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114話 消えた商人

 懐かしい食事に舌鼓を打つユーリは食事を終えた後、クロネコとバルドの情報から、商人は転移魔法を使ったのではないか? と告げる。

 そして、見当たらない魔法陣を予測したのだが……翌日彼女の横にいたのは?

 何故こんなことになったんだろうか?

 僕は隣にいる人を見て若干……いや、かなり困っている。

 どうしたら良いのか分からない……

 そう、いつもなら横にいるのはフィーのはずなのに、今僕と一緒に行動しているのはバルドだ。


「なんだよ?」

「な、なんでもないです……」


 なんでこんなことになったのかっと言うと……

 昨日の夜、僕が布団に魔法陣が隠されているんじゃないか? と言い、バルドが調べることになったんだけど……そのすぐ後のことだ。


「だが、仮に魔法陣があったらどうするんだ? そのまま持ってくる訳にはいかねぇだろうが」

「ああ、その場合は一度女にどんな魔法か調べさせる……だが、厄介なものに書いてあったら持ってこれないな……写し書いてこい!」

「ぁあ? それだったら、ユーリのやつ連れて行った方が早いだろうが!!」


 と言う訳で僕は強制的に宿屋に向かっている。

 それは良いんだ、情報収集を皆がしている中、なにもしないってのは気が引けるし……

 でも……フィーもシュカもいない訳でちょっと不安だ。

 バルドが怖いとかではないんだけど、今までずっと一緒だったのもあるし、彼女たちがいないのはどうも……

 でも、室内でなにかあったらフィーは剣を振れない、それにそもそもまだ慣れていないと言ってるし、シュカに関しても動き回る分バルドと相性が悪いらしい。

 結果、僕とバルドでの行動になった訳だ。


「着いたぞ」

「う、うん……」


 ここに例の商人が泊まった部屋があるのか……


「ねぇ、あの子うつむいちゃって宿に……」

「もしかして、かな? でもでも、あの男の子もやるね? 宿は宿でもあの宿なんて」

「羨ましいねっ!」


 ん? ……なんか後ろから女性の声が……

 ………………宿? って!? 絶対に勘違いしてるよ!?


「バ、バルド! ここからは僕一人で行くから!」

「ぁあ!? なに言ってやがる! 一緒に来た意味がねぇだろうが!!」


 バルドの声が辺りに響くと女性たちの声も上がって……うわぁぁぁぁあ!? さらに勘違いされてるよ!?


「ったく! なに意味の分からねぇこと言いやがってるんだ!! 行くぞ!!」

「ちょ、まっ!? バルド引っ張らないでって!?」


 更にきゃぁきゃぁ騒ぐ女性たちに言いたい。

 違うんです! それに僕にはフィーがいるんです! そう叫びたいところだったけど、そんな暇はなく、僕たちは宿の中へと連れ去られた。





 中の造りは高級なのか、小奇麗で一つ一つの家具にも気を配られている……

 確かに、恋人同士とかで来るには良いかもしれない……フィーと来たいなぁ。


「お泊りでしょうか?」


 宿のカウンターに向かった僕たちにお姉さんがにっこりと笑顔を見せ、僕とバルドを交互に見ると……


「お値段は張りますが、良いお部屋もございますよ」


 ああ、また勘違いされてるよ。


「いや、泊まりじゃねぇ……」

「? ご休憩ですか、それでしたら――」

「い、いや僕たちそうじゃなくて、えっと……消えたしょう――むぐぅ!?」


 僕が違うと言おうとしたらバルドに口をふさがれたんだけど!?

 なんで!?


「馬鹿か! こっちの動きがバレねぇ様に酒場にも気を使ったのに自分でばらしてどうする!?」


 彼は耳元で囁くようにそう忠告すると――


「任せておけ……」

「は、はい」

「すまない、休憩じゃなくてな……ちょっと野暮用があるんだが……」


 彼はそこまで言うとなにやら見せているようだけど……

 耳? あ、そっか確かバルドの冒険者の証は耳飾りだったっけ?


「あ、はい! では、こちらにどうぞ」


 お姉さんはそういうとカウンターの中へと入るように促し、その先にある扉を開けてくれた。


「行くぞ、大馬鹿」


 お、大馬鹿って……そりゃいきなり大声で話したけど……バルドと恋人同士的にみられるのは……い、嫌だなぁ。

 彼もそうだろうし、気が付いていないだけマシって思った方が良いのかな?

 ギスギスするだろうし……



 部屋に入り、暫くすると先ほどのお姉さんも部屋へと入って来た。


「すみません、酒場の冒険者様でしたか、それで……なにか御用ですか?」

「ああ、昨日も来たんだがその様子じゃ話は聞いてないのか?」


 彼女はバルドにそう言われると少し考えるそぶりを見せ。


「聞きました。ですが、特になにも見つからなかったと言われ、すぐに帰られたと聞かされていただけでしたので……」

「そうか、もしかしたら消えた商人の行方……いや、どうやって消えたのかが分かるかもしれなくてな、連れてきた訳だ」

「そ、そういうことです」


 お姉さんは僕とバルドを再び交互に見ると……ぽんと両掌を合わせ。


「ああ、そうだったんですか、私てっきり、可愛らしい子たちが来たなぁってちょっとほんわかしちゃいましたよ!」


 ああ、やっぱりそう思われてた……


「ぁあ?」


 バルドは全然気が付いてないし、というか何故ここまで言われて気が付かないんだろうか?

 いや、気が付いてなくてよかったけど。


「ち、違うんです!?」

「うふふ、分かりましたよ、では合鍵をお渡ししますので……お帰りの際に再び声をかけていただけますか?」


 バルドはお姉さんに鍵を手渡され、それをしまうと顎で僕に部屋を出ることを告げてきた。

 商人が泊まっていた部屋……僕が言ったことだけど本当に転移魔法陣があるのだろうか?





 部屋に向かうとバルドは扉に耳を当て中の様子後を探り、受け取った鍵で扉を開けた。

 中に入って見るとそこには人がいた形跡こそあるが、人はおらず……


「本当に誰もいないね」

「ああ、荷物もねぇ……部屋に手を加えずにおいてくれたのはせめてもの救いか」

「はい、一応明日整理するつもりでしたので……」


 人気みたいだし、部屋が一つ使えないのは大変じゃないのかな? でもこれは逆にありがたい。

 僕がそう思う横でバルドは布団を探り始め……布団を投げ毛布を投げ、シーツを取り払った後、明らかに不機嫌な表情で僕を見てきて……


「おい、どういうことだ?」

「え、えっと……ふ、布団を調べよう?」


 僕は投げられた布団をよく見てみる……んー、どこも変な所はなさそう……ん?


「どうした」

「ここ、丁寧だけど……縫い合わせてある、ほら!」


 僕はその場所を指さしてバルドに見せると彼はそこをまじまじと見初め……


「別に破れたなら、縫い合わせるのはおかしくはねぇだろうが……」

「はい、破れたら繕います」


 それはそうなんだけど……

 確か勘違いをしていた女性たちは『宿は宿でもあの宿なんて、羨ましい』そんなことを言っていた。

 それに、内装もこれだけ良いのに……布団だって言っちゃ悪いけどゼルさんとかの酒場とは比べ物にならないくらい触り心地が良い。


「普通ならおかしくはないよ? でも、これだけ色々気を配ってる宿が布団をこんな風に繕って使うかな?」

「……だからおかしくはねぇって言ってるだろう」

「そ、そうですよ、縫って使うのは普通です寧ろ買い足すのはごまかせなくなってからで……」


 バルドやお姉さんが言っていることは分かる。

 この世界で布はそこまで高価ではない、とは言っても節約出来る所はしたいだろう、ならこうやってばれにくい様に縫い合わせることは別に変じゃない。

 それに泊まった人が気が付いたとしてもここまで丁寧なら文句は言わないだろうしね。


「だからこそだよ」


 ただ、この縫い後にはおかしい場所がある。

 それが僕が気が付いた理由でもあるけど……


「丁寧に縫い合わせてある。でも……ほら別の所だけど、この部分の糸がまったく同じ色に見えるけど少し色が違うんだ……縫い方もね、ほらさっきの場所と比べてみてよ」

「あん?」

「どうですか?」

「確かにおかしいですね、お客様が気にならない様に縫い方も教わりますし、糸も十分に確保していますので別の色になることは無いはずなのですが……」


 やっぱりだ、この布団は少なくとも一回は治されているのだろう跡があったけど、ここだけはおかしいみたいだ。


「……仕方ねぇ、ここ糸を取るが良いか?」

「ええ、後で治しますのでご心配なく」


 彼はそう言うとナイフを取り出し丁寧に僕が指を指した場所を裂いていく……

 穴が開いた布団へと手を突っ込むと彼はニヤリと笑みを浮かべ。


「でかした……」


 布団の中からずるりと大きな布を取り出した。


「調べてみろ!」

「分ってるよ……」


 もし、転移なら魔法陣があるこの場に戻ってくる可能性がある。

 僕は急いで布を広げ式を読み取ってみると……


「…………」

「どうなんだ?」


 僕は内心ほっとした。

 でも、その反面ゾッともした……この魔法自体に危害はない。

 ……この魔法は使われたら面倒だ。


 ソティル! 式は!?


『問題ありません、書物を作りました』


 よし! それならもうこれは僕には必要がない、一応壊しておいた方が良いよね。

 僕は布に一筆加え、布をお姉さんへと渡した。


「なにやってやがる!」

「もう覚えた! 布団はお姉さんに治してもらおう」

「馬鹿野郎、法陣を壊したらばれる可能性があるだろうが!」

「大丈夫、この布は処分してもらえますか?」

「え、ええ、分かりました」


 宿の人なら、不審に思って処分しても問題は無いだろう……それに仮に帰って来ても、商人はそのまま帰るはずだ。

 だけど、相手は少なからず堂々と取引をする人ではない……

 もしくはそれが出来ない取引だ。


「チッ! 嘘だったら後で殴るからな!」

「大丈夫だよ、本当に覚えたから……」


 僕はそう言うと部屋を出て走りかけると襟首をつかまれ……


「ふぁ!?」

「馬鹿がこっちだ!」


 バルドに引きずられる形で宿の外まで連れていかれた。

 うぅ……クロネコさんに迷子にならない修業でもつけてもらえないかな? 

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