしては覇気がないよね……

 中に入ると扉は閉められ部屋の中には王と僕たちだけだ。

 来る最中はあんなに仰々しかったのに……差がありすぎる。

 いや、もしかしたらあの魔法か?


「よく来た……」


 王の言葉の後、クロネコさんは僕の背中を叩く、話は僕がしろってことだろう。

 僕は王の前に膝をつき頭を下げ、口を開く。

 

「この度は突然の謁見に応じてもらい感謝いたします」

「良い、顔を上げろ……前王の忘れ形見が謁見したいと申したが?」


 その言葉に反応したのはフィーだ。

 彼女は先ほどの僕と同じように頭を下げていたがその顔を上げ。


「私です、今日は大陸の端にある名もなき村のことで参りました」


 流石に王の前だからか、それとも(かたき)を前にしているからなのだろうか……いつもより硬くしっかりとした声だ。


「ほう、あの村は私に不満があるとのことだったな」

「いえ、それは偽りです。ここに手紙があります……」


 王の言葉にそう答えたのは僕だ。

 彼はフィーに向けていた目を僕に向けるとその口を動かした。


「……ほう? こちらに持ってこい」


 良いのかな? これじゃ、まるで隙だらけじゃないか……


「どうした?」

「は、はいっ!」


 僕は慌てて立ち上がると荷物から手紙を取り出し、王へと手渡す。

 彼が手紙の封を開き読み始めた頃だろうか?

 後ろから不自然な音がし、何事かと振り返ると……


「ユーリ! なにか、いる!!」

「ッ!!」


 シュカの声が聞こえ……聞きなれた音が響く。

 これは……鞘から剣が抜ける音? でも、誰も剣を抜いてない。

 あの魔法には間違いがないだろう、でも誰が狙いかも分からない……なら……


「魔力の障壁よ、牙を防げ!! マジックプロテクション!!」

「グァ!?」


 僕は目に見える人たちに魔法をかけると、遅れて僕の後ろから声と倒れる音が聞こえ、慌てて振り返る。

 そこには倒れた王、シュタークがいて……どうやら間一髪だったことに僕はほっとする。

 僕は彼に怪我がないことを確認すると小声で彼に声をかけた。


「そのまま声を出さないで、動かないでください……」

「ユーリ、まだ、気配ある!」

「分かった! 地よ凍てつき、氷廊(ひょうろう)となりて妨害せよ、アイスフロア」

「何事だ!」


 物音に気が付き部屋に兵士たちが入ってくるのと、僕の魔法が皆のいる場所以外を凍てつかせたのはほぼ同時だ。


「き、貴様らぁぁぁぁあ!!」


 声をあげ、迫りくる兵士は氷に足を取られ床の上に転ぶ。

 金属音が鳴り響く中、僕は一人の少女へと目を向け……


「シュカ!!」


 彼女の名を呼んだ。

 鼻の利くフィーが分からないってことは恐らくなにか使ってる証拠だ。

 だけど、気配に気が付いたシュカなら音で判断することが出来るだろう、彼女は僕の声とほぼ同時に飛び出すと、大ぶりのナイフをなにもない空間へと突き刺した。


「がぁぁぁぁぁあああ!?」


 声が上がり、兵士たちは目を丸くし宙へ浮くシュカを見つめている。

 シュカは振り落とされそうになりながらも、その場に留まろうと必死だが彼女の力だけでは無理そうだ。

 このままではシュカが危ない……

 けど……


「フィー! あそこだ!」

「うん! 任せて?」


 彼女は頷くと床を蹴りシュカの方へと向かっていく、シュカは耐えきれずに振り落とされてしまうが……フィーの拳はなにもないはずの空間を叩く……

 すると、近くの壁がまるでなにかが叩きつけられたかのようにヒビが入り、僕はフィーが転ぶ前に魔法を解いた。

 意識が途絶えたからだろうか? 声の主は姿を現しその場に倒れ、ドゥルガさんの手によって縄できつく縛られる。

 取りあえずは一安心かな? 念のために光衣マジックプロテクションはかけたまま、僕は王へと声をかけた。


「もう、大丈夫ですよ」

「すまない冒険者よ……助かった……だが、どうやらもう一人いたみたいだ」

「え?」


 彼は起き上がると僕に手のひらを見せる。

 つまり、手紙が盗まれたということ? それぐらいで済んで本当に良かった……


「シュターク様! これは……一体」

「ああ、この冒険者たちには命の危機を救われた、警備を強めろ謁見を続ける」

「はっ! おい! そこの男を連れて行け!」


 王の言葉で兵たちは動きだし、先ほどドゥルガさんが縛った男を部屋の外へと連れだす。

 当然、僕はそれを眺める形になっていたのだが――


「魔法使いよ」


 王に呼ばれ僕は振り返る。


「せっかくの手紙だが、すまない」

「え……あっ!」


 なんのことだろうと思っている僕の目の前に王の手が向けられ、そこには先ほど渡したはずの手紙はなかった……

 まさかこんな強硬手段で持っていくとは思わなかったけど、それは想定済みだ。


「それよりもお怪我は?」

「……大丈夫だ魔法使い、君のおかげだ……しかし、奴らも本気で私を殺そうとはしてなかっただろうがな」


 え? それって一体どういう? 実際襲われた訳だし、武器は僕には当たらなかった。

 それなのに殺そうとはしてなかった?


「そんな顔をするな魔法使い、奴は私の腕を切り押し倒して来たのだ。殺すなら殺せたはずだ」

「つまり、奴らの目的はアンタを殺すんじゃなくて俺たちをハメようってことか」

「ど、どういうこと?」


 僕がクロネコさんに声をかけると彼は目を細め僕を睨む。

 うぅ……


「つまりだ、俺たちが来ることを知ってる誰かが俺たちをハメるために使者をここに送り込んだ」

「もしかして……ばれたってこと?」


 フィーはクロネコさんにそう聞くと彼は頷き答える。


「可能性はある……だが、今回は……」

「私が原因だろうな」


 王が続いて答え僕たちは彼へと向き直った。

 原因……このお城に入ってから妙だ。

 ここに来るまであんなにも厳重だった警備はこの部屋を境に途切れている。

 目の前の王様が見た目とは裏腹に剣の立つ人だったとしても、普通は信頼のおける兵を傍に置くはずだ。

 つまり、これはやっぱり……


「もしかして、この部屋の人払いをしておいてくれたんですか?」

「うむ、街の者の噂で前王の娘らしき者がいると聞いてな。だが……今となってはどこに誰がいるのかも分からなくなってしまった……謁見を続けると言ったが、これ以上は危険か」


 いや、それならそれで良い。

 なにせこっちには気配に敏感なシュカがいる。


「シュカ気配は?」

「ない、話続けられる」


 彼女は僕たちの中で逸早く気がついてくれたんだ、大丈夫だろう。


「シュターク王、実は手紙はもう一枚あるんです」

「なんだと?」

「フィー」


 僕が彼女の名前を呼ぶと、彼女は複雑な顔を浮かべながらもシュターク王に手紙を手渡した。

 やっぱり、二枚あって良かった。


「なるほど、手紙を取られたと言うのに気にしていないのは妙だと思ったが……早速、拝見させてもらおう」


 王はそう言葉を残すと静かに手紙を読み始めた……

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