108話 旅の再開
リーチェの技術とクロネコの交渉……
そしてユーリの魔法でフィーナの剣はついに完成した。
だが、リーチェにはまだ仕事が残っていたようでユーリとフィーナに手伝いを申し込んだのだが……どうやらデゼルトの金具とは別にユーリが頼んでいた物を作っていてくれたみたいだ。
果たしてどんな物が出来たのだろうか?
「……石だけ?」
「だね?」
「仕方ないでしょ、指の大きさを見ないと土台に取り付けられない……ほら二人とも手を出して?」
あ、なるほど、確かにその通りだ。
僕はダイヤを一旦リーチェさんに返し、左手を出すとフィーはまだ分かってないんだろう、首を傾げながらも同じように左手を出してきた。
そういえば、この世界って結婚指輪っていう物はあるのかな? いや、コレット家の娘さんはつけてなかったような?
「どの指にするの?」
「……く、薬指で……」
「どうしたの? ユーリ、声が裏返ってるよ?」
「な、なんでもないよ!?」
ぅぅ……どうせお揃いなら左手の薬指が良いと思って口にしたら声が裏返ってフィーに首を傾げられちゃったよ……
「フィーナは?」
「じゃぁユーリと同じでお願いね? でも、なんのこと?」
質問には答えず輪っかの様なものを僕たちの指へとはめ確かめたリーチェさんは僕たちに渡してきた包みからダイヤを取り出すと指輪の土台へとそれをはめ込み……
「はい、約束のお揃いのアクセサリーだよ」
「約束の?」
フィーは丸い目を大きく開き僕を見つめてくるけど、な、なんか恥ずかしくなってきたな……
「後は強化の魔法だけど……あれって同時に出来るの?」
「え? うん……元々フィーの剣に使う予定だったからあれと同じぐらいの量だったら同時に出来るよ」
「じゃ、指輪ついでにこれとこれもお願いね?」
彼女は机の中から金具の様な物とナイフを取り出し、僕に見せてくる。
金具はデゼルトの手綱に使うはずだけどナイフは一体?
シュカのナイフはまだ大丈夫のはずなんだけど……
疑問を浮かべつつも僕は魔法を言われた通り指輪と金具、短剣へと掛ける。
短剣を手にしたリーチェさんはそれを僕へと渡してきた。
「え?」
「アンタは魔力が多いけど、弓だけだと不安でしょ? それなら剣よりは軽いし近くに腕が確かな子がいるから教えてもらって」
これ、僕の武器? 確かに僕には接近された時の対処が出来ないっていう弱点はある。
でも、シュカに教われば……自分の身ぐらいは守れるかもしれないってことか……
「リーチェさん、ありがとう!」
「その代わり、うちのお店をご贔屓に」
しょ、商売が上手い人だなぁ……防具はちゃんとリーチェさんの店で買ったりしないと後で怖そうだ。
さて、少し、落ち着いてきたし、フィーにちゃんと指輪を渡そう。
覚悟を決め僕は魔法のかかった指輪を手に取り――
「ふぇ!?」
いまだ目を丸くしているフィーの左手にはめた。
「なにかお揃いの物をって頼んでおいたんだ一つはフィーのだよ」
「う、うん……ありがとぅ」
フィーは少し気恥ずかしそうにしながらも笑顔を見せてくれた。
……うん、喜んでもらえたみたいだ頼んでおいて良かった。
翌日、僕たちは予定通り旅立つ準備を済ませ村を出た。
フィーの剣は新しくなったし、滞在期間が長かったから皆の装備はリーチェさんとフォルグさんが見てくれたから安心だ。
「仕方ないとはいえ、余計な時間を取られちまった……」
「…………」
クロネコさんの言葉に言い返せず苦笑いをするのはフィーと僕だ。
出来れば杖が他人に渡るまでに追いつきたかったけど、もう売れてるよね?
「ついてた時に、武器、売れてたかも」
「その通りだな、それにご老人の件もある。魔法使いの不正を暴くことは変わりがない」
シュカとドゥルガさんはそう言ってくれたけど。
「その宮廷魔術師がちゃんと買っていてくれたらな」
そう、あくまで買うかもしれない一人だ。
今はそれを信じるしかない。
「おい、もし買ってねぇ時はまさか……」
「いや、買っていてくれたらとは言ったが、金払いが良い場合さっさと売っちまった方が良いって考えるはずだ……」
売った方が良い?
そっか……こっちに来た理由からしても、少しでも黒字もしくはトントンなら手放してしまった方が良いって考えるって踏んでるのかな?
「なにしろあれは領主を殺した杖だ……」
「手放しておかないと自分が疑われるってことだよねー?」
確かにフィーの言う通りだ。
「ああ、それに迷わずフォーグに来たってことは、ここなら高値で売れると確信してだろうよ……つまり」
「商人はレライにいる宮廷魔術師を知ってるってこと?」
僕が聞くとクロネコさんは頷き。
「正解だ女。……だが、安心は出来ねえ、急ぐぞ」
クロネコさんの言葉に頷き、村を出て歩く僕たちはフォーグの首都レライを目指す。
ムルルからレライまでは約二日といった所らしく乗り合い馬車が出ていたら良かったんだけど……
どうやらムルルにも一部の物資が届かないみたいで、それを訴えたら宮廷魔術師の一声で王が動き、馬車が廃止になったらしい。
なんか……ますますきな臭い感じになってきた魔術師だな。
杖を買っていてくれていたら良いんだけど……
もし、買ってなかったら、それだけじゃない、買っていても隠蔽工作に糸口さえ見つからなかったら……
いや、よそう……買う確率は高いってクロネコさんが言っているんだ。
それに、僕とフィーは同じ内容の手紙を持っている。
内容自体は書いている所を僕たち全員で見てるし、村の現状をしっかりと書いてある。
万が一王に渡る寸前ですり替えられた場合でも、これなら大丈夫のはずだ。
「フィー」
僕は横を歩く左手を見ながらどこか呆けている女性へと声をかける。
「ん?」
「レライについて、手紙を渡すことになると思う……だからもし、王が違う内容を読んだそぶりがあったらすぐに手紙を出して」
「……へ? 違う内容読んだと思った時に?」
彼女は合点がいかないのか考えるそぶりを見せたが、答えが出ないのか少し唸った後に……
「分かった」
っと一言だけ答えてくれた。
「大丈夫、もしもの時は出してってお願いするから」
「うん」
でも、手紙だけだと不安は拭えない。
やっぱり首都についたら情報を集めるしかなさそうだ……
クロネコさんはともかく……バルドはちゃんと動いてくれるか心配だな。
「なんだよ?」
僕が後ろを歩いている彼に視線を送ると、彼は不機嫌そうな顔のままそう言葉にした。
「え、えっとバルドって情報収集とか得意だったりするの? かなって……」
「ぁあ? そんなのは冒険者の基本だろうが! だが、こっちにはクソネコがいるだろ? 俺がする必要はねぇな」
「バルド?」
フィーが硬い声色で彼の名を呼ぶと、バルドはそっぽを向いてしまった。
うーん、情報集めるなら人が多い方が良いんだけど……
「バルド、君の分は後でシルトさんにちゃんと交渉するから……お願い出来ないかな?」
「……今なんて言った?」
お、反応があった。
声も若干柔らかくなったみたいだ。
「だから、依頼のお金戻ったらシルトさんに言ってあげるよ」
上がるとは限らないけど、その時は僕の依頼金の一部を渡そう。
……というか僕の依頼金は無くなってしまいそうだなぁ……仕方ないか。
「……仕方ねぇ、やってやるよ」
どうやら、彼を動かすにはやっぱり金銭みたいだ。
そう確信する僕の横で感心したような声が聞こえる。
「バ、バルドがシア以外の言うことを聞いたの初めて見たよ?」
「ただし、ちゃんと交渉しろよ?」
「分かってるよ」
なんだかんだ言ってちゃんとやってくれてるんだし、忘れないようにしないとね。
「上等だ……ならとっとと終わらせてやるよ」
やる気になったのかバルドは先へと進み、ちょうど迫ってきた魔物を一蹴りで吹き飛ばすとこちらを振り返る。
「遅ぇ! さっさとしろ!」
な、なんか分かりやすい反応だなぁ……




