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11話 ハチミツと言えば……

 森へと入った二人は魔物と遭遇する。

 初めての戦闘ということもあり、苦戦を強いられるユーリだったが、なんとか撃退することに成功した。

 その後も魔物を倒しながら森の中を進み、二人は目的の場所へとたどり着く。

 フィーナがハチミツを取っている間、ユーリは見張りをすることになり辺りを見回すと、少し離れた場所で茂みが動いたのに気がついた……。

「今、なにか動いた……?」

「どうしたのー、なにかあった?」


 僕が呟くとすぐにフィーナさんが反応をしてくれた。

 ……小さい声だったのに、耳良いなぁ。


「いえ、今そこの茂みでなにか動いた気がして……一応、見てくるね」

「ちょ、ちょっとユーリ!?」

「はい?」


 フィーナさんの大きな声にビックリした僕は振り向きながら返事をした。


「そんな大声出さないでも聞こえるよ?」


 そう一言そえた時、僕の後ろで茂みが大きく揺れた音がした。


「駄目! ユーリ!! 早くこっちに!」


 フィーナさんになにか叫ばれた気がしたけど、嫌な予感がし僕は再び茂みの方へと向き直った……。

 すると、そこには大きな熊が僕に向かって走ってきている光景が目に映った。


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 危うく当たるかと思ったけど、幸い真っ直ぐに走って来てくれたので横に飛んで間一髪の所を避けれた。


「あ、あっぶなかったぁ……ん?」


 はて、気のせいかな? 確かにジャンプしたから一瞬だけ空中に居たはずだ。

 でも、そんなに高く飛んでいないから、すぐに地面に足が着くはずなんだけど……。

 そんなことを悠長(ゆうちょう)に考えていたらようやく地面へと足が付いた。

 ついた……のだが、思いっきり足を捻ってしまった。

 しまった、もしかして……思ったより高く飛んでいたのかな?


「いッ!! ――――ひっ!? お、落ち!?」


 そうだったら、どんなに良かったのか……。

 運が悪い事にどうやら、飛んだ先が坂になっており、上手く着地が出来なかったみたいだ。


「ユーリ!! 木に掴まって!」


 そんなこと言われてもっと思ったのも束の間、僕はそのまま坂を転げ落ちていった。


「へ!? う、うわぁぁぁぁぁ!?」




 

「ユゥーリィーッ!!」


 再びフィーナが彼女の名を叫んだ時にはユーリは落ちていってしまった。

 目の前に居る熊は消えた獲物には興味が無いのだろう、フィーナに狙いを定めると牙を向き向かってくる。


「追わないといけないんだから、どいてぇぇぇぇぇッ!!」


 彼女は防護服に身を包んでいたため武器も持たずに迫り来る熊へ向け拳を振り放つ、常人なら明らかに無謀な行為だ。

 だが、彼女は冒険者それも腕利きだ。

 殴られた熊は宙へと浮き、地面へと叩きつけられた。

 圧倒的な力の差を見せ付けられた熊は目の前の冒険者には敵わないと分かったのだろう、身を翻し森の奥へと引き返していった。


「ふぅ……」


 彼女は一つ息を吐くと……防護服を脱ぎ捨て、ユーリが消えた坂へと向かう。

 ……だが。


「流石に、この坂を下るのは無理……だよね」


 その坂を見たフィーナはかなり急であることに気づいた。

 彼女だけ降りるならできるだろうが、彼女の愛剣までは持って行けないと判断した彼女は近くの木に触れる。


「草花の精霊よ我が前に姿を現せ……ドリアード!」


 彼女は詠唱を紡ぎ精霊の名を読んだ。

 すると、その木から草花のドレスを着こんだ半透明の精霊が姿を現した。


「ドリアードお願い……この下に行く近道を教えて!!」


 木の精霊は小さく頷くと、フィーナの目の前を進んでいく……。

 彼女の願いを聞き届け道案内をしてくれる様だ。


「ユーリ……無事で居てね……」


 彼女は崖の下へ向けそう呟くと、精霊の後を追うのだった。





「~~~い、っぅ………」


 一体どのぐらい転がったのだろう……体中が痛い、骨は……大丈夫だと思う、って言うか、折れてたらもっと痛いよな……。

 捻ったから痛いのは痛いけど……。


「うわぁ……」


 どうにかして坂を上れないかと思い見上げると、思わず声が出てしまった。

 ……かなり急だよ、この坂……良く無事だったな。


「どうやって上に行こう……ん?」


 なにかの気配がして後ろを振り向くと、魔物が何匹か僕の方を見てるけど……。

 これって……。


「オォォォォォォォォォォッ!!!」


 なんか雄たけび? あげてるし、ピンチ……だよね?


「ってのんきに考えてる場合じゃない!!」


 合流したいけど今は逃げるしかない!

 ナイフを手に取り、目印になりそうな木に切り傷を手早く刻み込んだ。

 そして、足が痛いのを我慢し、その場から急いで走り出す。


「オォォォォォォォォォーーっ!!」


 だが、魔物も僕を逃がすつもりは無いようで追って来てるし、もう何でこんな事になるんだ!!


「あーもう! なんで、あんなところに熊が居るんだよ!! 熊って本当にハチミツが好きなのか!?」


 坂から落ちた原因である熊に憤りを感じ叫ぶが、当然なにも変わりはしない。

 しかも、そのせいで他の魔物たちにも気づかれたようで、森のあらゆる方向から奇抜な鳴き声が聞こえ始めた。


「ふぁ!? ま、不味い……」


 どこかに隠れる場所は無いのか?

 焦るあまり周りを見ながら走っていた僕は足を踏み外した。


「またあぁぁぁぁぁぁ!?」


 今度は足も捻らず地面がすぐ近くで一先ず安心したが、代わりに思いっきり尻餅をついた。


「っ――――!? うぅ……もう、今日と言うかこの数分ぐらいで、どれだけ痛い思いするんだよ……」


 打った尻を撫でながら立ち上がり、後ろへと振り向くとそこには丁度良さそうな洞窟がある。

 入って良いのかな? もしかして……。


「魔物か、なにかの巣とか……かな?」


 そう呟き、足元を見てみるがソレらしき足跡は無い。


「うーん、取りあえず、魔物とかは居ないのかな?」


 正直に言うと動物の足跡さえも無いし、危険そうだが、このまま外に居ても魔物たちに追いつかれそうだし、入ってみるか……。

 洞窟に入り、物陰から外の様子を伺うと魔物ではなく別の何かがこちらに向かってきている。

 一体なんだろうと目を凝らしてみると、そこにはさっきのかは分からないが熊だ……。

 しかも、ついていないことに目が合ってしまった! 最悪だ。

 も、もしかして……この洞窟ってあの熊の巣だったのか? 冷や汗を垂らしながら、そんなことを考えている僕を余所に熊は興味が無いのか去っていった。


「あれ、巣じゃないのか? ま、まぁ、良かったの、かな?」


 こんな所じゃ逃げることもできないし……まぁ、入ったのは僕だけど。


「それにしても、結構奥まで続いてる洞窟だなぁ……」


 一応、安全か確かめるためにちょっとだけ、進んでみようかな……。

 でも、奥に魔物が居るかもしれないし危険かな? いや一応先に危険かどうか調べてみよう危ないならすぐ逃げれば良い。

 それに、足跡は無いと言うことはここに引きこもってるだろうし、明るさに弱いはずだ。

 多分、なんとなくだけど……。


「我が往く道を照らせ……ルクス」


 魔法の名と共に光の玉が出現し、辺りを照らし始める。

 ルクスは問題なく発動したようだ。

 でも、この魔法は何度も成功しているし、イメージ通りに動いてくれるから攻撃的な物よりも楽だ。


「よし、ちょっとだけ見てみるか」


 光を従え、僕は奥へと足を向けた。

 少し歩いていくと曲がり角に差し当たった……。

 見えない所に魔物が居ないだろうか? うーん、一応ルクスの光を先に行かせてみよう。

 光の玉は僕の意志どおりに角を曲がったところで止まった。

 少し待ってみるが、特に物音がしたり、なにかが向かってきたりする感じは無いので、ゆっくりと移動をし角を曲がる……なにも居ないが僕は奇妙なことに気がついた。

 いや、もっと速く気がつくべきだったかもしれない……この洞窟の壁は岩肌でデコボコしているように見えて文字が彫ってあるのだ。


「向こうの方まで書いてあるようだけど……これって、もしかして入り口まで書かれてるのか?」


 当たり前だが、間違いなくこの世界の文字だ……全部読めるわけではないが、少しなら読めそうだ。


「なんかこういうのRPGみたいでわくわくするな~」


 不謹慎かと思うが、実際そうなのだから仕方が無い……。

 壁の文字を読める所だけ呼んでみると、辛うじてだが解読できた。

 どうやら、この洞窟が結界に守られていて安全だと言うことが分かった。

 つまり、この文字は大掛かりな魔法陣みたいなものなんだろう。


「でも、なんで……こんな森の中に安全地帯があるんだろう?」


 コレのお陰で助かったわけだが、さっきの様子じゃ熊みたいな動物も入り込めないみたいだし、ちょっと厳重すぎじゃないだろうか?


「……もうちょっと、奥に行ってみよう」


 理由はどうであれ安全そうではあるし、安心した僕は洞窟の奥へ再び歩き出した。



 入り口から結構歩いたが魔物も動物も居ない、やはり、なにかあるのだろうか?

 若干……いや、かなり心を躍らせながら歩いていると目の前に扉が見えた。


「いかにも、って感じの扉だな……」


 それは僕が手をかけ押してみると、いとも簡単に開いた。

 飛び込んできた風景は広めの部屋だ……。

 だが、壁は洞窟の岩肌ではなく……別、人の手が加えられている物になっている。


「……書庫?」


 無用心だとは思うけど部屋に入り確かめてみると、そこは本だらけの部屋だった。


「すごいな……ナタリアの屋敷にも本は結構あったけど、ここは本だらけだ……」


 壁一面ではなく本棚の壁と言った方が良いだろう……。

 でも、本を守るためだけに結界を張ったのか?

 そもそも、この世界の本の価値ってどのぐらいなのだろうか?


「ん?」


 部屋を見渡す僕の目に一つの本が目に映る。


 それは、魔法陣の上にあった。


 それは、浮いていた。


 それは、表紙にはなにも描かれていない白紙だ。


「……なんだ?」


 僕は吸い寄せられるようにその本へと向かい、魔法陣を踏んだ。

 ソレと同時に魔法陣と本から光がほとばしり――僕はその光に包まれた。

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