115話 魔法の正体
魔法陣を探しに宿へと向かったユーリとバルド。
商人が泊まった部屋には確かに魔法陣があり、ユーリはそれの解読を試みた。
だが……それを見たユーリは式を覚えると、すぐに魔法陣を壊し宿屋のお姉さんに処分を頼むのだった……
「バルド……怪しい気配とかある?」
普段と同じように歩きながら、僕は横を歩く少年へと小さな声で問いかける。
「いや、ねぇ……いきなりどうしやがったんだ。あれじゃ処分しなくても魔法陣はもう使えねぇぞ」
「……理由は酒場に戻ってから話すよ……」
ここで話すには危険すぎる、僕はそう思い彼にそう告げた……
その後も怪しい感じがしないかバルドに確認してもらいつつ、僕たちはミケお婆ちゃんの家へと戻った。
宿について安心したからなのだろうか? 僕の足は折れどさりと腰を床に卸す。
「お嬢ちゃん、どうしたってんだ?」
「おやおや、体調でも悪くなったのかい?」
「い、いえ……大丈夫です……」
今思えば、ここまで気を張る必要は無かったのかもしれない。
でも、念には念を……だ。
杖や商人の件以外でも襲われる可能性は十分にある訳だから、バルドに警戒してもらったのは間違いではないだろう。
「で、なんだっていきなり処分させたんだ?」
「うん、今説明するよ……」
ふらふらとしながらも僕は立ち上がろうとし、倒れかけてしまう……
「うぁ!?」
「チッ……しっかりしやがれよ……」
ふぅ……倒れるかと思ったらバルドが支えてくれたみたいだ。
彼は強引に引っ張るように僕を連れていき椅子へと座らせてくれた。
……へぇ優しい所もちゃんとあるんだなぁ。
「ありがとう……」
「んなこと、どうでも良いんだよ! 早く話せよ」
……でも、たいそうご立腹みたいだ。
「えっと、まず転移魔法かどうかだけど、あれは違うよ」
「ぁあ? じゃぁ、どうやって消えたんだ?」
「お嬢ちゃんが言ったんだろ? 転移魔法がどうとか」
確かに僕が転移魔法かもしれないと言ったけど、あれは転移魔法ではなかった。
もっと別の……近くに行くなら便利かもしれない。
それだけじゃない……
「ある意味、転移より厄介だよ……悪用しようとすればいくらでも出来る……あれは」
「あん? だから魔法陣を壊した上で処分させたのか?」
バルドの言葉に僕は一つ頷く。
「あれは透明化の魔法だよ……光を屈折させて、自身を見えなくさせる魔法……」
「透明?」
「……つまり、お前が言いたいのはガラスみてぇに向こう側が見える様になる魔法ってことか?」
「そう、だから……誰にも気づかれず、文字通り消えることが出来る。恐らく身に着けていれば荷物とかにも効果があると思うよ?」
魔法陣の式は僕自身覚えてはいる……でも、確認の為に今夜あたりソティルの部屋に行っておこう。
「だから周りを気にしてやがったのか……」
こんな魔法聞いたことがないし、恐らくはオリジナル。
だとしたら、作った誰かがいる……
魔法式を作るぐらいなら、知識さえあれば誰でも出来てしまうんだ。
それに、これの本来の使い方は恐らく……
「恐らく、脅威から身を隠す魔法だ……魔法の才が殆どないって言われてる宮廷魔術師にはぴったりの魔法だよ」
「…………なるほどな、確かに隠れてなにか出来るってんなら、安全性が増す。それに、取引した相手も騙せるって訳か」
え?
「取引の時に隠れ、相手を殺し物を奪う……いや、実際に馬鹿な金額も渡してる可能性もありやがるな」
え? えっと……
「その上で相手を裏の取引に加担させたと脅すことも出来る訳だ。恐らく最初から仕組んであったのかもしれねぇな」
バルドは言い終えると僕の方へと目を向けて笑う。
「案外、頼りになるってのは本当かもしれねぇな」
なんでだろう、バルドが一人で納得してるけど……
「クロネコたちが帰って来たら報告だ……」
「う、うん……魔法に関しては僕に任せて、今夜詳しく調べておくよ」
「ああ、そうしてくれ」
な、なんだろう…………なんでバルドが若干柔らかさを持たせた声になってるの!? というか、そこまで考えてなかったよ?
でも……仲間なんだし、協力するにあたって仲良くなるのには問題は無いか……良しとしよう。
「そういや、お前フィーナたちと修業をするとか言ってたな……送ってってやるよ」
「ふぁ!?」
今、なんか信じられない一言が聞こえたような?
「なに変な声あげてやがる。少し経ってからだ……」
「あ、ありがとう……」
う、うーん? まぁ、認められたってことなのかな?
その後、バルドは言った通り僕をフィーたちの元へ連れてってくれて、それを目にしたフィーは目を丸くしていた。
「なんだよ……」
「まさか、ユーリからお金取ったの?」
「仲間から、お金、取る、最低」
「金は取ってねぇ! 足手まといのままじゃ困るからな、さっさと戦えるようにしろ!」
彼はそれだけ残し、来た道を戻っていく……
素直じゃないなぁ。
「珍しいこともあるんだねー?」
「そうだね?」
バルド……お金は大事だけど、がめつ過ぎるのはこういうことも招くよ?
この日も僕は呪い対策の魔法と浮遊を使った修業をし、対策の魔法の方は大体出来上がってきた。
とは言っても、僕が苦手とする攻撃魔法ではないから早いのかもしれない。
問題はやはりナイフを使った戦い方の練習で……
「うーん? ナイフを振る時と攻撃を防ぐ時にやっぱりぐらついてるね?」
フィーの方は大分慣れてきたらしく、今は休憩して僕とシュカの稽古を見守っていてくれていた。
そんな彼女は僕の動きを見て、色々と教えてくれるわけだけど……今言われたぐらつくのが、どうも……。
「う、うん……」
「速さなら、ともかく、攻撃出来てない」
……どうも、ブレてしまう、どうにかならないかな? と思い、一応色々と工夫はしてるんだけど……どれも駄目だった。
「考えられるとすれば……やっぱりかな?」
「だと、思う」
「え? 二人には理由が分かるの?」
フィーとシュカは同時に頷くと……
「「足、かな?」」
「足?」
「前にも言ったと思うけど、地に足がついてないから踏ん張れないでしょ? だからどうしても攻撃がぶれちゃうんじゃないかな?」
「シュカも、そう思う」
そ、そんなことを言われても……それに……
「二人は足がついてなくても防御出来てるよね?」
何度か二人が空中で……飛んでいる訳ではないけど防御していたのは見たことがある。
攻撃に踏ん張りが必要なら、防御だって同じはずだし……
「それは、そうだけど……」
「フィーナは、力、シュカは、技術、ある……」
な、なるほど……僕にはどちらもないよ……
うーん……地に足がついてないからか………………まてよ? ついてないならつかせれば良いじゃないか!
「ユーリ、なにか気が付いた」
「もしかして解決策見つけたの?」
「出来るかは分からないけど、試してみるよ!」
僕が武器を構えるとシュカも同じように構えてくれる。
今まで通り、空を飛んでの攻撃だ。
だけど、僕は武器を振る前に一瞬だけ足を大地につけ、蹴った。
「クッ!」
当然、大きく僕の身体はブレるが……勢いはついたみたいだ。
後は……浮遊で修正すれば!!
「――っ!!」
辺りに鞘同士がぶつかった鈍い音が辺りへと響き、僕の耳には小さくシュカが声を漏らしたのが聞こえる。
「びっくり、した」
とはいえ、僕の一撃だ。
彼女は最初こそは声を漏らしたもののいとも簡単に耐えると……
「さっきより、良くなった」
そう一言言ってくれた。
今日はこの後も練習を続けてはいたが、まだまだ先は長そうだ……
というより、僕自身魔物や人に刃を向けられるのだろうか?
いや、いざって時には僕がなんとかしないといけないんだ。
覚悟はしておいた方が良い、守るためだったら……僕は刃でも振るわなきゃいけないんだ。
これまでは幸運だっただけで、もしかしたら、ここにフィーがいなかったのかもしれないんだから……
あのお守りがあっても、だ。
それに、あれはもう一個しかない……シュカやドゥルガさんたちまで守ってくれることはないんだ。
だから、僕自身が少しでも魔力を温存出来るようにならないと。
「ユーリ?」
「ユーリ、急に、こっち見てきて、変」
「変って……なんでもないよ」
まだ、実践で使えるかと言われたら無理だろう。
でも、確実に良くなってきてる……焦らずに物にしていこう。
「そろそろ、戻ろうかー?」
「日も、傾いてる」
「うん、あ、そうだ……クロネコさんが戻ってきたら報告があるんだ」
昨日と同じように僕たちはミケお婆ちゃんの家まで戻っていく……捕らえられてる人たちのことを考えると行動は早めたい。
クロネコさんが確証を得られるような情報を持って来てくれると良いんだけど……




