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116話 掴めた情報

 その日、ユーリたちは修業を終えると何時も通りミケ婆の家へと向かう。

 クロネコも帰っていて、ユーリは手に入れた魔法とそれがどのように使われたのかの予想について彼に話すのだった……

「…………ということなんだ」


 その日、夕食を済ませた後、昨日と同じように僕たちは話をしていた。

 僕は昼間あったことをクロネコさんに報告をし、彼はニヤリと口元を吊り上げる。


「でかした。これでますます宮廷魔術師が怪しくなってきたな」

「え?」


 ますますってことはクロネコさんは別の情報を掴んでくれたのかな?


「怪しいって、なにか掴めたの? クロネコ」

「ああ、あの野郎……この頃部下に魔法陣の参考書を買わせていたらしい。だが、ジジイが言ってた通り、あいつはどうも魔法が苦手らしくてな」

「苦手? 苦手って言うと……」


 リーチェさん? なんで僕を見るんでしょうか……


「あー、いや悪い……苦手と言うより……どの魔法もまともに扱えないっつった方が良いか、だが……マジックアイテムは魔法を込めた奴の魔力次第だ」

「そ、そうだったんだ……ってことは僕が魔法をかけたフィーの剣って……」

「恐らく、そう言った魔法が得意な女の作った代物なら、砕けたりすることがないな」


 なるほど……


「奴は魔力はあるらしい。オリジナルならそれなりに使うことが出来るだろうな……そして、もう一つだ――」


 もう一つ?


「ああ、マジックアイテムの売買だ。今までもこっそりとやってたみたいだが、どこで聞きつけたのか奴の屋敷に押し掛ける奴が絶えないらしい」


 なるほど……この街の情報屋かなにかが教えたってことなんだろうか?

 それに、一度売った人がお酒に酔って口に漏らしたってこともありえる。


「シュカ、気になる、お金の件」

「ああ、そっちもだ……この街の住人に家族があの村にいる奴がいてな、話を聞こうとしたんだが……」

「だが、どうしたってんだ?」

「王に色々と吹き込んだらしくてな……今は捕まってやがる」


 う……やりたい放題ってこと? 王様はよく気が付かないな……


「愚王だな」

「まったくだ」

「いや、と言うより宮廷魔術師と言う肩書上、王でも下手に手を出せないのでしょう」


 ん?


「その通りだ」

「どういうこと?」

「宮廷魔術師っと言うのは国が誇る武力団体の隊長だ。それだけじゃない、この旅においてもそうだ。」


 ん? この旅って僕たちのことだよね?


「女がいなかったらどうなってた?」

「へ? 僕がいなかったら?」

「デゼルトに船を沈められてたねー?」


 いや、確かに危なかったかもしれないけど……


「それもあるが、グアンナを倒せたのも女が状況を判断し作戦を立てた、宮廷魔術師ってのはそれが出来る奴じゃなきゃ出来ないってことだ……」

「軍師ってこと? でも僕はそんなこと……」

「それも違うな、軍師は別にいる。隊長が()られてしまうと同時に軍師までいなくなった、なんて洒落にならないだろうが」


 あ、そっか……


「軍師は全体、宮廷魔術師は部隊の指揮を取るってことか? めんどくせぇやり方だな」

「だが、仮に隊長がやられたとしても、即座に撤退、隊の組み直しが出来る。戦争をする国ってのはそういうことだ……だが、今回はそうじゃねぇ」


 今回はルテーの回収、そして囚われた人を途絶えた支援を戻すことが目的だ。

 ん? でも王様が簡単に手を出せないってことは……


「もしかして、不正の手掛かりは掴めてないけど、王様はそれに気が付いてる?」


 いや、まさか……もしそうなら――


「ああ、それも掴んでる。王の野郎は気が付いている……代替わりしてから不満の声が上がり続ける。恐らく金を使い込んでることも筒抜けだろうな」

「じゃ、じゃぁ尚更なんで?」

「そうだよ、ロク爺とかも困ってるんだよ?」

「女が言った通り確証がなく、なにも言えなかったって所だろうな、どういうことか分かるな?」


 ……つまり、今まで手に入れてきた情報、そして僕たちが持つ二つの手紙。

 でも、それだけじゃ証拠にならないよ……

 ……証拠? そ、そうか!


「王様から直接の依頼を受けて、証拠を洗い出す?」


 僕のつぶやきにニヤリと再び笑ったクロネコさん、彼はレオさんたちの方へと向き直ると……


「だが、人数が多すぎる。お前たちは別に動いてもらう……お前たちは」

「俺たちは港へ行って商人の動きを見ろっと……」

「ああ、恐らくはそろそろリラーグの方へ戻るはずだ」


 なるほど、戻るってことは杖を売り払ったってことだ。

 帰る所……そこで抑えられれば、情報を手にいられるかもしれない。


「それと、女……その魔法は使えるようになるのか?」

「……分からない、ただ今日の夜詳しく調べてみるよ」


 透明化は情報収集に役立つはず、利用出来るならさせてもらおう。

 後は、クロネコさんの情報を信じて王様に掛け合ってみよう。


「じゃぁ、明日……お城に向かおう」

「うん、そうしようかー」




 話が終わり解散した後、僕は夢の中でソティルの部屋へと来ていた。


「お待ちしておりました。ご主人(ユーリ)様」


 彼女はいつも通り膝をつき僕に挨拶をするんだけど……や、やりにくいなぁ。


「ソティル、昼間の魔法は?」

「こちらに」


 僕の質問にすぐに答えた彼女は本を僕に手渡してきた。

 僕は本をパラパラとめくり、昼間に目にした式を見つけるとそれを詳しく読んでみる。

 解読は出来てるし、商人が消えたことから誰でも使えそうなんだけど……


「これって詠唱を魔紋向けに出来るのかな?」


 僕は僕の左側に移動したソティルへと問いかける。

 すると彼女は優しそうな微笑みを浮かべながら答えてくれた。

 たまにナタリアも優しいのだけど……やっぱりどことなくナタリアに似てるんだけどなぁ。


「肯定します。ですが、ご主人(ユーリ)様の場合、作り直してしまった方が早いかと思われます」

「作り直すってこの透明化の魔法を?」


 その方が手間になっちゃうと思うんだけど……


「はい、魔法陣と言うのは作った人物の癖が出てしまうので他人が手を加えるのは難しいのです……幸い式自体の答えはありますから、それを手本に貴方様の手で作れば通常より早く仕上がります」

「な、なるほど……」


 それなら確かに作り直してしまった方が早い。

 ……あれ?


「でも既存の魔法って体力を浪費しちゃんじゃ?」

「はい、詳しい理由は分かりませんが、合成魔法の際には魔紋に拒絶反応が出ている影響の様ですね……ですがこれは大丈夫でしょう、もし危険なら私がご主人(ユーリ)様をお守りいたします」


 ほ、本当に大丈夫なのかな?

 とは言ってもこの魔法は出来れば欲しいし……


「よし!」


 僕は一声あげると式へと向き直った。

 この魔法は僕たちが有利になれる一手でもある、それなら彼女を信じて作ってしまおう!





 翌日、朝……僕たちは王城へと向かっている。

 結局一晩で作れる訳もなく、朝を迎えてしまった訳で……


「ふぁぁ……」

「ユ、ユーリ大丈夫?」

「眠そう」


 あの部屋は一応寝ている状態だから眠気は解消されるらしい。

 とは言っても頭を使ったことには変わりがないので、多少の眠気がある。


「頼むから、謁見中に寝るなよ?」

「わ、分かってるよ!」


 と言うか、謁見なんてそんな簡単に出来るのかな?


「フィー」

「ん?」

「王様ってすぐに会えるの?」

「会えないと思うよー?」


 ですよね……僕たちは世界を救う一行なんて大それたものじゃないし、当然か。


「会えないなら会えるようにするまでだ……」

「そんなことが出来ると言うのか?」

「どう、やって?」


 クロネコさんは立ち止まると人差し指をフィーへ向ける。

 フィーが、どうしたんだろう?

 ん? ってまさか!?


「へっ!?」

「こいつが姫だってことをばらす、同時にこいつ自身が国を取り戻そうとも思ってないことをな」

「ちょ、ちょっと待ってよ! フィーのこと言ったら……フィーが危ないでしょ!!」

「同意見だな……」


 僕とバルドが初めて意見あった気がするけど、そんなことはどうでも良い!

 クロネコさんは一体なにを言い出してるんだ……


「そう、怒るな女……だから、信頼出来る奴らだけで来たんだろうが」

「え?」

「もし、なにかあっても足手まといになるリーチェはいない、もしもの時裏切るかもしれない三人は置いてきた……お前らなら逃げるのは容易いだろ?」


 そ、そっか……いや、でも……


「なら、どうして商人の見張りを?」

「あいつらが信用できるか試すためだ」


 な、なるほど、彼らには関しては分かるとは言っても……


「危険には変わりがないよ」

「あのな、この国の王は恐れてるはずだ。前王の娘が反旗を翻す時をな。安全が得られるなら、話し合いには丁度良い」


 それは安全が得られるならそうだろうけど、危険には変わりがないじゃないか……


「それにな女、お前が言った通り国民は大事にする王だそうだ……これは集めた情報だ間違いがない。そんな王がいくら爺たちとはいえ見捨てることは出来ないだろうが、更に昨日言ったろ?」


 昨日ってことは宮廷魔術師のことか……。


「俺たちに手を出させない代わりに奴を洗う約束を取り付ける訳だ。分かったか?」


 僕は答えに迷っていると真横にいるフィーは(おもむろ)に口を開く……


「うん、分かった」

「って、フィー!? フィーが一番」


 声を上げる僕の口を塞いだ彼女はにっこりと微笑むと……


「大丈夫だよ? ユーリがいるし、皆もいるからね?」


 そう言われましても……


「本人はこう言ってるぞ」


 そうだけど……心配だ。

 僕がフィーの方へと向くと彼女は微笑んだまま頷く……僕がなにを言っても行くつもりなんだろうか?


「分かった……でも、駄目だと思ったらすぐに引くよ」


 幸い、今ので眠気は吹き飛んだ……僕は勿論皆に警戒してもらうんだ。

 なにかあってもフィーも皆も守り抜くよ。 

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