107話 新たな剣
強化の魔法は完成した。
後は肝心の金剛石を手に入れるだけだ……それもクロネコの手により話は付いていた……
だが、そんな中現れたのはゴブリンで鉱員たちの食事を盗んでいく……一行はどうにかバルドを説得したものの彼は一人でゴブリンを追いかけて行ってしまったのだが……
走り去っていったバルドを追いかけて暫くすると、坑道内に轟音が鳴り響く。
「な、なに!?」
音はどうやら奥から聞こえるみたいだ。
僕は立ち止まりフィーの手を強く握ると、彼女はいつも通り優しい口調で僕に囁いた。
「大丈夫だよ? 多分」
多分!?
「えっと、そんな顔しなくても大丈夫だよー?」
僕はどうやら変な顔をしていたみたいで、フィーは焦った様にもう一度大丈夫と口にした。
でも、さっきの多分って……なに?
バルドは無事なんだろうか? 彼は強いしゴブリン相手なら負けないとは思う……でも、間違いがないとは限らない。
僕は恐る恐るという感じで音のする方へと進む。
次第に大きくなっていく音に心臓はバクンバクンと脈を打ち、ふと気になりフィーたちを見てみると……
「…………なに怖気づいてやがる」
皆平然としていた。
というか、クロネコさんには目が合った瞬間そんなことを言われた。
怖いものは怖いんだから仕方ないじゃないか、大体こんな薄暗い洞窟の中で幽霊がいないとは限らないし、もしかしたら……なにかに巻き込まれて亡くなった人の亡霊が……
「………ふぇ?」
僕がそう思いながらも前を振り向くと、ぼんやりとなにか人の形をしたなにかがゆらゆらとうごめいていて、しかもそれは一つではなく……
「う、うわぁぁあ!?」
僕は叫び声をあげ思わずフィーへと抱きつくと、彼女の声が響く。
「ユ、ユーリ!?」
ゆ、幽霊だ! 今度こそ間違いなく幽霊が出た!?
さっきの轟音もこの幽霊の仕業だ! だってすぐそこですごい音がしてるし……
「テメェらぁ……」
「ひぃっ!?」
「ユーリ、落ち着く」
落ち着くってシュカはどうしてそう平然としていられるの!?
もしかして、見えたり聞こえたりしてるのは僕だけったりするの? そ、そんなぁ。
「よく見てみろ、ユーリ」
ドゥルガさんには見えてるの? それならそんな無茶なことは言わないで欲しい。
「おい、遅ぇんだよ!!」
「ご、ごめんなさい!?」
なにが遅いのかよく分からないけど、恐らくは助けるのが遅すぎた人の亡霊なんだろう。
「バルド、ユーリが怖がってるから怒鳴らないでね?」
「ぁあ!?」
へ……バル、ド?
僕が顔を上げるとフィーはどこか不機嫌そうに幽霊の方を見ている。
ゆっくりと僕もフィーの視線を辿っていくと、そこにはフィーよりも不機嫌な少年……バルドが立っていた。
手には布袋を持っていて、良く見てみると置くにはゴブリンが転がっている。
「よ、良かった。ゆ、幽霊じゃなかった……」
「ね? 大丈夫って言ったでしょ?」
なるほど、さっきの多分というのはあの音はバルドの仕業ってことだったんだね。
ん? でも、そうすると……ゴブリンはどうなったんだろう?
いや、なんか見ない方が良い気がする。
うん……
「バ、バルド、その、ご苦労様……」
「チッ」
僕のねぎらいの言葉に舌打ちで答えた彼は乱暴に布袋を手渡すと来た道を戻っていく……
結局一人で解決してくれたし、なんか悪い気がしてきた。
今度シルトさんに彼の依頼金を上乗せできないか聞いてみよう。
「すまないな、助かった」
食料をもって戻った僕たちに鉱員さんたちは軽く会釈をしながらそう言葉にし、続けて――
「もし、金剛石がまだ必要なら言ってくれ、見つけたら届けてやる。まぁこんなに大きいのじゃ俺たちじゃ無理だがな」
「それは助かります」
もしかしたら、ダイヤとしても売れるようになるかもしれないし、今のうちに流通のコネがあるのはありがたい。
また必要になった時、彼らに頼んでみよう。
「よし、じゃ改めて帰るぞ……」
「石は任せておけ」
「ありがとうございます」
鉱員さんたちに礼を告げ、僕たちはムルルへと戻る。
材料も魔法も技術も揃った……後はフィーの武器を作るだけだ。
大きな原石を持って戻った僕たちは早速それをフォルグさんの工房へと運んだ。
リーチェさんがあらかじめ話をつけていてくれていたみたいだ。
とはいえ、昼間はフォルグさんの仕事場だ。
当然邪魔になる場所に置いたら怒られてしまうだろうし……どこに置くかぐらいは聞いた方が良いよね?
「フォルグさんどこに置けば良い?」
「そんなもん聞いてねぇで適当に置けば良いだろうが!」
「は、はぃ!」
逆に怒られてしまった……
「終わったらとっとと帰れ! 邪魔だ!」
「わ、わかりました……」
そんな邪険にしなくてもとは思うけど、ここにいてもさらに怒られそうだし大人しく帰ろう。
その日からリーチェさんは工房通いが続き、僕たちは依頼を受けたりし日々が過ぎていく……
村を出てからもう一ヶ月は過ぎようとしていた頃……
「出来たよ」
そう、口にしたリーチェさんの手にあるのは大きな剣。
フィーはそれを受け取ると鞘から抜き刃があらわになった。
「「「うわぁ~~」」」
フィーとシュカそして僕は同じ声を上げた。
武器といえば銀や黒い物が多い。
だけど、今フィーの持つ大剣は光の反射で虹色にも見える剣。
「ちょっとアレ私も欲しい」
「後にしてくださいシアン」
「第一持てないだろ」
いつも通りのやり取りをする三人のことは目に入っていないのだろう、リーチェさんは武器とは思えないほど美しい刀身を見て胸を張る。
「フォルグ師匠も驚いてたよ……おかげで私の株も上がったし、出来は間違いなく最高の一品だよ。後は……」
「僕の魔法だね」
そう、この剣はまだ完成じゃない。
僕の魔法を込めて完成になる……つまり、剣として扱えるかどうかは僕にかかっていて……うぅ、一度試したとはいえ緊張するな。
僕はあらかじめ用意しておいた魔法陣を書いておいた布を床へと広げた。
「フィー、剣を布の上に置いて」
フィーが剣を置いて離れると、辺りはしんっと静まり返る。
ちょっと、いや……かなりやりずらいなぁ。
うぅ……今は魔法だ……魔法の方に集中しないと!
「我望む、最も固き鉱物、決して傷つくことの無いものを、砕けることなく、未来永劫を……この物に与えたまえ……」
詠唱を唱え終わると魔法陣は淡く光を帯び――
「アダマンタイト」
その名を呼ぶと依然と同じ様に光はあふれ出し、剣へと吸い込まれていく……
「で、出来たかな?」
「見た目は……やっぱり変わらないね~?」
僕とフィーがそれぞれそう口にすると、リーチェさんは鎚で剣を叩く。
なんか、以前よりも思いっきり叩いてる気がするけど、剣は大丈夫そうだ。
でも、前それで鎚が壊れたとか言ってたような?
「これなら平気だね。前にかけてもらった物もあの後、魔法が解けることはなかったからね。安心していいよ」
「よ、良かった一安心だよ~」
フィーも武器がなかったのは不安だったみたいでほっとした表情を浮かべた。
「馬鹿犬の武器が出来たんだ。明日再出発するぞ」
「今日は行かねぇのかよ……」
いや、バルド流石に今日は……リーチェさんとか疲れてるだろうし、クロネコさんは気を使ってくれたんだろうなぁ。
バルドの反応に尻尾をゆらゆらさせて怒ってるし、フィーも尻尾を立ててるから怒ってるねこれ……
「あ、そうだユーリには金具の材料も強化してもらいたいから部屋に来て、フィーも手伝ってほしいものがあるからね」
「しっかり休めって行ったろうが」
「大丈夫、すぐ済むしその後ちゃんと休ませてもらうよ」
彼女はそう言うと僕に目配せをしてくる。
……もしかして、もう作ってくれてたのかな? 一体どんな物が出来てるのか楽しみだ。
「うん、分かったすぐに行こう」
「そうだねー剣のお礼もしないとね?」
「よし……じゃついて来て」
魔法陣の布を手に取り僕たちは部屋を出て、リーチェさんの後を追い彼女の部屋へと向かう。
「ねぇ、リーチェ手伝うことってなに?」
「ユーリ、先に渡しておくよ」
部屋についた彼女はフィーの質問には答えずに布に包んだ物を僕に手渡してきた。
包みがずいぶん小さいものだけど……なんだろう?
「偶然小さい欠片が出来てね、そこから削るのは大変だったけど……なんとかなったよ」
「ん? なんのこと?」
小さい欠片ってもしかして……僕は少しドキドキしながら一つ包みを開いてみた。
そこにあったのは……




