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109話 探し人

 首都レライへ着いたユーリたちは宿を探すことにした。

 だが、名もなき村の為、宮廷魔術師を敵に回すことは明らかでなるべく信頼できる場所を探すことになった。

 当然そんな都合のいい場所もないだろうと思っていた時、フィーナが口にしたのはミケという老人の名だった……

 街に入ってもうどの位の時間が経ったのだろうか?

 僕たちは街の中を歩き回りフィーが言っていたミケ婆という人を探し回っていた。

 でも、どんなに歩いてもその人は見つからずクロネコさんが一人で探しに行ってくれていて、その間僕たちはちょっと休憩中だ。


「シュカ、疲れた……野宿でいい」

「ぇえ!? 流石に私は藁でもいいからベッドで寝たいって……」


 シュカの言葉にすぐ反応したのはリーチェさんだ。

 彼女は自分の服をつまみ、臭いが気になるのか鼻を利かせる。


「服も洗いたいし、水浴びもしたいって思わないのが不思議でならないね」


 ぅ……確かにフィーに臭いとは思われたくないな。

 僕がそう思ったのもつかの間、手をつないだままのフィーが少し僕から距離を置き……


「フィ、フィー?」

「な、なに? 大丈夫だよ?」


 なにが大丈夫なんだろうか? というかやっぱり……狼だけあって分かっちゃうよね。

 うぅ……僕も服を洗えるところが良いなぁ。


「見つからない物は仕方がねぇだろ! 貧民街で良いじゃねぇか、金は要らねぇしな」


 バルドがそう口にした後、僕はおずおずと手をあげ


「僕は……リ、リーチェさんに賛成かな流石に水浴び位はしたいよ」

「わ、私も賛成かなー?」

「ぁあ!?」


 うわぁ……バルドがご立腹だ。


「ユーリがその方が良いと言うならば異論はない」

「…………疲れた、でも、仕方ない」


 ドゥルガさんは僕の意見を尊重してくれるみたいで、先ほど野宿でも良いと言っていたシュカも宿探しは手伝ってくれるみたいだ。

 とはいったものの……先ほどから歩き回っていたのに見つかる気配すらないし、結局は貧民街に寝泊まりになりそうだ。


「シアン?」


 ん?


「なにふぉ?」

「お前……皆が必死に探してる時になに頬張ってるんだ」

「たべふぉろにきまっふぇるれほ」

「飲み込んでから話してください」


 どうやら買い食いをしてたみたいだけど、なんだろうあれ?


「ん? あれ……それってもしかして……」


 フィーはシアンさんが頬張っている棒に刺さった食べ物を指さす。


「ッ! あげふぁいふぁらね!!」

「ああ、そんなに頬張ったら駄目だよ?」


 食べ物を取られると思ったのか、シアンさんはそれを一気に頬張り……ってやけに伸びるなあの食べ物……

 チーズってわけではなさそうだし、よく見ると白い部分が伸びてる。

 もしかして……いや、もしかしなくてもあれってお餅!?


「~~~~っ!?」

「ほら、だから言ったのに……」


 あきれた様子のフィーはシアンさんの背中を叩き、相当苦しいのだろうシアンさんは焦ったように水で流し込もうとする。


「焦って食べるからだよー?」


 なぜだろう? 前に僕がフィーとシュカに言ったようなことをフィーが言っている気がする。


「ぷはぁ……し、死ぬかと思った……喉に絡まるし、もう絶対食べない!」


 シアンさん、それは単なる不注意の所為だと思います。

 というか、普通あんなに頬張ったら喉に詰まらせるのは当然だよ……


「なにやってんだお前ら……」


 いつの間にか戻ってきていたクロネコさんは尻尾を揺らしながら僕たちを睨む。


「なにって……シアンさんが食べ物を喉に……」

「フィーナに奪われそうだったから!」


 いや、フィーは確かに食べるのが好きだけど人の物を奪いはしないよ?

 ……結果的に上げたことはあるけど……


「え、えっと奪わないけど……それよりもクロネコ」

「なんだよ……なにかあるのか? いい報告以外は聞かないぞ」


 うわぁ、クロネコさんが怒ってる。

 し、仕方ないか……僕たちの為に安全な場所を探していてくれていた訳だし、今の所を見られたら遊んでいたと思われそうだ……当然怒るよね……


「うん、ミケ婆見つかったよ?」

「へ?」


 その言葉に僕は思わず声を出してしまった。


「なに?」


 見つかったって……僕たちはここから動いてないはずなのにどうやって……

 皆が目を丸くする中、フィーは地面へ落ちた串を拾い。


「これ、ミケ婆がよく作ってくれたお菓子だよ~? シアンこれどこで買ったの?」

「え? 確かにババアが店やってたけど……そんなに食べたいの? 死ぬよ?」


 ちょうど今死にかけたからだろう、シアンさんは目を細くしそう答えた。


「えっと……うん、とにかく案内して欲しいなー?」

「仕方がないね」


 フィーのお願いに嫌々といった感じでシアンさんは立ち上がり……


「なにがあっても恨まないこと、良いね」


 と言い残し歩き始める。

 その背中にホークさんが……


「シアンの場合、ただの自業自得でしょうが……」


 呆れ切った顔でそう一言口にしたのは聞こえなかったことにしておこう……

 彼女のおかげでどうやら安全な場所は確保出来そうだからね。



 シアンさんに連れられて街の中を歩くこと数分、彼女は立ち止まり……


「あそこの店がアタシたちを罠にハメようとした悪魔の住処……良い? 合図をしたら」

「えっと……」


 真剣な顔であなたはいったいなにを言っているのでしょうか?

 僕がそう言おうか若干迷っているとシアンさんは神妙な顔で頷き。


「分ってる、良い? 合図をしたら魔法であの家を焼――ぐぅ!?」


 なんか、凄いことを言いかけた所でシアンさんはレオさんに頭を押さえられ言葉を詰まらせる。


「下らないこと言ってないで、さっさと案内してくれないかね」

「本当自分の不手際を認めない人ですね、シアンは……」

「え、えっと、行こうかー?」


 苦笑いを浮かべたフィーは目の前のお店へと向かって指を指しながらそう言い。


「そ、そうだね」


 おそらく僕も苦笑いを浮かべながら答えた。

 お店の近くによると香ばしい匂いと、甘い匂いが鼻をくすぐる。

 これ、やっぱり……


「お餅だ……」

「オモチ? モチモチってユーリの世界にもあったの?」


 モ、モチモチ?

 ガレットと同じで名前が違うのかな?

 僕が商品を良く見るために、店を覗き見てみると森族(フォーレ)のお婆さんが網でお餅を焼いている所だった。


「おや、お客さんかい? 一つ銀貨一枚だよ……タレは蜜か、キナかたらしがあるからね。好きなのを言っとくれ」


 人の良さそうなお婆さんは僕にそう言うと顔を再び網へ向けたけど、キナってこのきな粉のことかな? たらしはどう見てもみたらしだよね?

 うん、ってそうじゃない。

 この人はフィーが言っていたミケ婆って人なのかな?


「……うん」


 訪ねみようと思った時、フィーが小さく声をあげ……


「やっぱり、ミケ婆だ」


 フィーはお婆さんを見て確信したのか、声を弾ませていて顔もほころんでいる。

 ロクお爺さんの時は居心地が悪かったみたいだけど、どうやら吹っ切れたのかな?

 それとも、このお婆さんはフィーに優しかったんだろうか?

 お婆さんは声を聞いて体をビクリと振るわせると、ゆっくりと振り返り……

 

「フィ、フィーナ、様……かい?」


 フィーを見て嬉しそうな……今にも泣き出しそうな顔を浮かべていた。

 それに対し、フィーは一瞬はっとした顔を見せると顔引きつらせ――


「あ、う、うん……」


 歯切れが悪い返事を返す。

 どうやら、お婆さんを見つけて嬉しかったけど、やっぱり引っかかりがあって素直に喜べないってところかな?


「おお、お美しくなられて……それに――」


 お婆さんはフィーから一旦目を離したかと思うと僕をまじまじと見て……

 う、なんか……デジャヴってやつかな……


「よく見ればあの方に似ている……親子揃って、フィーナ様を守っていただけているのかい? なんと心強い母方とご息女様じゃの」


 やっぱりそれなの!? っていうか、僕ってその時のナタリアにそんなに似てるのかな?

 でも、フィーと出会ってから呪いにかかったのなら今とそう変わらないと思うんだけど……

 

「お嬢さんも母方に似てお奇麗じゃ……その優しそうな目は父方似なのかの?」

「え、えっと……」


 なんと言って返したら良いのかな?

 嬉しそうにしてるし……違う! って言いきるのも悪い気がしてきたよ?


「おお、忘れる所じゃった……お嬢さん、お名前は?」

「ユ、ユーリです」

「ユーリかい? 良い名だね……二人ともどうぞ、これはお婆のおごりだよ」


 そう言ってミケお婆ちゃんは焼いたお餅を僕たちに差し出すと一つの器を指さした。


「タレならたらしがお勧めだよ。お婆特性だからね……美味しいよ」

「ありがとう、ミケ婆……」


 フィーは早速串についたお餅にたっぷりとタレをかけてるし……う、なんか言うタイミング逃したみたいだ。


「さぁ、ユーリもどうぞ」

「いただきます」


 なんか完全にお婆ちゃんの空気に呑まれちゃったなぁっと思いつつも僕もフィーと同じようにタレをたっぷりと掛けていると……


「喉に詰まらせやすいからね、よく噛んでゆっくり食べるんだよ?」

「このお婆さんよ! アタシを呼吸困難にさせる罠を張ったのは!!」


 お婆さんとシアンさんの声が重なって聞こえた……っていうかお婆さんはちゃんと忠告してたみたいだよ?


「おや、さっきのお嬢ちゃんかい?」

「……クッ!! だ、騙されない!! 騙されないからね!!」


 彼女はそう言葉にしながら、銀貨を二枚カウンターへと置くと……


「二つ!! お勧めの!!」


 あ、美味しかったんだね。


「はい、今焼くからね」

「お前ら……」


 僕たちのやり取りを見て、話が進まないと判断をしたのだろう。

 クロネコさんは僕たちの前に出て、尻尾は相変わらず不機嫌そうだ。


「おい、ババア!」

「おや、クロちゃんじゃないか」


 ク、クロちゃん!?


「その名で呼ぶな! いいか? ババア」

「そう言えば、やんちゃなクロちゃんは食べたことなかったねぇ……食べるかい?」

「だ か ら そ の 名 で 呼 ぶ な ! と言ってるんだ!!」

「クロネコ、そんな大声出さなくても良いと思うよ?」


 フィーの言う通りだと僕は頷いた。

 でもこのままではクロネコさんがキレかねないよね……僕はミケお婆ちゃんに向き直り。


「あの、僕たち冒険者の任務でレライに来たんです」

「そうなのかい? フィーナ様もご自分でお稼ぎになられるようになられたんだね」

「う、うん、それでね? 色々と事情があって安全な場所に泊まりたいんだけど……ミケ婆もう酒場やってないのかな?」


 フィーは店内を見渡すと遠慮がちにそう聞き。


「酒場はもう続けられなくてね……」

「そう、ですか……」


 仕方がない、水浴びは我慢するしかなさそうだ。


「……チッ、他を当たるしか――」

「しかし、フィーナ様の頼みだ。家に来なさい……後ろの子たちもお仲間だろう?」


 クロネコさんの言葉を遮り、お婆ちゃんはそう言ってくれたけど……


「でも……僕たち全員で行ったら流石に……」


 人数が多すぎる。


「大丈夫だよ……建物は残ってる。寧ろ一人では寂しくてね」

「一人ってシャムさんは?」


 なんか、一瞬シャムネコが頭に思い浮かんだよ?

 そういえばミケお婆ちゃんも名前にミケがついてるけど、偶然だよね?


「娘はね……宮廷魔術師……様に逆らってね……今頃地下牢だよ」


 地下、牢?


「……え? 逆らったって……そんな、ミケ婆どういうこと? 」

「詳しい話は後でしよう……ここだと人目が付く」


 ミケお婆ちゃんは今日は閉めると言うと店を片付け。


「さぁ、家に行こうかね」


 寂しそうにそう口にした。

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